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カール領との対決編
第5話 パーティー
しおりを挟む王城にアンパンを納品した日の晩、俺達は王城の立食式パーティーに参加していた。
部屋は豪華絢爛な装飾に料理で満たされ、参加者たちも互いに競い合うように着飾っている。
その中で俺達は高級だがお古の服だ。アンパンが金貨八百枚で売れたが、当日の晩では自分の身体に合う高級服は用意できなかった。
高級服はオーダーメイドのため、作り置きを買うことはできないのだ。
残念だが諦めて目立たないように端にいるか。高級料理を逃す手はないので、しっかりと食べ物を口に含みつつ。
「セバスチャン! そこの肉をとってくれ! ああくそ、タッパーで持って帰りたい!」
「タッパーが何かは存じませんが、持って帰ってはダメですよ!」
「わかってる! それに金貨がかなり手に入ったから、これからは少しはまともな食事が……」
周囲を観察して美味しそうな料理を探すと、大量にアンパンの積まれたテーブルが目に入った。
あれは俺達が今日納品したアンパンだ。ちなみにアンパンを高く買い取ってもらった代わりに、特別な約束をさせられてしまった。
今回買い取ったアンパンについては、俺の領で用意したと言わないこと。
つまりこのアンパンは王が準備した物としたいらしい。このパーティー用だった菓子が準備できず、俺のアンパンをその代用だと。
ようは菓子を用意できなかったことに関する口止め料だ。俺としては金がもらえれば何でもいい。
「アトラス様! アンパンを取って参ります!」
「アンパンはいつでも食べられるからいい! それよりも肉だ!」
この機を逃すまいと食事を貪り食っていると、イヤミったらしい顔をした少年がオトモを二人連れてこちらに近づいてきた。
「やあやあ。貧乏貴族のアトラス君じゃないか。自領では餌しか食べられないから、豚のように食いだめしているのかい」
「流石は貧乏貴族だ!」
「俺達の買ってる豚のほうが、いい飯食ってるんじゃね!?」
こいつらは王都の学校にいた時に、ことあるごとに俺を侮辱してきた奴らだ。
名前は確か……アデルと愚かな仲間たちだったか。国の有力者である辺境伯を親にもつ、性格最悪のドラ息子だ。
この国の将来が実に心配だ。
「何か用か? 俺は忙しいんだ」
「ははは。これは失礼。是非食いだめしておいてくれたまえ。このパーティーに出ている食事は、一品たりとも君の領では味わえないのだから」
「何ならこっそり、泥棒みたいに持って帰ってもいいぜ!」
「お前らの貧乏さなら、みんな見逃してくれるさ!」
アデルたちが俺たちをあざ笑ってくる。俺としては慣れたものなので放置だ。
それに口答えしたら問題になる恐れもある。残念ながらアデルは俺よりも貴族として遥かに格上だ。
嘲笑に慣れていないセバスチャンは怒りを我慢するかのように、拳を強く握りしめている。
俺自身の嘲笑は慣れているのでどうでもいいが……セバスチャンを連れてこなければよかったか。
「ほら見てみなよ、この菓子を。アンパンと言うんだけどね。俺たちともなれば、この菓子を毎日食べているのさ」
「おう。毎日食べ飽きてるぜ」
「お前らじゃパーティーで乞食するしか食えないけどな!」
アデルはアンパンを持って俺に見せびらかしてくる。
……そのアンパンは俺が準備したものだが。
「そうか、すごいな」
「これが君とこのアデル様の格の違いさ」
本当にすごいな……わざわざ嘘つくあたりが。
王都に今日初めて納品したのだから、毎日食っているわけがないのだ。
セバスチャンもバカ相手に怒りが収まったようで、拳を握りしめるのをやめている。
「ちなみにこんなに美味なアンパンは、どこで手にいれたんだ?」
「君たち貧乏人に教えても仕方あるまい? どうせ高くて手も出ないのだから!」
アデルは高笑いする。俺の質問をけむに巻いただけじゃねーか。
答えられるわけがないのだからどうでもいいが。
「おっと。そろそろ時間がないので失礼させてもらうよ。このアデル様は、多くの重鎮に挨拶の必要があるからな。君とは違って」
アデルは俺をあざけるような笑みを浮かべながら、オトモと共に去っていった。
完全に逃げただけだな。これから面倒になったら毎回アンパンの購入場所を聞いてやろう。
「……何とも気の合わない御仁ですな」
セバスチャンが苦虫をかみつぶしたような顔をする。
気の合わない御仁とは、貴族間での最大限の悪口だ。王や有力貴族を直接侮辱すると、問題が発生するためこのような表現を使う。
温厚なセバスチャンにここまで言わせるとは、やはりあのアデルは他人を不快にさせる天才だな。
「馬の糞でも踏んだと思って忘れろ。そんなことよりもパーティーの飯だ! 次はその肉を……!」
「あっ」
アデルで浪費した時間を取り戻そうと焦ったのがまずかった。近くにいた貴婦人に軽くぶつかってしまった。
幸いにも軽く当たっただけで、貴婦人に怪我はないようだ。
「申し訳ない、失礼いたしました」
「お気になさらず」
ぶつかった貴婦人は少女だった。美しい銀髪を肩にかからないくらいに切りそろえている。
物静か、クールといった表現がよく似合う美少女。……なのだが、どこかで見たような……こんな美人ならば覚えてないとは思えないが……。
「アンパン、ありがとうございました」
銀髪の少女は無表情のまま、そう呟いて俺から離れていく。
アンパンの礼だと? なら彼女は俺がアンパンを納品したことを知っているのか。
だが俺がアンパンを納品した時に、彼女を見た記憶はない。
「セバスチャン、あの娘を知っているか?」
「もちろんございますとも」
なるほど。銀髪の少女が俺を知っていたのは、セバスチャン経由か。大方、アンパンを売った人物の上司とかだろう。
今度セバスチャンに紹介してもらえたりは……難しいだろうな。
見ただけでわかる。彼女は文字通り高嶺の花だ。少なくともセバスチャンがコネを持ってるレベルとは思えない。
「今の銀髪の少女、実に可愛いな」
俺の言葉にセバスチャンは目を丸くする。なんかデジャヴ感が……。
「……!? ま、まさか嫁候補とおっしゃるのですか!?」
「…………狙えたらな」
ほぼ間違いなく無理だろうがな。王都のパーティーに参加できる時点で、俺と結婚してくれる者など皆無だ。
このパーティーに参加している貴族は、現当主とその跡継ぎだ。
俺の嫁になってくれる者は、せいぜい貧乏貴族の次女以下が関の山。
フォルン領に好んで嫁ぐ者なんているわけない。身ぐるみ剥がされて斬首覚悟で、一日一食で貧しい暮らしをしたい物好きがいればわからんが。
……現状だと貧乏貴族の次女以下も無理そうだな。何なら平民でも嫌がりそう。
俺、一生独身かもなぁ……。
そしてパーティーは終了し、俺達は宿屋の部屋へと戻った。
当然だが経費削減のため、セバスチャンと同室である。二部屋とるという選択肢は最初からない。
セバスチャンが律儀に立ったまま、俺に話しかけてくる。
「アトラス様は前領主様とは考えが違いますな。領地の安定ではなく、発展を思っているのですね」
「親父が悪いとは言わないが、すでに借金で首がまわらないからな……」
今のフォルン領が安定したところで価値などない。発展させなければどうにもならないのだ。
親父と同じことをしていても、フォルン領はすぐにおとり潰しである。
別に親父が無能だったわけでも、好んで領地の発展を行わなかったわけではない。
人材も資源もない土地だ。俺だって【異世界ショップ】がなければ詰んでいた。
「この金貨八百枚があれば! 発展計画も大きく進む! これからは俺達のターンだ! セバスチャン! アンパンの売り上げを全て渡すのだ!」
そう! 今の俺には元手がある! この金があれば大抵のことはできる!
とりあえず毎日まともなごはんが食べれる!
思わず叫んでしまった俺を見て、セバスチャンは申し訳なさそうに首を横に振った。
そして懐から貨幣入れの袋を取り出して、俺に渡してくる。
アンパンの売り上げである金貨だろうか。だがそれにしては袋がかなり軽いし、あまり貨幣が入ってないような……。
「セバスチャン、金貨を全て渡して欲しい。その金貨を元手に発展させる」
「それが全てでございます。真に申し上げにくいのですが……金貨は残り五十枚でございます」
「…………ホワイ?」
セバスチャンは俺から目をそらしながら。
「フォルン領の借金の利子で、七百五十枚ほど金貨を払う必要がありまして……」
「ああ。借金を全額返したのか。ならばしかたないな」
フォルン領は借金が多いからな。
だがこれで借金まみれから解放されたと思えば悪くはない。
「いえ、あの……今までの借金の利子を返済したのでございます。元の借金は全く減っておりませぬ」
「…………セバスチャン。嘘だと言ってくれ」
「真実でございます」
思わず膝が崩れ落ち、床に両手をつく。しゃ、借金の利子……借金そのものじゃなくて?
利子で金貨七百五十枚?
「セバスチャン! 借金の総額を答えろ!」
「そ、それが……わかりかねます」
「わからない!? そんなに恐ろしい額なのか!?」
「……私も今日知ったのですが、実はどれだけ借りたかの記録がないのです。相手の言いなりで借金を返しているのでございます」
「意味が不明だ! そんなもの! 返す必要などあるものか!」
相手の言いなりで金額を増やされるなどありえないではないか。
セバスチャンもそう思っているようで、即座に首を縦に振った。
「すぐに相手方とも交渉し、借金の総額を把握します」
信じられない爆弾があったものだ。さっさと解除せねば、稼いだそばから奪われるではないか。
……おそらくだがこの借金には、何か厄介な事情がありそうだ。
いくら親父でもこんな意味不明な契約を放置などしない。
つまり何かしら理由があって、この契約を残さざるを得なかったのだろう。
「……本当にこの領地。救いようがない……」
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