無表情辺境伯は弟に恋してる

愛太郎

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学園編

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私は学園に自由に出入りすることが出来るようになったので、午後の授業中に散策する。

教室から教師の声が聞こえてきて、同じくらいの歳の人が授業を受けているのを見るのは不思議な感覚だ。

教師でもなく、生徒でもない。
自分が透明になったような、自分だけが世界にいるような。


まあ実際は、私は教師としてここに来ているのだが。
学校に通った記憶もほぼ無いので懐かしさを感じることも無く、適当に歩き回る。

そんな中、懐かしさを感じるものがあった。

あの女生徒、父上に骨格が良い健康体だと紹介された子だ。
随分と気持ちの悪い紹介だが、血筋を残すことが大切だと父上は考えていたので、随分と押されたのを覚えている。

それ以外にもいい顔をしておくように言われた人や、気をつけるよう言われた人など、話したことがある人が数人いた。

と言っても彼らは私と話したことなど、きっと覚えていないだろう。
当時の彼らは5歳かそれ以下の子どもだったのだから。

人を観察すると同時にレニー ウレニを探してもいたのだが、顔が分からないので諦めた。

先程までと同様に教室を覗くと、その教室にはキルシュがいた。
驚いて、思わず少し後ろに下がってしまった。

やましい事など無いのに、盗み見ているかのような体勢だ。
長年の癖だろうか。

授業に取り組むキルシュは、ノートを見て何か悩んでいる。
知的な雰囲気を纏わせており、思わず眼鏡をクイッとあげる想像をしてしまう。

早く伊達眼鏡をプレゼントしよう。自然に渡すにはどんな理由をつけようか。

ぼーっと理由を探していると、廊下側に座っている女生徒が不意にこちらを向いた。

子供とはいえ淑女として教育を受けた女生徒が、目を丸くしてこちらを見ている。

私は何も言わないで欲しいという意味を込めて、口の前で人差し指を立てた。

女生徒は予想に反して固まってしまい、ペンが手の中から滑り落ちる。


ーーーカラン。


その音に数人の生徒がチラリと振り向き、そのまま固まる。
教師がそれを不思議に思い、私を見ながら固まれば、教室全ての視線がこちらを向いてしまった。

何を間違えてしまったのだろうか。
人差し指を立てたことか?あれ以外どうしろというのだ。

もちろんキルシュにもバレてしまった。
驚いた顔が珍しくてかわいい。

私はこれ以上授業を中断させ無いために、キルシュに手を挙げて挨拶をし、通り過ぎた。立場上先生にも視線を送っておく。


教室を通り過ぎ、角を曲がって立ち止まる。

自分がにやけているのがわかる。このまま進んでは不信に思われるだろう。

あんなに視線が集まるのは予想外だったが、結果私たちの仲の良さをクラス中に見せつけてしまった。

嬉しさでにやける。
ああ、でも本当はもっと深い関係だって知らしめて、外堀を埋めてしまいたい。

キルシュが一番大事だからそんなことは絶対にしないが。

でも、ふふ。仲のいいことは恐らく伝わってしまっうだろうし、この嬉しさを噛み締めよう。

次の休日が待ち遠しい。



授業が終わって放課後。癒し手の講義まで少し時間がある。

その間に私は探偵同好会の教室へ向かった。

教室の前では目が覚めるような赤髪の女生徒が、腕を組んで仁王立ちをしていた。昨日会った高貴な猫、レイナだ。

淑女としてその立ち方はどうなのかと思うが、私以外誰もいないのを見ると、ちゃんと周りを確認してやっているのだろう。

紫色の瞳が、窓からの光でキラリと輝く。

わたくしを使いっ走りにした挙句、入口で待たせるなんて、覚悟は出来ているのかしら。」

確かに使いっ走りにはした。
しかし後半を命じたのはおそらくレニー ウレニだろう。

「八つ当たりはよせ。」

「何が八つ当たりよ!紹介した人がその場にいるのは常識。なのに待ち合わせ時間を決めてなかったから、わたくしが貴方を待たなきゃいけなかったじゃない!」

この同好会にそんな常識があったとは。
いや、彼女が社交界の常識を持ってきている可能性は十二分にあるが。

しかしそれがどの常識であれ、彼女が私を待ってくれたことに変わりは無い。

「そんな常識があるとは知らなかったんだ。私のできる完璧なエスコートをしよう。それで許せ。」

彼女はふん、と言いつつも手を重ねてくる。

...これはいよいよ社交界の常識で生きている可能性がでてきたな。

エスコートの部分は冗談だったのだが、それを言うのも可哀想なので、エスコートをしながら探偵同好会の教室に入った。

教室と言っても授業には使わない場所のようで、ソファ、紅茶、お菓子と、メンバーが過ごしやすいようになっている。

探偵同好会なんて言っているが、実際はファンクラブ。ファンの間での情報交換をここでしているのだろう。

しかし今日は私が来るからだろう。教室内には生徒1人を除いて誰もいない。

その1人は茶髪に分厚い眼鏡をかけた、垢抜けない生徒だ。
報告に受けているレニー ウレニの特徴と一致する。

そしてこの部屋にいる本当の人数は6人だということも確認する。

いつも誰かに監視されているというのも、レニー ウレニに関しての報告と一致する。

報告に比べて多いが、私が警戒されているのだろう。

ぽかーんと口を開けてこちらを見るレニー ウレニに私はレイナを前に出して礼をした。

レイナも私から手を離し、制服のスカートを持ち上げてカーテシーをして見せた。

「え?なに?なんで?」

レニーは混乱した頭でレイナのカーテシーを真似た。
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