ちょっと嫌な話 ~奇妙短篇集~

黒猫文二

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撮影現場にて

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 暗い森のなかで三人の男女が歩いている。
 その内の一人はカメラを抱えていた。
 彼らはドキュメンタリー、のように見えるが実は架空の物語という「モキュメンタリー」あるいは「フェイクドキュメンタリー」と呼ばれるジャンルの低予算ホラー作品を撮影している所だ。
 少し開けた場所に出た。
 下見をしていた時に見せ場のシーンを撮るのにちょうどいいと思った場所に辿り着いたのだ。

「よし、ここだったな。ちょっと一息入れよっか?」

 ディレクターの賀藤がとうがそう指示を出した。
 賀藤とカメラマンの岩田いわたは携帯灰皿を片手にたばこを吸い始め、アシスタントの川杉かわすぎはお気に入りのエナジードリンクを飲み始めた。
 一息つき終えた後、軽い打ち合わせが始まった。

「あの木なんかちょうど良くないですか? 賀藤さん」

「うん、そーだね~。あの木の後ろからCGの幽霊が覗いて来てるのに驚いた俺が『川杉! 岩田! 逃げろ!』って叫ぶんでそれを合図に俺と川杉さんが小走りで逃げてるのをしばらく岩田さんも走りながら撮って……」

 ガサガサ

 何かが木の上で音を立てている。
 賀藤たちは口を閉じ、岩田はカメラを回し始めた。
 音のした方へ慎重に近づいていき、木の下から見上げるように上へカメラを向けた時だった。

 ビチャッ

 なんらかの液体が垂れてきてカメラにへばりついた。

「うわっ! 臭い! なんだこれ!!」

 普段は穏やかな岩田が叫びながらカメラに付いた汚れを拭き取る。

 オオオオオオオオオオ

 さらに不気味な唸り声が響き渡る。
 そこで賀藤がここぞとばかりにこう言った。

「川杉! 岩田! 逃げろ!」

 半分は本心からだがもう半分はこの事態を利用して迫力のシーンを撮ってやろうという気持ちがあった。
 本来の台本通りにそのまま三人で逃げようとしたが、賀藤が勢い良く転んでしまった。

「ちょ、ちょ! 賀藤さん! 足! 足!」

 岩田が賀藤の足を指さしたその先、細い手が賀藤の足を掴んでいた。

「あー! ヤバっ! バッ!」

 賀藤は叫びながら足をバタつかせて手を振りほどいた。
 そのまま全速力で走って車を駐車していた所までたどり着くと、先に着いていた川杉が心配そうな顔で待っていた。

「大丈夫ですか?」

「いやー、やばかったわ……」

 賀藤が一服しようとたばこをくわえて火をつける。

「賀藤さん、鼻血出てますよ」

「ん?」

 川杉に指摘されて初めて気がついたようだ。
他におかしな所はないかとあちこち触ってみる。

「あー・・・、500円玉落としてるし。 最悪だな」

 足を掴まれて勢い良く転んだ時にポケットに入れておいた500円玉を落としてしまったのだ。

「いやいや、そんな事はどうでもいいとして岩田さん。さっきの撮れてました?」

 気を取り直した賀藤が岩田にそう聞くとカメラチェックを終えた岩田が

「バッチリ撮れてますよ」

と言った。
 それを聞いた賀藤は鼻血や500円を落とした事など忘れて上機嫌になり、帰りにコンビニに寄って二人に缶ビールを奢って、事務所へ帰ってからシャワーを浴びてそのまま気持ちよく寝たのであった。

 翌朝、賀藤が起きてみるとスマホに川杉と岩田からのメールが届いていた。
 メールの内容は昨日撮影したあの森で有名な作家が首吊り自殺をしたというニュースの事であった。
 作家は昨日の夜に知人にメールで「静かな場所で先に逝く」と知らせていて、心配した知人が自宅にあった遺書を見つけ、そこに森の場所も書いていた事から知人の依頼で捜査にあたっていた地元警察が朝に首を吊っていた作家を発見したという。
 テレビを付けてみるとどこの局もそのニュースを報じていた。
 嫌な予感がした賀藤は昨日の映像をチェックし始めた。
 ちょうど岩田が木の下から撮っていた時に臭い液体が落ちてきた前後の映像の明度を上げて見てみると、木の上に足が見えた。
 ちょうど作家が首を吊っていたのがあの木で、落ちてきた液体は垂れ流しになった糞尿だったのだろう。
 その後に変な現象が起こったのは、静かな場所でひっそりと逝くはずが賀藤たちがやってきて騒いでいるのに腹が立ったのだろうか。

 賀藤は出社してきた川杉と岩田と話し合った結果、あの映像は削除して別の場所で撮り直しをする事に決めた。

 チャリーン

 何かが賀藤の足元に落ちてきた。
 よく見るとそれはあの時落とした500円玉だった。
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感想 1

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