【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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カール領との対決編

第1話 ひどい領地の継承

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「アトラス坊ちゃま……旦那様と奥方様が亡くなられました……坊ちゃまがフォルン領主でございます」

 執事服を着た初老の男――セバスチャンの無慈悲な報告。

 現在14歳の俺に投げかけられたこの一言が、俺の人生を大きく変えた。いや狂わせたと言った方が正しいか。

 狂ったのは大きく3点だ。1つ目は貴族の知識を学ぶため、王都で通っていた学校の強制卒業が決まってしまった。

 2つ目、俺はその言葉で自分が転生者であることを思い出した。

 3つ目、これが一番最悪だ。破綻寸前の貧乏領地を相続してしまったのだ!

 破綻寸前なのは伊達ではなく貴族なのに一日一食! しかも超硬くてまずくて、人間の食べる物とは思えないパン!

 それすら食べられない時もあるくらいだ! 貴族だろう!? 

 王都の学校はよかった……寮で一日二食出されたのに……味もまともだったのに……。

「王都の学校に戻りたい……ごはん食べたい……」
「アトラス坊ちゃま……いえアトラス"男爵"様はすでに領主ですぞ。学校になど無理に決まっているでしょう」

 屋敷の執務室の机に突っ伏す俺に、セバスチャンが爵位を強調して小言を言ってくる。

 だがこんな領地に戻されては不満の百や二百は許して欲しい。多すぎる? いやいやこのフォルン領は冗談抜きでひどすぎるのだ。

 世間からの評判はこうだ。『自然豊かで住民が穏やか、ゆったりと過ごせる場所』。

 適切な言葉にしよう。『有用な資源も無いド田舎で開拓すらまともに行えず、出来ることがないので衰退していく土地』。

 残念ながらその言葉に嘘偽りはない。

 伐採しても売れない木ばかり生えている山々、海などは当然ない内陸地、常に腹を空かせた住民たちは将来を諦めて目が死んでいる者多数。

 極めつけは多額の借金をしている。返せる当てもないので近いうちにフォルン家は廃嫡させられる。そして俺は借金の責任をとって打ち首……正直詰んでる。

「アトラス様、隣領のカールからパーティーのお誘いが来ていますぞ」
「ほう。パーティーなら食事にありつけるな! すぐ行くぞ」

 カール領のことについては何一つ知らないが、パーティーに参加できるなら行かない選択肢はない。

 だって飯が食えるのだから!

 セバスチャンはそんな俺に対して視線を床に向けつつ。

「左様ですか……あの、決して怒らないようにしてください」

 その言葉の意味を俺はすぐに思い知ることになる。悲しいことに自分の馬すらなく、領民から馬を借り受けてパーティーに向かうと。

「落ちこぼれのフォルン男爵ではないか。浅ましくも乞食にやってきたのかね」

 30歳くらいの偉そうな男が、見下すように話しかけてきた。

 一緒に来ていたセバスチャンが「カール領主様です」と教えてくれる。

「まさか本当に来るとはなあ。今年も国から借金をしたと聞くが、私ならば恥ずかしくてとても参加出来ぬわ。その心の強さは感心しよう」

 周囲からも俺を嘲笑するような声が聞こえる。

 ……どうやら俺の領地は周囲からも見下されているようだ。

 こちらを嘲笑している奴らとカール領主とやらの顔を脳裏に刻む。

「まあよい。貴様の領地では二度とありつけぬご馳走よな、ありがたく食え。どうせもうすぐ取り潰しだろうからな」

 そんな嘲笑と蔑みを受けながら食った食事はうまく、それが悔しさを倍増させた。

 うちの領地があまりに貧乏すぎるのが憎い。

 自分の屋敷へ帰っても、悔しさと満腹のあまり普段よりもだいぶ寝過ごしてしまったほどだ。

 つまり俺のフォルン領はこの国でも最低の領地で、かつ廃嫡の危機なのである。

 だが俺には1つだけ希望がある。自分が転生者と知った時に特別な力を与えられていると理解したのだ。

 パーティーから帰った翌日。

「セバスチャン、ちょっと一人にしてくれないか?」
「……承知しました。何かあればすぐにお呼びください」

 セバスチャンは頷くと執務室から出て行った。少し待って戻ってこないことを確認すると。

 特別な力を発動する呪文を唱えることにした。

「『異世界ショップ、開店せよ』」

 その言葉と共に周囲の景色が一変し、執務室から地球の飲食チェーン店になった。

 レジカウンターに一人の女性店員が立って、こちらに笑みを浮かべている。

「いらっしゃい。ようやく異世界ショップにご来店だね。随分と来るのが遅かったじゃないか」
 
 【異世界ショップ】、これが転生時に俺が受け取っていたスキル。

 地球に存在するものを全て購入することが可能という、本当ならば極めて破格の力だ。

 てっきり空中にディスプレイが表示されて、欲しい物を選択して購入と思っていたのだが……どうやら異世界ショップとやらに訪れる能力のようだ。

「記憶を失ってたんだ。ここでなら地球の物が何でも買えるのか?」
「もちろん。輪ゴムにポケットティッシュ、魚にミサイルまで何でもござれだ」

 女性店員が指を鳴らすとカウンターの上に輪ゴムとポケットティッシュ、真空パックに入った魚の切り身が出現した。

 そして部屋の中央にいつの間にか巨大なミサイルも設置されている……。

「最後だけずいぶん物騒だな!」
「何でも買えるってことだよ。さあ、記念すべき最初の注文は何かな?」

 女性店員は俺に微笑みかけてくる。

 どうやら本当に何でも購入できるようだ。ダメ元で試したのだが本当だったのか。

 だが――。

「金がない」
「は?」

 笑顔のまま首をかしげる女性店員。

 仕方ないだろう。ド田舎の破綻寸前の領地だ、現金などないのだ。

「こちとら文無しだ、試供品とかないのか?」
「ないよ。あ、命を削って支払うのも可能だけど」
「誰がするか」
「えー。買う気ないなら開店させないでよー。私も暇じゃないのにー」

 女性店員は両手をあげた。お手上げと言うことだろう。

 何でも買える店に入れても! 金がなければ何の意味もないのである!

 流石に命削ってまで物を買う選択肢はない。

「ねえねえ、もう閉店していい? お金持ってないなら帰れ」
「金がないと知った瞬間に酷い態度だなおい!」

 女性店員はカウンターに肘をつけてだらけだした。もはや俺のことを客とは思っていない。

「能力の確認をしたかったんだよ。それとマジで試供品とかないのか? 開店サービスでさ! 頼む! 元手がなくて今日どころか明日の飯もないんだ!」
「必死ですなぁ……しかたない。このスーパーの総菜売り場の輪ゴムと、駅前で配られてるポケットティッシュをさずけよう」
「試供品ですらない……」

 女性店員から輪ゴム一つとポケットティッシュを受け取る。

 ……無料でもらってるとはいえ、どうせならもう少し数をくれないかなぁ。

 女性店員はわざとらしく大きくため息をつくと。

「やれやれ。最初の開店がこれだと先が思いやられるよ。あ、私はミーレだよ。これからはミーレ様と呼んで」
「どこに様づけを強要する店員がいる!」
「店員様は神様だよ!」
「神様はお客様だろうが!」
「自分のことを神様って言っちゃうお客様って……モンスター顧客じゃん」

 ミーレは肘をカウンターにつけたまま、店員とは思えない態度で接してくる。

 どうやら異世界ショップは店員の教育ができていないようだな……!

「ちなみに買い取りも可能なのでー。お金ないなら何か売れそうな物を持ってきたらー?」
「ほう。それを早く言え。例えばどんな物なら買い取って」
「本日は閉店でーす、またのご来店をお待ちしておりますー」

 ミーレが俺に対してバイバイと手を振ると、周囲の景色が執務室へと戻る。

 ……話の途中で強制的に退店させられた!? 俺の力って言うけどなんか思ってたのと違う!

 まるで夢みたいだが、右手を確認すると輪ゴムとポケットティッシュを握っていた。

 どうやらちゃんと地球の物を手に入れられるようだ。

 それに商品の買い取りもしてくれるそうなので、お金を作ることもできる。

 この【異世界ショップ】を利用して、フォルン領を発展させなければ……俺の食生活と首を守るために!
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