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第70話 遺跡攻略⑯ 『眷属化』という選択
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「む。――《繁茂》《植物操作》」
ビトラがイリナの側に立ち、手をかざす。
魔力で編まれた無数の蔦状植物が、イリナの身体にずぶずぶと入り込んでゆく。
「うう……何度見ても慣れないわ……」
俺の隣でビトラの施術を眺めていたアイラが、俺の腕をぎゅっと掴んできた。
たしかに彼女の言う通り、ビトラの魔術は見ていて気持ちのいいものではない。
……今もイリナが白目を剥き、口から苦悶の声を絞り出しながらガクガク痙攣しているし。絵面的には完全に拷問か致死系魔術を喰らった状態だ。
「つーかアイラ、別にお前が見守る必要はないんだぞ。キツいだろ」
「いいえ、にいさま。私には見守る義務があるわ」
アイラを気遣っての言葉だったが、彼女はゆっくりと首を振った。
「前にも言ったでしょう? ねえさまの妹である前に、私は治癒術師だもの」
そう言って、俺の目をじっと見据えてくる。
「目の前で、未知の治癒魔術が行使されているのよ。……ビトラちゃんの魔術が治癒魔術かどうかは置いておくとしても、見届けないなんて選択肢はないわ。それにもしかしたら、何か私の治癒魔術に活かせるヒントが見つかるかもしれないし」
アイラはそう言ってみせるが、治癒魔術のエキスパートであるアイラですら不可能だったトレントへの対処法を、ビトラがほとんど即興でなしとげてしまったのだ。きっと、悔しいはずだ。
だが、そんな様子はおくびにも出さない。
アイラは強い子だな。
「なら、いいんだが」
俺の腕を握る彼女の手が力を込めすぎて真っ白になっていたとしても、声がうっすら震えていたとしても、これはきっと魔力切れか何かのせいだろう。そういうことにしておく。
俺は空気の読める男だからな。
結局アイラは目をそらさずに、その一部始終を見届けた。
「む、ふー。これで施術は終了。でもトレントの侵食と私の魔術によって、かなり体力を消耗しているはず。三人を回復させるには、アイラの治癒魔術が不可欠」
すでにイリナの身体からは目に見えるトレントは除去されており、静かに胸を上下させている。
だが三人分の施術は、さしものビトラにも大きな負担がかかったようだ。
彼女は額に浮かんだ汗を腕で拭いつつ、アイラに顔を向けた。
「う、うん。分かっているわ! ……ビトラちゃん、この先は私に任せてね!」
そう言って、すぐさまアイラがイリナの横に跪く。
「す、すごい……あれだけの植物を体内に潜り込ませたのに、皮膚や筋肉の損傷が最小限に抑えられているわ……」
アイラがイリナの身体に触れつつ、驚嘆の声を上げた。
正直俺にはそのへんの専門的なことは分からんが、確かにイリナは最初サムリに施したときにくらべて外傷が少ないとは思う。
「む。やはりアイラは良い目を持っている。この女性には、先ほど都合三人分の施術経験を生かし、身体に一番負担の少ないやり方を取った。具体的には、私が出した蔦の侵入経路をトレントが外皮を突き破った箇所に絞った。体内に侵入した後は極力神経や血管に触れないよう細心の注意を払い……」
うん、やはり専門的な話はとんと分からんな。
アイラは真剣な表情でふむふむと相づちを打っている。どうやらかなり画期的な方法らしい。
まあ、その辺は二人に任せるか。
ちなみにサムリもすでに処置済みだ。
サムリはトレントに侵食されて理性が半分飛んでいる状態だったはずなのだが、ビトラが魔術を施そうと近づいたら大事な聖剣を放り出したあげく脱兎の如く逃走を図った。
まあ、俺が《時間展延》を使い一瞬で捕縛したわけだが。
つかまえたサムリは、クラウスの隣に転がしてある。
今どういう状態なのかは、押して知るべし、といったところだ。
ビトラの実験(?)の尊い礎となった二人が目覚めた暁には、ちょっと優しくしてやろうと思う。
◇
「――《高位治癒》! 《高位治癒》! はあ……はあ。ビトラちゃんのお陰で命だけは助かったけれども、二人とも予想以上に身体の損傷が大きいわ……これじゃあ私の魔力が尽きるの方が早いかも……どうしよう……」
近くでイリナとクラウスに治癒魔術を施しているアイラを見物していると、 そのアイラが頭を抱え唸り始めた。
「どうした? 何か問題でもあったか?」
