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いざ異世界へ 1

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卒業式当日。
昨日の予行練習では何もなかったので、今日も平穏無事な一日が送れるはず...と思っていたら、なんというか…ドラマなんかで見たような光景が目の前に広がっていた。
 
 
まぁ、ぶっちゃけ……第二ボタン下さいとか、思い出に……(うふっ♪な展開ですよ)とかあった。
あったけど、まぁ...全部お断りですよ。
何気に夏樹さん怖いので。
卒業だから...なんて流されたら、きっと...今後ずっと語り継がれる事になりそうだからね。
 
式の前後、他のクラスのヤツらも押し寄せ、写真撮影したり、何故か色紙にサインを頼まれたり……。なんかね、ホント...すっげー疲れたよ。
 
 
謝恩会とかなんか色々あったっぽいけど、母さんも帰ってしまったし、航太も参加しないので、このまま帰ることにした。
 
 
ちなみに...異世界へ行く為に引き払う予定だった借家は引き続き借りる事にした。
そのまま借りて、拠点の1つにする事にした。
賃料は...ばあちゃんの好意で無しだ。
そのかわり、母さんかオレが定期的にばあちゃんの帰宅に付き添うことになった。
 
 
異世界とこちらの移動は、母さんの魔法陣によってだいぶ簡単になったが、やはり魔力をかなり使うらしく、その度に魔石や魔導具を使うのは大変だから...らしい。
賃料の対価に何かあった方が、オレや母さんの気持ちが楽だろうと気を廻してくれたのだと思うの。
 
 
卒業式が終われば、早速入籍...と行きたいとこだけど、一応、年度末の3月末までは学校に責任があるらしく、入籍はもう少し待ってくれという言葉と、結婚祝いを担任からもらった。
 
 
生徒の卒業で泣いてんのかと思ったら、自分より先に生徒が結婚する事に涙しているらしい......悔しくて。なんだかなぁ...。
この先生も、顔が悪いわけでも身長もそれなりにある。欠点と言えば、押しに弱すぎて優柔不断に見られがちなところか?
 
 
いい先生だとは思うけど、なに分にも男と女の見る物が違う。結婚できるかは、本人の努力と出会い次第って感じか。
 
 
世の中、男から見たいい男と、女から見たいい女が必ずモテる訳ではない。
人である限り、"嫉妬とやっかみ"とは切っても切れない感情だ。
なんにせよ、"程々"や"普通"が一番だ。
思春期の早い内に、そういった感情に飲み込まれたせいもあり、なるべくそういう感情には近づかないようにしていたけれど、今回は夏樹との結婚の事だからしょうがない。
 
 
ただ、あまりにも泣くので、夏樹の自慢はやめた。
これ以上追い詰めるのは酷かと思ってね。


⚫〇⚫〇



着々と進む準備。
今回の異世界行きは、時間の進み方の違いを確認する事と、夏樹...王女の生還報告。
そして、ばあちゃん...王太后様の帰還が目的だ。
 
 
ちなみに...異世界への行き来はキースさんで実証実験済みだそうだ。
いいのかそれ...と母さんに言ったら...
「王族の身の安全を確保するの王宮騎士の仕事よ~。行く手の安全を確認するのは当たり前の事じゃない。人任せはいけないわぁ~」
と、楽しそうに言っていた。
 
 
まぁ...言ってる事は解る。
確かに、そうだろう。普通は。
オレが知るのは、あくまでも物語の中の事だけど...王族の前を歩き危険を排除し、身を呈して護る。確かに理想だ。が...違うだろと思ったことは口に出せなかった。母さんの目がちょっと怖くて。
キースさんごめん……。
 
 
今回は報告の意味合いが大きい事もあり、異世界へ行くのは航太を除く全員。
航太は異世界との繋がりが元々ない為、様子見で今回は留守番だ。最初はオレも留守番かと思っていたら、結婚したのに同行していないのはおかしいだろうし、なによりどさくさに紛れて夏樹に貴族が擦り寄って来ないよう、いわゆる防波堤の役目での同行だ。
それに、王宮魔導師(王女の乳母)と騎士団団長の息子という名前は、王女の相手として不足はないはずよ…と、ばあちゃんが言ってた。
 
 
なにより、夏樹が凄く不安そうだったので、ダメと言われてもついて行ったけどね。
夏樹を好きな気持ち、夏樹を守りたい気持ちは誰にも負けないつもりだけど、情けない事に、経験という経験がないオレ。
まして、場所が異世界という未知の場所。
気持ちだけ先走っては返って危ない事もあるだろうけど、不安な夏樹を放ってはおけないからな。
これはオレの意地もあるから、止められても行っていたであろうことは確実だ。
 
 
そうそう、それと何が起きても大丈夫なように、母さん作の各種魔導具(通信機とGPS的な魔導具と、指輪型のマジックバッグのような物)を持つように、各自に配られた。
 
 
どこの世界にもバカはいるらしい。
キースさんが先触れで王宮に行ったことで、ある程度の情報は漏れているだろうから、もしもの為に...だそうだ。
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