チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン

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クアレールの内乱

第110話 偽りの巨人行進

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 クアレール王都は物々しい雰囲気に包まれていた。

 民衆たちは不安そうに酒場の前に集まっている。

「ビーガンの軍がここに滞在してるのだけでヤバイのに、更にハーベスタ軍までやって来たぞ……」
「一触即発だよなぁ……王都が火の海になってしまうぞ! くそぉ、第三王子も第四王子もバカどもだ! 俺達民衆のことなど何も考えてねぇ!」
「何を言うか! 第三王子が進軍してこなければ、こんなことにはならなかった! 悪いのは全て第三王子だ! 第四王子は正しい!」

 王都の民たちにとってこの状況はあまりにも絶望的である。

 少し間違えばこの王都が、ハーベスタ軍とビーガン軍の戦場になってしまうのだ。

 何故他国同士の軍がクアレールの王都で争うのか。そしてこんな事態をもたらした両王子に対して不信感が募っている。

 ただその一方で民たちもバカではない。心のどこかでは誰が間違っているのかは理解していた。

「……まあ第三王子からすれば、勝手に第四王子が権力握ったらそりゃ怒るよなぁ」
「はぁ!? 第四王子が正しいに決まってるだろ! 第三王子は愚鈍で救いようがないゴミだ! そんな奴に国を継がせてクアレールが崩壊しては困ると、第四王子は立ち上がってくださったのだぞ!」
「「「はぁ……」」」

 民衆たちはとても希望を持てずにため息をつく。

 そんな中でカツカツと大勢の歩く音が聞こえ始めた。

「来たか……第三王子率いるハーベスタ軍が」
「蛮族軍と有名だが果たして……」
「蛮族め! 諸君、今こそ奴らを潰して第四王子を援護するのだ! ハーベスタ国などと同盟を結んでいてはダメだ!」

 すでに道の両端には大勢の民たちが集まっていた。

 彼らは進軍してくるハーベスタ軍を一目見ようと待っている。果たして本当に話も通じなさそうな蛮族なのかと。

 数人の喚く輩を除いて、皆が固唾を飲んで見守っていた。

 そして徐々にハーベスタの兵たちの姿が見え始める。

「「「なっ……!?」」」

 民衆たちは絶句した。

 大勢のハーベスタ兵たちがあまりに精悍であったからだ。

 自分達とは頭ひとつほど違うその身長、更に全身には高価そうな金属鎧。

 あげく身の丈ほどのグレートソードをまるで通常剣のように軽々と、地面に垂直に構えながら行進している。

 更にガタイもクマのように大きく、もはや人の軍隊とは見えぬほどに恐ろしい。

「は、ハーベスタの兵隊でかすぎるだろ……」
「あれだけ金属鎧着こんで、グレートソード持って……普通に歩けるなんて」
「きょ、巨人だ。巨人の兵団だ……ハーベスタの巨人兵団だっ!」

