【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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レード山林地帯開拓編

第52話 自滅

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 バフォール軍のダイナマイトに爆弾を投げ込む行為。

 もといライナさんを怒らせたバフォール軍は、本来味方だったはずの彼女一人に壊滅。

 ライナさんが殴りや蹴りで衝撃波を発生させれば、敵兵は紙切れのように吹き飛ぶ。

 まさに無双ゲーのような状況であった。

 しかもライナさんは片手にアデル――敵軍の大将の息子を片手で持ったまま暴れていた。

 攻撃に対してアデルを盾にしようとしていたので、敵軍はライナさんに攻撃すらできない。

 更にアデルを振り回して攻撃まで始める始末。もはや誰も止められなかった。

 バフォール軍からすれば悪夢以外の何者でもないだろう。

 本当に鬼神のごとき恐ろしさであった。長年熟成した恨みを晴らさんがごとくの暴れっぷり。

 あの時のライナさんは、下手すればジャイランドとタイマンできるのではと思ったほどだ。

 積もり積もった恨みの力は恐ろしいと言うべきか……ある意味、それほどまでに恨ませたアデルらがすごいかもしれない。

 ライナさんが血まみれになりながら、一時間ほどで敵軍総勢千名をなぎ倒した後。

「オオオオオォォォォォォ!!!!」

 空に雄たけびを上げた後、力尽きたようで地面に倒れた。その寝顔は穏やかであった。

 ……何はともあれ勝ったな! 完全に敵の自滅だが勝ちは勝ちである。

「バフォール軍の兵士を全員捕縛しろ。怪我と恐怖で戦えないとは思うが……」
「ここまで酷い全滅初めて見たよ……普通は軍の三割がやられたら撤退するし……」

 カーマが倒れた兵士たちを見て身震いする。

 敵軍は撤退できなかった。何故なら撤退を指示するはずの大将が、武器にされていたからである。

 敵の兵士たちの鎧はでこぼこになっているならまだマシ、布切れのように千切れているものも多数見受けられる。

 鉄の剣や盾がへし折れてるのも散らばっていて意味不明である。たまに拳や指の跡が残った盾もある。

 ……ライナさんの攻撃防ごうとして、盾を殴られたら掴まれて捻じ曲げられたのだろう。

 想像すると恐ろしいな、夢に出そう。

 わが軍の兵士たちが気絶した敵軍の兵士を縛り始める。

 たまに目覚める敵兵士もいたが、震えだして俺達に助けを求める始末だ。
 
「ははは、人間の戦った跡地とは思えぬでござるなぁ」

 センダイが戦場跡地を肴に酒を飲み始めた。

 この場所は無数のクレーターとヒビに覆われている。

 ライナさんが地面を殴るたび、地面が裂けて敵に襲い掛かったからな……。

「アトラスさまー、アデルは虫の息ですが生きておりましたぞ。よかったよかった、これで縛り首後に打ち首できますな」

 セバスチャンがボロ雑巾になったアデルを背負うと、俺の元に投げ飛ばしてきた。

 奴の上等な服はもはや原型を留めておらず、ほぼほぼ裸の状態である。

 身体中アザだらけだが……敵兵士の鎧に何度も叩きつけられたことを考えれば軽傷か。

「むっ!? カーマ様とラーク様の前でなんと破廉恥な恰好を! 失せるですぞ!」

 更にセバスチャンに投げ飛ばされるアデル。あまりに理不尽極まりない。

 だが不意打ちにだまし討ちとされたことがされたことなので、擁護する気も起きない……。

「アトラス殿、すぐにバフォール領に攻め込むでござるか? 防衛隊長としてそれは愚策と申告する。ここは苦戦した兵士たちを労うべきでござろう」

 センダイが真面目な声音で俺に提案してくる。だがお前の性根はわかっているぞ!

「お前ら何もしてないだろ!? 酒飲む権利があると思うか!?」
「何を!? 拙者ら、大量の酒をしんどい思いして持ってきたでござるよ!? この苦労を考えるでござる!」
「誰が酒持ってこいと言った!?」
 
 センダイが巨大な酒樽を抱え上げて聞いてくる。

 奴の後ろには人の背丈よりも巨大な酒樽が十個以上並んでいた……どれだけ持ってきてるんだ。

 いやもう完全に勝利の宴するつもりだろ。兵士たちもジョッキを構えて、俺を殺気立った目で見ている。

 言わなくてもわかる。飲まさなきゃ殺すと目が語っている。

 センダイの目も語っている、飲まさなきゃこの樽を投げつけるぞと。

 俺は思わずため息をつく。ダメだ、酒飲まさない選択肢がない。

 諦めて兵士たちに対して宴会開始を宣言することにした。

「……敵の自滅によって楽に勝てた。だが今後はバフォール領と戦うことに」
「長いでござる」
「お疲れ様でしたー」

 てきとうな俺の号令と共に酒を飲み始める兵士たち。

 今回は労いの言葉なんてないしな。あるとしたら敵軍の兵士に対してだろう、ご愁傷様でしたと。

「いやぁ、今回は楽だったべ。何もしてない」
「ただ酒は大歓迎だべ。多めに持ってきてよかったなぁ」
「センダイ隊長が言ってたもんな。今日はたぶん俺達の出番ないから、物資よりも酒持っていけと」

 センダイは戦いにならないと予想していた?
 
