【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

文字の大きさ
37 / 220
レード山林地帯開拓編

第35話 防衛準備

しおりを挟む
 財布が空っぽにされた、あの忌まわしき酒会から一週間。

 ジャイランドの影はどんどん巨大になっている。こちらに近づいてきているのだ。

 とうとうレード山林地帯の入り口に到達したと、森の外で監視させていた兵から報告が来てしまった。

 もはや戦いは避けられない。あのビルほどの巨人を相手に、勝たなければならないのだ。

 俺はフォルン領とレード山林地帯の間の、開けた荒れ地で独りで色々と準備をしていた。

 ジャイランドはここで迎え撃つ算段であり、最終防衛ラインでもある。

 この場所の目ぼしいところに、地雷を仕掛けている。

 【異世界ショップ】から購入した時点で、指定した場所の地中に地雷を置けるのでかなり楽だ。

 ちなみにリモコン起爆式の地雷なので誤爆の可能性も低い。

「いくら準備しても勝てるかは分からんが……カーマに恰好つけた手前、負けられん……やっぱりやめておけばよかったか……?」

 酒会でカーマに大見得切ったことに今更後悔する。酔っぱらってつい……だが余計なことを言ったと思っているわけではない。

 彼女のつらさを少しでも受け持ってやりたいと今も思っている。 

 ……カーマは普段の明るさの裏に、この国を背負っている不安を隠していたのだ。

 バカみたいにフォルン領を治めている俺とは違う。いや誰がバカだ。

「やれやれ。本当に似合わないなぁ、俺に格好つけるのは無理だ」
「同感」
「うおっ!? ラーク!?」

 独り言を呟いたら、背後から返事が返ってきて思わず飛び上がる。

 そこにはラークが普段通りの無表情で立っていた。いや普段とひとつだけ違うところがある。

 彼女は俺が以前に渡した薄水色の着物を着ていた。

「……なんで着物を?」
「気に入った」
「さいですか……何か用か?」
「別に」

 ラークは無言のまま、地雷を配置する俺を見続ける。弱った……そうマジマジ見られると気になる……。

 地雷を埋める作業にも集中できないので、まずは彼女を何とかすることにした。

「なあラーク。頼みがあるんだが」
「嫌」
「まだ何も言ってないんだけど!?」
「下卑た視線。爛れた願い」
「人を性欲まみれのクズみたいに言わないで!?」

 ラークは俺からほんの少し距離をとる。

 酷い! とんだ濡れ衣である! 清廉潔白にして質実剛健な俺だぞ! 質実剛健の意味知らんけど。

 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、ラークは口を開くと。

「……カーマと話した。貴方が、ジャイランドから勝たせてくれると」
「あ、ああ……。俺だって魔法使いだからな! 本気出せばジャイランドの一体や二体、ぶちのめしてくれるわ! 何ならこの国最強の座も、俺が奪取してやるよ!」

 もし仮にジャイランドが二体同時に襲ってきたら、絶対勝てないだろうけど。

 そもそも俺は魔法使いではない。【異世界ショップ】は魔法ではないし。

 カーマやラークよりも強くなるのも無理だろう。防壁を出せる彼女らと違って、俺は身を守る術がない。

 現代科学特有の、攻撃力に比べて防御力が貧弱過ぎる弱点である。

 バリア発生装置とか欲しいよな……。

 そんな冗談を叫ぶと、ラークは手を伸ばせば触れる距離まで近づいてきた。

 彼女は俺の顔を見つめると。

「解放して、くれる……? カーマを、理不尽な責任から」

 ラークは俺に対して、いつもの無表情ではなく……不安そうな顔を向けてきた。

 その目は真剣で、俺の服を掴む手にも力が入っている。

 …………冗談でした、なんてとても言える雰囲気ではない。どう乗り切ろうか……よし誤魔化そう。

「あ、ああ。まあ将来的にいつか、百年後とかならワンチャン……」
「あの子を開放してくれたら、私を好きにして、いい……から……お願い。カーマの、責任をなくしてあげて」

 ラークは顔を下に向けて細々と呟いた。その表情は……陰りをおびている。

 普段よりもかなり饒舌になっているのも含め、ずっと溜め込んでいた感情なのだろうか。

 彼女らにとって魔法使いとは……随分と面倒な呪いなようだ。強力な魔法を使えて人生イージーモードでいいなぁと、俺は彼女らを羨んでいた。

 やはり他人の内心なんて分からないものだ。……これ、誤魔化したら俺はただのクズでは?

「任せろ。俺こそがレスタンブルク最強の魔法使い、アトラス・フォン・ハウルク!」

 などとバカなことを言ってしまう。もう後戻りできないな!?
 
 自ら逃げ道を塞いでいくスタイルとかバカか!? ああもうバカでいいか!

 最強の魔法使いとかどうすればなれるのか全然分からん! 自己申告でもいいですかね!?

 ラークの言葉を聞いたら、流石に無理ですと言えない! ……自分も辛いだろうに。カーマを助けてとばかりだ。

 俺が負けたら国の危機! なんて立場になったら吐く自信がある!

 ゲームでももうすぐランクが上がるってなったら、負けたくなくて手が震えるくらいだぞ。

「……ふふっ」

 そんな慌てふためく俺が面白かったのか、ラークは笑っていた。

「ところで最強の魔法使いってどうやって名乗れば……」
「ジャイランドのトドメをさす」
「わかった。残りHP1の時に、ラスキル狙えばいいんだな!」
「……?」

 任せろ。俺はハイエナ戦法は得意だ。

 弱り切った敵を見極めてトドメを刺すことには自信がある。

 ラークは俺の言葉が分からず首をかしげたが、しばらくすると軽く頷いた。

「加減はできない。トドメは奪って」
「わかってる。ジャイランドには、俺の手加減した最大火力を叩きこんでやる」
「……最大火力じゃない」

 ラークのツッコミを軽く受け流す。真の最大火力であろう核は流石に使えない。

 仮にジャイランドを討伐できても、フォルン領が放射能で汚染されかねない。

 なので現状で許容できる攻撃方法で破壊力の高そうな手段をとる。

 ついでに攻撃後に派手に目立てるようにしたいな。その方が俺の成果を主張しやすいし。

「まあ見てろって。誰もが俺がやったと認める攻撃で、ジャイランドを討伐してやるから!」
「期待」

 ラークは俺の言葉に本当に期待しまっているみたいで、軽く笑みを浮かべた。

 俺は背筋に大量の冷や汗をかいている。

 豪語したはよいが相変わらず策がない。派手に目立てる攻撃って何だ!?

 核ミサイルならキノコ雲が上がるが、通常兵器だとただの爆発だ。

 爆発なんて他の魔法使いでも起こせそうだし、誰もが俺がやったと認めないだろう。

 そうなればラークやカーマの手柄にされかねん。元々の魔法使いとしての評判が段違いだ。

 彼女らと愉快な仲間たちが、ジャイランドを討伐したってなるに決まっている。

 ただでさえベリーハードなジャイランド討伐に、更に縛りポイントがどんどん増えている!?

 どうしてこうなった……いや本当にどうしてこうなった……。

 必死に脳内で苦悩している俺を見ながら、ラークは手を伸ばしてきた。

「帰る?」
「まだ準備が終わってないから、一人で帰ってくれていいぞ」
「待つ」

 そう言って近くにある岩に座り込むラーク。

 その目には期待の色が見える。さて俺はどうやってこの期待に応えれば……。

 ……まあ何とかなるだろ、たぶん。今までも何とかなったし。

 以前にセンダイも「今まで死んだことはござらん。今回も何とかなるでござる」って言ってたし。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...