新任チート魔王のうまうま魔物メシ~勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』と死霊術でらくらく無双&快適メシライフを満喫する~

だいたいねむい

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第120話 静と動

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「……妙だな」

 本部建物を出たところで、俺は異変に気付いた。

 周囲に人気がない。
 従業員たち先ほどのロッシュとの戦闘の余波を避けるため、すでに避難したのだろう。それは分かる。
 だが、建物の出入り口を封鎖していた冒険者や商工ギルドの連中の姿が見えないのは妙だった。
 そもそも冒険者たちに関しては、先ほどまでの騒ぎに駆けつけてこないはずがない。

「なあイリナ、もう皆撤収したのか? かなり大掛かりな作戦だったはずだが」

「いや、それはない。制圧後は、冒険者ギルドと商工ギルドの有志で敷地の管理を行う手はずだったはずだ。ブリーフィングの場には、ライノ殿もいただろう」

「まあ、そうだが」

「まって。何だか変だわ」

 建物から離れようとしたところで、アイラが俺たちを制止してきた。

「見りゃ分かるだろ。反応が遅いぞアイラ」

「そういうことじゃないわよ! ……何か、かすかに臭うの。嫌な臭いだわ」

「むう……さっきの戦闘でちょっと汗をかいたのは否定できんが」

 衣服は、一応きちんと洗濯している。
 依頼を受けてダンジョンに潜りっぱなしというわけでもないし、臭うとすればそこだろう。
 確かに先ほどの戦いはそれなりに激しかったからな。

「にいさまの汗なら、むしろ嗅ぎ……って、違うわよ! 話の流れで分かるでしょ! 変な言い方だけど……最近、魔力を嗅ぎ分けられるようになったの」

「……それは半魔化の影響、か?」

 何か不穏な発言があったような気がしたが、今はスルーしておく。

「おそらく、そうだと思うわ……ともかく!」

 こほん、と咳払いして、頬を少しだけ赤らめたアイラ続ける。

「周囲一体に、妙な魔力が漂っているわ。まるでダンジョンの中みたい」

「つまり、どういうことだ?」

「うーん……正直、よく分からないわ。でも、この人気の無さと関係している気がするの」

「確かに、周囲一帯に人の気配はないが……」

 俺は魔力の臭いを感じ取るスキルを持っていないが、《気配探知》は建物を出たあたりから発動している。

 だが、付近にはなんの気配も感じられないのだ。
 人も、魔物もだ。

 アイラはこんな時に嘘や冗談を言うタイプじゃない。
 となれば、いったい何が原因だ?

「ときに、ライノ殿。アラン殿の姿が見えないが、大丈夫だろうか?」

 イリナが辺りを見回し、そう尋ねてきた。
 そういえば、アランの姿が見えない。

「……一度中庭に戻ってみるか。もしかしたら、そこで待機しているかも知れない」

 事前の打ち合わせなどする暇もなく、咄嗟に建物外に強制避難させてしまったが、彼は商人の中では武闘派に属すると聞いている。
 そのまま逃げてしまったとは思えない。

 ……それに、打ち所が悪くて伸びたままだと困るからな。

 俺たちは建物にもう一度入り直して、奥の出入り口から中庭へと出た。

「……ああ、ここだ。茂みが潰れているだろう」

 中庭は植え込みや池などがあり、いわゆる庭園になっている。
 俺は建物から少し離れた植え込みに、重量物で押し潰されたような跡を見つけた。大きさは、ちょうど大人の男がすっぽり入るほど。

 アランはここに落下したらしい。
 下草と柔らかい土が、彼の巨体をしっかりと受け止めてくれたようだ。

「ふむ。アラン殿はここにはいないようだな」

 そう。
 肝心のアランの姿はどこにも見あたらなかった。
 中庭は、不気味なほど静まりかえっている。

「……アランにはこの場所で待てとは言っていないからな」

「そういえばそうね。そんな暇、なかったし。でも、ならばどこにいったのかしら?」

 アイラが腕組みをしながら、こてんっ、と首を傾げる。

「一度商工ギルドに戻ったのだろうか?」

「その可能性はあるな」

 と言ってはみたものの、本当にそうだろうか?
 そもそもロッシュを逮捕し、商工ギルドに連行するのが彼の仕事だ。
 魔物相手に戦えるほど強くはないにしても、それで尻尾を巻いて逃げ出すタマとは思えなかった。

「なら、一度商工ギルドに行ってみない? 魔力の臭いのこともアランさんのことも気にはなるけど、どのみちこのおじさまを向こうのギルド長に引き渡さないと依頼を達成したことにならないわ」

 アイラが捕縛したロッシュを見てそう提案してくる。

「確かに、そうだな。もしかしたら、向かう途中で鉢合わせするかも知れない。イリナはどう思う?」

「妹の提案を却下する姉などいようか? いや、ない」

「そ、そうか」

 力強く拳を握りしめるイリナに若干引きつつ、俺はなんとかそう口にする。

 ……瞳の中に妹しか映っていない彼女に聞いた俺が野暮だったようだ。
 まあ、俺としても姉妹の愛に割り込むような無粋なマネをするつもりはない。

「じゃあ決まりね。早速出発するわ!」

 アイラが先頭に立って歩き出した。



 ◇



「妙だ。これは妙だ」

 商工ギルドに通じる大通りを歩きながら、イリナが険しい顔で呟く。

「ああ、同感だ。一体どうなってやがる」

 俺も、そう唸るしかなかった。

 近くの屋台では、大鍋に入ったほかほかのスープが湯気を立てている。
 その隣には、香ばしいタレの匂いを漂わせる串焼き屋。
 通りの反対側の青果店では、新鮮な野菜や果物が所狭しと積み上げてある。

「もう、お昼どきよ? なのに、なんで通りに誰も歩いていないの!?」

 アイラが堪えきれず、といった様子で大声を上げた。

 そう。
 通りは、全く人影がなかった。

 屋台の店主も、料理や品物を目当てに出歩く人の姿も。
 街をそのままに、人間だけが忽然と姿を消してしまっている。

「路地裏にも争った形跡はないようだ。……だが、それこそが異常というべきか。こういう場所にたむろしていそうな連中の姿すら見えないのだからな」

 建物と建物の狭い隙間に首を突っ込んでいたイリナが、ため息交じりでかぶりを振った。

「アイラ。魔力の臭いはまだ続いているか?」

「わずかだけど……グレン商会からずっと続いているわ」

「となると、もしかするとヘズヴィン全体がこの状態なのかもな」

「そんなまさか、と言いたいところだが……大通りがこの調子ならば、ありえない話ではないな。この街は冒険者ばかりだ。こんな昼時に家に閉じこもっているような性分の者はそう多くあるまい」

 イリナも同意見のようだ。

「とにかく、商工ギルドに向かいましょう。そうしたら、なにか分かるかも知れないわ」

「そうだな。コイツを連れ回したまま異常を調べて回るのは非効率だからな」

「商工ギルドはここを曲がればすぐだ。急ぐとしよう……あれはなんだ?」

 通りの角を曲がったところで、先行していたイリナが声を上げた。

「どうした」

 急いで駆け寄り、彼女の視線の先を見る。

 通りの先に、商工ギルドの大きな看板が見えた。
 その下に、無数の黒い影が蠢いている。
 パッと見、人だかりに見えるが……

 それと、同時だった。

 脳裏に無数の赤い点描が浮かび上がる。
 黒い影が《気配感知》の効果領域に入ったのだ。
 そしてその奥、ギルド建物内部――緑色の点描がひとつ。

 それが示しているのは――

「アイラ、ロッシュを頼む!」

「きゃっ! に、にいさまっ!?」

「ライノ殿!?」

 戸惑うアイラにロッシュを押しつけると、俺は全力で駆け出す。

 おいおいマジかよ。
 ここ、街中だぞ……!

 なんでゴブリン――いや、上位種の赤小鬼レッド・キャップの群れがここにいるんだ!

