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レード山林地帯開拓編
第49話 新築屋敷
しおりを挟む「アトラス様! フォルン領の人口が一万人を超えましたぞ!」
「……随分増えたなおい」
執務室でサボるフリをしていたところ、セバスチャンからの報告に思わず驚いてしまった。
元々百人程度の集落だったのに、いつの間にか百倍の人口になっていた。
元カール領地やレード山林地帯付近も合わせての人口だろうが、それにしても凄まじい人口増加率である。
その影響は数字だけではない。俺の屋敷の周りは大きく風景が変わっていた。元々住んでいた者たちの家が、綺麗に建て直されている。
他にもチラホラと近くに屋敷が建築されたりと、村から町への移り変わりの途中だ。
町になればフォルン領の土地の価値も上がるし、税収も増えるのでどんどん発展させて欲しい。
「フォルン領もド田舎から都会になるか。素晴らしいことでしかないな。どんどん好きに建てさせろ、建築ラッシュだ」
「それでですね。この領主屋敷よりも立派な屋敷もいくつかあって、ここがかなり貧相に見られております。外からの客人がとてもここが領主屋敷とは思えなかったと……」
「前言撤回。この屋敷以上の建物は禁止だ!」
領主屋敷が見劣りするような上等な建物を作るんじゃない!
俺の住んでる場所が相対的にしょぼく見えるだろうが!
「アトラス様! それは貧相な建物以外は建築禁止と同義でございます!」
「何だと!? この領主屋敷が貧相だと言うのか!? この親父の親父の代に作られた、古き良き屋敷が!?」
「あなた、この建物は屋敷と言うには無理があると思うよ」
「…………アイスあげるから黙ってなさい」
カーマに現実を突き付けられるのを避けるため、ソフトクリームを手元に出現させて渡す。
機嫌よさそうにソフトクリームを食べ始める我が妻。これで現実を直視するのは免れたな!
「屋敷じゃない」
「ラーク……やめろ。可哀そうな者を見る目をやめろ!」
……認めよう。この領主屋敷、屋敷と言えるか微妙なラインの小さな建物だ。
部屋も執務室、食堂、客室二室、寝室、応接間のみ。
実はカーマとラークが未だに客室で寝泊まりしている状況。
町のそこそこ大きな商館のほうがよほど大きいレベルだ。俺がいつも執務室にいるのも、そこ以外の居場所がないという事実もある。
「大きい家がよいとは言わないけどね。王城は外に出るのも疲れるし」
「すぐ外に出れる便利」
「やめろ。王城とこの屋敷を比較するな! みじめになるだろうが!」
……仮にも国のお姫様をこんなところにずっと住ませるわけにはいかないか。
祖父よ、すまぬ。俺もこんなところって言ってしまった。
「ボクは別にいいけどね。たまに床がギシギシ鳴って面白いし」
「何か化けて出そうで面白い」
「ここはお化け屋敷じゃないぞ!?」
お貴族様にはこの屋敷はお化けに見えるらしい。ダメだ、これは俺の沽券に関わる。
周囲の評判が駄々下がりする前に対策を取らねばならぬ。こないだ王からも貴族としてコネを作れと、呼び出し喰らって怒られたし……。
「立て直しだ! この屋敷を宮殿にしてやる!」
「ええー……せっかくすごい屋敷なのに。ボロボロで今にも潰れそうなのに、魔法でもかかってるかのように持ちこたえてるし」
「それで潰れたらシャレにならないからな!? ボロ屋敷が潰れて圧死とか貴族の死に方じゃないぞ!?」
そんな死因、あまりにも惨めすぎる。少し力をいれて床を踏むと、ギシギシという音が床や天井から聞こえる。
……これやばいな。地震が起きてとかならわかるが、下手すればちょっとした強風でも危ういかもわからん。
「ちなみにあなたの考える貴族らしい死に方って何?」
「民衆の反乱で殺されるとか?」
「それもまともな死に方じゃないと思うよ……」
カーマの言葉に思わず首をひねる。そうだろうか?
「このセバスチャンにお任せください! 屋敷を補強しますぞ! すぐに大工を呼んできますぞ! ええすぐに! 大工の神業をもってすれば!」
セバスチャンがそう言い残して部屋から飛び出そうとする。
……どうやらこの屋敷を建て直すのが嫌らしい。セバスチャンからすれば昔からの仕事場、愛着があるのだろう。だが――。
「セバスチャン、神業の大工は神じゃない。この屋敷はもう補強で何とかなるレベルではない」
「アトラス様! この屋敷には先々代様と先代様の血、汗、涙とその他もろもろがしみ込んでおります! いやもう思い残した心なども詰まっております!」
「それもうマジのお化け屋敷では?」
思い残した心が詰まってたら、化けて出てくると思う。てか血がしみ込んでるのも少し怖い。
「そんな屋敷を潰すなど! ならばこのセバスチャンも一緒にお潰しください! この屋敷と共に散り、元カール領主の枕に化けて出ましょう!」
「……まだ元カール領主恨んでたのか」
セバスチャンの必死の叫びに戸惑ってしまう。そこまでこのボロ屋敷に愛着があるとは……。
「じゃあこの屋敷残してセバスチャンが住むか?」
「ごめん被りますぞ」
即答である、そこは住むと言えよ。まあいいか、セバスチャンがワガママを言うのは珍し……いや言いまくってる気がするな?
土地は余ってるのでこの屋敷は残して、他の場所に新たな屋敷を建てるとするか。
俺は【異世界ショップ】から屋敷カタログを出現すると、カーマたちに広げて見せる。
「この写真にある屋敷の中から好きなの選んでくれ」
カーマとラークはしばらく首をかしげながらカタログを見る。だが途中で納得したかのように顔をほころばせる。
どうやらお気に召す屋敷があったようだ。ここは夫としてよいところを見せる時だ。
たぶん中世風の屋敷だろうが、今の俺の財力ならばどんな屋敷でも買える!
「アイスの屋敷!」
「ケーキの屋敷」
……どんな屋敷だよ。そんな屋敷あるか!
「誰が童話の屋敷を言えと!? カタログから選べと言ってるだろ!」
「だって描いてるよ?」
カーマたちに返されたカタログの表紙を見ると。
――ヘンゼルとグレーテル。
ミーレめ! 意図的にカタログと絵本を送り間違えやがったな!
こんなお菓子の家なんぞをカーマとラークに見せたら……ぜったいうるさくなるってわかっててやったな!?
「ちょっとミーレに殴り込んでくる」
「誰か知らないけど暴力反対。それよりアイスの屋敷出して」
「ケーキの屋敷」
すぐさま逃げようとしたが逃げ切れなかった。カーマとラークに両手を抱き着かれて、動きを止められてしまった。
おのれミーレ……! ドラゴンの死体を大量に送って、身体中血まみれになったのをまだ根に持っていたか……!
いや衣装を妄想でドレスに変えて、シンデレラにしたことに対する意趣返しか!?
くっ、思い当たる節が多すぎて何が理由で嫌がらせされたのか分からん!
何だかんだでお菓子の家を諦めさせつつ、新しい屋敷を【異世界ショップ】で購入することに成功した。
元々の屋敷から歩いて五分ほどの、二階建ての大きな屋敷である。
我ながら奮発したので評判もよいだろうと思っていたのだが。
「ムダに広いでございますぞ。前のがよろしかったかと」
「もう少し狭いほうが……部屋あまりすぎてるし」
「ひっく。メイドを一定数雇わないと屋敷の掃除は無理でござるなぁ」
かなり不評だった。悲しい。
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