 王都の民衆たちはハーベスタ軍を見て恐れおののく。

 いや違う。見物人は無辜の民だけではなかった。

「う、うそだろ……俺達、あんな化け物と戦えってのかよ……!?」
「こんなの勝ち目ないだろ……俺達十人がかりで、あの巨人一人倒せるか怪しいぞ!?」

 第四王子の直轄兵たちも民衆に紛れて、このハーベスタ軍の行進を見届けていた。

 自分達が戦うかも知れない相手に対しての偵察を兼ねてだったのだが……すでに彼らの戦意はへし折れていた。

 敵を知り己を知れば百戦危うからずと動いたところ、分かったのは百戦やろうが自分達に勝ち目がないことだった。

 着々とハーベスタ兵士たちの行進は行われていく。

「あ、あれはなんだ? 鉄の馬車か?」
「いやでも馬がないぞ?」

 軍の大半が過ぎ去った辺りで、更に自動車が出現して民衆に混乱をもたらした。

 そしてそこに乗っていた男が勢いよく、車の座席に立ち上がる。

「余はクアレール第三王子にして、王位継承者チャムライである! 第一王子と第二王子を暗殺せしめた者、第四王子に誅伐を下すべくこの王都に戻って来た!」

 チャムライの叫びに対して民衆は息をのむ。

 第一王子と第二王子を殺した犯人は第四王子。それは何となく民衆たちも予想はしている。

 この暗殺で恩恵を受けるのは第四王子、第三王子、そしてビーガン国などだ。

 その中で第四王子が怪しまれているのは、いくら何でも暗殺後の動きが速すぎた。

 第一王子と第二王子が殺されて即座に王都に軍を引き連れて来たのだ。

 第一王子と第二王子の暗殺の報が届いてから、軍を集め出しては到底無理だ。事前に準備していなければあり得ない速度。

 挙句に王都をわが物顔で占領して、実質的な王政権力を握ろうとしているのだ。

 対して第三王子は逃げてハーベスタ国に向かい、援軍を引き連れて戻って来た。

 もし第三王子が暗殺犯であったなら、こんな逃避行をすることはなかっただろう。

 彼は王都に残って身を守りさえできたなら、継承権の関係でおのずと王になれるのだから。

 第三王子が暗殺犯であったならば、近衛兵くらいは用意していたに決まっている。

 なお実際は第四王子は暗殺を事前に知らされていただけで、実際の実行犯はビーガン国の雇った陽炎なのだが。

「や、やっぱり第四王子が暗殺をしたのか……?」
「そうなのか?」
「何を馬鹿な! 第三王子が実行犯に決まっているだろう! 第一王子と第二王子が暗殺されて、最も得する人間は誰か考えてみっ……!」

 散々叫んでいた輩たちは、急に言葉を失って顎を馬鹿みたいに広げていた。

 目を凝らせば彼らの口の中に薄い氷が張ってあり、顔が冷気で硬直して動かなくなっているのがわかる。

 そんな中でチャムライはグレートソードを片手で天に掲げ、力強く民衆たちを見渡した。

「余はクアレール王の武を継承した男である! この力をもってハーベスタ国と対等に盟を結び、この国に安寧をもたらさん! これは余でなくてはできぬ!」

 第三王子の雄姿は民衆の心を動かす。

 クアレール王は義の調停者。己が武を以てクアレール国を導いた者だった。

 民たちは第三王子の大剣を軽々持ち上げる姿に、若き日の前王の姿が被ったのだ。

「余はこの国を愛している! 民を愛している! 決して……決してハーベスタ国と争って無駄な血を流させるものか! 戦うべき相手を間違えてはならない! 我がクアレールが誓う物を、前王が愛した義を余は継承する!」

 王都の民たちには、第三王子が愚者とは映らなかった。


 

-------------------------------------------




「民たちよ! 私に従うのだ! 私は其方らの味方であり、無駄な戦など決して起こさぬと誓おう!」

 ハーベスタの兵たちが行進を終えて広場に陣取ると、第四王子もすぐに持前の兵力で王都を行進し始めた。
 
 彼の心中にあったのは焦り。民たちや貴族が第三王子に惹かれていると知り、これはマズイと対抗しているのだ。

 クアレールとビーガンの混合兵団は、王都の中を歩く続けている。だがそれを見た民衆の目は冷ややかだった。

「なんかすごい弱そう……」
「さっきのハーベスタの兵の方が十倍くらい強そうだよなぁ。あいつらもうオーガみたいだった」
「おお何と見事な兵団か! ハーベスタの蛮族とは比べ物にならぬ見事な!」
「オッサン、流石に無理があるぜ。あの後じゃ非力なチビどもの行進にしか見えねーよ」

 混合兵団たちはクアレール兵こそ鉄鎧を着ている者もいたが、ビーガンの兵士は大抵が皮鎧。

 それに武器も普通の槍や剣だ。それ自体はおかしくないのだが……先ほどの身の丈ほどのグレートソードに比べれば爪楊枝に見えてしまう。

 更に……第四王子自体も第三王子と比べられて呆れられている。

「そもそもムダな戦を起こさないなら、何でビーガン軍招き入れてるんだよ。そんなことしたら同盟国のハーベスタは激怒するに決まってるだろ」
「見ろよあの貧弱な腕。普通の剣すらまともに振れないんじゃねぇの?」
「第三王子は前王から愚鈍と称されていた。だが第四王子に至っては、そもそも存在すらないようにされていた。語る価値なし、それが答えでは?」

 第四王子は先ほどの第三王子の演説をパクっていた。

 その結果として自分で矛盾したことを言っている。ムダな争いを起こさないのならば、そもそも継承権が下の第四王子側が引くべきなのだ。

 まだ第三王子が継げば国が~とかならば、少なくとも自分の行動と言動におかしな点は生じなかったろうに。

 そしてこの一連の行進を見ていたのは民衆だけではない。

「これは第四王子に勝ち目はないな。様子見は終わりだ、私は第三王子につく」
「…………急に第一王子と第二王子の死亡を聞いて魔が差しましたが、ここは第三王子に着いた方がよさそうだ。我々はまだ何もしていないので受け入れてもらえるはず」
「趨勢は決しそうだ。すぐに早馬を領主に飛ばせ」

 この国の混乱を把握するために、王都に集まっていた貴族や間者も見物しているのだ。

 この事態を様子見していた者、いきなり暗殺を知らされて何となく第四王子側についた者が心変わりするには十分だった。

 そもそも王都に敵国の軍を招き入れる愚か者に、好んで従いたい者はそうそういない。

「この私に従うのだ! ビーガンと手を結んでハーベスタ国を討ち、クアレールこそが最強であると知らしめるのだあ!」

 第四王子の誰にも届かぬ叫びが王都にこだまするのだった。
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