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第53話 勇者パーティー 後編
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「――《再生治癒》!」
腕を肩から食いちぎられたクラウスをやっとのことで後衛まで引きずってきたアイラは、急いで魔術を起動した。
アイラを取り巻くように、淡い光の粒子が巻き起こる。
それが彼女が突き出した手の先に収束してゆき、濃密で複雑な紋様の魔法陣を描き出す。
「ぬぐうぅっ、クソがッ! あのクソ騎士野郎! 俺の腕を持って行きやがって!」
「ちょっとクラウス、じっとしてて! 術式がずれちゃう!」
アイラは自分の手の平でまばゆく光を放つ魔法陣を、痛みでのたうつクラウスの腕の付け根に押し当て、転写した。
「ぐううぅッ!」
ジュウゥ、とまるで焼きごてを押し当てたかのような音がして、クラウスの食いしばった歯の奥から、苦悶の声が漏れ出る。
「大丈夫! 痛いけど治るから!」
すぐにクラウスの肩の付け根から腕の再生が始まる。
その様子を、アイラは術式を制御しつつ、固唾を呑んで見守る。
さすがのアイラも、腕を根元から欠損したケースを治癒するのは初めてだ。
以前、他のパーティーと合同で依頼を受けたさい、魔物の襲撃を受けた他パーティーの冒険者が指を食いちぎられたのを治したことがあった。
そのときとは、状況も術式も違う。
少しでも術式の綻びがあれば、即座に修正が必要だ。
今のところ、魔術は完全に機能している。
だが、予断を許す状況ではない。
「……く。大丈夫。治す、治す、私が治す」
緊張で、口の中がカラカラだ。
魔力枯渇による強烈な倦怠感がアイラを襲う。
だが、まだ倒れるわけにはいかない。
今、手首まで再生が終わった。
手の平、指、そして爪。
そして今……完全に再生が終わった。
「く……」
それと同時に身体から力が抜ける。
立っているのがつらい。
アイラは幸運にも高位治癒魔術を使いこなす才に恵まれたが、決して魔力量の多い体質ではない。
腕をまるまる一本再生するのは、さすがの彼女でも限界ギリギリだった。
もう、このまま崩れ落ちて、眠ってしまいたい。
(ダメよ。まだ、まだだわ)
アイラは両手でパンパンと自分の頬を張り、なんとか覚醒を保つ。
そう、戦いは始まったばかりなのだ。
異形の聖騎士は、未だ健在だ。
今はイリナとサムリが二人がかりで押さえているが、クラウスのように重傷を負うかもしれない。
まだ、倒れるわけにはいかない。
アイラは力を振り絞って、腰の鞄を開けた。
魔力回復剤を取り出す。
歯で封を噛みちぎり、中に入った液体を一気に飲み干す。
「んく、んく……ふう」
喉を伝って臓腑に落ちた魔力の塊が、身体全体に染み渡ってゆく。
アイラは力が戻ってくるのを感じた。
《再生治癒》は強力だが、あまりに魔力消費が多い。
何度も何度も、使えるものではない。
「クラウス、腕は動く?」
「はあ、はあ……ああ、バッチリだ。しかし高位治癒魔術ってのはキクもんだな……まさか腕を食いちぎられたときよりも痛ぇとはな」
クラウスが再生した手をゆっくりと握り、そして開いてみせる。
治癒は、うまくいったようだ。
アイラはほっと息を吐いた。
「でも無理はしないで。《再生治癒》はクラウスの生命力も大量に消費しているわ。しばらくは立てないはずよ」
「ああ。身体が怠くてかなわんからな。しばらく休ませてもらう。しかし、なんなんだアイツは。ふざけやがって!」
腕と大剣を同時に奪われたクラウスは、怒り心頭のようだ。
身体を横たえたまま、サムリとイリナを相手に戦いを繰り広げている異形の聖騎士を睨み付ける。
「…………あんなモノ、私だって知らないわ」
アイラが知る魔物の中で、外見が一番近いのはゾンビだ。
だが普通のゾンビならば、
Sランク冒険者であるクラウスの腕を易々と食いちぎったりしない。
せいぜい手当たり次第に身体に噛みついてくるか、のしかかってくる程度だ。
だから、
その食いちぎった腕と頭部が同化したりなど当然ありえない話だし、
その頭部と一体化した腕に握られたままの大剣を軽々と振り回し、
勇者サムリや魔法剣士イリナを圧倒したりなんて、
絶対にありえない。
――ギン! ギギン! ガギギギン!
「ぐッ……重い! クソ! なんなんだコイツは!」
「わからん! だが、すでに人間ではないことだけは……確かだな!」
「そんなの見ればわかる! 頭とクラウスの腕がくっついたうえ、その腕で剣を振り回す『人間』がこの世にいてたまるか! それにこの強さからして、おそらくコイツが階層主だ! ならば、何が何でも倒すしかない!」
「ああ、それには私も同感だ!」
『ォゴゥッ! ァア゛ッ!! ……ィエ゛ッ!』
――ギギギン! ギギン! ガガン!
異形の聖騎士が首……否、第三の腕が繰り出す大剣は、その一撃一撃がまるで破城槌のような重さを秘めている。
ときおり大剣の切っ先が広間の支柱や石床を掠めたさいに、それらをまるで溶けたバターのように抉り取っていくことから明らかだ。
そしてそれが、アイラの目には残像としか映らないような凄まじい速度で、何度も何度も二人に打ち込まれている。
「イリナ! 火焔魔術付与の魔法剣で焼き尽くすことはできないのか!?」
「ダメだ! たとえ怪異と化していても、聖騎士の甲冑は抗魔の聖銀製だ! たとえ最大火力で斬りつけたとしても、弾かれてしまう!」
「なんて面倒な敵だ! 本当はこんなところで使いたくなかったんだが……イリナ、僕が合図したら後ろに下がれ!」
二人は異形の聖騎士の猛攻を凌ぎつつも、目線を交わし合う。
「承知した、サムリ殿! だが、この遺跡を崩落させないでくれよ? ここまで来て生き埋めは御免被るからな」
「射程は最低まで絞る。けど、保証はできないな! ……今だ!」
「了解!」
サムリの合図で、イリナが素早く後退する。
「このイカれゾンビ野郎が……こいつを喰らえ! ――《崩山剣》!!」
サムリが叫ぶと同時に、上段に構えた聖剣がまばゆい光を放ち始めた。
魔力が渦を巻き、サムリの周囲に暴風を巻き起こす。
「はああああぁぁぁッ!!」
力が臨界に達したのを確認したサムリが、咆吼とともに剣を振り下ろす。
荒れ狂う力の奔流が極光と化し、異形の聖騎士を呑み込んだ。
そして――
『――――――』
光が薄れ、消えた。
静寂。
「……っはあッ、はあっ、クソ! 射程距離は最小限に抑えたけど……こんなところでこの技を使うことになるなんて……!」
異形の聖騎士はクラウスの大剣もろとも消し飛んだようだ。
サムリの前には、融解し赤熱した遺跡の石床だけが残されていた。
「サムリ殿、やったぞ! 階層主は消滅したようだ。さすが勇者だな、サムリ殿は」
「ま、まあね。でも少し、休憩が必要かな」
サムリが笑みを見せるが、同時に膝がガクンと折れる。
かなり消耗したらしい。
なんとか聖剣を支えにしているが、立っているのがやっとの様子だ。
「サムリ! ねえさま!」
アイラも、二人の元に駆け寄る。
「アイラ! そっちは無事か?」
「ええねえさま。そちらは?」
「大事ない。多少の怪我はあるがな。治癒を頼めるか?」
「僕のも頼むよ。しかし、傷を負ったのなんて何時ぶりかな」
幸い、二人は軽い切り傷や打撲があるものの、それだけだ。
これならば、低位の治癒魔術で事足りる。
「――《治癒》」
二人の怪我を治す。
「いつもすまんな」
「やめてくださいねえさま。これが私の役目ですから」
