38 / 220
レード山林地帯開拓編
第36話 巨人迎撃①
しおりを挟む「ほ、報告します! ジャイランドがレード山林地帯を越えました! フォルン領に接近中です!」
執務室に兵士が飛び込んでくる。
俺はその報告を目をつむって聞いている。とうとうこの日が来てしまった。
「至急センダイたちを集めろ! それとジャイランドを例の荒れ地におびき寄せろ!」
「はっ! あの、本当に我々は戦わなくてよろしいのでしょうか……?」
「構わん。あのジャイランド相手に、お前たちを無為に失うわけにはいかない」
「…………はいっ」
ジャイランド相手に一般兵は役に立たないどころか、むしろ足手まといになりかねない。
彼らとてムダに命を散らせたくはないだろう。死地に赴けなどと命令はできない。
兵士がドタドタと部屋を出て行ったあと、しばらくして皆が執務室へやってくる。
「ジャイランドを迎撃する。全員揃っているな」
「無論でございます。あの伝説の巨人を、フォルン領が討伐する……このセバスチャン、夢を見ているみたいですぞ!」
「夢だったらよかったんだけどな。それと討伐ではなくて迎撃だ。最悪、追い返せればいい」
残念ながらジャイランドがやって来ているのは現実である。
本当に夢だったらよかったのにな。
「ふむ。迎撃だと他領地に向かう可能性もあるのでは?」
「とりあえずフォルン領が無事ならよしとする。他領地なら他領地の人間が何とかするはずだ。そうに決まっている」
「無責任」
「……わかってるよ。ちゃんと倒すから、そんなゴミを見るような目はやめてくれ」
ラークからの視線が痛い。カーマとラークとの約束は憶えている。
俺がトドメを刺してジャイランドに勝利し、この国の最強魔法使いに君臨する。
俺は魔法使いではないので、ものすごい詐欺になってしまうが仕方なし。
「では行くぞ。ジャイランドを撃退する!」
俺の号令と共に全員が決められた通り動き始める。
セバスチャンは広報として、フォルン領がジャイランドを撃退すると色々な領地に広める。
俺とカーマとラーク、そしてセンダイにライナさんが転移で迎撃場所の荒れ地についていた。
ドグルさんは結局戦ってくれないそうだ……悲しい。
レード山林地帯のほうを見ると、遠くにゆっくりとこちらに歩いてくるジャイランド。
報告ではジャイランドの傍には、大量のドラゴンなどがついてきているらしい。
そいつらも倒す必要があるのか……さらに負担が増えてしまった。
「……さてと、残念ながら戦力はこれだけだ。正直な話、本当に勝てるのか? と思ってる」
「そこは必ず勝てると言うべきでござろう」
「一般兵相手ならともかく、この面子に気休めを言う意味はないだろ」
酒瓶を口に含むセンダイ。こんな状況でも普段通りに飄々としていて頼りになる。
「コロス……ミナゴロシ……恨みを晴らす……!」
すでに狂戦士モードのライナさんが、地面を踏み鳴らしてひび割れさせている。
すでに準備万端なようで助かるな。
「お兄さん……期待してるからね!」
「よろしく」
「いやいや。どちらかというとお前たちのが主力だからな!?」
カーマとラークと冗談をかわす。
……何というか、皆普段通りだな。手汗まみれの俺が一番緊張してるらしい。
「この戦いに勝ったら、欲しい物なんでも用意してやる!」
「酒を!」
「アイス!」
「ケーキ!」
「カネェェェェェ!!」
各自の要望が叫ばれ、ライナさんのド直球な要求に思わず苦笑する。
こんな話をしている間にジャイランドは、すぐそばまで寄って来ていた。
巨人が荒れ地に足を踏み入れた瞬間、俺は地雷の起爆スイッチを押した。
「ドゥオオオオオオオオ!」
右足の地面が爆発し、ジャイランドは悲鳴をあげる。効果はあったようで、奴は右足を宙に上げて苦しんでいる。
ダメージは……少し足の裏がこげただけのようだ。
「氷の大腕、悲劇を唄え」
「炎の鉄槌! 激怒を叫べ!」
五メートルほどの巨大な氷の腕が地面から生え、同じくらいのサイズの炎で構成された鉄槌が空に出現する。
氷の腕と炎の鉄槌はジャイランドへと襲い掛かる。だが氷の腕はジャイランドの足もとにいるドラゴンたちに身をていして防がれる。
炎の鉄槌のほうも、ジャイランドの腕の振り払いでかき消される。
「うそっ!?」
「……計算外」
まじかよ。炎の鉄槌が簡単に防がれた上に、氷の腕は周りのドラゴンのせいで届きすらしない。
……周囲のドラゴンはジャイランドを守っているのか!?
ジャイランドから先行するように、ドラゴンの群れが俺たちに向かってくる。
幸いにも翼を持っていないので、飛んで襲ってはこないが……これはマズイ。
「アァァァァァァ!」
「少しばかりマズイでござるな……ここは拙者が」
ライナさんが空に咆哮。センダイが剣を鞘から抜き、ドラゴンの群れを迎撃するために前に出る。
俺も地雷を起動し、数体のドラゴンを吹き飛ばす。くそっ、対ジャイランド用の地雷なのに!
