新任チート魔王のうまうま魔物メシ~勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』と死霊術でらくらく無双&快適メシライフを満喫する~

だいたいねむい

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第117話 仕込み

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「んん……」

 魔物を排除してからしばらくすると、女の子が目を覚ました。

「気がついたか。身体は大丈夫か?」

「僕……どうして……」

 女の子はまだ完全に覚醒していないようで、寝ぼけ眼で身体を起こすと、周囲をキョロキョロと見回している。

 触手の分泌する神経毒に冒されていたが、見た感じ後遺症などはなさそうだ。
 あのあとすぐに解毒剤を飲ませたのが良かったらしい。

「君が魔物に襲われていたから助けた。周りの魔物も排除してある。ここは安全だから安心していい」

 深層部でちょっとした作業をしてたんだが、昼飯に上層にいる獣系の魔物肉が食べたいとパレルモとビトラが騒ぐので、ここまで上がってきたのだが……
 すでに依頼が受理され、何組か冒険者が探索に入っていたようだ。
 彼女は、そのうちの一組らしい。

「……あ、あの、助けてくれて、ありがとうございます。失礼ですが……もしかして、元勇者パーティーのライノさんですか?」

 おずおずと問いかけてくる女の子の顔が、なぜか真っ赤だった。

「確かにそうだが……大丈夫か? 顔が真っ赤だぞ。まだ毒が抜けきっていないなら、もう少し安静にしていた方がいい」

「あっ、これは、ちがっ……! もう僕は大丈夫なのでっ」

 慌てたように顔の前で両手をブンブンと振って否定する。
 本当に大丈夫だろうか。

 しかし、この僕っは見覚えがある。
 たしか、以前ギルドに向かう途中で道を聞いてきたパーティーの子だったかな。

「僕、ミリナっていいます。あ、あの。僕、他に仲間がいて……僕だけが……逃げられて……ううっ」

 彼女――ミリナが目を輝かせたのは、ほんの一瞬だった。
 すぐに暗い顔になると、膝を抱き、その中に顔を埋めてしまった。

「僕がっ……僕だけが……なんでっ、こんなことにっ……」

 肩を震わせ嗚咽を漏らすミリナ。
 たしか、彼女らはパーティーは五人組だったな。

 小生意気な前衛職の小僧が二人に、浮ついた感じの魔術師の少女とゆるふわダウナーな魔術師の女の子が一人いたはずだ。

 だが、ここには彼女一人しかいない。
 それが何を意味するのかは、あえて口に出すまでもないだろう。

(ひい、ふう、みい……四人。確かに全員いるな) 

 俺は無言のまま、周囲の気配を数える。

 ここからは見えないが、実のところ、彼女の仲間は近くにいる・・・・・
 もっとも、動く死体ゾンビとしてだが。

 どうやら俺がギルドに掛け合って冒険者たちに渡しておいた『護符』の効果は、無事に発動しているらしい。

 一応この護符には遭難時に位置を知らせるために指向性のある魔力を発信する効果を持たせてあるが、実はさらにもう一つ、術式を埋め込んである。

 それは死霊術クリエイト・アンデッド――端的に言うと、ゾンビ化の魔術だ。

 通常、ダンジョン深層部での遭難者捜索は困難を極める。
 単純に場所の特定が難しいし、重傷で動けない冒険者や死体を護りつつ、強力な魔物に対処する必要があるからだ。

 なので、死んだ連中には、ギルドの派遣する捜索隊が回収しやすいよう上層部まで自力で・・・たどり着いてもらうことにした。
 もちろん運良く死亡後すぐに発見されれば、蘇生だって可能だろう。

 ちなみに捜索しなければ遭難した冒険者たちはいずれ魔物の餌になるかダンジョンに吸収されて肉体は消え去るだろうが、まれにアンデッド化することがある。

 こいつらは死霊術によるアンデッド化ではない野良だから、術者が指令を出さなくても人を襲うようになる。

 もちろんレイスだろうがスケルトンだろうが大した脅威ではないが、ヒトのウチの裏庭のような場所で人を襲う死体が跋扈するのは、単純に不愉快だ。

 この護符を冒険者――とりわけ低ランク冒険者たちに配布したのは、そんな理由からだった。

 その結果、術式の発動時間を遅らせてみたり一定の自律行動を組み込んだり、半日から多少時間が経過しても蘇生できるように保存の魔術を仕込んだりと、かなり高度な術式となってしまったが……それもまあ致し方なし、だ。

 それはさておき。

「ミリナ。君がいま生きているのは事実だろう? 君の命は、きっと仲間が身を挺してでも護りたかったかけがえのないものだ。ならば、ここでじっとしているのは彼らの本意ではないだろう。……身体が大丈夫ならば、俺が上層部まで送っていくぞ」

 彼女が泣き止む頃合いを待って、そう切り出す。

 ミリナがゆっくりと顔を上げた。
 今度は目と鼻だけが赤かった。

「ありがとう、ございます。でも、あの、ルカ……ほかのパーティーメンバーは……」

 立ち上がり深く頭を下げたあと、名残惜しそうに通路の奥を見るミリナ。

「どの階層にいるんだ?」

 ……実際にはゾンビと化してその辺に潜んでいるはずだが、あえて彼女にその事実を伝える必要はないだろう。
 ギルドの上層部はゾンビ化の件ももちろん知らせてあるが、一般の冒険者には知らせていないからな。

