【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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レード山林地帯開拓編

第26話 冒険者ギルドの招致

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 無事にレード山林地帯から逃げ出した後。

 俺達は泥のように二日ほど寝続けて、ようやく体力が回復した。

 なおセバスチャンだけは寝ずに普段通り過ごしていたらしい……化け物だ。

 ようやく全員が元気になったので、屋敷の執務室に集合していた。

「えー……レード山林地帯調査の反省点と、今後どうするかを相談したい」
「あのゴーレム」
「ラーク、それ以上聞くなら俺も色々追及するぞ」

 ヘリコプターのことは誤魔化すことにした。

 元々ラークは怪しいところが多すぎるのを、見て見ぬふりをしているのだ。

 少しくらい俺に隠し事があってもいいだろ。むしろ互いに本音で話せない対等の関係と言える。

 諦めたようでラークはそっぽを向いた。

「拙者に策あり。次はもう少しうまくやれるでござる」
「ボクも! あのジャイラントは討伐しないと!」

 謎の自信を持ってニヤリと笑うセンダイ。元気よく叫ぶカーマ。

 どうやらレード山林地帯への怯えはないらしい。すごいな、俺とかもう二度と行きたくないのに。

「ところであの巨人……ジャイラントって有名なのか?」
「神話の怪物」
「山を動かして地形を変える巨人。この国を崩壊寸前まで追い込んだ伝説を持つ魔物だよ。最終的に伝説の魔法使いが命と引き換えに追い出した、ってお話があるんだ」