センダイやライナさんも次々とドラゴンを倒していくが……数が多すぎる。
最低でも三十体以上いる。こいつらに火力を使うと、ジャイランドへの余力がなくなってしまう!
だが何もしなければ、ライナさんやセンダイが囲まれて殺されてしまう。
「くそっ! ジャイランド用の大砲だがやむをえないか!」
大砲を【異世界ショップ】から購入し、目の前へ出現させてドラゴンの群れへと向ける。
「ダメでござる! ジャイランドへの手を使っては!」
俺の様子に気づいたセンダイが、戦いながらこちらに向けて警告してくる。
センダイの言葉はわかる。先ほどの炎の鉄槌を防いだことからも、ジャイランドは恐ろしい耐久力を持っている。
火力担当である俺達の力を全て投入し、倒せるかという相手だ。
「お兄さん! どうする!? センダイさんたちの援護!? ジャイランド!?」
「くっ…………」
カーマから次の行動を急かされながら、周囲の状況を確認する。
ジャイランドは少し後方で、俺達を警戒してか立ち止まっている。
センダイとライナさんは少しずつドラゴンに囲まれ始めている。
それにライナさんの右腕が動いていない。折れてしまっているのだろうか。
放置していたらやられてしまう! くそ、完全に後手に回っている……!
「ドラゴンを先に倒す! ジャイランドはその後だ!」
二人に指示を出して、ドラゴンの群れに向けて大砲の照準をつける。
ここで力を浪費してしまってはジャイランドを倒せるか怪しい。そう思いながらも、彼らを放置はできない。
意を決して撃とうとした瞬間。
「センダイ隊長の支援に入れ!」
後ろからそんな叫び声と共に、大勢の足音が聞こえる。
振り向くとフォルン領の兵士たちが、七色の槍を持ってドラゴンの群れに向かって行くのが見えた。
なっ!? なんで兵士たちがここに!? フォルン領で待機を命じたはず……!?
そんな俺の様子を察したのか、兵士の一人が俺の元へやって来て。
「命令を無視し、申し訳ありません! 後でいかなる処罰も受けます! これよりフォルン領兵士一同、アトラス様を援護いたします!」
「領主や隊長が戦ってるのに、見てるだけなんて御免ですぜ!」
「俺ら、これでも命張る覚悟はあります!」
兵士たちの叫びが聞こえる。
だが彼らではドラゴンにすら歯が立たない! 犬死になってしまう!
だが俺の懸念を兵士たちは吹き飛ばしていた。
兵士たちの七色の槍がドラゴンの手足を、首を跳ね飛ばしていく。
バカな!? フォルン領の兵士があんなに強いわけがないぞ!? 偽物か!?
フォルン領兵士? は七色の槍で、ドラゴンの身体をバターのように切り裂いていく。
ん? 七色の槍……まさか!?
「報告します! セサル様から伝言です! ミーは天才さ! 竜殺しの槍、求められたから作ったサッ! とのことです!」
「セサル!? あいつ何してんの!?」
「わかりません! 竜の鱗に対してのみ、極めて有効な刃を魔法で作ったと! 竜以外にはまともに刺さらないとのこと!」
竜殺しの槍だと? そんな槍があるならば、確かに兵士たちがドラゴンを倒しているのにも納得ができる。
そんな中で一体のドラゴンが兵士たちを突破して、俺達に向かってくる。
「防壁!」
バズーカを構えて迎撃しようとすると、ドラゴンの目の前に光の壁が出現した。
奴は壁にぶち当たって足が止まり、その隙に兵士に槍を突かれて絶命する。
叫び声のほうに目を向けると、ぽっちゃり気味の男が杖を構えていた。
……どこかで見覚えがあるような男は、俺達にドヤ顔を向けてくる。
「待たせたなっ! 切り札は最後にやってくるものだっ!」
「「「……どなた?」」」
俺とラークとカーマは声を揃えて尋ねる。
男は地団太を踏み鳴らした後に、大きく口を開いて。
「私だっ! 元カール領との戦いでお前を苦しめた、魔法使いのっ!」
「ああ……あの人かぁ」
「思い出した! 俺に瞬殺された魔法使いじゃないか! よく来たな! いないよりマシだ!」
「……誰?」
「ぐぎぎ……! この私を忘れるとは!」
元カール領との戦いで捕縛して、最終的に王都に引き渡した魔法使いか! そういやいたな!
ラークは元カール領との戦いにいなかったので、今も首をかしげている。
何故か分からないが援護に来てくれたらしい。腐っている魔法使いだ、一人力くらいにはなる!
「アトラス殿!」
「アァァァァァ!」
センダイとライナさんが俺達の元へ戻ってくる。
兵士たちのおかげでドラゴンの包囲から抜けられたようだ。
「好機でござる! 今の間にジャイランドを!」
「わかっている!」
2
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる