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レード山林地帯開拓編
第50話 バフォール領のバカ息子
しおりを挟む俺は一通の手紙をどうやって処分するか、新しい屋敷の執務室に座って考えていた。
「アデルからの面会希望手紙だが、切り刻むのと燃やす以外の処分方法はないか? 出来れば呪い返しできる手段がいい」
「そんなのないよ……それと一度会った方がいいんじゃない? 向こうの狙いもわかるし……無礼なことがあったら、それを理由に手がうてる」
「勧善懲悪」
カーマが少し悪い顔をしている。
バフォール領主のゴミ息子たるアデルからの面会希望手紙。
会う必要性など皆無というか、売国奴確定の連中相手だ。さっさと叩き潰したい敵である。
そもそも俺達に対して何度も邪魔をしてきて、よくもまあ手紙なんぞ出せたものだ。
「逆に手紙の内容が気になりますぞ。バカにするためにここは読んでみましょうぞ」
「……まあ確かに」
セバスチャンの提案に納得し、封をといて中の手紙の文を見る。
「なになに……このアデル様が弱小貴族のフォルン領に出向いてやる。国賓として招け」
俺の読み上げた内容に皆が絶句した。
すげぇ、何で歓迎されると思ってるんだあのゴミ。しかも偉そうにしてるのも意味不明だ。
アデルはまだバフォール領主ではない。俺は子爵でありあのゴミよりも階級的に偉い。
更に言うなら今のフォルン領は弱小貴族ではない。むしろ俺とカーマとラークがいるので、戦力だけならレスタンブルク国最強である。
「ここはあえてこの屋敷に招待して、もう捕らえてしまってはいかがですぞ?」
「…………この屋敷の初仕事がゴキブリホイホイか」
せっかくの豪邸なのに、初の客がアデルという名のゴキブリなのは嫌だな……。
売国奴確定なのでさっさと捕らえてしまいたい。カーマに心を読ませることで証拠にするか。
俺個人としてもあいつには王都で学校に通っていた時、散々虐げられた恨みもある。
「よし。アデルはご乱暴に招待しろ」
少しくらい殴ったり蹴っても許されるだろう。あの売国奴相手ならば。
セバスチャンも俺と同意見のようで頷くと。
「ははっ。手足四本はご愛敬ということですな」
「いや五体満足で招待して……」
どうやらセバスチャン、初めて王都に向かった時のパーティーのことをかなり根に持ってるようだ。
「あの者はカーマ様とラーク様を……アトラス様の幸せを奪おうとした者ですぞ! このセバスチャン、今生の道づれでも構いませぬ!」
「あんな奴相手にやめとけ……それに捕らえたらかなりの罰を与えられるだろう、国から」
隣国ベフォメットに協力しているのだ。下手をすれば一族郎党縛り首すらあり得る。
わざわざ俺達が手を下す必要はない。国の法の下に処罰してもらえばいい。
「打ち首の後に縛り首ですな!」
「無理だろそれ」
そんなこんなでアデルに手紙で「命の保証はしないがそれでもよいなら、かかってこい」と返信したところ。
「ははっ。君には随分と釣り合わない屋敷だな。全財産費やしたのか、可哀そうに」
「俺達と同じ屋敷なんか、まともに建てられるわけないもんな!」
「表だけで裏はハリボテなんじゃね!」
アデルと愚かな仲間たちが、馬車に乗って俺達の屋敷の前にやって来た。
……あの手紙で来るとかこいつら頭おかしいのでは?