声を掛けると、アイラが顔を上げた。
「……ううん、今のところ大丈夫。にいさまは心配しないで。でも……もしあればでいいのだけれど、魔力回復薬の予備は持ってないかしら?」
どうやら、魔力が底をつきかけているらしい。
そういえば、アイラは先ほどサムリの治癒で魔力回復薬のほとんどを消費してしまったんだったな。
見たところ、彼女が持っていたのはかなりの高級品のようだったし、俺たちの持っている魔力回復薬では焼け石に水のような気がするが、ないよりはマシだろう。
「あるにはあるが、大した数じゃないぞ。品質も中程度だが……ほらよ」
俺は自分の分とパレルモ、ビトラの分をまとめて全部アイラに渡した。
「ひい、ふう……六本もあるわ。ありがとう、にいさま。助かるわ」
アイラはそう礼を言うが、おそらくそれだけでは足りないはずだ。
高位治癒術はかなりの魔力を消費するからな。
実を言うと、俺やパレルモ、それにビトラはこの遺跡攻略にあたり魔力回復薬をほとんど持ち込んでいない。
俺たち三人の魔力量と魔術を行使したときの魔力消費量が莫大すぎて、市販のいかなる魔力回復薬を使っても焼け石に水を掛けるのに等しいからだ。
そんなわけで、全く持っていかないわけではないが、それなりにかさばる小瓶を十も二十も持ち歩くより、ほかの装備を優先した方が建設的なのだ。
……たとえば調理器具とか。
まあ、今みたいなケースでは裏目に出ることもあるが……
「とにかく、せっかくにいさまがくれた回復薬だもの。なんとかやってみるわ」
手渡した小瓶の蓋をキュッとひねり、中身の液体を次々に一気に飲み干してゆくアイラ。
「ぷはっ。さすがに六本全部一気飲みは、お腹がたぷたぷするわね……」
そんな愚痴を言いながらも、早速治癒魔術に専念し出すアイラ。
「む。アイラは魔力が足りない?」
そんな様子を見て、ビトラが声をかけてきた。
ちなみパレルモは戦闘が終わって疲れたのか、広間の隅っこで丸くなって眠っている。
「ああ。俺たちが持ってきた魔力回復薬だけじゃ、足りないみたいだ。せいぜい、高位治癒魔術を二、三度といったところだろうな」
「む。それでは、あの者たちを救うことはできない。アイラに魔力を供給する必要がある」
「だよなあ。それができれば苦労しないんだが」
「む?」
「ん?」
なぜか、ビトラが不思議そうな顔になった。
なんか俺、変なこといったか?
「む。ライノは、なぜアイラを眷属にしない? 眷属は、主である魔王の魔力を使うことができる」
「あー、アレか……」
思い出した。
眷属化といえば、ビトラと出会う直前に一緒に居た冒険者が変化したんだった。
たしか……ケリイとかいう女の子だったかな?
「けど俺、どうやるのか分からないぞ? ちょうどビトラと出会う直前に眷属化とやらで半魔状態になった奴がいたが、勝手に変化したからな」
「む。確かに、魔王自身や眷属候補者が危機的状況に陥った場合には、強制的に眷属化が発動することがある。でも、通常は眷属化には魔王の意思が必要」
なるほど。
ビトラは結構そのへんの事情に詳しかったっけ。
「で、そうなると俺はどうしたらアイラを『眷属』にすればいいんだ? さっきも聞いたが、なにか手順とかはあるのか? 条件とかは?」
「む。方法や条件については、巫女は知らない。魔王だけが、知っている」
その魔王の俺が知らないから聞いているんだが……
まあ、ビトラが知らないならば、仕方ないな。
とりあえず、通常の手順だと『眷属化』には魔王の意思が必要なんだっけ?
とりあえず、アイラを俺の眷属にしたい、頭の中で思い浮かべればいいのか?
…………。
………………。
《『貪食』系スキル発動意思を確認しました。『眷属化』を実行しますか?》
おお、出た出た。
視界に浮かぶ光る文字だ。
といっても、この『貪食』の力を得てからは、それなりにお馴染みの現象だ。
魔物肉を食べるときなどにはいつも浮かび上がるからな。
もっとも、そのような日常の一部になってしまった文字列は、ほとんど意識しなくなってしまっていたが。
だから、こうして新しい文字が浮かぶ上がると少し新鮮な気分になる。
だが、今は感傷に浸っている暇はない。
「――《治癒》! ああ、どうしよう……もう魔力がほとんど残っていないわ……」
と、アイラの泣きそうな声で治癒魔術を続けているからだ。
《眷属化を……実行する/実行しない》
アイラを見ると、彼女が淡い光に包まれているのが見えた。
なんだこれ? 魔力光?
