高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない

Stjimmy182

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掃除馬鹿

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 一晩明けて、俺はムクリと体を起こした。昨晩は相変わらず、固い床で眠った。林はしつこくベッドで一緒に寝ればいいだろと俺に迫ったが、喧しいと一蹴して床で寝た。おかげで肩がとても痛い。

「……後で布団、買いに行くか」

 林はまだ、ベッドで寝息を立てている。
 俺が起きた時刻は朝七時。夏休み中の大学生という、自堕落な生活を送るためだけの存在の中では、すこぶる早起きであることだろう。昔から俺は、深夜バイトのない日は、休みの日であれ朝はこの時間に起きている。朝早くに目覚めると、午前中が長くなるから、何だか得した気分になるためだ。いつもは早く起きた分、部屋の掃除を入念にし、昼ごはんを食べて外に出掛ける。
 ただ今日は……部屋で寝息を立てている住民がいるおかげで、物音を立てることは憚られた。
 林は一体、何時に起きるのだろう?
 ここ数日、ずっと気を張っていたことだろうし、別に何時まで寝ていたって咎めることはない。だけど、部屋の掃除が出来ないのは気分が悪い。ともあれ、やはり彼女を起こすのも忍びない。

「……散歩でも行くか」

 真夏とはいえ、この時間帯の外は昼間に比べれば断然過ごしやすい。どうせだから気分転換に散歩に行こう。
 俺は寝間着を脱いで洗濯機に押し込んで、外着を着て、散歩へ出掛けた。行く宛は特にない。ただ道中見かけたコンビニで、丁度良いから朝食も買って帰ろうと思い至った。

「あれ」

 帰宅後、俺は小さく声を上げた。
 部屋の扉を開けた途端、洗濯機が回る音が聞こえたからだ。俺、散歩に行く前に洗濯機を回したか。そんなはずはない。林を寝かしておこうと思ったのに、そんな騒がしいことは絶対にしない。
 見れば、閉めていたカーテンも開いている。ベランダには人影。

「あ、おはよう。山本」

「何してんの」

「掃除」

 Tシャツ、ハーフパンツ、サンダル、箒と塵取り。林の今の姿は、まさしく掃除をしている姿だった。

「まだ寝ていれば良いのに」

「いつもこの時間に起きてるから、習慣付いた」

「あっそう」

「あんた、結構綺麗に部屋使ってるのね。ベランダにも全然ゴミがない」

「暇さえあれば掃除機回しているぞ。それが趣味だ」

「うわっ、悲しい趣味」

 ……あれ?
 もしかして俺、今馬鹿にされた?

 両親は、暇さえあれば掃除機を回す俺が上京するとなったら、大号泣だったぞ。掃除馬鹿がいなくなるって。

 ……あれ?
 もしかして俺、あの時馬鹿にされてた?

「何一人たそがれてるの?」

「毎日掃除をするって、悪いことだろうか?」

「いや、良いことでしょ。でも、それを趣味にするのはどうかと思う」

「趣味は金ばかりかかって生産性がない。だが掃除は生産性がある」

「掃除用具、結構買い込んでるみたいだけど? 結構お金使ってるよね」

 チラリと俺は、背後の大きめのクローゼットを見た。そこには、たくさんの掃除用具。

「……開けたのか」

「ごめん」

「謝る必要はない。掃除用具も使ってもらえて本望だろうさ」

「どこに感情移入してんの?」

「……さ、朝食でも食べようか」

 俺は持っていたレジ袋を机の上に置いた。買ってきたのは二人分のおにぎり数個。

「お前の好みの味はわからなかったから、好きなの取れよ」

「……ご飯か」

 林は、顎に手を当てて考え始めた。

「昨日から思ってたけどさ、あんたの作る料理って大味だよね」

「そう?」

 それより、おにぎり何食べるの?

「今日の昼から、あたしがご飯作ろっか」

「お昼から?」

 それより、おにぎりはどれ食べるの?
 俺、ちょっと小腹空いているんだけども……。

 俺は考えるふりをした。実はそこまで、頭を働かせていない。俺の中で、彼女の要望に対する答えは決まっていた。

「大丈夫だ。俺が作るよ」

「あれ、あんた料理にもこだわりある人だった?」

「いや全然」

 ただ、林はあくまでこの家では客人の身。そんな彼女をこき使おうだなんて、おかしな話だ。

「居候させてもらってるんだしさ。それくらいやるよ?」

「……お前、この前まで随分と心労を溜め込んだんだろう。この家にいる間くらい、休息したって良いんじゃないのか?」

「逆だよ」

「逆とは?」

「何もしないと、嫌なことばかり考えちゃうの」

 ……つまり、ある程度は体を動かしたい、と。
 
「……わかった。じゃあ頼むよ」

「ありがとう。というか、大体の家事はあたしやるよ」

「え、なんで?」

「動きたいの」

「……じゃあ、わかった。いや、ちょっと待った」

 いつになく真剣な顔で、俺は林に迫った。

「……何?」

 切羽詰まって勢いよく林に顔を寄せた。その結果、林の顔がほのかに赤くなった気がするが、多分気のせいだろう。それよりも俺には、どんなことよりも譲れないことがあるのだ。

「掃除だけは、俺がやる」

「勝手にしろ。掃除馬鹿」

 呆れ顔で、林は俺に言葉を荒らげた。いつになく、高校時代の彼女らしい発言だ。数回の会話で、茶化すようなことを言って、彼女から今みたいなお冠な言葉を何度ももらった。
 
 まあ、あの時と違い今は、茶化す気は更々皆無だったのだが……怒らせてしまったのなら仕方がない。

「譲ってくれて、ありがとう」

「……あんた、変わり者だよね」

「褒めるなよ。照れるだろ?」

 林から呆れのため息を頂戴して、俺達は朝食を食べ始めた。
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