【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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カール領との対決編

第2話 初購入

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 借金地獄のフォルン領。

 その財源を少しでも豊かにするために、俺は少しでも売れそうな物を探していた。

「ダメだ! この領地、まじでゴミしかないな!?」
「ご安心ください。草木は大量にあります」
「よく燃えるゴミだろうが!」

 執務室で去年の大赤字の経理表を見ている俺に、セバスチャンが水の入ったコップを渡してくる。

 悲しいかな、うちにお茶などという嗜好品はない。しかもこの水が本日の晩飯である。

「そのうち餓死するぞ、俺……よく親父たち生きてこれたな……餓死ではなかったんだし」
「先代様はお強い方でした……三日に一食でも生きていけると仰っていましたから」
「うちの親父は修行僧か……」

 俺が王都で暮らしている間、親父は即身仏のような生活をしていたようだ。

 最後は魔物に襲われて死んだと聞いているが、本当なのか若干怪しい。実は言いづらいだけで餓死なのではないかと疑っている。

 俺が戻って来たころには葬儀は終わっていて、死体も燃やされて埋葬されたので真相は土の中だが。
 
 セバスチャンが目に浮かべた涙をハンカチで拭った。

「先代様たちは魔物相手に勇敢に立ち向かいました……せめてうちの領に魔法使いがいれば……」
「仮にいても即座にこの領から出ていくだろうな」

 この世界は魔法が存在するのだ。魔法使いにも多様なランクがあるが、一番低いランクの者でも召し抱えようとすれば超高級な値段になる。

 最低ランクの魔法使い一人で通常の兵士が三十人は雇えるほどだ。そんな金はうちの領にあるわけもない。

 魔法使いは希少で中流以上の貴族でなければ召し抱えられないのだ。

 こんな貧乏貴族に好んで仕える魔法使いなどいるわけがない。

「俺に魔法の才能があればな……」
「そうですな。もしアトラス様が魔法使いなら、フォルン領ももっと発展を……」
「いやフォルン領を見捨てて高給取りになれるなと」
「なんと!?」

 だって詰み確定の領地だぜ? 俺には弟が二人いるがそいつらは両親が亡くなると一目散に逃げて行った。

 どちらにしても継承権などないのだが、泥船に巻き込まれる前に逃げたのだ。

 その判断は間違いなく正しい。俺だって長男でなければ絶対に逃げている。

「現実逃避ばかりしても仕方ないし領地を見回りに行くか」
「それがよろしいでしょう」

 飯を食べれないのであまり動きたくはないが、そろそろ村……じゃなくて領地を見回らないとな。

 重い腰をあげて屋敷から出てド田舎の村の中を歩く。

 おおよそ百人くらいの辺鄙な村。これが我がフォルン領の全人口である。

 うちの領地自体は周囲に広がる山もあるのだが、それらは魔獣が跋扈して人が住める場所ではない。

 実質的にこのフォルン村が全領地みたいなものだ。

 しばらく歩くとクワを持った親子が農作業をしているのが見えた。

 向こうも俺に気づいたようで作業をやめて駆け寄ってきた。

「アトラス様じゃねえべか。どうしただ?」
「見回りだ。今年の収穫は豊作だな? それ以外の返事は聞きたくない」
「凶作だ……申し訳ないんだども、税を減らして欲しいだ」
「やだ」

 マジで勘弁してくれ。これ以上税を受け取れなかったら、俺は完全に干上がってしまう。

「頼むだ! オラたちに死ねと言うべか!? セバスチャンも何とか言って欲しいだ!」
「アトラス様。ここ数か月、日照り続きでは致し方ないかと」

 セバスチャンまで農民の味方をしてくる。

 ……これ以上税が減ったら本格的に首が回らなくなるなあ。お前たちも俺に死ねと言ってるようなもんなんだぞ。

「…………考えておく」

 何とかその言葉を絞り出して村の各地の見回りを続けるが……。

「飢え死するので税を減らしてください」
「払える税金はありません。どうかお慈悲を」
「アトラス様、先代に貸した金を返してください」

 こんなふざけたことばかりだ! どうしろと言うんだ! 

 流石に村の中で領主がキレるわけにもいかず、叫びたい気持ちを抑えて何とか執務室に戻ると。

「セバスチャン! 何か税収を上げる方法を出せ! もしくはうちの親が俺に残してくれた宝石などをよこせ!」
「先代様がアトラス様に残されたのはこの屋敷のみです。税収を上げる方法については、周囲の森を開拓するしかありませぬ。臨時収入は……その、周囲の森の魔物を狩るとか……」

 セバスチャンが俺から目を逸らしながら答える。

 残念ながら彼の意見は非現実的である。周囲の森の開拓も森の魔物を狩るのも極めて困難だからだ。

 魔物で一番弱いと言われるゴブリンでも、素人が剣を持つ程度では勝つのは難しい。

 狩ることができれば金にはなるのだろうが……せめて少しでも金があれば、【異世界ショップ】で領地の発展もできると踏んでいる。

「どうすっかなぁ。せめて銀貨一枚でもあれば……」
「銀貨一枚で何か打開策があるのですか?」
「ああ」

 俺の言葉にセバスチャンは少し逡巡した後。懐から一枚の銀貨を取り出して俺に渡してくる。

 なっ!? セバスチャン……お前、金持ってたのか!?

「この銀貨は私の孫の嫁入り用の金です。ですがアトラス様のためならば……」
「セバスチャン、お前ほどの忠臣がいることを誇りに思う」

 セバスチャンから銀貨を奪い取り、さっそく彼を執務室から追い出して【異世界ショップ】を呼び出す。

 周囲の部屋が【異世界ショップ】へと姿を変え、レジカウンターに前と同じようにミーレがいた。

「いらっしゃいませー。今回はお金持ってるよね? 持ってないなら帰れ」
「持ってるよ。この銀貨が目に入らぬか!」
「おおー。何を買う? 銀貨ならおおよそ二千円くらいの物まで買えるよ」

 銀貨一枚の相場は二千円なのか。この二千円で領地をよくする……のは無理だな。

 まずは小金稼ぎに使えそうな物を購入し、それを使って元手を増やしてから領地の改善を考えよう。

 案はいくつもあるのだ。地球の肥料や農薬を使えば作物の収穫量や売値は大きく上がるだろう。

 ジャガイモなどの種を買えばフォルン領の名産品を作ることができる。

 もしくはポテトチップスなどを買って転売すれば利益を上げられる。

 他にも考えれば色々と金儲けの案は思いつくだろうが、せっかくなのでミーレにも少し相談してみるか。

「この銀貨一枚を増やしたいんだが、いい金の稼ぎ方はないか?」
「金を稼ぐならやっぱり魔物退治じゃないかな? 地球の物を売るのは気を付けないと、奪われかねないよ」

 なるほど。確かにミーレの言うとおりである。

 こんなド田舎で最底辺の領地だ。下手に地球産の商品を売ると、目をつけられて利権狙いに潰されかねない。

 貴族は利権を得るためなら平気で人を陥れる。今の何の力もない俺では、目をつけられたら権力に抵抗できない。

 風が吹いた程度のノリで殺されて終わりだ。

「魔物退治ね……でも俺は戦いの素人だぞ」
「大丈夫だよ。そんなあなたにこれ! 拳銃!」

 ミーレは拳銃を構えて俺に向けてくる。

「は? 本物?」
「もちろん。何ならこのまま君に撃って見せようか?」
「客を殺そうとするんじゃない! 本物の拳銃なんていくらかかるんだよ……」
「拳銃なら銀貨一枚で売るよ。というか兵器関連はかなり安く買えるよ」

 ミーレはケラケラと笑いながら、恐ろしいことを口にする。

 何こいつ、実は武器商人だったのか!? 思わず距離をとるとミーレは少し不機嫌そうな顔をした。

「ムッ、失礼だなぁ。拳銃が今の君には一番いいと思うんだけどな。買うなら今後の弾は全て無料にするよ」

 ミーレがさらに破格の条件を言ってくる。いや拳銃の弾が無料っておかしいだろ。

 あまりにもうますぎる話だ。何か裏があると考えるべきだ。

「何が望みだ? 俺の身体か!?」
「いらないよそんなの……弾の撃てない武器に価値はないから、セットでついてくるだけだよ」

 ミーレは俺にウインクしてくる。初購入のサービスね……何が目的かは知らないが、俺に損がないなら今回は素直に受け取るか。

 彼女は手に持った拳銃をホルスターにいれて、弾の入った箱と一緒に俺に渡してくる。

 ホルスターもくれるのか。随分といいサービスだな。

「弾は欲しくなったら取りにおいで。じゃあこれにて閉店しまーす」

 ミーレが呟いた瞬間、周りが執務室へと戻る。

 ……少し疑問はあるが拳銃を手に入れた。これなら少し練習すれば魔物でも倒せるだろう。

 俺は拳銃のホルスターを腰につけて、三日くらい練習することにした。
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