夢見るネコの私とあなた

３５

『これは…幽体離脱ってものじゃないのかな？』


ふわっと体が浮く感じがしてハッと気付く。
『もしかして私、死んじゃうのかな？』


さっきまで…ネコの身体にいた時は怠くて眠くていたけれど、今はだいぶ気分も体調も楽だ。
身体から切り離されてしまったからかもしれない。きっとそれで感覚がないのかもしれない。
前にどこかの誰かが、死とは痛い事でも怖い事でもありません……なんて言っていたのを聞いた気がするけど、きっとこれがそうなのだろう。っていう事は、これは臨死体験ってやつ？


なんだか、思考があっちこっちに飛んでいる気もするけど、こんなものなのだろうと思うことにする。
だってこんな体験も…死ぬのも、初めての経験だもの。
これ位は許してほしい……なんて一人思う。


でも、ずっと真っ暗なんだよね。
『せめて周りが見えればいいのだけど……』


ポツッと呟いたら、どこかからか猫の鳴き声がした気がした。




にゃ…ーん…



か細い鳴き声を聞いて、ふと思う。
『もしかして、あの身体の持ち主？』


可能性に気が付き、周囲が見えないながらも周りを見ようとしていたら、暗闇の中に三毛猫の姿が浮かんだ。
『君は…あの時の猫？』


タタッと足元に近づいてくる猫を見て思い出す。


『あれ？アパートのとこにいつもいる子？』


会社の帰り、アパートの近所の公園でいつも餌をあげている三毛猫だった。
餌付けはいけない…と思いつつ、近所の猫と仲良く出来ない猫に、つい自分を重ね…どうせ通じないだろうと、愚痴を聞いてもらっていた "ネコ友" だ。


『ごめんね。お前が助けてくれたんだね…ありがとう…』


今こうしてゆったりとした気分で、死を迎えられるのは、間違いなくこの子のお陰だ。
それが例え偶然だとしても、ネコとして過ごした期間があったから、心置き無くいけるのだと思っている。