すでに眷属化が実行されたのか?
いや……まだだ。
文字は、まだ俺の意思決定を待っている状態だ。
ならばこれは、アイラが選択対象になっているとか、そういう類いの目印だろうか? そんな気がする。
だがまあ、今はそんな些末なことはどうでもいい。
彼女に魔力を供給できればいいのだから。
「アイラ」
「《治癒》! 《治癒》! ねえさま……! お願い目を覚まして! もうちょっと、もうちょっとなんだから……!」
「おいアイラ!」
「《治癒》! お願い、お願い、私の魔力……もう少しだけ保ってよ……!」
ダメだ。
アイラはイリナのことで頭がいっぱいで、俺の言葉が聞こえていない。
……仕方ない。
本人の了承を取るべきかと思ったが、時間がない。
俺は迷うことなく《実行する》に意識を向けた。
《眷属化を実行します》
――光る文字がそう変化した、次の瞬間。
「ねえさま、ねえさま……! ……!? 熱いっ! 身体が……ッ! なにこれ……ッ! 熱い……燃えるッ!? 身体が……あああああああぁぁ――――ッッ!?」
アイラの身体が業火に包まれ、広間中に彼女の絶叫が響き渡った。
おいおい、以前過程を見てなかったから分からなかったがこれ、マズいんじゃないか!?
完全に火だるま状態だぞ。
「おいアイラ! 大丈夫かっ!?」
慌てて声をかける。
ええと、解除はどうやるんだ?
……だが。
「あああぁぁ……あ、熱くない? それに、魔力、溢れて……!?」
彼女は、別に燃え尽きてなんかいなかった。
業火に呑まれながらも、キョトンとした顔をしている。
その様子に俺もホッと胸をなで下ろす。
というか、炎に見えたのは、膨大な魔力の奔流だったようだ。
というか……
「む。アイラ……とても綺麗」
隣にいたビトラが、アイラを見つめ呆けたような声を出す。
「……へ?」
うん。
まあこうなるよな。
前もそうだったし。
アイラは、半魔……美しい鱗を持つ、竜人と化していた。
ビトラがイリナの側に立ち、手をかざす。
魔力で編まれた無数の蔦状植物が、イリナの身体にずぶずぶと入り込んでゆく。
「うう……何度見ても慣れないわ……」
俺の隣でビトラの施術を眺めていたアイラが、俺の腕をぎゅっと掴んできた。
たしかに彼女の言う通り、ビトラの魔術は見ていて気持ちのいいものではない。
……今もイリナが白目を剥き、口から苦悶の声を絞り出しながらガクガク痙攣しているし。絵面的には完全に拷問か致死系魔術を喰らった状態だ。
「つーかアイラ、別にお前が見守る必要はないんだぞ。キツいだろ」
「いいえ、にいさま。私には見守る義務があるわ」
アイラを気遣っての言葉だったが、彼女はゆっくりと首を振った。
「前にも言ったでしょう? ねえさまの妹である前に、私は治癒術師だもの」
そう言って、俺の目をじっと見据えてくる。
「目の前で、未知の治癒魔術が行使されているのよ。……ビトラちゃんの魔術が治癒魔術かどうかは置いておくとしても、見届けないなんて選択肢はないわ。それにもしかしたら、何か私の治癒魔術に活かせるヒントが見つかるかもしれないし」
アイラはそう言ってみせるが、治癒魔術のエキスパートであるアイラですら不可能だったトレントへの対処法を、ビトラがほとんど即興でなしとげてしまったのだ。きっと、悔しいはずだ。
だが、そんな様子はおくびにも出さない。
アイラは強い子だな。
「なら、いいんだが」
俺の腕を握る彼女の手が力を込めすぎて真っ白になっていたとしても、声がうっすら震えていたとしても、これはきっと魔力切れか何かのせいだろう。そういうことにしておく。
俺は空気の読める男だからな。
結局アイラは目をそらさずに、その一部始終を見届けた。
「む、ふー。これで施術は終了。でもトレントの侵食と私の魔術によって、かなり体力を消耗しているはず。三人を回復させるには、アイラの治癒魔術が不可欠」
すでにイリナの身体からは目に見えるトレントは除去されており、静かに胸を上下させている。
だが三人分の施術は、さしものビトラにも大きな負担がかかったようだ。
彼女は額に浮かんだ汗を腕で拭いつつ、アイラに顔を向けた。
「う、うん。分かっているわ! ……ビトラちゃん、この先は私に任せてね!」