「そうだな。それと、クラウスはどうだ? 腕を食われただろう。まあ、あやつならば隻腕のままでも『腕がない? もう片腕を倍の太さにしてやるぜ!』とか言って、喜々として片手で剣を振り回すだろうがな!」
「もう、ねえさま! こんなときにクラウスの声真似なんてしないでください! 結構大変だったんですよ! クラウスなら、ちゃんと私が腕を治して、そこに……」
言って、アイラは先ほどまでクラウスと待機していた場所を指さした。
「クラウス?」
「ふむ。アイラ、お前も相当に疲れているようだな。魔力を補給したほうがいいぞ。クラウスならそこにいるだろう」
「……え?」
そんなはずはない、と口にしかけて、アイラは絶句した。
確かにクラウスは、三人から少し離れたところに立っていた。
とはいえ、まだ本調子ではないらしい。
頭は重そうに傾いているし、腕もだらんと垂れている。
「あ、ア、アァ゛ぁ、オオぁ」
ろれつも回っていないようだ。
無理をするなと、言ったはずなのに。
「おいクラウス、階層主を倒した僕を称えたい気持ちはわかるけど、少しは休んでおいたほうが……クラウス?」
「……アイラ、私の後ろに。しまったな。囲まれているようだ」
「え?」
イリナが鋭い目つきになり、押し殺した声で言った。
アイラも周囲を見回してみる。
「そんな、うそ」
鉄兜から覗く爛々と光る眼が、ひとつ、ふたつ、みっつ……たくさん。
何十体いるのか?
数えるのがバカバカしい。
完全に囲まれている。
全部、聖騎士だった。
そして、その列に……クラウスも加わっている。
「う、ウソだ。さっきのは階層主だっただろ。そうでなけりゃおかしい。おかしいだろ! それが……なんでこんなたくさんいるんだ!」
顔を歪め、狼狽した声で叫ぶサムリ。
「落ち着けサムリ殿! あの全てが先ほどの異形と同等とは限らん!」
「そ、そうだ! 気配は? 誰か気配を感じなかったのか? イリナ! お前囲まれるまで気づかなかったのかよ!」
「すまない、サムリ殿。私の職業『魔法剣士』では、気配探知スキルを取得することはできない」
自分のことを棚に上げ、イリナを責めるサムリ。
取り乱し、醜態をさらす勇者の姿を見て、イリナは悲しそうに眉を歪め、首をふった。
「……アイラ、魔力回復剤はあといくつある?」
「ねえさま、これでは……」
「いくらあると言っている!」
イリナの怒声が、アイラの耳を貫く。
アイラだって分かっている。
怖じ気づけば、そこで終わりだ。
だが、とても足りない。
仮に百本、いや千本持っていたとしても、足りるわけがない。
アイラは泣きそうになるのを堪えながら、答えた。
「さっき……さっき一本使いました。残りは、四本です」
「……そうか。それだけあれば、十分だ。そうだろう? 我が自慢の妹よ」
「そんな! これだけじゃ、私の魔力ではとても――」
「いや、十分だ」
そこまで言って、アイラは口を噤んだ。
いや、噤まされた。
イリナが差し出した、人差し指によって。
「アイラ。愛しい我が妹よ。私は、お前を死なすことなど、絶対にできん」
「ねえさま? 一体何を言っているのです」
イリナはそれに答えず、無言で剣を抜いた。
「――《嵐力付与》」
