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レード山林地帯開拓編
第37話 巨人迎撃②
しおりを挟む俺達の前方にそびえるは巨人ジャイランド。
厄介だった取り巻きのドラゴンたちは、フォルン領兵士たちが抑えてくれた。
ここで全力をぶつけて倒す!
「全員、わかってるな! 足を狙え! 敵の動きを止めろ!」
「そこにアトラス殿の必殺策でござるな」
センダイの言葉に頷く。ジャイランドへのトドメは俺がさすと話している。
そのための攻撃手段もすでに用意した。【異世界ショップ】から購入するのに自分のポケットマネーでは足りなかったので、フォルン領の予算から拝借している。
決して横領ではない。繰り返すが決して横領ではない。勝手に拝借しただけだ。
攻撃手段と言っても兵器の類ではないが……威力? は折り紙付きだ。
「では拙者が先陣を」
「……センダイ、お前本当にあの巨人に立ち向かう気か? 魔法も使えないし無理しなくても……」
「ははは。防衛隊長を名乗っていながら、主君にだけ戦わせると? 拙者、最低限の義務は果たすでござるよ」
センダイは腰につけた剣の鞘に手をかける。止めてもムダなようだ。
「あいつが……あいつのせいで、私の金ガァァァァ!」
狂戦士状態のライナさんが空に咆哮する。その身体はドラゴンの血にまみれている。
そこらのホラー映画の怪物にも劣らない見た目だ。本来は美人なはずなのに。
センダイとライナさんがジャイランドに向けて突撃する。
だがジャイランドは二人を一切警戒していない。奴の視線は俺達……いやカーマとラークに釘付けだ。
打点がありそうな魔法使いに警戒をしている……思ったよりも知能が高いのか。
「ははは。拙者など眼中にないでござるか。ならば剣聖の一撃をお教えしよう……」
センダイは跳躍すると剣でジャイランドの太ももを切り裂く。その箇所からは血が噴き出し、巨人は悲鳴をあげた。
すげぇ。巨人相手だと爪楊枝みたいな剣なのに、ダメージを与えている!?
「死ね、死ね、シネェェェェェ!」
ライナさんは脛に飛び蹴りをぶち当てた。そちらも有効打であったようで、ジャイランドは少し態勢が崩れた。
あの二人やばいな……ビルほどの巨人相手に肉弾戦で通用してるし……。
そんな二人を援護するために、俺も大砲で照準をつけて発射する。
見事にジャイランドの腹部に直撃し、巨人は腹を両手で押さえる。
「燃やせ、燃やせ。灰塵と化せ。我が焔、現世で燃えざる物はなし」
カーマが左手を空に掲げると、上空に巨大な炎の槍が形作られていく。
遠く離れているのに熱波がここまで伝わってくる。
「凍てつき、溶けず、永劫凍土。我が手にあるは絶対零度」
ラークの目の前の地面から、巨大な氷の弓が生えあがる。
まるで芸術品のように光が反射して輝く弓には、氷の矢が充填されてジャイランドに向いている。
…………カーマの魔法の熱波で、氷の弓溶けないだろうな。
そんな懸念を知ってか知らずか、カーマとラークは詠唱を続けている。
俺は二人の詠唱の隙を突かれぬように、【異世界ショップ】からミサイルを購入する。
出現したミサイルは、すでにジャイランドに向けて発射されている。
見事にジャイランドの胸部に直撃して爆発を起こした。その反動で巨人はグラリと態勢が崩れた。
「これがボクの最強魔法! 煌王灼槍! 伝説の巨人! 覚悟っ!」
「零王氷塊」
カーマとラークの叫びと共に、巨大な炎槍と氷矢がジャイランドの顔に襲い掛かる。
「オオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!」
奴は両腕でそれらをガードするが、強力な魔法相手では無事ではすまない。悲鳴をあげながら衝撃で後ろに吹き飛ばされて尻もちをつく。
その衝撃で小さな地震が発生し、俺達は少しぐらついてしまう。
「わわっ……!?」
「尻もちで地震起こしやがって……だが!」
二人の最強魔法を受けた代償は大きい。ジャイランドの右腕は黒焦げに、左腕は凍り付いている。
致命傷ではないがかなりのダメージを受けたはずだ。今ならば機敏な動きはできまい!
「好機だ! 俺をジャイランドの頭上へ運んでくれ!」
「わ、わかった……任せて!」
「了……解」
カーマとラークは魔法を撃った疲れで肩で息をしながら、それぞれ俺の右肩と左肩を掴む。
そして飛行魔法を発動して、炎の羽と氷の羽を出現させると俺を持ったまま空へと飛び立つ。
「ウオオオオオオオオオォォォォォォ!」
ジャイランドは動き出した俺達に危機感を覚えたのか。足だけで器用に立ち上がり、逃げるような素振りを見せる。
そうはいかない! この戦いにどれだけ金をつぎ込んだと思ってるんだ!? 絶対に……絶対に逃がすわけにはいかない!
