【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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レード山林地帯開拓編

第44話 結婚式と不和の種

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 王城の大広間で、結婚式は無事に行われている。

 豪勢な食事がこれでもかと用意され、楽団が美しい音楽を奏でる。

 俺は挨拶に来る有象無象の貴族たちに辟易しながら、結婚式の様子を緊張しながら眺めていた。

 立食形式だが、話しかけられるせいで何も食べれていない……。

 今回の式は本当に贅を尽くした食事だけが出ているのだ。ドラゴン肉とかミノタウロス肉とか、王家ですら簡単には食べれないようなものが。

 ……俺がレード山林地帯で狩って来た肉が多いのは秘密だ。他にもアンパンやケーキ、そしてアイスまで提供している。

 会場に置いてあるアイスは溶ける対策として、冷やす専属魔法使いが常に冷気を保たせているくらいだ。

 なんとムダに贅を尽くしている……そこまでしてアイスをパーティーに出さなくても。

「アトラス様。どうされました?」
「……何でもない。しかしその口調はすごい違和感あるな」
「公的な場ですから」

 花嫁衣装のカーマの言葉に俺は軽口を返す。

 いつものお兄さん呼びが恋しい、気に入ってたのに……いやでも結婚してからもお兄さん呼ばわりっておかしいな?

 もしかして、お兄さんと二度と呼んでもらえない!? 俺の数少ない心の清涼剤がひとつ消える!?

「……公的な場が終わったら、いつものように戻ってくれよな」
「はい、そのつもりです」
「簡単に人は変わりません」
「やっぱり二人が敬語使ってるとムズムズする……」

 カーマとラークが敬語で話してきて、強烈な違和感を感じていた。

 公的な場だし、旦那を立てる妻を演じる必要があるのだろうが……。

 やっぱり普段通りがいいよな……さっさと結婚式終わらせたい。

 ちなみに彼女らのドレスは俺がプレゼントしたものだ。カーマは銀色を、ラークは紅色を基調にしたドレスをセサルに作ってもらった。

 彼女らのシンボルカラーをあえて、交換した形になっている。

 彼女らは互いに想い合ってるのだから、この結婚式には今彼女らが着ているドレスが相応しいと思った。

 気に入ったかどうかは怖くて聞いてない。

「この度はご結婚おめでとうございます」

 話しかけられた声に振り向くと、ワーカー農官候がほほ笑んでいた。

 この人、王の右腕っぽいんだよな。王との謁見時もいつも傍にいるし、世間でも懐刀と噂されている。

「ははは。最初にお会いした時は、まさかこんな田舎貴族が姫を嫁にするとは思わなかったでしょう?」

 この人と最初に会ったのは、元カール領とのいざこざ時だ。

 あの当時は俺が誰かすらも知らなかっただろう。それに俺が姫を嫁にするなんて予想できるわけがない。

 この俺自身がそんなこと想像してもいなかったのだから!

 だがワーカー農官候は首を横に振る。

「実はあの時点で、王は選択肢として考えてはいました」
「え?」
「王が嘆かれていたのですよ。カーマ様からの手紙がすごく熱烈で、おそらくアトラス殿に好意を抱いてると」
「えっ!? ちょっと待って!? その時はボクまだそんなことは……」

 カーマが顔を真っ赤にして、俺達の会話に入って来た。

 その様子が可愛くて思わず笑ってしまう。

「ふーん。あの時から俺が好きだったのかー」
「ち、違うよ!? あの時はいい人くらいの感情……だった……はず……?」

 焦っていて敬語を忘れているカーマ。これ以上恥ずかしがらせると、魔法が暴発して顔から火を出しそうなのでやめておこう。

「それにアトラス殿は才能ある魔法使い。しかも治める領地は芋を開発と、本人も領地も将来の期待値が高かった。なのでその将来性を見極めるためにクーラ様を出されたのです」
「ああ……それでラ……クーラが御用商人なんてことで……」
「なかなか苦しい理由だったのは認めます」

 ワーカー農官候は愛想笑いを浮かべた。

 俺から言わせれば、なかなかどころではない。滅茶苦茶苦しい理由だったぞ。

 こんな無口な御用商人がいるわけがない。どう考えても配役ミスマッチだ。

「それで様子見していたところ。クーラ様も王都へ戻った時の王への報告に、少しずつ熱が入ってきました。それで王は再びお嘆きに」
「こもってない」

 ラークがボソリと呟いた。その顔はほんの少しだけ赤みがかっている。

 なにこれ面白い! この裏話聞くの楽しいな!?

「それでどうなったのですか? 是非お話を最後まで!」
「調査で出向かせたクーラ様まで、アトラス殿の毒牙にかかってしまった。それに気づいた王はカーマ殿とラーク殿を私室に招き入れて確認したのです。すでにせいこ」
「わーわー! ワーカー農官候!? お兄さんに用事があるんじゃないかな!?」
「本来の目的を果たすべき!」

 カーマとラークが、俺とワーカー農官候の間に入ってくる。

 感情が高ぶって魔法が制御しきれていないのか、カーマの頭の上に小さな炎。ラークの足もとの床が少し凍り付いている。

 これ以上は限界のようだ。この話は来週にでも、ワーカー農官候をフォルン領に招いて聞くとしよう。

 こんな面白い話、聞き逃すなんてあり得ないからな! カーマとラークを同席させて最後まで聞いてやる!

「そうですね。本題ですが、実はベフォメットの王子が貴方に顔合わせをしたいと」
「パスで」

 思わず俺は即答していた。ベフォメットの王子と言えば、双子のどちらかを貰う予定の奴だった。

 このおめでたい席で恨み言など聞きたくない。

「ダメです。アトラス殿はこの国最強の魔法使いとして、他国に顔を広げてもらわねば。それが姫様二人と約束し継いだ責務です」

 ワーカー農官候は微笑みながらも有無を言わせぬ声音だ。

 しかも俺がこの国最強の魔法使いになると、二人に宣言したことも知っている。

「二人の姫君は、ものすごく興奮してお話ししておりました。アトラス殿がどれほど恰好よく、自分たちの責務を引き取ってくれたと、それはもう熱がこもりすぎて……」
「「「その話はやめましょう!」」」

 ……カーマとラーク、包み隠さず報告してるんだな。かなり恥ずかしいんですけど!?

「……だって黙ってるわけにもいかなかったから。お父様や国の協力なしで、すぐに最強の魔法使いの座を渡すなんて無理だもん……」
「内密は無理」

 ワーカー農官候は俺達を見て腹を抱えて爆笑していた。この人、意外といい性格してるな!?
 
「まあそういうわけですので。責務果たしてください」
「……わかりました」

 心の中でため息をつきながら、ワーカー農官候についていく。

 パーティーの貴賓席――他国の重鎮が集まっている場所に連れられた。

 衣装の雰囲気が違うので、他国の人なのはわかる。だがそれ以外は一切分からない。

 誰一人として顔など知らないのはマズイよな……いや待て、よく考えたらレスタンブルクの貴族もぜんぜん顔知らないか。

 なら国内も国外も変わらないから大して問題ないか。

「皆々様、この者が我がレスタンブルク最強の魔法使い。アトラス・フォン・ハウルク子爵です! どうかお見知りおきを!」

 ワーカー農官候が大きく声をあげて、俺の紹介を始めた。

 周囲の視線が俺に集中する。え? これ何? 俺何かしたほうがよいのか!?

 マジックみたいに鳩でも出したほうがよいのか!? 今の俺なら種も仕掛けもなしに出せるぞ!?

「ほう。お前が私から妻を勝ち盗った者か」

 一人の金髪の男が俺の前に歩いてきた。言葉を聞くにカーマかラークが嫁ぐ予定だったベフォメットの王子だろう、王冠をこれ見よがしにかぶっている。

 クズ王子だろうが、一応は王族相手なので頭を下げて礼をした後。

「盗ったのではありません。もらい受けました」
「ははっ、よい。我が名はロイ・クルエル・ベフォメットだ、覚えておくがよい」

 ベフォメット王子は俺の肩に手を叩くと。

「姫を愛した者から引きはがし、褥で弄ぶ時の悲鳴は極上だろうからね」

 ……なんだこいつ。想像よりヤバイ奴っぽいぞ!? 

 カーマが自分の四肢を切断して犯す想像をしていた、と言っていたがこれマジな奴だ。

 こんな奴に二人を渡すわけにはいかない。

「私の妻たちです。これからもずっと」
「よいよい、そうでなければ。期待しているぞ、レスタンブルク最強の魔法使い」

 気さくな笑みを浮かべる王子。この顔だけ見れば屈託のない麗しの美少年だ。

「では我が国の最強もご紹介しよう。エフィルン」

 王子の言葉に従うように、少女が俺の前に立った。鮮やかな緑色の髪を肩にかかるくらいに伸ばしている。

「このエフィルンは我が国の元最強魔法使いを瞬殺した。カーマ姫とクーラ姫にも勝てる算段だったが、レスタンブルク国の最強魔法使いも変わってしまったか」

 俺はエフィルンと紹介された少女を見る。薄手のドレスで彼女のプロポーションが強調されている。

 胸は結構大きい。おそらく中の上。……カーマとクーラでは二人がかりでも歯が立たない。惨敗だ。

「エフィルン、自己紹介を」
「エフィルンと申します」
「軽い挨拶もしなさい」
「最強の魔法使いどうし、今後もよろしくお願いします」

 エフィルンという少女は無表情のまま、淡々と自己紹介をする。

 なんか不思議な子だと思いながら、握手のために手を差し出す。すると彼女はクソ王子のほうを向いて。

「どうすればよいでしょうか?」
「握手しなさい」

 王子の声に従ってエフィルンは俺の手をとった。……かなり握力があるようで、俺の手から嫌な音が出る。

 しばらくするとようやく解放されて、何とか手は無事で済んだ。

「うむ。今日は其方と知り合えてよかった。おそらく今後に世話になると思う」
「…………その折はよろしくお願いします」
「ははは。嫌われたものだ。では貴重な時間をありがとう。君と姫君の幸せを願っている」

 王子はさわやかな笑顔と共に去っていった。エフィルンもそれについていく。

 ……見た目と雰囲気は滅茶苦茶爽やかだなおい。

 他にも色々とあったが無事に結婚式は進んで、俺と姫たちの指輪交換に差し掛かった時。

「意義あ、うっ」
「おっと!? どうしましたぞ、バフォールのアデル様? どうやらアトラス様と姫君たちの美しさに興奮し過ぎたご様子! 救護班を!」

 ヒットマンセバスチャンがアデルを見事に眠らせていた。

 しかもセバスチャンはアデルを運ぶフリをして抱えると。

「おおっと! バランスを崩しましたぞ!」

 わざとこけたフリをして、アデルの身体を思いっきり床の絨毯に叩きつけた。

 間違いなくわざとである。柔道家顔負けの一本背負いだった。

 この期におよんでマジで邪魔してくるのか。バフォール領は売国奴確定だ。
 
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