41 / 52
学園編
41
しおりを挟む
私は学園に自由に出入りすることが出来るようになったので、午後の授業中に散策する。
教室から教師の声が聞こえてきて、同じくらいの歳の人が授業を受けているのを見るのは不思議な感覚だ。
教師でもなく、生徒でもない。
自分が透明になったような、自分だけが世界にいるような。
まあ実際は、私は教師としてここに来ているのだが。
学校に通った記憶もほぼ無いので懐かしさを感じることも無く、適当に歩き回る。
そんな中、懐かしさを感じるものがあった。
あの女生徒、父上に骨格が良い健康体だと紹介された子だ。
随分と気持ちの悪い紹介だが、血筋を残すことが大切だと父上は考えていたので、随分と押されたのを覚えている。
それ以外にもいい顔をしておくように言われた人や、気をつけるよう言われた人など、話したことがある人が数人いた。
と言っても彼らは私と話したことなど、きっと覚えていないだろう。
当時の彼らは5歳かそれ以下の子どもだったのだから。
人を観察すると同時にレニー ウレニを探してもいたのだが、顔が分からないので諦めた。
先程までと同様に教室を覗くと、その教室にはキルシュがいた。
驚いて、思わず少し後ろに下がってしまった。
やましい事など無いのに、盗み見ているかのような体勢だ。
長年の癖だろうか。
授業に取り組むキルシュは、ノートを見て何か悩んでいる。
知的な雰囲気を纏わせており、思わず眼鏡をクイッとあげる想像をしてしまう。
早く伊達眼鏡をプレゼントしよう。自然に渡すにはどんな理由をつけようか。
ぼーっと理由を探していると、廊下側に座っている女生徒が不意にこちらを向いた。
子供とはいえ淑女として教育を受けた女生徒が、目を丸くしてこちらを見ている。
私は何も言わないで欲しいという意味を込めて、口の前で人差し指を立てた。
女生徒は予想に反して固まってしまい、ペンが手の中から滑り落ちる。
ーーーカラン。
その音に数人の生徒がチラリと振り向き、そのまま固まる。
教師がそれを不思議に思い、私を見ながら固まれば、教室全ての視線がこちらを向いてしまった。
何を間違えてしまったのだろうか。
人差し指を立てたことか?あれ以外どうしろというのだ。
もちろんキルシュにもバレてしまった。
驚いた顔が珍しくてかわいい。
私はこれ以上授業を中断させ無いために、キルシュに手を挙げて挨拶をし、通り過ぎた。立場上先生にも視線を送っておく。
教室を通り過ぎ、角を曲がって立ち止まる。
自分がにやけているのがわかる。このまま進んでは不信に思われるだろう。
あんなに視線が集まるのは予想外だったが、結果私たちの仲の良さをクラス中に見せつけてしまった。
嬉しさでにやける。
ああ、でも本当はもっと深い関係だって知らしめて、外堀を埋めてしまいたい。
キルシュが一番大事だからそんなことは絶対にしないが。
でも、ふふ。仲のいいことは恐らく伝わってしまっうだろうし、この嬉しさを噛み締めよう。
次の休日が待ち遠しい。
授業が終わって放課後。癒し手の講義まで少し時間がある。
その間に私は探偵同好会の教室へ向かった。
教室の前では目が覚めるような赤髪の女生徒が、腕を組んで仁王立ちをしていた。昨日会った高貴な猫、レイナだ。
淑女としてその立ち方はどうなのかと思うが、私以外誰もいないのを見ると、ちゃんと周りを確認してやっているのだろう。
紫色の瞳が、窓からの光でキラリと輝く。
「私を使いっ走りにした挙句、入口で待たせるなんて、覚悟は出来ているのかしら。」
確かに使いっ走りにはした。
しかし後半を命じたのはおそらくレニー ウレニだろう。
「八つ当たりはよせ。」
「何が八つ当たりよ!紹介した人がその場にいるのは常識。なのに待ち合わせ時間を決めてなかったから、私が貴方を待たなきゃいけなかったじゃない!」
この同好会にそんな常識があったとは。
いや、彼女が社交界の常識を持ってきている可能性は十二分にあるが。
しかしそれがどの常識であれ、彼女が私を待ってくれたことに変わりは無い。
「そんな常識があるとは知らなかったんだ。私のできる完璧なエスコートをしよう。それで許せ。」
彼女はふん、と言いつつも手を重ねてくる。
...これはいよいよ社交界の常識で生きている可能性がでてきたな。
エスコートの部分は冗談だったのだが、それを言うのも可哀想なので、エスコートをしながら探偵同好会の教室に入った。
教室と言っても授業には使わない場所のようで、ソファ、紅茶、お菓子と、メンバーが過ごしやすいようになっている。
探偵同好会なんて言っているが、実際はファンクラブ。ファンの間での情報交換をここでしているのだろう。
しかし今日は私が来るからだろう。教室内には生徒1人を除いて誰もいない。
その1人は茶髪に分厚い眼鏡をかけた、垢抜けない生徒だ。
報告に受けているレニー ウレニの特徴と一致する。
そしてこの部屋にいる本当の人数は6人だということも確認する。
いつも誰かに監視されているというのも、レニー ウレニに関しての報告と一致する。
報告に比べて多いが、私が警戒されているのだろう。
ぽかーんと口を開けてこちらを見るレニー ウレニに私はレイナを前に出して礼をした。
レイナも私から手を離し、制服のスカートを持ち上げてカーテシーをして見せた。
「え?なに?なんで?」
レニーは混乱した頭でレイナのカーテシーを真似た。
教室から教師の声が聞こえてきて、同じくらいの歳の人が授業を受けているのを見るのは不思議な感覚だ。
教師でもなく、生徒でもない。
自分が透明になったような、自分だけが世界にいるような。
まあ実際は、私は教師としてここに来ているのだが。
学校に通った記憶もほぼ無いので懐かしさを感じることも無く、適当に歩き回る。
そんな中、懐かしさを感じるものがあった。
あの女生徒、父上に骨格が良い健康体だと紹介された子だ。
随分と気持ちの悪い紹介だが、血筋を残すことが大切だと父上は考えていたので、随分と押されたのを覚えている。
それ以外にもいい顔をしておくように言われた人や、気をつけるよう言われた人など、話したことがある人が数人いた。
