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レード山林地帯開拓編
第38話 勝利の代償
「し、死ぬ……死ぬかと……マジで終わったと思った……」
「ご、ごめん……」
「反省」
俺は地面に抱き着くように倒れていた。上空から落とされ、危うく墜落死しかけたのだ。
大地に足をつけることがこれほど幸せなこととは……。
次から空に上がる時はパラシュートを常備しよう……。
「アトラス殿、やったでござるな」
センダイが気絶したライナさんを片手で雑に抱えて走ってくる。
「ああ。これでジャイランドは倒した。レード山林地帯の一番厄介な奴は何とかなったな」
ジャイランドはレード山林地帯開拓に、絶対に立ちふさがる壁だった。
こいつを倒せたのは大きい。レード山林地帯には純粋に強力な魔物が多数いるので、まだまだ解決はしていないのが残念だが。
「後はジャイランドの素材が取れないのも辛いな。押しつぶしたから100gいくらのミンチ肉で売るしか……」
「アトラス殿。どうでもよいので勝ち鬨をあげて欲しいでござるよ」
センダイは俺に酒の入った木のグラスを渡してくる。他の兵士たちも皆、酒を持っていて準備万端だ。
……どこから用意したんだこいつら。
思わずため息をつくが、流石はへべれけ部隊だ。
「お前たちのおかげでジャイランドを討伐できた。命令に逆らってまで……」
「長いでござる」
「喋らせる気ないよな!? もう先に酒飲んだら!?」
「それはダメでござる。勝ちを宣言されないと、兵士たちは酒を飲めないでござる」
……お前いっつも飲んでるじゃん。と思いながらも言わないでおく。
俺はグラスを空に掲げると。
「俺達の勝ちだ! 好きに飲め!」
「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」
兵士たちが先ほどの戦いの時よりも大きく咆哮し、大酒会が始まった。
飲めや飲めやのドンチャン騒ぎだ。流石に食べ物は用意できなかったようで、酒を飲みたくっている。
「お兄さん、ドラゴンの肉を回収しないの? 腐るよ?」
「おっと、そうだな。高級品なんだっけ? 兵士たちに解体を……」
俺の目の前には、すでに出来上がった兵士たちしか映らなかった。
彼らも俺の声が聞こえていたようで、殺意を帯びた視線を向けてくる。言わずともわかる、酒の邪魔をするなと。
「諦めよう。俺も命は惜しい」
「お兄さんの魔法で回収すればいいんじゃないの?」
「……カーマさんや、何のことかな」
【異世界ショップ】の力はセバスチャン以外には説明していない。
カーマが買い取り機能を知っているはずがないのだ。彼女の目の前では、買い取りを避けていたし。
「お見通し」
「もう知ってるよ。お兄さんの力って魔法じゃないよね?」
「何を言っている? 俺はこの国最強の魔法使い……」
「ジャイランドを倒したほど大魔術使っても、息切れすら起こさないなんておかしいよ?」
カーマがケラケラと笑う。どうやら完全にバレていたようだ。
「構わない。魔法に見えるから」
ラークが小さな声で呟いた。つまり二人はこう言いたいのだ。最強の魔法使いは名乗ってくれ、ただし魔法使いじゃないのは知ってる。
ようは詐欺やってるの知ってるけど黙っておくね。
…………まあいいか。もうカーマとラークは他人とは思えない。
ラークにいたっては名目上フォルン領の御用商人だ。
俺は【異世界ショップ】の力を使って、周囲に散乱するドラゴンの死体のひとつを換金する。
財布の中が一気に膨らんでいくのを感じる。おお!? 我が空っぽの財布に安らぎが!
急いで中身を確認すると金貨が大量に入っていた。ドラゴンってそんなに高いのか!?
「ど、ドラゴンって買取価格おいくらくらい……?」
「超高級だからね。状態がよいなら、金貨百枚くらいはあるんじゃない?」
「……レード山林地帯って、金策にちょうどよいのでは!?」
ドラゴンが動く金塊に見えてきた。周りに死体で転がっているのは、動かなくなった金塊に見える。つまりただの金塊である。
これさ、こっそり全部換金してへそくりにできない? 周りは酔っぱらってる兵士どもだ。
カーマとラークは買収できる……いける! よし! こっそりと……!
