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1章
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「…何度言ったらわかってくれるんですか!!」
ステラ国の中心部である都市セイリオスにある軍司令部で、怒鳴り声が響いた。
総隊長補佐官のマルクス・テノルの声だ。まだ、27歳という若さで、歴代の補佐官の中でも最年少である。
普段は温厚で、頼まれた仕事はできる限り引き受け、迅速に仕事を終わらせるため、補佐官として任命した総隊長キング・アーヴィンスを含めた、軍内部から信頼が高い人物である。
しかし、今は鬼のような形相で、ある人物を睨みつけている。
マルクスの前に立たされている人物は、レヴィン・クローだった。
そして、レヴィンの後ろに、マルクスから見て左から、ゴン、ルーク、トビ、ラウラの順に横一列で並んでいた。レヴィンは何もないようないつも通りの表情だったが、普段は周りの雰囲気を掴めないトビも含めた4人はマルクスに視線も合わせられず、下を見ていた。
「これで、今年に入ってからカウントしても5度目のトラブルですよ?」
「え、そんなあったけぇ?」
マルクスは綺麗な白い手袋をした手をレヴィンの前に突き出し、5を強調するが、レヴィンは眉をひそめて、無精髭をボリボリを掻いた。
マルクスの目が見開かれ、グイッとレヴィンの顔に近づける。
「覚え出させましょうか?あなたのせいで生み出された事件の数々を!私が後始末を一生懸命やった数々を!」
「あー、いらない…。冗談だって」
「はい?この状況で、よく冗談が言えますね?」
更に近づいてくるマルクスに対して、レヴィンは両手でマルクスの身体を抑え、これ以上来ないように阻止をする。
2日前にネル村が魔獣で襲われていたが、二番隊の働きと特務隊の援助があったことで、予定より早く魔獣の駆除が終わった。
火を吐く魔獣がいたため、火事になってしまった家が3件あったことや、避難中に転んで怪我した村人が数人いたものの、それ以外は何も被害がなかった。
ここまでは、二番隊を迅速に手伝った特務隊の功績であったが、問題はここからだった。
試作機だったエアームーブだ。エアームーブをレヴィンの独断で実践に投入した。戦場ではルークの働きもあり、戦場での優位性も示せた。しかし、帰路の途中で、魔力切れになってしまい、ステラ国に戻る前に海に沈没させてしまった。
操縦していたゴンがエアームーブの高度が徐々に下がっていることから魔力切れだと判断し、いち早く隊員たちは、地の魔法により、重力を操作し、空中に逃げだした。
もちろん、試作機であるこのエアームーブを壊すことは非常に良くないと感じた特務隊は、力を合わせてエアームーブを持ち上げようと試みるが、力が増強する戦闘服を着ていながらも、重量が1tを越える車を支えることには限度があり、ステラ技術局の職員たちの見えるところで、誠心誠意込めて作った試作機が沈んでいったのである。
技術スタッフたちの絶望感は言うまでもなく、エアームーブの開発リーダーは、ショックのあまりに寝込んでしまった。また、開発費用を軍費から大きい割合でとうししていたため、軍の大隊長達も言葉を失っていた。
重い空気の中で、沈んだその日に、特務隊筆頭にして、各隊からの手伝いを受けながら、人海戦術でエアームーブの引き上げ作業を行った。陸に上がったエアームーブは海面直撃の被害は少なかったものの、海水により、さまざまなパーツを改修する必要があるとの結論を出した技術スタッフは、肩を落としていた。
そして日が変わった今日、総隊長がステラ政府の要請で、政府と共に外交のため席を外しているため、代わりにマルクス補佐官がレヴィンに状況説明を求めていた。
「どう責任を取るんですか?」
いつまでも怒りが収まらないマルクスに対して、まるで罪の意識がないレヴィンは飄々と答えていく。
「いや、早く助けに行けたからこそ、村人が誰一人として怪我しなかったんじゃん」
「他の隊でも、充分に間にあう時間でした」
「それは違うだろ。他の隊が来た時には、ほとんど戦闘が終わってた。エアームーブってやつを使えてたからこそ、この結果だったんだよ」
レヴィンの言い方が厳しくなり、空気が少し変わる。マルクスはレヴィンの圧に押されたかのように、次の言葉を失ってしまう。
エアームーブの無事の有無はさておき、村人が誰一人として命を落としていないのは事実であり、これは第一に優先することでもある。
「そう…ですね。人の命が第一優先ですよね」
「だろ?ってことで、試作機破壊の件も不問ってことでよろしく…」
レヴィンがいつも通りの雰囲気と口調にすぐに戻り、流れに任せて、試作機の損失も無かったことにしようと試みたが、マルクスに睨まれ言葉を閉ざした。
「それは別です。あれの開発費は億を越える費用を費やしています。…始末書は無しにできるよう僕の方で努力はしますが、今回のボーナスカットは覚悟しておいてくださいね、皆さん」
