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菊子ちゃん
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電車の中、今日も男は獲物を物色していた。
この男、痴漢の常習犯である。
切っ掛けは、満員電車でたまたま女性のお尻に手が当たった時に通常ならすぐに手を離す所をいたずら心からそのままにした所からだった。
故意なのか事故なのか判断が難しいギリギリの所を攻めるスリルにとり憑かれたこの男は気がついたら痴漢行為が止められなくなっていた。
このような行為をする者に対してよく「猥褻な創作物の影響だ」とか「男の性欲の暴走だ」等と言う人がいるがどちらも的はずれである。
本当に猥褻な創作物の影響でそうなるのなら猥褻な創作物を楽しんでいる世界中の人達が性犯罪者になっているはずだし、男性の性欲なんて多くのまともな男性がしているように溜まってムラムラしたのなら自宅やトイレで自慰をして収めてしまえばそれで終わりな生理現象でしかないし、そもそも痴漢行為では性欲は満たされない。
実際の所は万引き依存症やギャンブル依存症と似たような状態、半分無自覚に破滅へと向かうスリルにとり憑かれた中毒者であった。
その日、男が目をつけたのは普段は見ることのないゴスロリ衣装の女性だった。
どこかミステリアスな雰囲気のある女性に吸い込まれるように近づいていき、彼女の体に軽く手を触れようとした瞬間、男の手を女性の手が掴んでいた。
そのまま女性が少し下側に力を入れると男は立っていられず膝をついていた。
「ついて来ていただけますね?」
ゴスロリ女性は透明感のある声でそう言った。
男は不思議とその声に逆らう気持ちが起きず、フラフラと言われるがまま次の停車駅で女性と共に降りてそのまま女性の家までついていってしまっていた。
そして、女性から出された飲み物を警戒することもなく飲んだ男はグッスリと眠ってしまうのだった。
眠りと催眠状態から目覚めた男は真っ白な部屋の中にいた。
ゴスロリ女性が鼻歌を歌いながら何かを持ってきてテーブルの上に置いてから出て行く姿が見えたが、まだ寝起きの状態で声をかけることも出来なかった。
立ち上がろうとすると動けない。
男は逃げられないよう椅子に縛られていたのだ。
目の前のテーブルの上には小ぶりで縦長な木箱とメモが置いてある。
男は周りを見渡してみたが後は何も置いていない。
(殺風景な部屋だな……)
ボンヤリとそんなことを思いながら男がもう一度テーブルを見てみるといつの間にか木箱の蓋が開いていた。
中には市松人形が入っているのが見える。
次に男がメモを読んでみるとそこには
「菊子ちゃんをちゃんと見ていてね」
と書いてあった。
(菊子ちゃん? この人形のことか?)
そう思った男が木箱の方を見ると菊子ちゃんは木箱から出ていた。
男は見間違いかと思い少し目をつむってから目を開けてもう一度見ると、菊子ちゃんは男の方へ近づいていた。
菊子ちゃんは男が見ている間は止まっているが、目を離すと男の方へ動くようだ。
(こいつが完全にこっちに来たらどうなるんだ?)
男は椅子ごと動かして逃げ出そうと体を激しく揺らし始めた。
だが、残念ながら椅子は地面に固定されているタイプで無駄な足掻きであった。
そんなことをしているうちに目を離してしまっていたからか菊子ちゃんはさらに男の方へ近づいていた。
男がよく見ると菊子ちゃんの口が少し開いていて、そこには鋭い牙が生えていた。
(これ以上はまずい!)
余計なことはしないでじっと見つめ続けようと考え始めた男だったが、さっき椅子を揺らしたせいで埃が舞ったのかどうにも鼻がムズムズしている。
我慢しようとするも間に合わずに大きなクシャミをしてしまう。
慌てて菊子ちゃんに目線を戻す男。
そこには男の目の前で真っ赤な目を見開き大きな口を開けている菊子ちゃんの姿があった。
男は恐怖で小便を漏らしながらも恐ろしい形相の菊子ちゃんを見つめていたが、頭や額から流れてくる塩辛い汗が目に入り……。
「あら、菊子ちゃん。もう全部食べちゃったの?」
この男、痴漢の常習犯である。
切っ掛けは、満員電車でたまたま女性のお尻に手が当たった時に通常ならすぐに手を離す所をいたずら心からそのままにした所からだった。
故意なのか事故なのか判断が難しいギリギリの所を攻めるスリルにとり憑かれたこの男は気がついたら痴漢行為が止められなくなっていた。
このような行為をする者に対してよく「猥褻な創作物の影響だ」とか「男の性欲の暴走だ」等と言う人がいるがどちらも的はずれである。
本当に猥褻な創作物の影響でそうなるのなら猥褻な創作物を楽しんでいる世界中の人達が性犯罪者になっているはずだし、男性の性欲なんて多くのまともな男性がしているように溜まってムラムラしたのなら自宅やトイレで自慰をして収めてしまえばそれで終わりな生理現象でしかないし、そもそも痴漢行為では性欲は満たされない。
実際の所は万引き依存症やギャンブル依存症と似たような状態、半分無自覚に破滅へと向かうスリルにとり憑かれた中毒者であった。
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ゴスロリ女性が鼻歌を歌いながら何かを持ってきてテーブルの上に置いてから出て行く姿が見えたが、まだ寝起きの状態で声をかけることも出来なかった。
立ち上がろうとすると動けない。
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と書いてあった。
(菊子ちゃん? この人形のことか?)
そう思った男が木箱の方を見ると菊子ちゃんは木箱から出ていた。
男は見間違いかと思い少し目をつむってから目を開けてもう一度見ると、菊子ちゃんは男の方へ近づいていた。
菊子ちゃんは男が見ている間は止まっているが、目を離すと男の方へ動くようだ。
(こいつが完全にこっちに来たらどうなるんだ?)
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だが、残念ながら椅子は地面に固定されているタイプで無駄な足掻きであった。
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男がよく見ると菊子ちゃんの口が少し開いていて、そこには鋭い牙が生えていた。
(これ以上はまずい!)
余計なことはしないでじっと見つめ続けようと考え始めた男だったが、さっき椅子を揺らしたせいで埃が舞ったのかどうにも鼻がムズムズしている。
我慢しようとするも間に合わずに大きなクシャミをしてしまう。
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「あら、菊子ちゃん。もう全部食べちゃったの?」
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