『『『ギャッ! ギャアッ!』』』

 商工ギルドに接近すると、赤小鬼が奇怪な叫び声とともに、ギルドの扉をガンガンと叩いている。

 扉は中から固く閉ざされているらしく、今のところは持ちこたえているようだ。
 とはいえ、赤小鬼の討伐ランクは個体ではCで、群れならばB。
 小柄だが筋力は人間の数倍あり、おまけに集団戦闘に長けている魔物だ。
 扉を突破されてしまえば、ただの商人などひとたまりもない。

 だが幸いなことに、赤小鬼がこちらに気付いている様子はない。
 この隙に……ッ!

「――《解体》ッ!」

 俺は腰の短剣を抜き放ち、赤小鬼の群れの下に滑り込むと同時に一閃、二閃。

『『『ギャッ!?』』』

 ドサドサ、と鈍い音が響き、何体かの赤小鬼がくるぶしから下を失い倒れ伏す。
 二体撃破。

 対集団戦では、一瞬でどれだけ多数を戦闘不能に陥らせるかが勝負だ。
 確殺する必要はない。

 もちろん《時間展延》を使い一瞬で殲滅することは可能だが、今はイリナもアイラもいる。この程度の相手に大量の魔力を消費する必要性はない。

『ギイイッ!?』 

「遅え」

 俺の存在に気付いた個体が慌てて手に持っただんびら・・・・を振り下ろしてくるが、すでにその場所に俺はいない。

「もいっちょ、だ」

 地面スレスレを這うようにして攻撃を躱し、攻撃を仕掛けてきた個体の内股に刃を滑らせる。

 バシュッ!

 鮮血が赤小鬼の赤肌からほとばしる。
 血管と同時に腱を断たれた個体が苦悶とともに崩れ落ちた。

『『『ギィアァァッ!』』』

 そこでようやく自分たちの置かれた境遇を理解したらしい。
 他の赤小鬼たちが激昂した様な声を上げ、一斉に襲いかかってきた!

 ――が。

「ライノ殿、獲物の独り占めはよくないぞっ! ――『旋風つむじかぜ』。ハアァッ!」

 ゴゴウッ!

 凄まじい轟風が吹き抜けたと思ったら、目の前から赤小鬼がごっそりと姿を消した。イリナの魔法剣だ。

『『『ギャウゥッ!?』』』

 空高く巻き上げられた赤小鬼が次々と地面に落下し、動かなくなった。
 周囲に静寂が戻る。

「おーおー、いつ見てもとんでもねー威力だな。なーにが『旋風つむじかぜ』だ。竜巻の間違いだろ」

 イリナの魔法剣は切れ味や単発の攻撃力を増すだけでなく、こういった面制圧にも長けている。正直、この戦闘力は羨ましくもあるな。

「ぬかせ。所詮私の剣は『剛』だ。ライノ殿ほどの『迅』も『智』も持ち合わせていないさ」

「よく分からん例えだな?」

「要するに、適材適所、ということだ」

 イリナはなぜか悔しそうな顔で鼻を鳴らすと、細剣を鞘に納めた。

「ねえさま、にいさまっ! 怪我はないかしらっ!」

 息を切らせて、アイラが駆け寄ってきた。

「ああ、怪我もないぞ」

「私も無事だ」

 ちなみにロッシュは白目を剥いたまま引きずられている。
 怪我ならヤツの心配をした方がいい気がするが……まあ、自業自得だな。

「それは何よりだわ。それで……この状況は、一体……」

 アイラが困惑した顔で周囲を見渡す。
 何体かまだ息のある赤小鬼も存在するが、総じて死屍累々といった状態だ。

「わからん。だが、とりあえず魔物は倒すのが正解だろ」

「にいさま、雑……」

「ま、まあこの赤小鬼たちは商工ギルドを襲っていたようだからな。排除はすべきだろう」

「確かに、そうだけれども……それよりも、商工ギルドは無事なのかしら?」

「わからん。とりあえず、中に入るか。おーい、誰かいるのか? こちら、冒険者ギルドの者だ! 外の敵は排除した! 開けてくれ!」

 コンコン、と扉をノックすると、中でゴトゴトと何かを動かす音が聞こえた。

 しばらくすると、カチャリとドアノブが周り――女性の顔が覗く。

「あの、魔物は……ライノさん!?」

「ペトラさん!?」

 怯えた顔で、おそるおそる顔を出したのは……『彷徨える黒猫亭』店主こと、ペトラさんだった。
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