そう言って、すぐさまアイラがイリナの横に跪く。
「す、すごい……あれだけの植物を体内に潜り込ませたのに、皮膚や筋肉の損傷が最小限に抑えられているわ……」
アイラがイリナの身体に触れつつ、驚嘆の声を上げた。
正直俺にはそのへんの専門的なことは分からんが、確かにイリナは最初サムリに施したときにくらべて外傷が少ないとは思う。
「む。やはりアイラは良い目を持っている。この女性には、先ほど都合三人分の施術経験を生かし、身体に一番負担の少ないやり方を取った。具体的には、私が出した蔦の侵入経路をトレントが外皮を突き破った箇所に絞った。体内に侵入した後は極力神経や血管に触れないよう細心の注意を払い……」
うん、やはり専門的な話はとんと分からんな。
アイラは真剣な表情でふむふむと相づちを打っている。どうやらかなり画期的な方法らしい。
まあ、その辺は二人に任せるか。
ちなみにサムリもすでに処置済みだ。
サムリはトレントに侵食されて理性が半分飛んでいる状態だったはずなのだが、ビトラが魔術を施そうと近づいたら大事な聖剣を放り出したあげく脱兎の如く逃走を図った。
まあ、俺が《時間展延》を使い一瞬で捕縛したわけだが。
つかまえたサムリは、クラウスの隣に転がしてある。
今どういう状態なのかは、押して知るべし、といったところだ。
ビトラの実験(?)の尊い礎となった二人が目覚めた暁には、ちょっと優しくしてやろうと思う。
◇
「――《高位治癒》! 《高位治癒》! はあ……はあ。ビトラちゃんのお陰で命だけは助かったけれども、二人とも予想以上に身体の損傷が大きいわ……これじゃあ私の魔力が尽きるの方が早いかも……どうしよう……」
近くでイリナとクラウスに治癒魔術を施しているアイラを見物していると、 そのアイラが頭を抱え唸り始めた。
「どうした? 何か問題でもあったか?」
声を掛けると、アイラが顔を上げた。
「……ううん、今のところ大丈夫。にいさまは心配しないで。でも……もしあればでいいのだけれど、魔力回復薬の予備は持ってないかしら?」
どうやら、魔力が底をつきかけているらしい。
そういえば、アイラは先ほどサムリの治癒で魔力回復薬のほとんどを消費してしまったんだったな。
見たところ、彼女が持っていたのはかなりの高級品のようだったし、俺たちの持っている魔力回復薬では焼け石に水のような気がするが、ないよりはマシだろう。
「あるにはあるが、大した数じゃないぞ。品質も中程度だが……ほらよ」
俺は自分の分とパレルモ、ビトラの分をまとめて全部アイラに渡した。
「ひい、ふう……六本もあるわ。ありがとう、にいさま。助かるわ」
アイラはそう礼を言うが、おそらくそれだけでは足りないはずだ。
高位治癒術はかなりの魔力を消費するからな。
実を言うと、俺やパレルモ、それにビトラはこの遺跡攻略にあたり魔力回復薬をほとんど持ち込んでいない。
俺たち三人の魔力量と魔術を行使したときの魔力消費量が莫大すぎて、市販のいかなる魔力回復薬を使っても焼け石に水を掛けるのに等しいからだ。
そんなわけで、全く持っていかないわけではないが、それなりにかさばる小瓶を十も二十も持ち歩くより、ほかの装備を優先した方が建設的なのだ。
……たとえば調理器具とか。
まあ、今みたいなケースでは裏目に出ることもあるが……
「とにかく、せっかくにいさまがくれた回復薬だもの。なんとかやってみるわ」
手渡した小瓶の蓋をキュッとひねり、中身の液体を次々に一気に飲み干してゆくアイラ。
「ぷはっ。さすがに六本全部一気飲みは、お腹がたぷたぷするわね……」
そんな愚痴を言いながらも、早速治癒魔術に専念し出すアイラ。
「む。アイラは魔力が足りない?」
そんな様子を見て、ビトラが声をかけてきた。
ちなみパレルモは戦闘が終わって疲れたのか、広間の隅っこで丸くなって眠っている。
「ああ。俺たちが持ってきた魔力回復薬だけじゃ、足りないみたいだ。せいぜい、高位治癒魔術を二、三度といったところだろうな」
「む。それでは、あの者たちを救うことはできない。アイラに魔力を供給する必要がある」
「だよなあ。それができれば苦労しないんだが」
「む?」
「ん?」
なぜか、ビトラが不思議そうな顔になった。
なんか俺、変なこといったか?
