新任チート魔王のうまうま魔物メシ~勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』と死霊術でらくらく無双&快適メシライフを満喫する~

だいたいねむい

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第111話 輪郭

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「ひとまず、あるだけ揃えてみた」

 昼食の後。

 現在、ダイニングのテーブルには数々の魔物料理が並んでいる。
 いずれも妖刀『ネネ』に食べさせるためのものだ。

 パレルモのいた『貪食』の遺跡からは、大蛇ニーズヘッグ、蜘蛛型魔物のアラクニド、目玉触手のゲイザー、あとはグリフォンとワイバーン。

 どれも食べやすいサイズに切り分け、ステーキにしてある。
 アラクニドは脚部の甲殻を割って中身を取り出しており、ゲイザーはゲソ部分を焼き上げてある。

 それから、パレルモとビトラが『嫉妬』の遺跡から狩ってきた大型犬ほどもある凶暴な兎型魔物『アサルトラビット』や、ちょっとした小屋ほどもある巨大な猪型魔物『ワイルド・ボア』の肉。

 どちらも地上にいる普通の兎や猪に比べ食い応えがあるが、ひとまず拳大に切り取った肉を同じくステーキにした。

 もちろん、全部下処理済みだ。
 普通の人間でも美味しく食べられる。

 ちなみに猿型と蟲型はもちろんNGである。
 あれらは兵器であって食料ではない。

 ちなみに余談だが、『嫉妬』の遺跡は上層から中層にかけては獣系の魔物が多いが、深層はスライムやら触手状の蔦を持つ植物型魔物などが数多く生息しているようだ。

 この前は彼女らが魔物を狩った帰りに大量のスライムに襲われ、酸で服をぼろぼろにされたあげく植物型魔物にも襲われ蔦まみれになって半泣きで帰ってきたことがあったからな。

 ……まあ、それでも狩った魔物はしっかり持ち帰ってきたが。

「ライノ殿。この料理を『ネネ』に食べさせれば『ねね』の魂に肉体を与えることができるというのは、確かなのか」

 コウガイが、テーブルの上に載った料理の数々を見ながら、そう問うてきた。
 半信半疑どころか、期待一割、疑念が九割、といった顔だ。

 まあ、それも当然ではある。

 あのあと、コウガイには応接間で俺のスキル『眷属化』により人間を半魔化できることなどをざっと説明はした。
 だが、説明を理解するのと受け入れるのはまた別の話だ。

「あくまで可能性の話だ。だが、分の悪い賭けでは無いと思うぞ」

 もちろん妖刀『ネネ』に魔物肉を食べさせたとしても何も起こらない可能性だってある。むしろその可能性の方が高いだろう。

「ふむ……」

 コウガイはしばらく難しい顔で唸っていたが、やがて俺の方を見た。

「ライノ殿。お主の提案、吾輩は受けようと思う」

 そう言うコウガイの表情は、少し歪んでいた。

「今、『ねね』は吾輩とともに在る。だが、吾輩が死んだあとは、どうなる?」

「他の人間の手に渡る、というのが一番あり得る話だろうな」

「うむ、そうなるであろう。必ず、な」

 コウガイが頷く。

「『ネネ』は人を呪い身を蝕み、その血肉を喰らう妖刀だ。きっと、数多の人生を狂わせてゆくことだろう。それは……『ねね』にとってあまりにも不憫なことだ。ならばいっそのこと、吾輩の手で壊してしまうか?」

 コウガイは泣き笑いのような顔になって、そう言った。

「……そのようなこと、できようはずもない」

 コウガイは続ける。

「それゆえ……そろそろ、頃合いだと思っておったのだ。吾輩にも『ねね』にも、とうに選択できる未来など、ないのだ」

「…………」

「ライノ殿が『眷属化』を行ったとして、それがどんな結果を生もうとも……仮に『ねね』の魂が消失してしまったとしても、吾輩は全ての結果を受け入れるつもりだ。なあ『ネネ』。お主も構わぬだろう?」

