27 / 220
レード山林地帯開拓編
第25話 レード山林地帯調査②
しおりを挟む「オーガの群れでござるよ。雑魚でござるな」
「……なんか俺、オーガがゴブリンに見えてきた」
遠くに見えるただのオーガの群れに、思わずホッと息をつく。
レード山林地帯の奥へと進む俺達は、恐ろしい魔物に襲われまくった。
メガポイズンタランチュラという巨大蜘蛛の群れとか。ミノタウロスの群れとか。
群れてない奴もクイーンアルラウネやレッドドラゴンとかの、名前だけで強そうな討伐レベルAランクやSランクの化け物ばかり。
化け物のバーゲンセールにやってきたみたいだ。
Bランク以下の魔物は確実に群れている。本来なら魔物のボスになるべき存在が、ここでは下っ端に分類されるのだ。
そんな魔物たちと戦い続けた俺達は、疲労困憊の状態だ。
カーマやラークもフラフラしながら歩いていて、かなり疲れているように見える。
「……お兄さん、ボク魔力がもうないよ……」
「……私も」
「俺も財力が……」
「「財力?」」
「違う、魔力」
危ない。【異世界ショップ】のことは隠しておかないと……。
さっきからバズーカ買いまくって、持ってきた金がなくなってきている。
RPGの通常攻撃のノリで、バズーカ撃ちまくっていたらこうもなる……。
【異世界ショップ】の存在を隠すため、魔物の買い取りもしてもらえず減っていくばかりだ。
話している間にも、下半身が蛇で上半身が女性の魔物――ゴルゴーンが襲ってきているのだが。
ゴルゴーンは狂戦士と化したライナさんに殴られて、上半身が消し飛んだ。
「死ね! 死ね! お前たちの存在のせいで! 私はこんなところにぃぃ!」
更にこっそりと忍び寄っていたミノタウロスが、ライナさんの手で上半身と下半身に引きちぎられる。
「あぁぁぁあぁ! お前たちがいなければ! 私は幸せになれたんだ!」
魔物よりも恐ろしい咆哮を繰り出しながら、理不尽な怒りをぶつけるライナさん。
今の叫びでミノタウロスの顔が吹き飛んだな……。
彼女は切り札的な運用にしようと思っていたのだが、温存する余裕などなく暴れさせている。
俺達に襲い掛かってくる危険性もあったが……幸か不幸か、敵が多すぎる。魔物とひたすら戦ってくれてるので今のところは安全だ。
というかすごく頼もしい。まさに狂戦士と言った働きぶりは、味方にするとこれほどまでに頼りになるとは。
ライナさんの化け物じみた暴れっぷりを見ていると、ついにカーマとラークが地面にへたり込んでしまった。
「お兄さん……おぶって……」
「疲労困憊」
「おっし任せ……いや無理だから! ここで俺の両手塞がったら死ぬから!」
美少女二人が抱き着いてくるのを、鋼の精神で拒否。ただでさえカーマとラークがほぼ戦闘不能だ。
ここで俺がバズーカ撃てなくなったら死ぬ!
「センダイ! もう無理だ、撤収するぞ!」
今までずっと黙って歩いているセンダイに叫ぶ。
奴はいつも通りに酒瓶に口をつけ、ゴクゴクと喉を鳴らした後。
「ふっ。とっくに撤収してるつもりでござる。道に迷い申した」
「道に迷い申した、じゃねえだろ! どうするんだこれ!?」
「大丈夫でござる。拙者、今まで死んだことはござらん。今回も何とかなるでござる」
「そりゃ死んでたらここにいないからな!」
そもそも酔っ払いに道案内させたのが失敗だった! センダイが自分は何度も冒険の経験があり、地図を見るのもお手の物とかほざいたせいだ!
