ちょっと嫌な話 ~奇妙短篇集~

黒猫文二

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スマートフォンのカメラ

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 長年使っていた折りたたみ式のフィーチャー・フォン(ガラケーとも呼ばれている)がついに壊れた。
 しかたがないのでスマートフォンへと乗り換えることにしたのだが、これがおもいのほか楽しい。
 以前は携帯電話なんて通話とメールさえ出来れば良いと思っていたが、スマートフォンはまるで小さなパソコンとでも言うのか、やれる事がガラケーの時より多いしカメラの性能も良い。
 休日にはスマホを持って車でちょっと遠出をして、ブログに現地で撮った風景と飯の写真つきの日記を書くのが新たな趣味になった。

 そんなある日、職場の仲の良い後輩くんから

「今度、俺も連れて行ってくださいよ~」

とせがまれたので前から行こうと思っていたラーメン屋に連れて行ってやった。

「あ~、美味おいしかったっすね~」

「思ったよりも美味うまかったなー」

 満足気にラーメン屋から出た後、このまま帰るか予定にない寄り道でもしようかと考えていたら後輩君が「そういえば、この近くにヤバイ心霊スポットがあるんすよね」なんて事を言うので行く事にした。

 元々、共通の趣味が多い事から仲が良くなった二人だがその内の一つが怪談話だ。
 心霊スポットに行くなんてまるで暇な大学生のおぼっちゃんみたいな行動だが、社会人になってから出来た友人とこういうバカをするのも悪くはない。
 噂の心霊スポットである廃トンネルはとにかく暗くて不気味ではあったが、何か怖ろしい事が起こったりなんて事はなかった。
 それなりのスリルを味わい満足して帰っていたその時、「あれ? あんな建物ありましたっけ?」と後輩くんが指さしたその場所には、廃トンネルに向かっていた時には観た覚えのない荒れ果てた廃墟があった。

「なんだろうなアレ? とりあえず写真撮っとくか」

 スマートフォンのカメラ機能を起動させて建物にスマホを向けてタップしようとしたら突然画面が切り替わった。
 それはQRコードを読み取った時の画面だった。

 昔はスマホでQRコードを読み取るには専用のアプリをダウンロードしないといけなかったらしいが、今ではカメラを向けるだけで読み取れるようになっている。
 ただ、その時はいつもと違ってURLが表示される部分が文字化けを起こした漢字のような文字の羅列になっていた。
 そもそも、コードを読み取ったわけではなく建物を撮影しようとしていたのだ。
 どう、考えてもおかしい。

「う~わ! なんだこれ!」

 同じように写真を撮ろうとしていた後輩くんのスマホの画面にも同じ事が起こっているようだ。

「これ、やばいっすよね!」

 そう言って後輩くんは二人で自分のスマホの画面が見れるようにこちらに近づいてきた。
 自分のスマホに表示されているのと同じく文字化けURLへのリンクが表示されている。

「そいじゃー押しますよ」

 後輩くんは軽い調子で躊躇なく文字化けURLをタップした。
 そうしたら、妙な動画が再生され始めた。

 普通の生活感が漂う部屋の中で髪の長い女?のような奴が左右にゆらゆらと揺れている様子が映し出されていた。
 白い服を着ているのかと思ったがよく見るとそれは白い拘束衣こうそくいだった。
 顔はボサボサの髪が邪魔をしてよく見えない。
 隣で一緒に観ていた後輩くんの顔がみるみる青ざめていく。
 確かに気持ち悪い映像だがそこまで怖がるものだろうか?
 気になったので声をかけてみた。

「おい、大丈夫か?」

 後輩くんは呼吸を整えてからこう言った。

「この部屋、俺の部屋なんですよ……」

 これではとてもじゃないが家には帰れないという事でその日は後輩くんを自分の家に泊めてやった。
 翌日、後輩くんは意を決して日が明るいうちに自宅へ帰った。
 家の中はパッと見は特に荒されてたりもなく出かける前と変わらないように思えたが、あの女が居た部屋の、ちょうど女がゆらゆらしていた足元のあたりの地面をよく見るとゴキブリの死体とそれに群がるハサミムシやアリがゾロゾロとうごめいていた。
 ゴキブリの死体はすでに下半身がなくなっていたらしい。

 その後は特におかしな事は何も起こっていないが、後輩くんはすっかり虫が苦手になり「虫が湧いたら嫌だから」と以前の大雑把な性格の彼とは別人のように綺麗好きになった。
 もしも、あの時自分のスマホでもあのURLをタップしていたら自分の家にもが来ていたのだろうか……。
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