呪文を唱えながら、きらめく刃先をするりと撫でる。
淡く青白い魔力光が、イリナの剣を包み込んだ。
「ねえさま?」
それからイリナはアイラに身体を向けると――微笑んだ。
「許してくれとは、言わん」
イリナの剣がぶれ、アイラの胸元を刃先が通り過ぎた。
着込んだローブが、薄く斬り裂かれる。
次の瞬間。
「――かはっ」
ドン、と凄まじい衝撃がアイラの身体を襲った。
イリナの魔法剣が発動したのだ。
同時に胸元から猛烈な風が巻き起こり、アイラの身体を虚空に巻き上げてゆく。
イリナも、サムリも、クラウスに異形の聖騎士も、ずいぶん下に見える。
「ねえさまああああ!」
アイラは声を振り絞って姉の名を叫ぶが、ゴウゴウと逆巻く暴風にかき消されてしまう。
視界がぐるぐると回転し――
気がつけば、アイラは広間に続く通路のかなり奥側まで吹き飛ばされていた。
「ね、ねえさま」
空中でもみくちゃにされたせいで、視界がぐらぐらと揺れる。
なんとか身体を起こし、壁にもたれ、立ち上がる。
通路の先は、広間だ。
距離は二十歩くらいだろうか。
走って戻れば、すぐだ。
だがその広間から、イリナの声が聞こえてきた。
「逃げろアイラ! 私とサムリはここで敵を食い止める! お前ならば、きっと生き延びることができるはずだ! ――《爆轟付与》。アイラ! 愛して――」
――ゴゴン! ガガン……ゴゴン……
そこまでだった。
イリナが魔法剣で斬撃を飛ばし、入り口付近を破砕したのだろう。
轟音とともに、通路はあっという間に瓦礫で埋まってしまった。
「……ねえさま? ねえさまああぁぁっ!」
慟哭したところで、誰に届くこともない。
それは自分でも分かっている。
思い切り噛みしめた唇から滲み出る鉄の味が、それを嫌でも分からせてくれる。
アイラは少しの間だけそこで泣き、元来た通路を歩き出した。
腕を肩から食いちぎられたクラウスをやっとのことで後衛まで引きずってきたアイラは、急いで魔術を起動した。
アイラを取り巻くように、淡い光の粒子が巻き起こる。
それが彼女が突き出した手の先に収束してゆき、濃密で複雑な紋様の魔法陣を描き出す。
「ぬぐうぅっ、クソがッ! あのクソ騎士野郎! 俺の腕を持って行きやがって!」
「ちょっとクラウス、じっとしてて! 術式がずれちゃう!」
アイラは自分の手の平でまばゆく光を放つ魔法陣を、痛みでのたうつクラウスの腕の付け根に押し当て、転写した。
「ぐううぅッ!」
ジュウゥ、とまるで焼きごてを押し当てたかのような音がして、クラウスの食いしばった歯の奥から、苦悶の声が漏れ出る。
「大丈夫! 痛いけど治るから!」
すぐにクラウスの肩の付け根から腕の再生が始まる。
その様子を、アイラは術式を制御しつつ、固唾を呑んで見守る。
さすがのアイラも、腕を根元から欠損したケースを治癒するのは初めてだ。
以前、他のパーティーと合同で依頼を受けたさい、魔物の襲撃を受けた他パーティーの冒険者が指を食いちぎられたのを治したことがあった。
そのときとは、状況も術式も違う。
少しでも術式の綻びがあれば、即座に修正が必要だ。
今のところ、魔術は完全に機能している。
だが、予断を許す状況ではない。