正直来ないなら来ないほうがいいかなと、思って手紙を書いたのに。
しかもうちの屋敷をハリボテと抜かしよる。
……確かに一部ハリボテでもよかったかも。部屋余りまくって使わないし、維持費が無駄に高い。
どうせ見栄を張るためだけの屋敷だ。
「よく来たね。今日はさっさと帰ってね」
「不歓迎」
カーマとラークも、アデルに対して嫌な顔をしている。
だが奴は意にも介さず二人に近づこうとする。それを嫌ったのかカーマが炎の壁を出して、アデルの進行を妨げた。
「おおっ!? 火!?」
「それ以上近づかないでよ」
カーマは冷たい視線をアデルに向ける。流石のバカも危険を察知したのか、身震いした後に少し後ろに下がった。
「ではこちらへ。最後の晩餐にご案内いたしますぞ」
だいぶ険悪な雰囲気が温まったところで、セバスチャンがアデルたちを屋敷の食堂へと案内した。
各自が席につき豪華なテーブルで食事が始まった。なおカーマとラークは、アデルとかなり距離を離して対面している。
ちなみに食事はちゃんとした物を俺が用意した。セバスチャンに任せたら、見ただけで気持ち悪い虫の活け造りとか作ってたから……。
【異世界ショップ】で購入した総菜を並べたので、味は悪くないはずだ。
から揚げや春巻き、フライドポテトなどをむさぼるように喰らうアデルたち。
「まあ私たちを歓迎する最低限といったところか。フォルン領ならこれが限界だろう」
アデルはしっかりとこちらへのイヤミも忘れない。ある意味すごい。
奴はしばらく食事を楽しんだ後、カーマに下卑た視線を向けると。
「これは姫君へのお土産です。フォルン領では決して買えないような高級菓子ですので、是非カーマ様にお食べ頂きたいと」
そう言いながらアデルは小さな箱を取り出した。
決して買えない高級菓子ねぇ……今のフォルン領の財力知らないんだろうな。
流石に今のうちなら高級菓子だろうと買えるはずである。買った後しばらく緊縮財政になりかねんが。
「いらない」
「そうおっしゃらず。なんならこの私が口移しで」
「はっはっは。そろそろ黙れ」
俺はバズーカ砲を手元に出現させて構えるが、アデルはそれを見て小ばかにしたような笑みを浮かべた。
「おいおい。このバフォール領次期領主に対して、何をするつもりだい? わかってるのか? 君が百人いようが、私の価値の足もとにも及ばないのを」
「お、おう……」
アデルのあまりに意味不明な言動に気持ちがなえてしまった。
しかし結局アデルの狙いが分からない。何か仕掛けてくると思ったのだが、普通に飯を食っているだけである。
後はカーマに菓子を献上しただけである。何しに来たんだこいつ。
「ささっ。私の献上した菓子をお食べください。天にも昇る美味ですので」
「……じゃあ頂きます。セバスチャンさん、受け取って」
セバスチャンがアデルから小箱をひったくって、カーマに手渡す。
彼女は小箱から丸薬のようなものを取り出し、しばらく観察した後に口にいれた。
それを見た瞬間、アデルは勢いよく立ち上がった。
「食べたな! これで姫は私の思うがまま! カーマ! この屋敷を焼き払え!」
いきなり意味不明なことを言い出すアデル。謎の命令をされたカーマはしばらく黙り込んだ後。
「やだよ」
アデルに対して舌を出して拒否した。
「なっ、なっ!? 何故だ!? 洗脳薬を飲んだはず!」
「飲んでないよ。飲むフリしただけ。貴方なんかの贈り物なんて食べるわけないよ」
カーマが至極もっともなことを口にする。当然である、あんなゴミの贈り物など口にしたら腐る。
……てか少しは食べさせる工夫しろよ。あまりに堂々としすぎて、まさかここで毒的なものを混入させはしないだろと思ってしまった。
……しかし洗脳薬ってなんだ? すごく物騒な単語が出てきたな。
「洗脳薬ね……詳しく話を聞かせてもらおうか」
「ち、ちが……違う! 洗浄薬だ! 口の中を綺麗にする効果が……!? な、なんだ!? 足が動かな……」
「まだその言い訳が通じると思ってる性根は、ある意味感心するよ」
すでにアデルと愚かな仲間たちは、ラークの氷魔法で足もとを凍らされていた。
これで逃げることもできない。さて……こいつらどうするかな。
「これで後は煮て焼くだけですな! どうしました? アトラス様?」
「ああ、いや。アデルはともかくとして、バフォール領主がここまで雑な策を打ってくるかと思ってな」
王城でのバフォール領主からは、性格の悪い陰湿厄介な貴族の印象を受けた。
嫌らしい戦法で相手をハメてほくそ笑むタイプ、対戦ゲームで嫌われるタイプの人間だ。
そんな奴がここまで馬鹿な仕掛けをしてきたのに違和感がある。
そんな俺の疑念に正解を出すかのように、扉が開かれてセンダイがゆっくりと中に入って来た。
俺を見つけると酒瓶をに口をつけた後。
「アトラス殿、大変でござる。隣領のナイラ領から軍が向かってきてるでござる」
「やっぱりかよ、くそっ!」
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