【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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カール領との対決編

第6話 借金交渉

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 宿屋の部屋で休みながら、今後のフォルン領の発展計画を練っていると。

 セバスチャンが扉を勢いよく開けて、部屋に駆け込んできた。

「アトラス様! 金額の不明な借金の件ですが、相手と交渉の場をもうけられました! 今からならば可能とのことです!」
「わかった。すぐに向かうか」

 昨日判明した驚愕の事実――総額不明の言い値借金。それを何とかするために交渉をセバスチャンに頼んでいたが、しっかりと場をもうけてくれたようだ。

 相手というのは王都でそれなりの商人だそうだ。俺達はすぐに馬車に乗って、その商人の屋敷へ向かった。

 フォルン領にある俺の屋敷よりも大きいことに歯噛みしながら、屋敷の中へと入って応接間に案内される。

 そこには太ったハゲおっさんが偉そうに椅子に座っていた。

「ああ、やっと来たか。わかっているのか? お前たちがどうしてもと言うから時間を作ったのだ。私の貴重な時間が浪費されている。これは当然だが借金の利子に追加させてもらう」

 ハゲがこちらを見下しながら口を開く。

 ……なんだこいつは。まるで王族のような尊大な態度だ。しかもこの部屋に椅子はひとつだけ。つまり客であるはずの俺の座る椅子がない。

 こちらは貴族、奴は商人。こちらのほうが偉いはずだろうが。

「何を言っている? そもそも借金の総額すら不明で借用書もないと聞く。仮にあっても金貨七百五十枚で返せている」
「はあ……無能の息子は更に無能のようだな」

 クソハゲは大げさにため息をつき、椅子に深々ともたれた後。 

「やれやれ。私はお前の隣領のカール領主と懇意にしている。私の一声で経済制裁を行えば、貴様らの領地は干上がる。カール領主にお願いしてお前たちを攻めて、フォルン領など滅ぼすこともできる」

 ……なるほど。親父がこのクソデブハゲの契約を律儀に守っていた理由がわかった。

 脅しだ、経済制裁をされたらうちは簡単に干上がる。それに隣領のカールとうちが戦争をしたら、まず間違いなく勝ち目はなかっただろう。

 カール領も別に強くはないが、十人程度の兵士がいると聞く。

 俺の領地には兵士はいないし、そもそも戦争などする余裕は全くなかった。

 そしてフォルン領にまともな現金や資産がなく、取られる金も大してなかった。罵詈雑言にだけ耐えて、諦めて放置していたのだ。

 だが今後はそれでは困る。俺達がいくら稼いでもこいつらに持ってかれてはな。

 てかこのクソデブハゲ。どうやらフォルン領を完全に食い物にするようだな。

 もはやこいつと交渉する意味はない。元々借金はあったのかもしれないが、金貨七百五十枚も返済したのだ。商人でも簡単に貸せる金額ではないし、利子こみでも完済しているだろう。

「わかった。フォルン領主アトラスの名で言い渡す。貴様との間に借金は存在しない。これ以上の要求は詐欺とみなす」
「ほお? わかっているのか? 俺が働きかければ、貴様の領など簡単に……」
「はっ。たかが一介の商人に何ができるか」

 もし国でも有数の商会とかならまずい。だがこのクソデブハゲの商会は少し大きい程度と、セバスチャンに聞いている。

 【異世界ショップ】を持つ俺がいるならば、フォルン領でも対抗できる。

 塩とかの必需品を止められて、手に入らなくなっても用意できるからな、

 ……くそ。どうせ対立するなら金貨七百五十枚払わなければよかった。

「このっ……! 借金を払わずもみ消すなど、貴族でも許されるわけが!」
「契約書がないものを、借金などと取り立てられてたまるか! もはや問答は時間のムダだ、これで失礼する」

 クソデブハゲに背を向けて部屋から出ていく。

 そのまま屋敷からも出て少し離れた後、これまで黙っていたセバスチャンが。

「ど、どうするのでございますか!? カール領に働きかけられて攻められれば、ろくな軍のない我々では……」
「大丈夫だ。兵士十人程度ならば、いざとなれば俺だけでも勝てる。だが軍備の用意は急務だな……」

 金貨五十枚あれば【異世界ショップ】でバズーカ砲とか買える。

 他にもトラックとかも購入できそうだから、何とでもなるはずだ。いざとなれば正面衝突してやる。

 経済制裁に関しても何とかなるだろう。最悪、王都で稼いで物資を仕入すればよい。

 親父の時とは状況が違うのだ。こんな暴挙を許しておく選択肢はない。

「セバスチャン、急ぎの頼みがある。フォルン領の防衛隊長を用意したいのだが……アテはないか?」

 いざとなれば俺だけでも戦えるが軍は必須だ。

 戦う力があるというだけでも、敵の攻めを防ぐ抑止力になるのだから。

 予定よりも大幅に使える金が減ってしまったが、現状で一番必要なのは軍備だろう。

 とりあえず兵士は村の農民から募集するとしても……それをまとめる指揮官は戦える者でなくてはな。

 そいつに教練してもらえば少しはまともな兵士になるだろう。

 俺の言葉にセバスチャンは少し迷った後、首を横に振った。

「申し訳ありません。アテはありません」
「なら王都で募集するしかないか……募集はできるか?」
「それならば可能でございます」
「なら頼む。条件は相場よりも少し色をつけてやれ」

 セバスチャンは頷くとどこかへと走り去っていった。

 この件はセバスチャンに任せて、俺は馬車を使って宿屋に戻った。

 そして一日が過ぎた。

 カール領が攻めてきた時のために、どうやって敵兵士を蹂躙するかを考えていると。

「アトラス様! 防衛隊長の希望者が大量に集まりましたぞ! ささ、お早く!」

 セバスチャンが息を切らせて、部屋に駆け込んできた。

 そのまま俺を引っ張って馬車に乗せ、とある建物へと連れてきた。

 看板を見ると冒険者ギルドと書いてある……冒険者? 俺は防衛隊長を求めたのだが。

「セバスチャン、俺が欲しいのは防衛隊長だぞ? 冒険者を雇ってどうする?」
「冒険者には元兵士くずれもおりますゆえ。力自慢の者ならば少なくとも武芸を教えることはできましょう、それに優秀な兵士は囲い込まれてますので」

 ……ようは苦肉の策か。

 集団を率いたことのある人材など、簡単に手に入るわけもないしな。流石に高望みしすぎた。

 ならばどうするかは決まっている。集団を率いることのできるように人材を育てるしかない。

 冒険者ギルドに入り、そのままセバスチャンに案内されて二階の部屋に案内される。

「今から募集に応じた者たちが一人ずつ入ってきます。その中からお選びください」
「……いきなり面接官の真似事とは……しかたないか」

 こうして面接が始まり、何人もの冒険者を見ていく。

 端的に言うと微妙の一言だ。ほぼ全員が冒険者ランクが低く実績もない。

 しかも全員が武器や鎧を着るっていうな。仮にも貴族相手に、武装して来るんじゃないよ。

 礼儀は目をつぶるとしても、肝心の強さもないのではな……玉石混合ではなくて石しかない。磨いても光らなさそうなの。

「……ろくな奴がいない」

 人材のひどさに思わずグチが漏れ、机の上に突っ伏してしまう。

「申し訳ありません。募集条件は悪くはないのですが……」

 セバスチャンが俺に頭を下げるが、これで責めるのは酷だ。少しばかり条件がよくても、おとり潰しの噂がうずまくフォルン領に来る奴はそういない。

「そして次で最後の人物でございます」
「そうか……今回は採用なしになりそうだな」
「失礼するでござる」

 もはや完全に諦めモードで、最後に入って来た人物を見る。

 そこには酒瓶を口にくわえたおっさんがいた。何と言うことだろうか、このおっさんは剣も鎧も着ていない!

 すごいぞ! 最後にしてまともな奴が来た!

「拙者、センダイと申す。流れの者だが剣技には自信がある」
「ほう。武装せずにやってきた理由は?」
「剣も鎧も重い。このような場で着ると疲れるでござる」

 センダイは酒を飲みながら淡々と答える。そうだとも、剣も鎧もこの場には不要なのだ。

 他の奴らは全員、武装解除しろと言っただけで嫌そうな顔をした。

 だがこの男だけは自ら脱いでやってきた有能さ。こいつをここで逃したら後悔する! それに飄々としてて強キャラっぽいし!

「冒険者ランクは?」
「最低ランクでござるな。昨日登録したばかりゆえ」

 つまり戦闘能力は未知数と。ロマンがあるな、少なくとも今までの奴らよりも期待できそうだ。

 どうせ募集しても大した奴は来ないのだから、こういったギャンブル的な雇用もありか。

「合格! フォルン領の防衛隊長に任命する!」
「ちょっ!? アトラス様!? 面接で酒飲んでる御仁ですぞ!?」
「大丈夫だ! 俺の目に狂いはない!」
「ひっく……かたじけない。しかしアトラス殿はすごいでござるな、まさか分身術まで使えるとは」
「この御仁、完全に酔っぱらってるではないですか!? アトラス様! お考え直しを! アトラス様ぁ!」

 こうしてフォルン領の防衛隊長が決まった。

 その時のセバスチャンの顔は、酔っ払いよりも真っ赤になっていた。
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