「む。ライノは、なぜアイラを眷属にしない? 眷属は、主である魔王の魔力を使うことができる」
「あー、アレか……」
思い出した。
眷属化といえば、ビトラと出会う直前に一緒に居た冒険者が変化したんだった。
たしか……ケリイとかいう女の子だったかな?
「けど俺、どうやるのか分からないぞ? ちょうどビトラと出会う直前に眷属化とやらで半魔状態になった奴がいたが、勝手に変化したからな」
「む。確かに、魔王自身や眷属候補者が危機的状況に陥った場合には、強制的に眷属化が発動することがある。でも、通常は眷属化には魔王の意思が必要」
なるほど。
ビトラは結構そのへんの事情に詳しかったっけ。
「で、そうなると俺はどうしたらアイラを『眷属』にすればいいんだ? さっきも聞いたが、なにか手順とかはあるのか? 条件とかは?」
「む。方法や条件については、巫女は知らない。魔王だけが、知っている」
その魔王の俺が知らないから聞いているんだが……
まあ、ビトラが知らないならば、仕方ないな。
とりあえず、通常の手順だと『眷属化』には魔王の意思が必要なんだっけ?
とりあえず、アイラを俺の眷属にしたい、頭の中で思い浮かべればいいのか?
…………。
………………。
《『貪食』系スキル発動意思を確認しました。『眷属化』を実行しますか?》
おお、出た出た。
視界に浮かぶ光る文字だ。
といっても、この『貪食』の力を得てからは、それなりにお馴染みの現象だ。
魔物肉を食べるときなどにはいつも浮かび上がるからな。
もっとも、そのような日常の一部になってしまった文字列は、ほとんど意識しなくなってしまっていたが。
だから、こうして新しい文字が浮かぶ上がると少し新鮮な気分になる。
だが、今は感傷に浸っている暇はない。
「――《治癒》! ああ、どうしよう……もう魔力がほとんど残っていないわ……」
と、アイラの泣きそうな声で治癒魔術を続けているからだ。
《眷属化を……実行する/実行しない》
アイラを見ると、彼女が淡い光に包まれているのが見えた。
なんだこれ? 魔力光?
すでに眷属化が実行されたのか?
いや……まだだ。
文字は、まだ俺の意思決定を待っている状態だ。
ならばこれは、アイラが選択対象になっているとか、そういう類いの目印だろうか? そんな気がする。
だがまあ、今はそんな些末なことはどうでもいい。
彼女に魔力を供給できればいいのだから。
「アイラ」
「《治癒》! 《治癒》! ねえさま……! お願い目を覚まして! もうちょっと、もうちょっとなんだから……!」
「おいアイラ!」
「《治癒》! お願い、お願い、私の魔力……もう少しだけ保ってよ……!」
ダメだ。
アイラはイリナのことで頭がいっぱいで、俺の言葉が聞こえていない。
……仕方ない。
本人の了承を取るべきかと思ったが、時間がない。
俺は迷うことなく《実行する》に意識を向けた。
《眷属化を実行します》
――光る文字がそう変化した、次の瞬間。
「ねえさま、ねえさま……! ……!? 熱いっ! 身体が……ッ! なにこれ……ッ! 熱い……燃えるッ!? 身体が……あああああああぁぁ――――ッッ!?」
アイラの身体が業火に包まれ、広間中に彼女の絶叫が響き渡った。
おいおい、以前過程を見てなかったから分からなかったがこれ、マズいんじゃないか!?
完全に火だるま状態だぞ。
「おいアイラ! 大丈夫かっ!?」
慌てて声をかける。
ええと、解除はどうやるんだ?
……だが。
「あああぁぁ……あ、熱くない? それに、魔力、溢れて……!?」
彼女は、別に燃え尽きてなんかいなかった。
業火に呑まれながらも、キョトンとした顔をしている。
その様子に俺もホッと胸をなで下ろす。
というか、炎に見えたのは、膨大な魔力の奔流だったようだ。
というか……
「む。アイラ……とても綺麗」
隣にいたビトラが、アイラを見つめ呆けたような声を出す。
「……へ?」
うん。
まあこうなるよな。
前もそうだったし。
アイラは、半魔……美しい鱗を持つ、竜人と化していた。
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