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レード山林地帯開拓編
第32話 盗賊迎撃
しおりを挟む「大変ですぞ! 盗賊ですぞ!」
御者台にいるセバスチャンからの叫び声。
おいおい。盗賊ってお前……そんなバカな。
「セバスチャン、お前の幻視だろそれ」
「誰が幻視だコラァ! さっさと出てこいや! さもないと死ぬことになるぜ!」
聞き覚えのない男の声。マジで盗賊なんだろうか。
「カーマ、起きろ」
「……なに? ボクまだ眠い……」
「盗賊が出た」
「……お兄さん全部倒してよぉ」
ふねをこぐカーマを支えながら、馬車の扉を開いて外に出る。
何と六人ほどの盗賊が馬車を囲んでいた。マジかよ。
「おうおう! 上物がいるじゃねえか!」
盗賊の一人がナイフを舐めながら、カーマを下卑た顔で見る。
俺とセバスチャンはその様子に思わず震えてしまう。
「はっ。安心しろよ、お貴族様。お前らはきっちりと殺して、そこの女は遊んでやるからよ」
「……見ろよセバスチャン。本物の盗賊だぞ」
「信じられませんぞ……この犬もいつかぬと言われたフォルン領に、盗賊が!」
セバスチャンは歓喜のあまり涙を流し始めた。
盗賊たちは面食らったようで、少しばかり後ずさりはじめた。
「いやあ! フォルン領はよいところですぞ! 是非長居してくだされ!」
「待てセバスチャン! いくら嬉しくても盗賊は長居させたらダメだ! 搾り取るだけ絞って捕縛しろ!」
マジで驚いた。盗賊とかうちの領には無縁なものだったからな。
貧乏すぎて盗れるものがないところに、盗賊が流れてくるはずもない。
……うちの領も発展したんだなぁ。頑張ったもんなぁ。こういう何気ないところで感じるのは、感慨もひとしおだ。
「てめぇら舐めてんのか! もういい殺しちまえ!」
盗賊の一人が俺に襲い掛かってくる。ははは、まさか俺を傷つけられると思っているのか!
「カーマさん、やっておしまいなさい!」
「…………ぐぅ」
返事がない。頼みの綱のカーマに視線を向けると、ふねこいで立ったまま寝ている。
俺は即座に跳躍し盗賊のナイフを避ける! あぶねぇ! 少し服にかすった!
「あぶねぇ! 当たったらどうする!? 殺す気か!?」
「殺す気だっ!」
「なんと!? 盗賊のくせになんということをするのですぞ!」
「こいつらは俺達のことを何だと思ってるんだ!?」
セバスチャンが御者台から立ち上がり、斧を手に取って構える。
脅しで鍛えた斧の振りだ。戦闘員ではないが盗賊にも遅れは取らないだろう。
「アトラス様!」
「わかっている。逃げないなら撃つぞ」
俺は懐から拳銃を取り出して、盗賊たちに向ける。だが奴らはそれを見て笑い始めた。
「なんだ? その変な玩具で俺らを脅そうってか! これだから貴族は!」
……こいつら拳銃の怖さ知らないもんな。知らない物に恐怖は抱かないか。
無知とは罪だな! ビビッて逃げてくれればいいものを!
空に銃を向けて引き金を引くと発砲音が周囲に響き渡る。
盗賊たちは音に驚いた後に、俺に対して警戒し始める。
「なんだぁ! その音は!」
パニックになる盗賊たち。だがそれが狙いではない。
拳銃の音に起こされて、目を白黒させているカーマに対して。
「カーマ! こいつら頼む!」
「……うん」
ものすごく不機嫌そうな顔で、カーマは俺の前に立った。
あ、これ盗賊死んだわ。カーマって寝起きがいいというか、いつも自分で起きる。
だから寝起きはよいと思ってたのだが……逆に言うと起こされるのは嫌いなのか。
「……せっかくアイス食べてたのに!」
「ひいっ! あちぃ! いてぇ!」
カーマが片手を振るうと、炎の鞭が盗賊に襲い掛かる!
「せっかくお兄さんを脅して、アイス食べ放題だったのに!」
叫びと共に炎の巨人が現れて、盗賊を拳で吹き飛ばした。哀れにも服が焼けながら、石に叩きつけられる盗賊。
どうやら俺は夢でも脅されてアイスを用意させられたようだ。
俺はアイスクリーム製造機か?
「せっかく……ボクが姉さまよりも綺麗になったのに!」
空から炎の隕石が落ちてきて、残りの盗賊を押しつぶした。盗賊は僅か数秒で全滅。
寝起きの怒りをぶつけられて、哀れにも散っていった。彼らからすれば、野生の大ボスに巡り合ったようなものだったろう。
カーマは息を切らせている。まだ怒りが収まらないようだ。
身体に炎を纏わせながら俺の方へと身体を向ける。
「お兄さん!」
「な、なんだ!?」
「ボクも着物欲しい! 姉さまよりも綺麗なの!」
「お、おお……わかった! わかったから落ち着け! 燃えるっ! 服が燃えるっ!」
燃えているカーマに抱き着かれながらも、何とか引きはがすことに成功する。
……彼女の纏っている火は普通のものではないようだ。少し火に触れたが火傷しなかった。
盗賊たちも多少の火傷はあるがそれだけだ。本来なら身体全身黒焦げになっていて然るべきである。
まあ盗賊のミディアムなど誰得だが。そこらの魔物なら喜ぶのか?
カーマは少し目をぱちくりした後、周囲を見回し始めた。どうやら落ち着いたようだと思っていると、再び俺の腕に抱き着いてくる。
「キャーお兄さん怖かったよー」
棒読みで悲鳴を叫んでいる。どうやら怖がったフリをしているらしい。
とっくに盗賊は倒れ伏しているし、俺はお前のが怖いよ。
奴らもカーマに恐怖を覚えただろう。
「ところでお兄さん、こいつらあの元カール領主の仲間の商人が雇った奴だよ。お兄さんを殺してって」
「……なんだと!? あのクソデブハゲ商会の!?」
「カーマ様! 嘘だと仰ってください! カーマ様!」
セバスチャンがカーマににじりよって、肩を掴んで揺らす。
信じたくないのだ。せっかくやって来た盗賊が天然ものではなくて、人工物だったなどと。
自然に生えてきたのではなくて、ヤラセだったなどと。
「こ、心を読んだから間違いないよ!」
カーマの一言が俺達の心にダメージを与えた。セバスチャンはカーマの肩から手を放し、膝から崩れて地面に座り込む。
そうだよな。せっかく盗賊が出るほどの領地だって喜んだのに。
実際は偽物の盗賊だったのだからこうもなる。セバスチャンはしばらく唖然とした後、わなわなと震えだすと。
「アトラス様! あの商会に殴り込みましょう! アトラス様のお命を狙ったのです! うちの領で本物の盗賊にしましょうぞ! もしくは一族郎党縛り首ですぞ!」
「盗賊になるか縛り首かっておかしくないか?」
「ご安心を。盗賊になれば捕縛して縛り首ですぞ」
「救いなさすぎだろ」
盗賊にならないと縛り首。なっても縛り首。ようは縛り首。
どうやらセバスチャンは激怒している。盗賊を全員捕縛して、急いで屋敷に戻る。
そしてラークに王都で転移してもらい、クソデブハゲ商会の屋敷に殴り込んだ。
「よくもフォルン領に偽盗賊を撒いてくださいましたな! 責任をとって盗賊になって頂きますぞ!」
「何を言ってるんだ貴様は……これだからフォルン領の人間は存在価値がない……」
クソデブハゲは相変わらず、客間に一人偉そうに座っている。
これだけやっても俺達の座席は用意されていない。
「神妙にお縄につくですぞ! フォルン領に偽盗賊を撒いた! 調べはついておりますぞ!」
「……やれやれ。どうせ盗賊が自白したと言うのだろうが、そんな奴らの言動を真に受けるか。貴様らこそ事実無根で訴えてやるぞ。エセ貴族が」
大げさにため息をつくクソデブハゲ。しばらく見ない間に偉そうさに磨きがかかっている。
まだこいつの偉そうさカンストしてなかったのか!?
「……ねえ。それはボクのことを侮辱してるってことだよね?」
カーマが抑揚のない声で呟く。
クソデブハゲは再び大げさにため息。そして見下しの視線をカーマに向け。
「やれやれ。フォルン領の者など例外なくゴミ」
「そうなんだね。ボクはカーマ。ボクは貴方のこと知らないけど、貴方はボクのこと知らないの?」
「フォルン領の者など、知っているわけ……が……カーマ? それに紅蓮の赤髪……ま、まさか……」
クソデブハゲの言葉が途中で止まり、奴の顔色が真っ青になる。
目をひん剥いたように大きく開けて、ガクガクと震えた後に。椅子から立ち上がって、頭を床に擦り付けた。
「も、も、申し訳ございません! 今の言葉は全てフォルン領へのもの! 決して貴女様への言葉では!」
「…………ボク、フォルン領とは懇意なんだけど」
「なっ……」
口をパクパクさせるクソデブハゲ。もはや放心しているようだ。
カーマはそれを感情のこもってない目で見つめた後。
「次はないよ。お兄さん、行こっ」
そう言い残して部屋を去っていく。クソデブハゲは口をパクパクさせる醜い金魚と化していた。
なるほど。やっぱりカーマは偉いようだな!
……本当の身分は知らないようにしておこう。なんか不敬罪とかに該当しそうなこともしてそうだし。
知らなければただのカーマだからセーフ!
……しかし地味に命を狙われたな。今後もフォルン領が力をつければ、敵が増えてああいった輩を仕掛けられる可能性もある。
今回はカーマがいたので楽勝だったが、何か対策をとる必要があるか。
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