高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない

Stjimmy182

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布団

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 昼ごはんを食べた後、俺は一人最寄りのデパートに足を運んでいた。お目当ては寝具一式。なし崩し的に、我が家にはしばらく林という居候が出来てしまった。その居候に、俺の寝床は奪われた。二日間の床での睡眠を経て、さすがの俺も限界を迎えていた。

「えっほ。えっほ」

 大きいレジ袋に詰められた布団、掛け布団、毛布。枕。それらが重くて、今日日童話向け絵本でしか聞けないような声を俺は漏らした。大の大人とはいえ、さすがに片道一キロ、真夏日にこれらを一人で持つのは骨が折れた。
 帰ったらキンキンに冷えたジュースを飲もう。帰宅後のご褒美でも考えないと、やってられない気分だった。

 やっとの思いで、俺は家に到着した。
 扉を開けると、室内からはテレビの音しか聞こえない。

「……林?」

 昨日からの居候に呼びかけるが、返事はない。彼女をここに匿った経緯が経緯だったため、俺は慌てて靴を脱ぎ、リビングへと進んだ。
 リビングには、寝息を立てて寝ている林がいた。
 最悪のケースを想定し、緊張し強張った体がみるみる緩んでいくのがわかった。

「紛らわしい奴だ、まったく」

 同居人が寝ていることを良いことに、俺は彼女への文句を口にした。面と向かっては当然言えない。彼女を怒らせることを本能的に恐れている節もあるが、一番は今、弱っている彼女に心労をかけるような真似はしたくなかった。
 我ながら随分と彼女に肩入れしているな、と呆れたため息が漏れた。

 一先ず俺は、彼女を起こさないように、寝具を広げることにした。ただ、六畳一間のこの部屋では、布団を袋から出すだけで音が響いた。

「んあ」

「悪い。起こしたか」

「……あ、ごめん。寝てた」

「謝る必要なんてない。疲れが溜まっていたんだろう。ゆっくりしてろよ」

「……家主一人を働かせて、そんなことさせられないでしょ」

 言葉を交わしながらも一人黙々と作業をする俺に、さも当然のように起きて手を貸したのは林だ。

「良いって。これくらい」

「良くない。あたしも手伝う」

「だから、これくらい一人で事足りるから。寝てろよ」

「だから大丈夫だって」

 お互いに一度語気を強めた発言をして、俺達は目を丸くしあった。しばらくして、俺達は笑った。
 林は俺の隣に座り、掛け布団の封を開け始めた。

「お前、意固地過ぎるだろ」

「あんたも大概だっての」

「俺が言ったことは至って事実だ。これくらい、本当に一人で事足りる」

「あたしだって至って当然のことを言ったまで。家主を一人働かせて寝ているだなんて、あたしは耐えられない」

「そういうもんか」

「そういうもん」

 あまり人様の気持ちを考えながら行動したことがないからわからないが、まあ彼女はそういうもんと言うなら、事実なのだろう。彼女は俺なんかより、たくさんの友達に囲まれ、たくさんの経験をしてきた人だ。ここは素直に引いておこう。怖いし。

「それにしても、凄い汗ね」

「外、暑かっただけだ。これ終わったら、麦茶でも飲んで休まないか」

「あんたがそういうなら、構わないよ」

 しばらく俺達は黙って、作業に没頭した。一人ではなく二人で作業したからか、開封作業はすぐに終わった。後は、ゴミを袋に詰めて、ゴミ捨て小屋に、ゴミを捨てに行って、全て完了だ。

「おつかれ」

 部屋に戻ると、一足先に林が二人分の麦茶を用意してくれていた。

「ありがとう」

 俺はお礼を言って、小さめな机、林と対面の位置に腰を落とした。ゴクゴク、と喉を鳴らして飲む麦茶は、格別な味だった。

「体の方は大丈夫か?」

 麦茶を飲んで満足し、俺は林に尋ねた。

「え?」

「いや、怪我とか疲労とか。さっきも寝ていたみたいだし」

「……ああ、それはただやることなくて暇だっただけだから。怪我の方はまあ、気長に通院するしかないね」

「……そうだな」

 怪我のことを振っておいて何だが、割り切った彼女の顔を見ていると、やるせない気持ちに襲われる。俺は暗い話はやめようと首を振った。

「そう言えばお前、テレビとか見ないのか?」

「見ないね」

「そうなのか」

 少し意外だった。ティーンエイジャーというものは、テレビで話題を探して、翌日の学校でそれを語り草にするもんではないのか。友達あんまいないからわからない。

「……じゃあ、漫画とか読むのか?」

「あんまりかな」

「そっか」

 ……あれ?
 会話が続かない。不思議だ。こちらから話題を提供しているのに、一体どうして……?

 ……ふむ。

 気まずい。

 林と再会して一日と少し。思えばこれまでの俺達は、彼女の壮絶な数ヶ月のために、ここまで二人きりで落ち着いた時間を設けることが出来ずにいた。その結果、いざこうして落ち着いてみたら、話題が続かない。広げることも出来ない。

 ……これはあれか。カップルがアトラクションパークに行くと、話題が尽きて盛り上がらずに別れるっていう、あれか。

 ……まずい。
 このままだと、林が俺に呆れ、俺のことを嫌い、この家から出ていってしまう……!

 あれでも、林は元来俺のことを嫌っているし、度々呆れているし……この家から出ていくのも、問題さえ解決すれば問題ない。
 つまり、無問題ではないか。

「……ふふっ」

 一人で考えていると、目の前の林が突然笑いだした。

「ごめん。……高校の時は、あんたとこんな関係になると思っていなかったら、ついおかしくなって」

 それ、一体どこにおかしくなる要素があるの?

「思えば高校時代から、あんたと話したことって全然なかったよね。思い出す限りでも、片手で収まる」

「俺もだ」

「しかも、大抵側には灯里がいた。だから、こうして二人きりで話すのって初めてだね」

 灯里、とは、彼女の一番の親友、笠原のことだ。フルネームは、笠原灯里。

「……そうだね」

 俺は少し気まずい顔で苦笑した。

「高校の時は、あんたのことちゃらんぽらんな奴だと思っていた。いつも適当なことばかり言っているし、何だか不誠実な奴で、気に食わなかった」

「率直な意見どうも。今後の参考にさせてもらいます」

「なにそれ。……ただ、そんなあんたにまさか、助けられる日が来るだなんてね」

「……不服、だったか」

「……どう思う?」

 ……このタイミングでこちらに尋ねてくるのは、ちと性格が悪いだろう。
 まあ、俺は自分本意で今回、林を助けた身。彼女から今回の件で感謝や敬意を示されるのも少し違う。

「嬉しかったよ」

 そう思っていたのに、林は嬉しそうに微笑んでいた。

「……止めろ。むず痒くてしょうがない」

「だったらまだまだ言ってやろうかな」

「性格が悪いな。俺みたいになるぞ」

「なら、もっともっと言ってやろうかな!」

 俺も大概性格が悪いが、こいつも中々性格悪いな。
 男勝りに優しく微笑む林を見ていたら、そう思って、俺は苦笑した。
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