「……く。大丈夫。治す、治す、私が治す」
緊張で、口の中がカラカラだ。
魔力枯渇による強烈な倦怠感がアイラを襲う。
だが、まだ倒れるわけにはいかない。
今、手首まで再生が終わった。
手の平、指、そして爪。
そして今……完全に再生が終わった。
「く……」
それと同時に身体から力が抜ける。
立っているのがつらい。
アイラは幸運にも高位治癒魔術を使いこなす才に恵まれたが、決して魔力量の多い体質ではない。
腕をまるまる一本再生するのは、さすがの彼女でも限界ギリギリだった。
もう、このまま崩れ落ちて、眠ってしまいたい。
(ダメよ。まだ、まだだわ)
アイラは両手でパンパンと自分の頬を張り、なんとか覚醒を保つ。
そう、戦いは始まったばかりなのだ。
異形の聖騎士は、未だ健在だ。
今はイリナとサムリが二人がかりで押さえているが、クラウスのように重傷を負うかもしれない。
まだ、倒れるわけにはいかない。
アイラは力を振り絞って、腰の鞄を開けた。
魔力回復剤を取り出す。
歯で封を噛みちぎり、中に入った液体を一気に飲み干す。
「んく、んく……ふう」
喉を伝って臓腑に落ちた魔力の塊が、身体全体に染み渡ってゆく。
アイラは力が戻ってくるのを感じた。
《再生治癒》は強力だが、あまりに魔力消費が多い。
何度も何度も、使えるものではない。
「クラウス、腕は動く?」
「はあ、はあ……ああ、バッチリだ。しかし高位治癒魔術ってのはキクもんだな……まさか腕を食いちぎられたときよりも痛ぇとはな」
クラウスが再生した手をゆっくりと握り、そして開いてみせる。
治癒は、うまくいったようだ。
アイラはほっと息を吐いた。
「でも無理はしないで。《再生治癒》はクラウスの生命力も大量に消費しているわ。しばらくは立てないはずよ」
「ああ。身体が怠くてかなわんからな。しばらく休ませてもらう。しかし、なんなんだアイツは。ふざけやがって!」
腕と大剣を同時に奪われたクラウスは、怒り心頭のようだ。
身体を横たえたまま、サムリとイリナを相手に戦いを繰り広げている異形の聖騎士を睨み付ける。
「…………あんなモノ、私だって知らないわ」
アイラが知る魔物の中で、外見が一番近いのはゾンビだ。
だが普通のゾンビならば、
Sランク冒険者であるクラウスの腕を易々と食いちぎったりしない。
せいぜい手当たり次第に身体に噛みついてくるか、のしかかってくる程度だ。
だから、
その食いちぎった腕と頭部が同化したりなど当然ありえない話だし、
その頭部と一体化した腕に握られたままの大剣を軽々と振り回し、
勇者サムリや魔法剣士イリナを圧倒したりなんて、
絶対にありえない。
――ギン! ギギン! ガギギギン!
「ぐッ……重い! クソ! なんなんだコイツは!」
「わからん! だが、すでに人間ではないことだけは……確かだな!」
「そんなの見ればわかる! 頭とクラウスの腕がくっついたうえ、その腕で剣を振り回す『人間』がこの世にいてたまるか! それにこの強さからして、おそらくコイツが階層主だ! ならば、何が何でも倒すしかない!」
「ああ、それには私も同感だ!」
『ォゴゥッ! ァア゛ッ!! ……ィエ゛ッ!』
――ギギギン! ギギン! ガガン!
異形の聖騎士が首……否、第三の腕が繰り出す大剣は、その一撃一撃がまるで破城槌のような重さを秘めている。
ときおり大剣の切っ先が広間の支柱や石床を掠めたさいに、それらをまるで溶けたバターのように抉り取っていくことから明らかだ。
そしてそれが、アイラの目には残像としか映らないような凄まじい速度で、何度も何度も二人に打ち込まれている。
「イリナ! 火焔魔術付与の魔法剣で焼き尽くすことはできないのか!?」
「ダメだ! たとえ怪異と化していても、聖騎士の甲冑は抗魔の聖銀製だ! たとえ最大火力で斬りつけたとしても、弾かれてしまう!」
「なんて面倒な敵だ! 本当はこんなところで使いたくなかったんだが……イリナ、僕が合図したら後ろに下がれ!」
二人は異形の聖騎士の猛攻を凌ぎつつも、目線を交わし合う。
「承知した、サムリ殿! だが、この遺跡を崩落させないでくれよ? ここまで来て生き埋めは御免被るからな」
「射程は最低まで絞る。けど、保証はできないな! ……今だ!」
「了解!」
サムリの合図で、イリナが素早く後退する。
「このイカれゾンビ野郎が……こいつを喰らえ! ――《崩山剣》!!」
サムリが叫ぶと同時に、上段に構えた聖剣がまばゆい光を放ち始めた。
魔力が渦を巻き、サムリの周囲に暴風を巻き起こす。
「はああああぁぁぁッ!!」
力が臨界に達したのを確認したサムリが、咆吼とともに剣を振り下ろす。
荒れ狂う力の奔流が極光と化し、異形の聖騎士を呑み込んだ。
そして――
『――――――』
光が薄れ、消えた。
静寂。
「……っはあッ、はあっ、クソ! 射程距離は最小限に抑えたけど……こんなところでこの技を使うことになるなんて……!」
異形の聖騎士はクラウスの大剣もろとも消し飛んだようだ。
サムリの前には、融解し赤熱した遺跡の石床だけが残されていた。
「サムリ殿、やったぞ! 階層主は消滅したようだ。さすが勇者だな、サムリ殿は」
「ま、まあね。でも少し、休憩が必要かな」
サムリが笑みを見せるが、同時に膝がガクンと折れる。
かなり消耗したらしい。
なんとか聖剣を支えにしているが、立っているのがやっとの様子だ。
「サムリ! ねえさま!」
アイラも、二人の元に駆け寄る。
「アイラ! そっちは無事か?」
「ええねえさま。そちらは?」
「大事ない。多少の怪我はあるがな。治癒を頼めるか?」
「僕のも頼むよ。しかし、傷を負ったのなんて何時ぶりかな」
幸い、二人は軽い切り傷や打撲があるものの、それだけだ。
これならば、低位の治癒魔術で事足りる。
「――《治癒》」
二人の怪我を治す。
「いつもすまんな」
「やめてくださいねえさま。これが私の役目ですから」
「そうだな。それと、クラウスはどうだ? 腕を食われただろう。まあ、あやつならば隻腕のままでも『腕がない? もう片腕を倍の太さにしてやるぜ!』とか言って、喜々として片手で剣を振り回すだろうがな!」
「もう、ねえさま! こんなときにクラウスの声真似なんてしないでください! 結構大変だったんですよ! クラウスなら、ちゃんと私が腕を治して、そこに……」
言って、アイラは先ほどまでクラウスと待機していた場所を指さした。
「クラウス?」
「ふむ。アイラ、お前も相当に疲れているようだな。魔力を補給したほうがいいぞ。クラウスならそこにいるだろう」
「……え?」
そんなはずはない、と口にしかけて、アイラは絶句した。
確かにクラウスは、三人から少し離れたところに立っていた。
とはいえ、まだ本調子ではないらしい。
頭は重そうに傾いているし、腕もだらんと垂れている。
「あ、ア、アァ゛ぁ、オオぁ」
ろれつも回っていないようだ。
無理をするなと、言ったはずなのに。
「おいクラウス、階層主を倒した僕を称えたい気持ちはわかるけど、少しは休んでおいたほうが……クラウス?」
「……アイラ、私の後ろに。しまったな。囲まれているようだ」
「え?」
イリナが鋭い目つきになり、押し殺した声で言った。
アイラも周囲を見回してみる。
「そんな、うそ」
鉄兜から覗く爛々と光る眼が、ひとつ、ふたつ、みっつ……たくさん。
何十体いるのか?