と言っても彼らは私と話したことなど、きっと覚えていないだろう。
当時の彼らは5歳かそれ以下の子どもだったのだから。
人を観察すると同時にレニー ウレニを探してもいたのだが、顔が分からないので諦めた。
先程までと同様に教室を覗くと、その教室にはキルシュがいた。
驚いて、思わず少し後ろに下がってしまった。
やましい事など無いのに、盗み見ているかのような体勢だ。
長年の癖だろうか。
授業に取り組むキルシュは、ノートを見て何か悩んでいる。
知的な雰囲気を纏わせており、思わず眼鏡をクイッとあげる想像をしてしまう。
早く伊達眼鏡をプレゼントしよう。自然に渡すにはどんな理由をつけようか。
ぼーっと理由を探していると、廊下側に座っている女生徒が不意にこちらを向いた。
子供とはいえ淑女として教育を受けた女生徒が、目を丸くしてこちらを見ている。
私は何も言わないで欲しいという意味を込めて、口の前で人差し指を立てた。
女生徒は予想に反して固まってしまい、ペンが手の中から滑り落ちる。
ーーーカラン。
その音に数人の生徒がチラリと振り向き、そのまま固まる。
教師がそれを不思議に思い、私を見ながら固まれば、教室全ての視線がこちらを向いてしまった。
何を間違えてしまったのだろうか。
人差し指を立てたことか?あれ以外どうしろというのだ。
もちろんキルシュにもバレてしまった。
驚いた顔が珍しくてかわいい。
私はこれ以上授業を中断させ無いために、キルシュに手を挙げて挨拶をし、通り過ぎた。立場上先生にも視線を送っておく。
教室を通り過ぎ、角を曲がって立ち止まる。
自分がにやけているのがわかる。このまま進んでは不信に思われるだろう。
あんなに視線が集まるのは予想外だったが、結果私たちの仲の良さをクラス中に見せつけてしまった。
嬉しさでにやける。
ああ、でも本当はもっと深い関係だって知らしめて、外堀を埋めてしまいたい。
キルシュが一番大事だからそんなことは絶対にしないが。
でも、ふふ。仲のいいことは恐らく伝わってしまっうだろうし、この嬉しさを噛み締めよう。
次の休日が待ち遠しい。
授業が終わって放課後。癒し手の講義まで少し時間がある。
その間に私は探偵同好会の教室へ向かった。
教室の前では目が覚めるような赤髪の女生徒が、腕を組んで仁王立ちをしていた。昨日会った高貴な猫、レイナだ。
淑女としてその立ち方はどうなのかと思うが、私以外誰もいないのを見ると、ちゃんと周りを確認してやっているのだろう。
紫色の瞳が、窓からの光でキラリと輝く。
「私を使いっ走りにした挙句、入口で待たせるなんて、覚悟は出来ているのかしら。」
確かに使いっ走りにはした。
しかし後半を命じたのはおそらくレニー ウレニだろう。
「八つ当たりはよせ。」
「何が八つ当たりよ!紹介した人がその場にいるのは常識。なのに待ち合わせ時間を決めてなかったから、私が貴方を待たなきゃいけなかったじゃない!」
この同好会にそんな常識があったとは。
いや、彼女が社交界の常識を持ってきている可能性は十二分にあるが。
しかしそれがどの常識であれ、彼女が私を待ってくれたことに変わりは無い。
「そんな常識があるとは知らなかったんだ。私のできる完璧なエスコートをしよう。それで許せ。」
彼女はふん、と言いつつも手を重ねてくる。
...これはいよいよ社交界の常識で生きている可能性がでてきたな。
エスコートの部分は冗談だったのだが、それを言うのも可哀想なので、エスコートをしながら探偵同好会の教室に入った。
教室と言っても授業には使わない場所のようで、ソファ、紅茶、お菓子と、メンバーが過ごしやすいようになっている。
探偵同好会なんて言っているが、実際はファンクラブ。ファンの間での情報交換をここでしているのだろう。
しかし今日は私が来るからだろう。教室内には生徒1人を除いて誰もいない。
その1人は茶髪に分厚い眼鏡をかけた、垢抜けない生徒だ。
報告に受けているレニー ウレニの特徴と一致する。
そしてこの部屋にいる本当の人数は6人だということも確認する。
いつも誰かに監視されているというのも、レニー ウレニに関しての報告と一致する。
報告に比べて多いが、私が警戒されているのだろう。
ぽかーんと口を開けてこちらを見るレニー ウレニに私はレイナを前に出して礼をした。
レイナも私から手を離し、制服のスカートを持ち上げてカーテシーをして見せた。
「え?なに?なんで?」
レニーは混乱した頭でレイナのカーテシーを真似た。
17
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。
春雨
BL
前世を思い出した俺。
外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。
愛が重すぎて俺どうすればいい??
もう不良になっちゃおうか!
少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。
説明は初めの方に詰め込んでます。
えろは作者の気分…多分おいおい入ってきます。
初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。
※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫だと……思います(?)
※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。
もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。
なるべく全ての感想に返信させていただいてます。
感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!
5/25
お久しぶりです。
書ける環境になりそうなので少しずつ更新していきます。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる