【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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カール領との対決編

第7話 センダイ

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 センダイを防衛隊長に雇用して領地に戻って来た後。
 
 急いで我が領の民の中で兵士になりたい者を募集した。

 幸いにも五名の若者が希望者に名乗り出てくれた。早速兵士としての訓練をセンダイに頼むことに。

「センダイ、兵士たちはどうだ? 戦えそうか?」

 執務室の椅子に座って、センダイに兵士たちのことを問いかける。

「現時点ではまだ兵として計算できませぬなあ。せめて魔物との戦いの経験でもあれば、と期待していたのでござるが」

 センダイは現状を報告すると酒瓶に口をつける。
 
 うちの領民で魔物と戦った経験のある者はいないからな。戦闘経験ゼロの者をイチから鍛え上げるのだ。

 それなりの時間はかかると考えたほうが良い。

「ひっく……彼らは槍を使えるようにするでござる。兵を増員したら弓部隊も用意する考えで候」
「最初に弓を使える者がいたほうがよくないか?」
「弓は矢の用意に金が、それに上達に時間がかかる。槍のほうがそれなりになるのが早いでござる」

 確かにセンダイの言う通りだ。

 早く戦える兵士が欲しい現状では、習熟に時間のかかる弓は微妙だ。

「ゆえに槍を教えておくでござる。六人分の槍を用意して欲しいでござる、ひっく」

 センダイはフラフラと顔を赤くしながら執務室から出て行った。

 うん。やはりセンダイは有能な感じがする。常に酒を飲んでるのはどうかと思う。だが雇った時の条件に結果を出してるうちは好きにやらせてくれ、と言われている。

 俺としては仮に四六時中サボっても、求めている結果を出せば問題はない。

 まずは様子見でセンダイに兵士たちを任せておこう。

 そう考えながら机にのっている書類を処理していくと。

「大変! 大変! 大変! 大変! 変態! アトラス様! 変態でございます!」
「誰が変態だ! 落ち着け!」

 セバスチャンが勢いよく執務室に入って来た。

 俺と目が合うやいなや、セバスチャンはこちらに一気に近づいてきた。

「今まで定期的にフォルン領にやって来ていた商会が、今後は来訪を拒否すると! 彼らが来なければ、フォルン領は塩や農具など生活必需品が手に入りません!」

 ……さっそくあのクソデブハゲ商会が、嫌がらせをしてきたな。

 だが問題はない。奴らと関係なく今までやって来ていた商会には、今後は来ないでよいと伝えるつもりだった。

 理由は簡単。かなり割高な価格で売られていたからだ。

 これについては嫌がらせではない。辺境地である我が領に来る手間賃など考えれば、仕方のない価格になってしまう。

 相手の商人も半分善意でやってくれていたと思っている。今は【異世界ショップ】があるので不要というわけだ。

「予定通りだ。セバスチャン、各村人の欲しい物リストと金はあるな?」
「こちらになりますが……どうされるおつもりですか? アトラス様が王都まで買いに行くのですか?」
「そんなことはしない。そうだな……購入リストを提出した者から二十人ほど集めてくれ、すぐにだ。この屋敷に集めればいい」
「は、はい。承知しました……」

 セバスチャンは首をかしげながらも、執務室から出て行った。

 俺はそれを確認した後、屋敷の庭へと出る。

 そして【異世界ショップ】を展開して、各村人の欲しい物リストを購入していく。

「うわぁ。一人が出した塩のお金で、十人分くらいの塩が購入できてるね。ぼろもうけじゃないか。悪い商売だねぇ」
「うるさいぞ、ミーレ。手間賃みたいなもんだよ。袋にわけたりしてるだろうが」

 カウンターに立ったミーレが俺をからかってくる。

 実際に小銭稼ぎ程度にはなるが……特に問題はないだろう。予定してた量の物資は渡すのだから。

「でもいいの? 塩とか明らかにこの世界の物より質がいいよ? 見ただけでバレると思うけど」
「背に腹は代えられない。仕入れ先を変えたとでもごまかすさ。それと肥料が欲しいんだが」
「はいはい」