 ……伝説の魔法使いさん。どうせなら追い出すだけじゃなくて倒して欲しかった。

 そもそもこの国にいるなら、追い出すことすらできてないが。

 カーマはあの化け物に闘志を燃やしている。いや彼女だけではない。

「次は殺す」

 ラークも無表情ながら、目が普段よりも鋭い。殺る気マンマンだ。

 彼女らの背後から炎と氷の幻が見えてくるほど、彼女らは力が入っている。

「この国最強の魔法使いとして、負けられない!」
「常勝無敗」

 カーマたちが王国最強の魔法使い? 昔、北のホワイセルって奴が最強って聞いた記憶があるんだが……まあみんな、自分のことが最強って言うよな。

 ホワイセルって奴が強いのかもわからんし。

 こういった噂は尾びれもつくし、その魔法使いを抱えている貴族や商会が大げさに喧伝するからな。

「あのジャイランドとやらに勝ち目があるのか?」
「万全の状態で全力なら!」
「勝つ」

 カーマとラークは薄い胸を張った。あのビルのような大きさの巨人に勝算があるのか。

 あんなもの、もはや怪獣映画とかの世界だ。核でも撃つべき相手だろうに。

 だが彼女らの勝ち目はあまりに薄氷だ。そもそも前提条件の実現が極めて難しい。

「ちなみにジャイランドと戦うまで、力を残しておく方法は?」
「……お兄さん、ボクのために頑張って!」
「目を背けるな。俺だけで何とかなるわけないだろ!」

 あの魔境を煮詰めて作り出した恐ろしい場所で、彼女らを温存して進むのが困難だ。

 ……とりあえずしばらくはレード山林開拓は放置だな。

「レード山林開拓はしばらく凍結だ。今の戦力では難しい」
「それがよいでござるな。急ぐ必要はないでござる」

 これでレード山林地帯の相談は終了。カーマが不満げな顔をしていたが、こればかりは何ともならん。

 ライナさんクラスの魔法使いが数人欲しい。そういえば彼女はすでに自分の領地に戻っている。

 狂ってた時は疲労しないらしく、身体自体はあまり疲れてなかったらしい。

 暴走してない時はずっと寝てたというか気絶してたし……。

 慰謝料込みで多めに謝礼を払ったら、これで年が越せますと謝りながら去っていった。

「アトラス様! お客様がいらしております! 客室に案内しておきました!」

 ちょうど会議が終わったタイミングで、部屋の外から兵士の声が聞こえた。

 屋敷の門番の一人だ、会議が終わるのを待ってくれていたようだ。

 執務室を出て客室に向かうと、恐ろしくガタイのよい強面のおっさんが立っていた。

 オーガにも匹敵する体躯、明らかに堅気の人間ではない。着ている服は上等なのが余計に違和感を加速させる。

 あふれ出す筋肉のせいで服がピチピチだ。

「アトラス様ですか? 冒険者ギルド北支部のギルド長、ドグルと申します」
「あ、これはご丁寧にどうも……」

 ドグルと名乗った男は丁寧にお辞儀をしてきた。見た目からは全く想像できない丁寧さだ。

 口調も丁寧だ……声が恐ろしく野太いせいで余計に恐怖感を煽るが。

 怪しさ満点だが、机の上に冒険者ギルドの証文が置いてあった。本物のギルド関係者のようだ。

「ドグルさん、何の御用でしょうか?」
「ええ、はい。実はですね、レード山林地帯の開拓がはじまったと聞きまして」

 ドグルさんは顔の汗をハンカチで吹きながら、ニコニコと笑顔を浮かべる。

 はっきり言おう。あまりに恐怖を感じる笑顔だ、ここから逃げ出したい。

「は、はい。先日、調査しましたね」
「冒険者ギルドとしても、レード山林地帯は垂涎の場所でして……是非、我々にも噛ませて頂きたい」

 ドグルさんは恐ろしく鋭い、サメにも劣らぬ歯をむき出しにして凍り付くような笑み。

 どうぞレード山林の魔物を噛み砕いてきてください。

「あはは……まあ立ち話も何ですから、座ってください」

 俺はドグルさんに椅子に座るようにうながす。彼の腕の届く範囲にいたくないのだ、頭を潰されてしまいそうだ。

 だが彼は少し唸った後に。

「申し訳ありません。尻を痛めているもので、ご無礼お許しください」
「え、いや、座って頂けたほうが嬉しいといいますか……」

 なおも食って下がる俺に、ドグルさんは頭を下げた後に。

「あの椅子では、私が腰かけた瞬間に壊れます……」
「あ、なんかすみません……」

 かなり気を使わせてしまった……。さっきから見ているが、この人は悪そうな感じではない。

 ただ見た目が生理的に恐怖を与えてくるだけで。

「それで冒険者ギルドがうちに来てくれるなら歓迎します。レード山林を調査しましたが、戦力は少しでも欲しい」
「調査結果はいかがでした? 我々としましては、出てくる魔物のレベルに合わせて冒険者を派遣します。ご安心ください、冒険者は魔物狩りのプロです! こと魔物相手ならば、フォルン領の兵士よりも強い自負があります」

 ドグルさんはドンと胸を拳で叩く。その余波で空気が振動し、近くの家具が揺れる。

 何とも心強い言葉だ、説得力が段違いである。

 ……まあそもそも、うちの一般兵士は誰一人としてレード山林に入ってないのだが。

 この話に乗らない手はないな! 冒険者ギルドの力を借りて、レード山林攻略を推し進める!

「助かります! レード山林の調査結果を共有しますね。まずはドラゴンの群れが出てきます」
「……ドラゴンの群れ?」
「はい。だいたいが十体前後でしたね」

 まるでゴブリンみたいなノリで、ドラゴンとエンカウントしたからな。

 いつも大勢で攻めてくるせいで面倒だった。

「それはそれは……レード山林のボスは厄介ですな。ドラゴンの地とは」
「他にはオーガの群れやミノタウロス。クイーンアルラウネやレッドドラゴンですね」
「えっと……」

 ドグルさんの顔から汗が吹き出し、彼はそれをハンカチで拭う。

 きっと武者震いだろう。

「あそこのボスはジャイランドです。この目でしかと見ました。是非冒険者の力をお借りしたい」
「用事を思い出しました。失礼します」

 ドグルさんは俺に背を向けると、部屋を出て行こうとする。

 いやいやいや! 俺は思わず呼び止める。

「ちょっ!? 冒険者は魔物狩りのプロなんでしょ!? お力をお貸し願いたい!」
「申し訳ありません! 我々は冒険者を地獄魔境に送るわけにはいきません!」
「その地獄魔境、俺の領地なんだけど!?」

 ドグルさんは俺に振り返って頭を下げてきた。

 いやそこは冒険者のプライドで頑張ってくれ!

「俺達もレード山林に入って生きて帰って来たから! 大丈夫ですって!」
「何で生きてるんですか貴方!?」

 ドグルさんは目を見開いて野太い声で叫ぶ。

 ものすごく失礼なことを言われてしまった。

 彼も無礼を働いた自覚はあるようで、ゴホンと喉を鳴らした後。

「失礼しました。ですが冒険者ギルドとして、全面的な協力は難しいのです。並みどころか熟練の冒険者でも、レード山林地帯では生きて帰ってこれない。特別優秀なパーティーでも難しい上に、そんなレベルの冒険者は我々の言うことを聞いてくれません」
「あー……ならとりあえず、このフォルン領に冒険者ギルドの支部を作って頂きたい」
「それは構いませんし、こちらからお願いしたいですが……レード山林地帯開拓のご協力はできませんよ?」

 俺は構わないとうなずく。これによりフォルン領に冒険者ギルド支部ができた。

 冒険者が領内に引っ越してくれば、商人や酒屋とかも集まってくるからな。

 それに……冒険者の中でも命知らずの奴なら、レード山林地帯に入ってくれるかもしれん。

 少しでも魔物を減らしてくれたら嬉しいのだが。
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