俺はリモコンを取り出して、【異世界ショップ】から購入しておいた小型ドローンを飛ばす。
ドローンはジャイランドの鼻の穴に突撃し、潜り込んで爆発を起こした。
これぞ急所爆撃作戦! ドローンに爆弾をしかけておいて起爆したのだ。
巨人だろうが何だろうが、生物である以上は体内は弱点だろう!
「ルオオオオオオオオオォォォォォォ!?」
つんざくような悲鳴をあげて、もだえ苦しむジャイランド。
追い打ちをかけるように大きく開けた口に、ドローンを潜り込ませて爆破!
声にならない悲鳴をあげてわめくジャイランド。学習したのかボロボロの両腕で顔を守る。
「小癪な! ならば次は尻の穴だ!」
「ひ、卑劣だよねこれ……?」
「卑劣というよりお下劣」
「だまらっしゃい! 勝てば官軍だ!」
カーマとラークのツッコミを華麗にスルーし、ドローンを操縦しジャイランドの足を完全に止める。
その隙をついて俺たちはジャイランドの真上を取る。
見下ろせば俺のドローンに怯えて、しゃがみこむ巨人。
あの姿勢ならば急にここから離れることは難しいだろう。
だがここで俺は致命的なことに気づいた。準備や対策に手間をとられた結果、重要なことを見逃していたのだ。思わず頭を押さえてしまう。
「…………しまった。失敗した……」
「お兄さん!? どうしたの!?」
カーマが心配そうに俺の顔を覗く。ラークも僅かに不安そうな表情を浮かべた。
本当に失敗だ。こんな状況で俺だけ……。
「……こんな晴れ舞台。俺も格好いい呪文を考えておけばよかった!」
「「さっさと撃って」」
「は、はい」
二人に叱られてしまった。地上を見て、センダイとライナさんが安全地帯に離脱したのを確認。
確認ヨシ! これで最後だ!
「ジャイランド! 自分よりも大きい物を見たことがあるか! 俺が教えてやる!」
俺は【異世界ショップ】からある物を購入して出現させる。その瞬間、周囲の地面に影が生じた。
それは巨大な鉄の塊。大海原を走る地球の産物。
異常なほどに巨大な船――タンカーであった。
異世界ショップで購入したものはわりと自由な場所に出現させられる。少なくとも自分の付近に出すのは可能だ。
バズーカとかは手元に出現させているし、空中では出せない道理はない。
俺達の視界をほぼ占領するタンカーが、大質量の鉄の塊がジャイランドに向けて落ちる。
「オオオオオオオオオオオオォォォォォ!!」
断末魔の悲鳴と共にタンカーは地面へと激突した。
それと共に地面が大きく揺れた後、周囲は完全に静かになった。
タンカーが鎮座した場所からジャイランドがはい出てくる気配はない。
死んだか死んでいないかは不明だ。だがこの大質量を持ち上げるなど不可能なはず。
つまり俺達の勝ちだ!
「す、すごい! すごいよ、お兄さん! こんな切り札があったなんて!」
カーマが勢いよく抱き着いてくる。俺はその笑顔に脂汗をかきながらドヤ顔で答えた。
……タンカーめちゃくちゃ高かったんだよな。勝ったはいいが代償はでかかった……。
ラークに目を向けると、彼女もこちらを見ていた。
「ありがとう」
「約束は果たしたぞ。これからは俺がこの国最強の魔法使いだ」
「うん……これなら一目瞭然」
ラークは巨大な鉄の塊に目を向ける。ジャイランドを祀る墓標のように鎮座するタンカー。
ものすごく自己主張の激しい建造物だ。俺が討伐した証拠として、これ以上のものはない。
単純な破壊ならばMOABなどの超強力な兵器を使う選択肢もあった。
だが俺が倒した主張するために、タンカーを落としたのだ。しばらく残しておいて、観光名所にでもするか……?
ジャイランドここに眠る。みたいな慰霊碑的に……。
「……約束って何?」
カーマが首をかしげる。どうやらラークは黙っていたようだ。
「俺がこの国最強の魔法使いになって、ラークを好きにす……」
「黙秘」
秘密を暴露しようとした俺を、ラークが平手打ちしてくる。
ここは空中である。俺は彼女ら二人に支えられている。
そこで片方が手を放して平手打ちすると、当然バランスは崩れるわけで……。
「「あっ」」
「ちょおおぉぉぉぉぉ!?」
二人から手放されて地面へと落ちていく!? やばっ!? だが甘いな! パラシュートを買えば!
俺はパラシュートを【異世界ショップ】から購入し、ことなきを……得なかった。
動揺していると脳裏にミーレの宣告が響く。「財布の中身、空だよ」と。
「ああああぁぁぁぁぁ!? 財布の残金がぁぁぁぁ……!?」
哀れに紐なしスカイダイビングを敢行させれた俺は、地表激突寸前で二人に救われてことなきを得たのだった……。
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