ちょっと嫌な話 ~奇妙短篇集~

黒猫文二

文字の大きさ
5 / 15

コンビニからの風景

しおりを挟む
 自宅から歩いてすぐの堤防沿いに大きめのコンビニが出来た。
 入り口からすぐ横にテーブルと椅子を備えた飲食専用コーナーがあって、気分転換に時折そこでカフェラテを飲みながらのんびりスマホをいじったり外の風景を見たりするようになった。
 温かいカフェラテを啜りながら目の前の道路に色々な車が通り過ぎて行くのや、道路を挟んである堤防でジョギングや犬の散歩をしている人々を見ているとなんとなく浮世離れした気分になる。

 そんなある日。
 コンビニ側から信号を渡ると堤防に上がれる入り口があるのだが、坂道を上り下りする人々とは別に一匹の犬がいつも何かを待っているように座っている事に気づいた。
 ジャーマン・シェパード・ドッグだ。
 一般的にはシェパードとだけ呼ばれていて警察犬のイメージが強い犬種である。
 赤い首輪をつけていてそれには見覚えがあった。
 近所に住んでいた吉田さんが飼っていたジョンだ、何度か触らせてもらった事もある。
 でも、その吉田さんとジョンは1年ほど前にひき逃げにあって亡くなったはずだ。
 ちょうどそこの信号で。
 だから最初はよく似た別の犬だと思っていた。
 だけど、近づいて確かめようとしたらいつの間にかいなくなっていたり、ある時はジョギングをしている人がそこに犬なんて居ないかのようにそのままするのを見てその子がこの世のものではないのがわかったし、やはり見覚えのある首輪をつけた幽霊のシェパードとなるとジョンだなと確信した。

 しばらくはコンビニでカフェラテを飲む度にジョンを見ては懐かしいような切ないような気持ちになっていたが、そんな日々に終わりが訪れた。

 その日もいつも通りぼんやりとジョンを見ながらカフェラテを飲んでいたが、ジョンが急に道路に飛び出し猛スピードで走っていた車の運転席に向かって飛びついた。
 車は勢い良くガードレールに突っ込むと動かなくなった。
 予想外の出来事に驚いて少しの間体が固まっていたが、誰かが既に通報していたのか遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
 平静を取り戻してから事故現場をじっくり見てみる。
 車の前半分は完全にグシャリと潰れている。
 あれでは恐らく運転手は即死だろう。
 車はよく見ると派手な改造が行われていて、いかにも普段から派手に飛ばしていそうな感じだ。
 実際にさっきも明らかに常軌を逸したスピードで走っていたし。
 もしかすると、この車の主が吉田さんとジョンを轢いた犯人なのかもしれない。
 ジョンがずっとここに居たのは主人の仇討ちの機会を待っていたからだったのか。

 その日の夜。
 干しっぱなしにしていた洗濯物をしまいに窓を開けたら吉田さんとジョンが散歩をしているのを見かけた。
 この世への未練がなくなったジョンを吉田さんが迎えに来たのだろうか?
 なんだか少し涙が出た。

 後日、またコンビニでカフェラテを飲みながら外を見ているとそこにはもうジョンは居なかった。
 その代わり、体が不自然にぺしゃんこになっている血まみれの男が虚ろな目付きでフラフラと歩いているのが見えた。

 それからはカフェラテはお持ち帰りにしている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

残酷喜劇 短編集

ドルドレオン
ホラー
残酷喜劇、開幕。 短編集。人間の闇。 おぞましさ。 笑いが見えるか、悲惨さが見えるか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...