 コウガイが優しく妖刀『ネネ』に語りかけると、りん、と刀が鳴った気がした。

 二人・・とも、覚悟はできているようだ。

「……まあ、悪いようにはせんさ」

「こっちは準備おーけいだよー」

「む。何があっても、私たちが抑えこむ」

 パレルモとビトラがダイニングの端に立ち、少し緊張した面持ちでこちらを見守っている。二人は万が一コウガイと妖刀『ネネ』が暴走したときの鎮圧係だ。
 彼女らが頑張る事態にはならない、と思いたい。

「それでは、よろしく頼む」

 コウガイが頭を下げた。

「ああ。それじゃあ、好きな肉を選んでくれ。これまでの経験上、食べた魔物の形質が現れるはずだ。そこは注意しておくべきだな」

 正直、この『貪食』という力は謎が多い。

 今後の事を考えると、『できること』と『できないこと』、そしてその『できること』が発動する条件を確かめておくことは必要がある。
 そういった打算もあって、コウガイにこの話をした。
 
 とはいえ俺の考えが正しければ、この挑戦はきっと良い方向へと転がるはずだ。

「承知した。さあ『ねね』や、お主はどれがいいのだ?」

 コウガイは頷くと、鞘から『ネネ』をすらりと抜いた。
 漆黒の刀身には、赤い血管のように脈動する筋が幾重にも走っている。

「あらためて見ると、なかなか威圧感があるな」

「妖刀や魔剣と呼ばれる武具の中でも、『ネネ』は特別なのだ。製造されたのは、数千年前とも言われておる」

 となると、先史文明どころかさらに古代の遺物だな。
 まあ、俺の持つ『貪食』の包丁もおそらくそのくらいは古いだろうが。

「おお『ねね』や、これがいいのか。ライノ殿、この肉だ」

 どうやら、食べる魔物肉が決まったようだ。
 だが、それは……

 ゲイザーのゲソ肉だった。
 
「……なあ、本当にコレでいいのか? 『ねね』さんって妖刀にされる前は普通の女性だったんだろ? 兎肉とか、もっとこう……普通っぽい方がいいんじゃないか?」

 俺はコウガイに一応忠告する。

 たしかに、妖刀『ネネ』はゲイザーのゲソ肉ステーキに近づけるとまるで興奮したように刀身の脈動が活発になる様が確認できた。
 『彼女』がこれを選んだのはどうやら間違いではなさそうだが……

「そうは言ってもだな……『ねね』がこれを選んだのだ。これ以外はありえぬが……ライノ殿が渋る魔物とは、一体どんな魔物なのだ?」

「ふわふわ浮かぶボール大の単眼に吸盤付の触手がぶら下がった珍妙な魔物だ。ちなみに味は珍味系だな」

「……??」

 分かる、分かるぞ。
 コウガイの頭に疑問符が浮かんでいるのが。

 実物を見せてやりたいのだが、それは不可能だ。
 コイツを狩ったときは必ず『貪食』の遺跡内で解体して下処理を行った上で屋敷に持ち帰っているからな。

 なぜならコイツは毒持ちだからだ。
 それも強力な麻痺毒の。
 屋敷の、とりわけキッチンやダイニングが毒で汚染されるのはよろしくない。
 毒に耐性のある俺たちだけならば別に問題ないが、今のように客人を招き入れることもあるからな。

「ま、まあ、『ねね』が選んだのだ。吾輩に文句などあろうはずもない」

「そ、そうか。じゃあ、さっそく始めてくれ」

「う、うむ。さあ『ねね』や、たんと食べるがよいぞ」

 そう言って、コウガイが妖刀『ネネ』をゲイザーのゲソ肉ステーキにサクッと差入れた。

 途端――

 ジュルジュルジュル……

 液体を啜るような音がダイニングに響き渡り、みるみるうちにゲイザーのゲソ肉ステーキが萎んでゆくのが分かった。
 よく見ると、刃から漏れ出た黴のような瘴気がゲソ肉に取り付き、じわじわと侵食している。

 なんというか、食事と言うよりは『捕食』といった表現がぴったりくる。
 正直、かなりエグい。

「おお『ねね』や、美味いか? そうか、よかったなぁ」

 コウガイが肉を貪る妖刀『ネネ』に優しく語りかけている様子は、絵面が完全に狂気そのものである。

「うわぁ……」

「む……」

 パレルモとビトラは完全にドン引きしているな。

「よし、これでよいか? ライノ殿」

 しばらくすると、妖刀『ネネ』は完全にステーキを平らげたようだ。
 皿の上には煤のような物体が載っているが、これがステーキのなれの果てらしい。

「ああ、多分大丈夫だ」

《『貪食』系スキル発動意思を確認しました。『眷属化』を実行しますか?》

 意識を集中すると、見慣れた文字が目の前に浮かんだ。

 どうやら『眷属化』自体は問題ないらしい。
 あとは、その効果が妖刀という無生物にどのように及ぶかということだが……これから先は、とにかくやってみるしかない。

《眷属化を……実行する/実行しない》

 もちろん《実行する》だ。

《眷属化を実行します》

 次の瞬間。


 ゴッ――!



「おおっ!?」

 妖刀『ネネ』が、夥しい量の瘴気が吹き出し始めた。
 濃密な黒煙のようなそれは、瞬く間にコウガイの姿を覆い尽くしてしまう。

「ラ、ライノっ!? オヤジがっ」

「む……ライノ、これは速やかに鎮圧すべき。このままだと危険」

 パレルモとビトラが慌てたようにこちらの指示を仰いでくる。

「わ、吾輩は大丈夫だ」

 瘴気に巻かれたコウガイが声を上げた。
 突然のことで慌ててはいるようだが、無事ではあるらしい。

 爆発的な瘴気の増加は、ごく一瞬だった。
 逆巻く瘴気の渦はすぐに収束してゆき、妖刀『ネネ』を握るコウガイの隣で人影のような形を取る。

『――――』

 ただただ闇を煮めたような漆黒が、そこに在った。
 無理矢理何かに例えるとすれば……若い女性の輪郭をした影絵だ。

 腕は存在しない。
 かわりに腰まで届く長い髪が、触手のようにうねうねと蠢いている。
 これは、ゲイザーの形質を受け継いでいるからだろう。

「…………」

 皆の、息を呑む気配があった。
 俺もごくりと唾を飲み込む。

 こんな存在は始めて見る。
 魔物なのか。
 人間なのか。
 それとも、ただの現象・・なのか。
 それすら判然としない。

 だが、わずかにではあるが、俺の魔力が目の前の『影絵』に流れ込んでいるのが感じ取れる。眷属化自体は成功しているようだ。

『――――』

 『影絵』も、声を発さない。
 うねうねと蠢く瘴気の髪が、どことなく戸惑っているように見える。

「ねね……お主、なのか……?」

 かすれた声で、『影絵』に声をかけるコウガイ。

 その音に反応したのか、蠢く髪がぴくん、とわずかに跳ねた。
 それまでこちらの方を向いていた『影絵』が、隣に立つコウガイの方を音も無くゆっくりと向く。

『……アナ"タ……ナノ"デスカ?』

 『影絵』が声を発した。
 酷くひずんでおり、性別すら判然としない。

「ああ、ああ、吾輩だ。お主の夫、コウガイだ」

 からん、と妖刀が床に落ちる。

『アア……アナ"タ……ワタシ……里……』

 『影絵』はまだ混乱しているらしい。
 言葉も、おぼつかないようだ。
 髪がざわざわとがめまぐるしく蠢く。

「ここは里でない。だが……安心しろ、『ねね』。お主をおびやかすものなど、ここには居らぬ」

 コウガイが『影絵』――『ねね』さんの髪の束をひとつ、そっと手に取る。

「安心……ナラ……アナ"タ……ドウシテ泣ク……? ドコカ……怪我……?」

「は、はは……怪我なぞしておらぬわ。けども、何故かのう。久方ぶりに聞くお主の声は……これまで受けたどんな傷より……吾輩の臓腑に滲みて滲みて、堪らぬのだ」

 コウガイは嗚咽混じりの笑顔でそう言うと、『ねね』さんの影絵のような身体をそっと抱きしめた。
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