 死霊術はただでさえイメージが悪いし、説明自体いろいろと面倒だからな。

「確か、二十五階層です。そこで、変な剣を使う魔物に……ひぐっ」

 ミリナはそのときのことを思い出したのか、鼻をすすり上げた。

「ここは第二十二階層だ。この周辺の魔物はあらかた排除したが、そんな魔物はこの階層では見ていない。安心しろ」

「そ、そうですか」

 そういえば確か何階層か下で、例の武器のせいで魔物化した冒険者を排除した覚えがある。

 それより下層には冒険者もいなかったし大した強さでもなかったからあまり気にしていなかったが、他の冒険者を襲っていたのか。

「分かった。俺は後で深部を探索する予定だから、そのとき彼らを見つけたら、あとでギルドの連中に報告しておこう。さあ、行こうか」

「はい。……ありがとうございます」

「ところで、ミリナ。君がその剣を持った魔物に襲われたのはいつ頃だ?」

「ええと……僕はどのくらい気を失っていたんですか?」

「だいたい一時間ほどだな」

「でしたら多分二、三時間くらい前だと思います。ここまでずっと走ってきてマッピングもほとんどできていないから、あまり正確にはわかりませんが……」

「そうか」

 今ここは第二十二階層だから、地上までは……急げば四、五時間もあれば到達できるか。
 もちろん魔素が少ない地上まで四人の死体が出てくることはないが、第二、三階層まで追従すれば充分だろう。
 彼らの蘇生限界までに、余裕をもって対処できるはずだ。

 あとはまあ……冒険者ギルド、とりわけアーロンにとっては、この依頼自体、グレン商会の懐に潜り込むチャンスでもある。
 ミリナがいきさつを話せば、すぐに『捜索隊』を出してくれることだろう。

「ミリナ。君は運が良かったな」

「……? ありがとう、ございます?」

 ミリナは俺の意図をはかりかね、曖昧な返事を返してきた。
 まあ、当然の反応だが、俺もそれ以上説明する気はない。

「さあ、行こうか」

「は、はい」

 俺が歩き出すと、ミリナも少し後を付いてきた。
 そのまま無言で上層部を目指す。

 ちなみにこれは余談だが、彼女らのパーティーを壊滅させたヤツは高ランク冒険者だったらしく、護符は持っていなかった。

 仕方がないので、同じく近くに転がっていた仲間の死体(おそらくそいつが殺害したのだろう)をゾンビ化させたうえ、気を失ったままのそいつを上層目がけて目下運搬中である。

 まあ、彼の殺害した仲間が蘇生できるかどうかは、経過した時間次第だ。
 こっちに関しては、それ以上俺ができることはない。
 彼らの幸運を祈るばかりだ。



 ◇



「ライノ、おっそーい!」

 ミリナを上層部にいた冒険者に引き渡したあと急いで魔物を仕留め深層部に戻ったのだが、出迎えてくれたパレルモのほっぺたは両方ともプクッとふくらんでいた。

「む。私たちは餓死しない。けれどもお腹は減る。ライノはそこのところをよく理解して欲しい」

 ちなみにビトラの両頬もプクッと膨らんでいる。

「わるいわるい。ちょっと途中で遭難した冒険者を助けていてな。ちゃんと獲物は狩ってきたから、まあ勘弁してくれ。すぐに支度するからな」

 二人の可愛らしい(?)怒り具合にちょっとほっこりしつつ、解体済みのワイルドボアの肉をドサッと床に降ろす。

「ん……じゃあオッケー」

「む……許す」

 みずみずしい赤みが差した猪肉を見て、二人の顔が緩む。

「パレルモ、調味料は持ってきてるか?」

「もちろんだよー」

 パレルモがゴキゲンな様子で《ひきだし》から甘辛味噌ダレが入った小瓶を取り出した。
 彼女のイチオシらしい。

 確かに猪肉は甘辛味噌がよく合うからな。
 パレルモはそのへん、よく分かっているようだ。

「さて、さっさと取りかかりますか……で、作業の方はどんな感じだ?」

「む。見ての通り」

「……なるほど」

 俺は火を熾しつつ、周囲を見まわす。
 ここは第四十階層の最奥部にある大広間だ。

 もともと階層主フロアボスが陣取っていたはずだが、すでにパレルモとビトラにより排除されている。

 そして次の階層へ続く階段が広間の奥にあるはずなのだが……そこには、つるっとした壁があるのみだ。

「これじゃあ、隠し扉・・・があるなんて全く分からないな」

 それもそのはず。
 階段は、パレルモのいた遺跡に使われていた古代魔術《施錠》により完璧に隠蔽されているのだ。

 この魔術を解除し下層への道を開くには、《解錠》の魔術を知る魔王の巫女しか不可能である。

 すなわち、パレルモやビトラ――それにこの遺跡の元の主である、『嫉妬の巫女』ヴィルヘルミーナだけがこの先へ進むことができる。

「ちょっと仕掛けの運搬がたいへんだったけど、よゆーだったよー」

「む。魔導書の理論を読み解くのに少し時間がかかった。でも、私にはお手の物」

 二人がドヤ顔をキメてくる。

「大変だったのか余裕だったのかよく分からんが、二人ともよくやったな」

「えへへ」

「……む」

 今度は二人して照れ顔になった。
 表情がコロコロと変わる巫女さまたちだ。
 まあ、そんなところが可愛らしいのだが。

「ともあれ、これで準備は万端だな」

 通常の冒険者が探索可能なのはこの四十階層までだ。
 ここから先に進むことができるのは、『嫉妬の巫女』ヴィルヘルミーナと魔王ナンタイ、そして居ればだが、その護衛の冒険者たちだけになる。

 あとはコウガイと『ねね』さん次第だな。
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