重い荷物を運んでいるセバスチャンが鼻息を荒くしながら。
「アトラス様! このセバスチャン、いざとなれば玉砕してまいります!」
「早まるなセバスチャン! お前が玉砕したところで何の役にも立たん!」
「お兄さん、言い方きつすぎる」
「アトラス様……この老いぼれをそこまで心配してくださるとは……!」
事実だから仕方ない。なおセバスチャンは感動の涙を流している。
本当にメンタル強いなお前……。
セバスチャンを見てたら少し落ち着いた。今の状況を極めて冷静に判断しよう。
カーマとラークが戦闘不能。俺は金が減ってきている。
ライナさんは暴れまくっているが、たぶんそのうち恨みのパワーを使い果たす。
そうなれば戦力は俺とセンダイだけ。絶対無理。これまでのキル数を考えても、カーマとラークとライナさんが大部分を占めている。
俺とセンダイはちょこちょこ敵を倒しているだけだ。
脳裏に全滅の単語がよぎった瞬間、轟音と共に木々が砕ける音が聞こえた。
その音源に目を移して、俺は絶句する。
ビルほどの高さを持った人型の立ち上がる姿。その余波で木々が粉砕されていく。
おいおいおい、もうこれダメだろ。光の巨人とか呼んできてくれ。
「あ、あれってジャイランドじゃ……」
カーマが巨人を見て茫然としながら呟いた。
彼女も顔が真っ青になっている。もう魔物の詳細を聞く気も起きない。
確認するまでもなくあの魔物が化け物なのはわかる。いや無理だろ、万全の状態でも勝てるか怪しいぞ。
ましてやこんな状態では戦うなど不可能である。
「全員、声を潜めろ。バレたら終わるぞ……!」
超小声で注意を叫び、皆頷いて近くの木々に隠れる。あれだけでかい図体だ、俺達のことなどアリ程度に見える。
大人しくしてればバレるはずが……。
「シネェ! アァァァァアァァァァァァ! 敵、敵はどこだぁ!」
そんな静寂をかき消すように、ライナさんが近くの魔物を虐殺して空に咆哮を放つ。
いややめて!? 本当にやめて!? 死ぬから、マジで死ぬから!
「センダイ! あの化け物……いや馬鹿者を止めろ!」
「はっはっは。御意」
未だかつてない真顔でセンダイは剣を引き抜き、ライナさんの懐に滑り込んで剣の腹でみぞおちを叩く。
ライナさんは白目を剥いて意識を失い、地面に倒れ伏した。
俺は思わずセンダイに親指を立てる。よくやった!
『ウオオオオオオオオォォォォォォ』
ジャイランドは背筋が凍るような叫びと共に、地面にあおむけに倒れた。
その衝撃で突風が巻き起こり、俺は木に思わずしがみつき事なきを得た。
……危うく吹き飛ばされるところだったぞ。
改めてジャイランドを見てみると……巨大な寝息が聞こえてきた。
「ふむ……寝たようでござるな」
「……ええい、こんなところにいられるか! さっさと退散するぞ!」
「同感でござるが、退散する術がないでござる」
「術なら買う! ああもう命より大事な物はないな! 【異世界ショップ】開店せよ!」
周囲の景色が見慣れた地球の飲食チェーン店に。
レジカウンターで謎のポーズをとっているミーレを見つけると、急いで詰め寄る。
「あ? どうどう? 今日はちょっと露出高めの服で特に胸が……」
「そんなことはどうでもいい! それどころじゃない! ヘリコプターを売れ!」
「そんなこと……それどころ……」
ミーレは自分の胸を見ながら落ち込む。いいから! 今そういうのいいから!
「頼む! 早くしないと仲間が死ぬから! ヘリコプターはやく!」
「……運転できるの?」
「できん! だが何とかする!」
為せば成る! というか為せなくてもやるしかない! あの山林にいたら確実に死ぬのだ!
「じゃ、じゃあ最低限の知識だけ脳内にインプットしておくね。その分は料金に加えても」
「いいからはやく!」
軍用ヘリコプターっぽいのが店内に出現するのを確認した瞬間、俺は【異世界ショップ】から退店する。
「そんなこと……それどころ……」
最後にミーレがうつろな目をしながら何かを呟いていたのが見えた。
再び景色が憎きレード山林地帯へと戻る。いち早く俺に気づいたカーマが、ヘリコプターを見て絶句する。
「……なにそれ!?」
「説明は後だ! 乗れ! 扉はこう開けろ!」
俺が運転席に乗り込むのを見て、他の皆も後部座席の扉を開いて中に飛び込んできた。
それを確認し、俺はヘリコプターの電源を入れて起動。
「飛ぶぞ!」
ヘリコプターのプロペラが回り始めて車両が宙に浮く。そしてどんどんと高度を上げていく。
地上から十メートルほど離れたところで。
「な、なにこれ!? 飛んでる!? こんな巨体が!?」
「ほほう。空を飛びながらの酒も風流でござるな」
「ゴーレム?」
皆が口々に叫ぶなか、俺はフォルン領に向けて舵を取り飛んでいく。
そうしてレード山林地帯の上空を抜けた。そして俺の冷や汗はどんどん増えていく。
呼吸が苦しくなっていく。
「す、すごいね。お兄さん、こんな魔法隠してたなんて」
「……やる」
「アトラス殿、流石でござるな」
皆が褒めてきている気がするが、言葉が耳に入らない。
「……アトラス様、どうかされましたか?」
セバスチャンが心配そうに俺を見てくる。俺は観念して……。
「すまん、着陸できる自信がない」
「「「「えっ」」」」
最終的にカーマとラークが飛行魔術を使えたので、一人ずつ地面に降ろしてことなきを得た。
1
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる