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レード山林地帯開拓編
第34話 やけ酒
しおりを挟む「というわけで、国からの支援はもらえなかった……」
「おと……王も大変なんだよきっと」
屋敷の食堂で気落ちする俺を、カーマが慰めてくれる。
王との謁見した日の夜。やけ食いとばかりに【異世界ショップ】で肉を買って焼こうとしていると、カーマとラークにセンダイが流れ込んできたのだ。
「この酒は肉に合うでござるなぁ」
「美味」
やけ飲みしようとしたビール缶が、センダイによって飲み干されていく。
ああ……すでに二ダースが空に……。
「お兄さん! アイスのお肉も欲しい!」
「ケーキ肉」
「それはただのアイスとケーキだろうが!」
なんなんだこいつら!? 俺が贅沢な晩餐を味わおうとした時に限って、なんで食べに来る!?
わざわざコッソリと動いて、屋敷内も抜き足差し足忍び足で歩いてたのに!
俺も3つ目のビール缶をあけて口につける。
「だいたいさぁ! この国おかしいだろ! 何で支援のひとつもしてくれないんだよ! フォルン領が滅びてもいいってか!? この弱小領地が!」
「そ、そんなことは思ってないよ! でも隣国を警戒しないと……」
「カーマ……お前、ずいぶんと王の肩を持つような。まさか……」
俺の言葉にカーマの顔が強張る。なるほど、そういうことか!
俺の天才的な頭脳がひらめいたぞ!
「カーマ! お前、王の愛人を狙っているのか!」
「……は? それはないよ、あり得ない」
カーマが真顔で呟いた。なんだ外れか。
王の妾候補ならば、今までの色々なことにも納得できるのだが。
「アトラス殿。砦を築くのはいかがでござるか?」
「ジャイランド相手じゃ飛び越えられるか、一撃で粉砕されるオチだろ……」
「なんかやってる感の自己満足にはなるでござるよ」
センダイが顔を真っ赤にして、空になったビール缶を投げ捨てる。
自己満足じゃ意味がないだろうが。
「そもジャイランド相手に凡兵は無意味。強者を揃えるしかないでござろう」
センダイが至極真っ当な意見を口にする。そうなんだよなあ。
歩兵が万人いようがジャイランドには無力。大砲でも並べて戦うのは考えたが、周囲に俺の力――【異世界ショップ】の有用性がバレると困る。
あくまで俺が魔法として使っている。と見せかけられるようにせねば。
「お兄さん、ボクたちが勝つから大丈夫だって!」
「常勝無敗」
カーマとラークを信じていないわけではない。だが俺はフォルン領主である。
出来ることは少しでもやって、僅かでも勝率を上げなければ……。
そこでさっきのセンダイの皮肉を思い出す。「なんかやってる感の自己満足にはなるでござるよ」か。
……なんか考えるのが馬鹿らしくなってきたな。
「そうだな。何とかなるか!」
「そうそう! 何とかなるよ!」
「為せば成る」
アイスやケーキを【異世界ショップ】で購入し、手元に出現させてカーマとラークに渡す。
ついでに大量の酒もテーブルに出現させる。
そのまま大酒会が始まった。騒ぎを聞きつけたセバスチャンやドグルさんがやって来て、てんやわんやの大騒ぎ。
「ひっく。拙者も魔法が使えるでござるよ!」
センダイがロウソクの火に酒を吹きかけ、なんか火を噴いたみたいに見せる。
「ボクも!」
「カーマ殿は元から使えるでござろう! これは魔法の使えない悲しい男だからこその芸! 才能に恵まれた少女は引っ込むでござる!」
「惨め」
「惨めで結構! このセンダイの生き様! ご照覧あれ!」
センダイは酒を一気飲みした後、糸が切れたように倒れた。
どうやら流石に限界だったようだ。ビール缶を3ダース以上も飲めばそうもなる。
センダイが力尽きたのに続くように、セバスチャンやドグルさんも寝てしまう。
食堂は空のビール缶や酒瓶が床に散乱し、散らかり放題である。
もはやこの部屋に立っているのは俺とカーマだけだ。ラークはとっくに退散している。
この大酒会やってよかったと思う。やけくそ気味にバカ騒ぎして、巨人対策のよい案を思いついた。
俺は自重し過ぎたのだ。自らの最大火力がバズーカと誤認していた。
地雷とかミサイルとかもっと使えばいいと。
床に散乱したおびただしい酒の量を見て、今夜だけでどれくらい使ったのか。
それを考えるのもバカらしいのでやめることにした。
「おにいさぁん、ボクね。姉さまに負けたくないんだぁ」
顔をほんのりと赤くしたカーマが、俺に抱き着いてくる。
……カーマは酒飲んでないはずなんだが。フラフラとして酔っぱらっている。
散乱した酒の匂いで酔っぱらったのだろうか。
「ラークに負けたくないのか」
「うんうん! 姉さまは美人で大人しくて綺麗で! ボクはちっとも……」
「性格の違いだろ。カーマのが優れてるところもいっぱいあるぞ」
というかカーマのほうが扱いやすい。ラークは言葉足らず過ぎて、話してて頭を使うし。
彼女は少し俺から距離をとった後。
「例えば?」
「社交的、冬にありがたい。何より元気なところかな、明るくて場が静まらない」
カーマとセンダイとセバスチャンが揃うと、賑やか通りこしてうるさくなるけど。
俺の言葉にカーマはケラケラと笑った後、真剣な趣でこちらを見つめてくる。
「ボクと姉さまでジャイランドに勝てると思う?」
「勝てるさ」
「……本当に? ボクと姉さまは最強でないとダメなんだ。負けたら、他国への圧がなくなる。ボクたちの価値がなくなるから……」
カーマが今にも泣きそうな顔になる。最強でないとダメ?
なんかよく分からんが、なんかよく分からんな。
「よくわからん」
「えっとね。ボクと姉さまはこの国で最強の魔法使いとして恐れられてる。ボクたちの名前が、他の国を警戒させてる。そんなボクたちが負けたとなれば、警戒が解かれて攻められちゃう」
なるほど。眠れる獅子みたいに恐れられた中国が、日清戦争負けたら他国からもどんどん攻められたよなもんか?
カーマは少しばかり震えていた。いつも明るい彼女もかなりの責任を抱えて、不安に襲われていたのか。
自信満々に勝てると連呼してたのは、自分に言い聞かせるためなのかもな。
ならラークも同じなのかもしれない。こんな少女二人が国を背負ってるんだ、何の怯えもないわけがない。
「相手は伝説の巨人……正直、あまり自信ないよ」
「負けてもいい……なんてのはダメか。わかった、勝たせてやる」
「……お兄さん、何か秘策でもあるの?」
「ああ、俺に任せろ。勝たせてやる」
そう言った瞬間、恐ろしい睡魔が襲ってきた。
瞼が重くなりどんどん閉じていって……。
「約束だからね。お願いだよ、お兄さん」
意識が消える寸前、そんな言葉を聞いた気がした。
ーーーーー
翌朝、目を覚ました俺の視界に飛び込んできたのは。おびただしい量の酒の空瓶や空缶。
そして高級肉のパックだった。
恐る恐る、本当におそるおそる懐の財布の中を確認する。空っぽだった。
「……ああああぁぁぁぁぁ! 金が消えたああぁぁぁ!」
思わず叫ぶが誰も答えてくれない。やってしまった……調子に乗り過ぎた。
仕方がないのでへそくりを財布にいれておき、ジャイランド対策を色々考えることにした。
【異世界ショップ】に入ると、力尽きたようにカウンターにもたれかかったミーレ。
「……どうした?」
「アトラス……一度に色々買いすぎ……用意するの大変だった……」
「……すまん」
昨日の酒会の被害は俺の財布だけではなかったらしい。
くたびれたミーレを見て、あんな買い方は控えようと心に誓っておく。酒飲んだら忘れるだろうけど。
「ミーレ。昨日買った商品のクーリングオフを……」
「飲み干した空の缶や酒瓶をどうしろと!? 流石に怒るよ!?」
「ダメか。なら大砲やミサイル、地雷を用意して欲しい」
「……いいけど、いいの? 目立つよ?」
「リスクを恐れて、フォルン領を滅ぼされたらダメだろ。……それに、カーマとも約束したからな」
守るべきはフォルン領である。そこを間違えてはならない。
カーマを負けさせるわけにもいかない。
俺の決意を感じたのか、ミーレは感心したような笑みを浮かべた。
「へぇー。以前は継ぎたくない、逃げたいって散々言ってたのに」
「今も逃げたいけどな! 逃げる選択肢が浮かばないってだけで」
以前の俺ならばジャイランドが来たなら、間違いなく逃げてただろう。
だが今はフォルン領に愛着を持っている。少し無理をしてでも、守りたいと思う程度には。
何だかんだで今の騒がしい生活を気に入っている。
「ならいいよ。大砲やミサイルに地雷だね。全部用意する」
「あ、それとドローンや爆弾も欲しいんだが」
「……いいけど、何に使うの? 大砲で事足りると思うんだけど」
ミーレの言葉に思わず笑ってしまう。
いぶかしげな顔をする彼女に対して、俺は自信ありげに。
「我に秘策ありだ」
「どうせくだらないことなんだろうなぁ」
「くだらなくないし!」
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