数えるのがバカバカしい。
完全に囲まれている。
全部、聖騎士だった。
そして、その列に……クラウスも加わっている。
「う、ウソだ。さっきのは階層主だっただろ。そうでなけりゃおかしい。おかしいだろ! それが……なんでこんなたくさんいるんだ!」
顔を歪め、狼狽した声で叫ぶサムリ。
「落ち着けサムリ殿! あの全てが先ほどの異形と同等とは限らん!」
「そ、そうだ! 気配は? 誰か気配を感じなかったのか? イリナ! お前囲まれるまで気づかなかったのかよ!」
「すまない、サムリ殿。私の職業『魔法剣士』では、気配探知スキルを取得することはできない」
自分のことを棚に上げ、イリナを責めるサムリ。
取り乱し、醜態をさらす勇者の姿を見て、イリナは悲しそうに眉を歪め、首をふった。
「……アイラ、魔力回復剤はあといくつある?」
「ねえさま、これでは……」
「いくらあると言っている!」
イリナの怒声が、アイラの耳を貫く。
アイラだって分かっている。
怖じ気づけば、そこで終わりだ。
だが、とても足りない。
仮に百本、いや千本持っていたとしても、足りるわけがない。
アイラは泣きそうになるのを堪えながら、答えた。
「さっき……さっき一本使いました。残りは、四本です」
「……そうか。それだけあれば、十分だ。そうだろう? 我が自慢の妹よ」
「そんな! これだけじゃ、私の魔力ではとても――」
「いや、十分だ」
そこまで言って、アイラは口を噤んだ。
いや、噤まされた。
イリナが差し出した、人差し指によって。
「アイラ。愛しい我が妹よ。私は、お前を死なすことなど、絶対にできん」
「ねえさま? 一体何を言っているのです」
イリナはそれに答えず、無言で剣を抜いた。
「――《嵐力付与》」
呪文を唱えながら、きらめく刃先をするりと撫でる。
淡く青白い魔力光が、イリナの剣を包み込んだ。
「ねえさま?」
それからイリナはアイラに身体を向けると――微笑んだ。
「許してくれとは、言わん」
イリナの剣がぶれ、アイラの胸元を刃先が通り過ぎた。
着込んだローブが、薄く斬り裂かれる。
次の瞬間。
「――かはっ」
ドン、と凄まじい衝撃がアイラの身体を襲った。
イリナの魔法剣が発動したのだ。
同時に胸元から猛烈な風が巻き起こり、アイラの身体を虚空に巻き上げてゆく。
イリナも、サムリも、クラウスに異形の聖騎士も、ずいぶん下に見える。
「ねえさまああああ!」
アイラは声を振り絞って姉の名を叫ぶが、ゴウゴウと逆巻く暴風にかき消されてしまう。
視界がぐるぐると回転し――
気がつけば、アイラは広間に続く通路のかなり奥側まで吹き飛ばされていた。
「ね、ねえさま」
空中でもみくちゃにされたせいで、視界がぐらぐらと揺れる。
なんとか身体を起こし、壁にもたれ、立ち上がる。
通路の先は、広間だ。
距離は二十歩くらいだろうか。
走って戻れば、すぐだ。
だがその広間から、イリナの声が聞こえてきた。
「逃げろアイラ! 私とサムリはここで敵を食い止める! お前ならば、きっと生き延びることができるはずだ! ――《爆轟付与》。アイラ! 愛して――」
――ゴゴン! ガガン……ゴゴン……
そこまでだった。
イリナが魔法剣で斬撃を飛ばし、入り口付近を破砕したのだろう。
轟音とともに、通路はあっという間に瓦礫で埋まってしまった。
「……ねえさま? ねえさまああぁぁっ!」
慟哭したところで、誰に届くこともない。
それは自分でも分かっている。
思い切り噛みしめた唇から滲み出る鉄の味が、それを嫌でも分からせてくれる。
アイラは少しの間だけそこで泣き、元来た通路を歩き出した。
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これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
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失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
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※小説家になろうにも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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