【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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カール領との対決編

第18話 王都の謁見

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「よくぞ参った。アトラス・フォルン・ハウルク男爵よ」

 急に始まった王との謁見。とりあえず片膝をついて王に頭を下げた。

 センダイも同じように習ったが、セバスチャンは……。

「アトラス様……このセバスチャン、ここまででございます……フォルン領の繁栄を願っております……!」

 ぎっくり腰で今もイモムシ状態で床に這いつくばっていた。王の眼前で凄まじく不敬である。

「よい。余も腰の痛みのつらさはわかる。そのままでよい」
「あ、ありがたき幸せ」

 王はしみじみと呟き、何故か許されるイモムシセバスチャン。

 状況についていけない俺の脳裏には、一つの言葉が突き刺さっていた。

 …………俺、男爵だったわ。自分の爵位に興味がなかったというか、フォルン領に引きこもっていたら爵位とか関係ないし……。

 超久々に爵位名呼ばれて自分のことのように思えなかったというか。

「そなたの陳情はすでに聞き及んでおる。カール領の暴走を見事食い止めたが、その後にカール領の莫大な借金をどうするかじゃな」
「は、ははっ。借金があまりに多すぎます、これでは接収もままならず」

 あ、危ない。考え事をしている間に王の話が進んでいく……。集中しないと。

「ラック法官候。今回の裁定を述べよ」

 王の言葉と共に豪華な服飾の爺さんが、書状を読み上げる。

「カール領はフォルン領に接収されるものとする。また元カール領主が個人的に作った借金は、引き継がずに元カール領主の返済とする」

 ……当初の予定通りか。カール領主の莫大な借金がないなら、接収の負担はかなり減る。

 それでも元カール領は足手まといなのは変わらないが。

「これで国の裁定は終了します」

 書状を読み終えて下がる法官候。それを引き継ぐように新たな貴族が前に出る。

 今度は少し三十過ぎくらいの男だ。細身なので文官の類だろう。

「ワーカー農官候。要請を述べよ」
「ははっ。次にフォルン領に要請があります。貴方の領の芋と呼ばれる作物、それを国に栽培方法なども含めて献上して頂きたい」

 ワーカー農官候の言葉に、俺は思わず叫びそうになるのをこらえた。

 流石にそれを承諾などできない。芋はようやく栽培が軌道にのってきたのだ。

 次あたりから他の領地へ売りつけることも考えている。今のレスタンブルク国は作物が酷い不作の状態が続いている。

 食料危機で作物の値段が爆上がりしているのだ。芋は希少性も含めて大金で売れる。

 それを献上しろなどあり得ない。しかも芋は飢饉などにも強いので、この国の不作事情への対策にもなる。

 つまり周囲が全て不作の中、我が領だけが豊作である優位性まで失いかねない。

「……理由を聞いてもよろしいですか?」
「芋という作物は通常の作物よりもよく育つ。不作に強いと報告を受けています。我がレスタンブルク国は現在、大規模な恐慌に襲われています。芋を対飢饉作物として配ります」

 ワーカー農官候は予定通りと言わんばかりに理由を述べる。
 
 ……俺の懸念事項どおりの使われ方である。
 
 いくら国の要請とはいえ、これに唯々諾々と従うわけにはいかない。

「貴方の言い分もわかります。フォルン領が今後得るであろう莫大な利益を、捨てろと言っているのですから。ですがことはレスタンブルク国全体の問題です、どうか承諾を」

 ワーカー農官候は申し訳なさそうな顔をしながらも、その言葉は毅然としていた。

 拒否すればどうなるか分かっているだろうな。と言いたげだ。

 どうする……ここで従うのはまずい。だが国に逆らうのも論外。

 これではレスタンブルク国もカール領主らと同じではないか。思わず顔をしかめてしまう。

「無論、ただ損をしろとは言わぬ。レード山林地帯をフォルン領の領地とする」

 
 顔をしかめていると、王が口を挟んできた。

 レード山林地帯。フォルン領と王都の間に広がる巨大な山林地帯。

 未開地であり強力な魔物が多数うろつく土地だ。仮に開拓できれば王都との距離も近づいてかなりのメリットになるが……魔物を退治する魔法使いや労働力と恐ろしい大金が必要だ。

