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カール領との対決編
第19話 借金無効
しおりを挟む俺達は以前に絶縁した、クソデブハゲ商会の屋敷へとやって来た。
ちなみにアポイントは取っていなかったが、残念なことにクソデブハゲは屋敷にいたようだ。
いなければ条件だけ突き付けて帰るつもりだった。残念なことにあのみにくい顔を見なければならない。
以前の応接間へと案内される。
そこでは以前のようにクソデブハゲが偉そうに座っていた。俺達の椅子は何と用意されていない。
「来たか。カール領主の借金を返してもらおう」
「おうおうおう! この書類が目に入らぬか! 控えろ!」
俺は王から賜った書状を見せびらかす。借金は元カール領主にあると、王が正式に認めた証拠。
もはやどんな奴でも逆らえはしない。文句を言えば反逆罪だ。
俺がクソデブハゲの反応を愉しみにしていると、奴はあきれたようにため息をつく。
「やれやれ、王から無効にできると書状があるのは認める。だがカール領主に返済能力はない。ならばお前が気をきかせて返済するのがスジ」
どんなスジだよ。何で俺が気をきかせる必要があるんだよ。
あまりの物言いに驚いていると、奴は更に言葉をつづけた。
「お前は貴族であろう。今までお世話になった商会に対して、当然配慮すべきだ」
クソデブハゲは俺を見下すように視線を向けてくる。
いいだろう。ここでおべっかと共に、反省しましたーって言ってくるならばと思ったが。
一切手加減する必要はなさそうだ。親父からの恨みをここで晴らすことにしよう。
俺は敵に対して、決めていた条件を宣告することに決めた。
「今まで散々世話になったからな! 凄まじく復讐してやるさ! びた一文払うつもりはない! それと負けた賠償金も払ってもらう! さらにお前の魔法使いの保釈金は金貨七百五十枚な。払えないなら魔法使いは王に献上するから」
魔法使いという一大戦力を派兵した以上、クソデブハゲ商会は元カール領と共に戦った。
戦って負けたのだから賠償金は払ってもらう。それとは別に魔法使いの保釈金もだ。
金貨七百五十枚。以前に俺が奪われた金額である。
「バカな! 賠償金など払う義務はない! それにあの魔法使いのレベルなら、保釈金の相場は金貨百枚だろう!」
「相場など知らん。別に払わなくてもいいと言った。賠償金については王の勅命であるぞ! 逆らうなら反逆罪だ!」
魔法使いは貴重だ。あのレベルの魔法使いでも、失えば大きな痛手である。
奴の商会の評判はかなり悪化し、取引を見直すところも出るだろう。
魔法使いを雇っているというのは大きなステータス。現代で言うなら大企業がスポーツチームを持っているようなものだ。
失えば世間からは落ちぶれ始めたと思われる。複数の魔法使いがいる商会ならば一人失ってもごまかせるが、奴の商会はあの魔法使いだけだ。
「おお……先代様。アトラス様は見事に成長なされました……! 御覧ください、あの雄姿を……!」
セバスチャンが俺の雄姿を見て涙ぐみ、顔をハンカチでふいている。
「ゆ、雄姿かなぁ……?」
「悪の所業」
カーマとラークがボソリと呟いた。黙らっしゃい、これは雄姿だ。
クソデブハゲはワナワナと震えだし、俺を睨んでくる。先ほどの見下した目ではなく、殺意を含んだような目だ。
伝えるべきことは伝えたし、親父の受けてきた仕打ちへの復讐も果たした。
今後は金策に苦労するだろうが、俺の親父みたいに即身仏の生活をすれば何とかなるだろ。
ならないかもしれないがそれは知ったことではない。
「元カール領主の身柄は後で譲り渡そう。焼くなり煮るなり好きにするがいい」
譲り渡した後、元カール領主がどうなるかは知らん。俺ならこんな悲惨な結果をもたらした奴は海に沈める。
そう言い残して部屋を出ようとすると。
「待て! 貴様、恩を仇で返すのか! このごく潰しが! 貴様なぞ、我らの食い物になっているべきなのだ!」
「本音が出やがったな! お前の商会なんぞ潰れちまえ!」
最後に暴言を吐いて部屋から出て行った。奴の顔は見ていないが、きっと怒り狂っていることだろう。ざまぁ。
すごく何かを成し遂げた気分で清々しい。
そして屋敷から出るやいなや、セバスチャンが号泣し始めた。
「アトラス様ぁ! このセバスチャン! ここまで嬉しかったことはございません! ここはトドメを刺しましょう! あの憎いパプテマ商会を立ち直らせてはなりません! 粉微塵にするのです!」
「落ち着け、もう十分に満足しただろ」
正直満足してしまったし、これ以上はめんど……武士の情けである。
どういえばセバスチャンを納得させられるだろうか……なんかそれっぽく話そう。
「セバスチャン、俺達は過去に目を向けてはならない。向けるべきは未来だ。奴らは過去の産物となった、俺達の目にはもう写らない。そんな奴らに手間かけるより、アトラス領のことを考えよう。そのほうが親父も喜ぶ」
「あ、あ、アトラスさばぁぁぁぁ! よくぞよくぞ、よくぞ立派になられました……!」
セバスチャン号泣。あまりの泣きっぷりに、涙を拭いていたハンカチがびしょ濡れになっている。
我ながら恰好いいセリフを言えたな! 心にも思ってないことばかりだが!
「……お兄さん、詐術の才能あるよ」
「詐欺師」
「黙らっしゃい」
カーマとラークの呟きにツッコミをいれる。
「さてと……王都でやるべきことはやった。フォルン領に戻るか。ラーク、転移を」
相変わらずベールに外套を纏っているラークは、首を横に振った。
「無理」
「……えっ」
「明日」
「魔力が回復してないから無理だよ。転移は明日ね」
……転移ってMP消費軽いものじゃないのか。だいたいのゲームだとかなり省エネというか、気休め程度のMPで使えるイメージなんだが。
現実はゲームほど甘くはないか。それでも明日には戻れるなら十分だ。
「ならせっかくだし王都で遊んで……」
「アトラス様! では移住者を募りましょう! 今のフォルン領は農作人が百八十人に比べて、兵士が六十余名と兵士が多すぎます! ここは農作人や商人を!」
「落ち着けセバスチャン。募集って言っても王都でやることじゃないだろ」
食に困った冒険者ならば来るかもしれないが、農作人を王都で募集しても来ないだろ。
そもそも王都に作物育てて暮らしてる人はいないのだから。
だがセバスチャンはすごい力で俺をどこかに引っ張っていく。待って!? さっきまでぎっくり腰だったろお前!?
「このセバスチャン! 未来に目を向けますぞ! 過去を吹っ切り、どんどん先へと!」
「やめろ!? 少しは後ろを省みろ!」
「何せうちは人材が少なすぎますぞ! ここは人を雇いましょうぞ!」
ダメだ、このセバスチャンは言うことを聞かない!
助けを求めるようにカーマやラークを見ると、彼女らは首を横に振った。
「お兄さんの言葉が効きすぎたんだね」
「自業自得」
くっ。ダメだ、彼女らは俺を助けてくれない。だが俺にはまだセンダイが……。
「センダイさんならね。『ひっく。拙者、王都で豪遊してくるでござる』って言い残して去ってったよ」
「センダイ!?」
防衛隊長が防衛しないでどうする!? 誰も俺を助けてくれる者はいないのか!?
「アトラス様! 未来に向けて行きますぞ!」
「セバスチャン、放せ! 今日くらいは現実に留まらせて遊ばせてくれぇぇ!」
俺の叫びはむなしく空に消えて、セバスチャンに連行されていくのだった。
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