「アトラス殿」
「違う! 違うぞ! 俺は決して横領しようなどとは!」
「……何の話でござるか? それよりも拙者はフォルン領に戻るでござる。ここにいない兵士たちを捕縛するでござるよ」
「……何で?」
酔っぱらって顔を真っ赤にしたセンダイに、怪訝な顔をしてしまう。
酔っぱらいが逮捕する側ってたち悪くないか? 取り締まられる側じゃないか?
「このフォルン領の一大事。命をかけるべき時に、ここに来ていない兵士は怪しい。間者の疑いありでござる」
「いやまあ……可能性は上がるだろうが、ビビッて来ない奴も多いのでは?」
センダイの意見は極論に感じる。確かにフォルン領をどうでもよいと思ってる間者は、こんな危険地帯にやってこないだろう。
だが伝説の巨人相手だ。純粋に戦いを拒否する者もいるだろう。そもそも俺は来なくてよいと言ったし。
センダイは含みのある笑みを浮かべると。
「ここで立ち上がれぬ臆病者は、間者でなくてもフォルン領に不要でござる」
「ひどくね?」
「兵士である以上、戦えぬ者は不要。拙者が選んだ者たちは、全員揃っているでござる」
センダイは酒瓶を口につけた後、空を見上げる。
「疑わしきは斬り捨てる。これが一番楽でござるよ」
「物騒すぎるだろ!?」
「まあ半分冗談でござる。その代わりに、極上の酒を大量に用意を」
センダイは俺に手を向けて、頂戴とばかりにハンドサインを送る。
いやこの流れで何故極上の酒を渡す必要が!? 首にする奴らへの退職金か?
「拙者ら、酒会を中断して戻るのでござる! その分、美味しい思いしないと損でござろう!」
この荒れ地に来てから最も心のこもった声で、センダイは叫んだ。
結局ドラゴン数体分の金貨が酒に消えた。しかもすでに兵士たちが持ってきた酒はなくなっていたらしく、兵士全員がフォルン領に帰っていく。
酒盗られただけだろこれ!? 中断したんじゃなくてお開きだったろ!?
「……俺さ、たまに酒樽に見られてるんじゃないかと思う時がある」
「ないか、じゃないよ。酒樽に見られてるよ」
「うがぁ!?」
俺は愛すべき主君じゃなくて、ただの酒樽に見られているらしい。
「大丈夫。ただの酒樽じゃなくて、愛すべき酒樽だから!」
「愛されようがされまいが酒樽だろうが!」
「まあまあ。それよりアイスちょうだい」
「ケーキ」
「俺は酒樽でもアイスクリーム製造機でもパティシエでもねぇ!」
頭を押さえて叫ぶ。おかしい、俺の評価はどうなっているんだ!?
体のいい自動販売機に見られているだろこれ!
カーマにアイス、ラークにケーキを渡しながら苦悩する。
「今後が大変」
「お兄さん、まずは王都に凱旋だよ。次に王との謁見をして、褒美をもらうと共に最強の魔法使いの称号も頂かないと」
「パレードか!? この国の英雄の凱旋だな!」
伝説の巨人を倒してこの国を救ったのだ。チヤホヤされてしかるべきだろう!
これだけ大変な思いをしたのだ、ご褒美欲しい!
「……うーん。あまり派手にしないほうがいいと思うよ」
「同感」
「何でだ!? 英雄だぞ!? この国の救世主だぞ!?」
乗り気でない二人に俺は叫ぶ。せっかく今まで貴族扱いされなかった俺が、英雄として扱われるチャンスなのだ!
今まで見下された分だけ、王都のボンボンどもを上から目線したいのだ!
「……ジャイランドが目覚めたのって、ボクたちも原因だと思う」
「よし。こっそりと王都に忍び込もう」
よく考えたら最悪のマッチポンプだ。国の救世主どころか、一歩間違えれば国を破滅に導く重罪人だった。
こっそりしていればバレないだろうか。
「大丈夫。倒したのは事実」
「あまり偉そうにしてなければ大丈夫だよ」
「そうか……」
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