ステラ国の中心部である都市セイリオスにある軍司令部で、怒鳴り声が響いた。
総隊長補佐官のマルクス・テノルの声だ。まだ、27歳という若さで、歴代の補佐官の中でも最年少である。
普段は温厚で、頼まれた仕事はできる限り引き受け、迅速に仕事を終わらせるため、補佐官として任命した総隊長キング・アーヴィンスを含めた、軍内部から信頼が高い人物である。
しかし、今は鬼のような形相で、ある人物を睨みつけている。
マルクスの前に立たされている人物は、レヴィン・クローだった。
そして、レヴィンの後ろに、マルクスから見て左から、ゴン、ルーク、トビ、ラウラの順に横一列で並んでいた。レヴィンは何もないようないつも通りの表情だったが、普段は周りの雰囲気を掴めないトビも含めた4人はマルクスに視線も合わせられず、下を見ていた。
「これで、今年に入ってからカウントしても5度目のトラブルですよ?」
「え、そんなあったけぇ?」
マルクスは綺麗な白い手袋をした手をレヴィンの前に突き出し、5を強調するが、レヴィンは眉をひそめて、無精髭をボリボリを掻いた。
マルクスの目が見開かれ、グイッとレヴィンの顔に近づける。
「覚え出させましょうか?あなたのせいで生み出された事件の数々を!私が後始末を一生懸命やった数々を!」
「あー、いらない…。冗談だって」
「はい?この状況で、よく冗談が言えますね?」
更に近づいてくるマルクスに対して、レヴィンは両手でマルクスの身体を抑え、これ以上来ないように阻止をする。
2日前にネル村が魔獣で襲われていたが、二番隊の働きと特務隊の援助があったことで、予定より早く魔獣の駆除が終わった。
火を吐く魔獣がいたため、火事になってしまった家が3件あったことや、避難中に転んで怪我した村人が数人いたものの、それ以外は何も被害がなかった。
ここまでは、二番隊を迅速に手伝った特務隊の功績であったが、問題はここからだった。
試作機だったエアームーブだ。エアームーブをレヴィンの独断で実践に投入した。戦場ではルークの働きもあり、戦場での優位性も示せた。しかし、帰路の途中で、魔力切れになってしまい、ステラ国に戻る前に海に沈没させてしまった。
操縦していたゴンがエアームーブの高度が徐々に下がっていることから魔力切れだと判断し、いち早く隊員たちは、地の魔法により、重力を操作し、空中に逃げだした。
もちろん、試作機であるこのエアームーブを壊すことは非常に良くないと感じた特務隊は、力を合わせてエアームーブを持ち上げようと試みるが、力が増強する戦闘服を着ていながらも、重量が1tを越える車を支えることには限度があり、ステラ技術局の職員たちの見えるところで、誠心誠意込めて作った試作機が沈んでいったのである。
技術スタッフたちの絶望感は言うまでもなく、エアームーブの開発リーダーは、ショックのあまりに寝込んでしまった。また、開発費用を軍費から大きい割合でとうししていたため、軍の大隊長達も言葉を失っていた。
重い空気の中で、沈んだその日に、特務隊筆頭にして、各隊からの手伝いを受けながら、人海戦術でエアームーブの引き上げ作業を行った。陸に上がったエアームーブは海面直撃の被害は少なかったものの、海水により、さまざまなパーツを改修する必要があるとの結論を出した技術スタッフは、肩を落としていた。
そして日が変わった今日、総隊長がステラ政府の要請で、政府と共に外交のため席を外しているため、代わりにマルクス補佐官がレヴィンに状況説明を求めていた。
「どう責任を取るんですか?」
いつまでも怒りが収まらないマルクスに対して、まるで罪の意識がないレヴィンは飄々と答えていく。
「いや、早く助けに行けたからこそ、村人が誰一人として怪我しなかったんじゃん」
「他の隊でも、充分に間にあう時間でした」
「それは違うだろ。他の隊が来た時には、ほとんど戦闘が終わってた。エアームーブってやつを使えてたからこそ、この結果だったんだよ」
レヴィンの言い方が厳しくなり、空気が少し変わる。マルクスはレヴィンの圧に押されたかのように、次の言葉を失ってしまう。
エアームーブの無事の有無はさておき、村人が誰一人として命を落としていないのは事実であり、これは第一に優先することでもある。
「そう…ですね。人の命が第一優先ですよね」
「だろ?ってことで、試作機破壊の件も不問ってことでよろしく…」
レヴィンがいつも通りの雰囲気と口調にすぐに戻り、流れに任せて、試作機の損失も無かったことにしようと試みたが、マルクスに睨まれ言葉を閉ざした。
「それは別です。あれの開発費は億を越える費用を費やしています。…始末書は無しにできるよう僕の方で努力はしますが、今回のボーナスカットは覚悟しておいてくださいね、皆さん」
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