 現状では用意は難しいので、大したメリットにはならない。

 少なくとも芋を献上して発生する損とは、全くもって釣り合わない。

 黙り込んでいると王は俺を諭すように。

「フォルン領主よ。其方の言い分は理解できるが、レスタンブルク国のためにどうか耐えて欲しい。フォルン領も我が国の一部だ」

 王の理屈はわかる。国が全体の利益と一領地の利益。どちらが優先かと言われれば前者に決まっている。

 だがそれは、俺達に損を全てかぶれと言われているに等しい。
 
 あまりにもこちらのメリットがなさすぎるのだ。

 やはりここは拒否して交渉しないと……芋の栽培を頑張ってくれたフォルン領民たちにも申し訳が……。

「後は大した褒美でもないが……ラークをフォルン領の専用御用商人にしよう。転移で王都と自由に行き来ができる」
「承知いたしました。芋をレスタンブルク国に献上します」

 俺は即座に返答していた。その褒美を先に言ってくれ。

 転移使い放題なら王都に簡単に物を売れるではないか。【異世界ショップ】の力を使えば、ぼろもうけできる。

 今まではフォルン領を長期間離れるわけにもいかず、大した物は売れなかった。

 だが転移が使えるなら安定的に何でも出荷できるではないか!

 王は俺の態度が百八十度変わったことに、少し動揺しながらも。

「そ、そうか。其方のような忠臣をもって余は嬉しいぞ」
「ははっ。重視すべきは祖国。この状況下で我が領だけのことを考えられますまい」
「……ラークが欲しかったとかではないぞな?」
「無論でございます。全ては祖国のために」

 王の眼光が一瞬だけ強くなったが気のせいだろう。本当先に言ってくれよー。

 こうして王との謁見は終了した。結果的には少しプラスと言ったところだろうか。

 当初の予定だったカール領の借金は完全解決。

 芋という既得権益を失ったが、王都への転移魔法ラークを手に入れた。
 
 転移魔法が本当に大きい。毎回王都に二週間かけてやってきて、帰るのは本当に大変なのだ。

 【異世界ショップ】で購入したものを、定期的に売れるから商売の幅も大きく広がる。

 ……待てよ。よく考えたら、アンパンを腐らずに王都に持っていけてるのも転移か!

 今まで意図的に黙ってやがったな、ラーク……!

 俺達は無事に玉座の間を抜け出し、待合室へと案内される。

 セバスチャンは未だに立てないので、センダイが肩でかついで運んだ。

 待合室ではカーマとラークが、豪華そうな椅子に座って待っていた。

 カーマはベールなどを被っておらず、可愛らしい顔や赤髪が見えている。

 さっき別れたところなのに、俺が王都に来てしまったから……。

「お兄さん、お疲れ様! どうだった?」
「……芋のことを国に報告したのはお前か?」
「…………ナンノコトカナー」

 露骨に目を逸らすカーマ。こいつは嘘が下手すぎる。

 調停者として国に報告の義務はあるだろうが、芋まで言わなくてもいいだろうが!

 カーマも罪悪感はあったのか誤魔化すように。

「ほ、ほら! 元カール領から作物を奪ったって言葉への否定材料が必要だったんだ! 実際にフォルン領と元カール領の合計収穫量は、足してちょうど二領地分だったし!」
「それは不作だからだろ……」
「そ、それにフォルン領のことも考慮してあげて、って報告しておいたから!」

 しどろもどろになりながら、必死に叫ぶカーマ。

 これ以上責めてもしかたないから許してやるか。元々調停者の役割を果たしただけだしな。

 むしろ調停者の仕事を真面目にやっていたのだ。

「わかった。次に来た時はアイスなしで手を打とう」
「そ、そんな!?」

 この世の終わりのような顔をするカーマ。お前そこまでアイス気に入ってたのか……。

 そんな俺とカーマの話に割り込むようにラークが。
 
「パプテマ商会に引継ぎ拒否」
「……クソデブハゲ商会に、俺達は借金なんて知らないからって言いに行けと?」

 ラークはコクンと頷いた。相変わらず分かりづらすぎる。

 彼女は俺に対して書類を渡してきた。それは借金が引き継がれないことを、国が正式に認める書状だった。

 この素晴らしい書類を大切に受け取ると。

「……くくっ。最後に心躍るイベントがあるなぁ! あのクソデブハゲ商会に殴り込みだ!」
「ははっ! このセバスチャン、お供いたしますぞ!」

 床でイモムシ状態のセバスチャンが叫ぶ。

「いや無理だろ。大人しく寝てろ」
「どうか! あのパプテマ商会に復讐する時を! どうか見せてくださいませ! 先代様からの恨みを晴らす機会をどうか!」
「うおっ!? イモムシ状態で素早く動くな!? ええい足にまとわりつくな!? わかった、わかったから!」

 本格的に足手まといのセバスチャンも連れて行き、クソデブハゲ商会に殴り込むことになった。
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