 ミーレが片手を振るうと肥料の山が発生した。残念ながら袋詰めにされていない。

 ……いやまあ、袋に入っていたら俺が全部開ける必要があるか。

「よし。これで全部だ」
「はーい。またのご来店をお待ちしてまーす」

 周囲の景色が屋敷の庭に戻る。そこには先ほどまでに購入した大量の物資、そして山のように積まれた肥料がある。

 物資を希望した者は集め終わっていたようで、屋敷の前に人が集まっていた。

 彼らを集めたセバスチャンが、庭に積まれた大量の物資を見て目を丸くしている。

「あ、アトラス様……これはどうやって用意を……!?」
「魔法だ。それよりもさっさと物資を配分するぞ。欲しい物リストを持て」

 セバスチャンに指示を出して、村人たちに各自が希望した物資を配分させていく。

 ……そういえば物資むき出しで置いておくのはまずいか。護衛というか見張りが欲しいな、せっかくだしセンダイに頼んで……。

「拙者ならばここに」
「うおっ!?」

 いきなり後ろから話しかけられて驚いてしまった。

 声の主はセンダイで、各物資を見回していた。帯剣もしていて見張り仕事をしてくれていたようだ。

 しっかりと酒瓶に口をつけているのだけ気になるが。

「アトラス殿。こういったことは事前に申してもらわなければ。警備にも準備がいるでござる」
「すまないな……」

 警備の必要性を完全に失念していた。これだけの物資があるのだ、誰かがネコババする可能性を考慮すべきだ。

「して仮に盗人が現れた場合、斬り捨て御免でござるか?」
「あー……なるべく捕らえてくれ」

 領民ならば簡単に殺すのはよろしくない。魔が差したという言葉もあるのだから。

 万が一、外の盗賊などがいたなら捕らえて情報を取る必要がある。

 どちらにしてもなるべく生け捕りが理想だ。盗られてしまってはダメなので、可能ならばという注釈はあるが。

「心得た。それと拙者も酒を購入して頂きたいでござる。普段は飲めないような珍しい酒が欲しいでござるなぁ」

 センダイが懐から金を取り出して、ウインクしながら俺に手渡す。

 ……用意した塩などが質が高いのを見て、何となく俺が特別な物を用意できると察してやがるな。

「ちゃんと働いたらな」
「ひっく、無論でござる。労働の後の一杯は格別でござるからな」
「常に飲んでるだろお前」

 センダイはそう言い残して俺から離れていく。

 なお相も変わらず酒はずっと飲んでいるし、フラフラとしながら歩いている。

 はたから見ればただの酔っ払いのオッサンだ。あれでもフォルン領の防衛隊長である。

「……まあいいけど。さてセバスチャンはどうなってるかな」

 セバスチャンに視線をうつすと、慣れた手際で物資を領民たちに配分している。

 それを受け取った領民たちは。

「な、なんだべこの塩は!? 真っ白べ!?」
「このクワ、随分としっかり造られているべ!」
「なんだべさこのコップは!? 木じゃなくて変な物で作られてるべ!? しかも色まで塗られてるべ!?」

 各々が驚きの声をあげている。

 ……この世界に適した物資を揃えるのは難しかったので、二十一世紀の地球の商品を用意したのだ。

 驚かれているのは当然だべ。いや当然だ。

 質が悪くて不満なことはあっても、よくて文句が出ることはないだろう。

 後は理由だけ告げておけばよい。

「聞け! 我が愛する領民たちよ! 私のたゆまぬ努力により、今回は特別に優れた物資を用意してもらえた! これは私から皆への贈り物だ! 私の感謝を受け取って欲しい!」

 周りにいる領民たちに聞こえるように叫ぶ。露骨に自分のおかげで用意できましたアピールだ、これで評判を上げて一揆などを防ぐ目的である。

 後は今回は特別、と言っておくことのも重要だ。今回は俺が用意したが、この質を毎回求められるのは困る。

 領民たちは各々が歓声をあげたので結果は上々だ。

 物資は無事に配れそうなので大丈夫だ。次は領地改革のために、収穫物向上の肥料配布やサツマイモやジャガイモ。

 名物となる農作物を作ることを考えるか。
 
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