 俺は兵士たちの雑談を聞いて、一升瓶を一気飲みしてるセンダイに視線をぶつけると。

「はっはっは。千人程度なら、アトラス殿たちの魔法でカタがつくと予想したまでのこと。まさか自滅するとまでは思わなかったでござるが」

 顔を真っ赤にしながら地面に座り込んで酒盛りするセンダイ。

 実際、ライナさんがいなかったとしても俺とカーマとラークだけで勝てたろう。

 兵士たちは戦わせたら怪我や戦死の危険があるので、たぶんほぼ交戦させなかったはず。

「なら最初から兵士いらないと言えよ!」
「ただ酒飲みたかったでござる! ゴチでござる」

 清々しく宣言するセンダイ。ダメだこの防衛隊長。

「ところであなた。バフォール領への対応はどうするの?」

 グラスを持ってちょぴちょぴと酒を飲むカーマ。

「すぐに攻め込む……と言いたいところだが、そう簡単ではないよな」
「兵士の数が違いすぎるからね。いっそボクたちだけで攻めたほうがいいかもね」

 ボクたちとは俺とカーマとラークのことだ。

 確かに俺達だけで攻撃したほうがよいかもしれない。フォルン領の軍をバフォール領に進軍させることはできない。

 それはつまりフォルン領をもぬけの殻にすることになる。兵士の絶対数が足りないのだ。

 バフォール領は隣国ベフォメットに対する防衛線だったので、大量の兵士を雇用している。

 奴らは隣国と内通してるので、今までベフォメットに向けていた兵士を全て俺達に……といったことも可能だろう。

 下手に攻め込んで軍対軍の状況に持ちこめば、フォルン領が蹂躙される恐れがある。

 俺とカーマとラークだけ抜けても、フォルン領の守りはたぶん問題ない。

 危なくなったらすたこらさっさと転移で逃げ帰ることもできるしな。

「バカ息子に話を聞く」

 ラークがとある方向を指さした。

 そこには……セバスチャンに埋められようとしているアデルがいた。

 セバスチャン!? そいつまだ埋めたらダメだろ!?

「セバスチャン!? 何やってる!?」
「ご安心を。服を着てないので、顔以外埋めるだけですぞ。カーマ様とラーク様の御前で素っ裸など無礼ですぞ」

 セバスチャンはクレーターを利用して、シャベルでアデルに土をかけていく。

 全身埋めれば醜い裸体を見なくて済むとの考えだろうが、服くらい貸してやればいいのに……。

「もし不快な言動があれば、そのまま埋めればよいのでお得ですぞ」
「お前の発想にたまに狂気を感じるんだが」
「お褒め頂きありがとうございます。このセバスチャン、アトラス様のためなら悪鬼羅刹となりましょうぞ」
「褒めてないが!?」

 そう話している間に顔以外全身を土に埋められたアデルが爆誕した。

「はっ!? なんだこれは!? どうなっている!?」

 奴も流石にこの騒ぎには気づいたようで、意識を取り戻したようだ。

 首だけ必死に動かしているが身体は微動だにしない。全身埋められてたらそうなるわな……。

「お前の軍は負けたんだよ。見事なまでに全滅したぞ」
「ば、バカな!? 貴様、何をした! どんな卑怯な手を使ったんだ!」
「いや何もしてないんだけど……」

 首だけで必死に叫ぶアデル。卑怯な手どころか、何一つ手を出してないのである。

 てかこいつ、ライナさんに散々振り回されたの覚えてないんだな。

 あまりに恐ろしい体験をすると、防衛機能が働いて記憶を抹消する類のやつかな。

「まあそれはいいよ。バフォール領の状況を教えてもらうぞ」
「ふざけるな! さっさと解放しろ! この貧乏領地の無能きぞぶへっ!?」

 叫んでいるアデルに対して、セバスチャンが土がぶっかけた。

 口に土をいれてしまったようでアデルはぺっぺっとツバをはいた後。

「ぺっ! おえっ! 何をする! えっ、ちょっ、やめっ」

 抗議をするアデルを無視するかのように、無言で土をかけ続けるセバスチャン。

 その表情は満面の笑みを浮かべていて、俺は思わず背筋が凍った。

 あの顔は…………殺る気だ!

「アトラス様、このまま埋めますぞ。どうせ大した情報など持っておりませんぞ」
「脅してもムダだ! このバフォール領主息子たる私を、処分などできるわけが……」

 怒るアデルもその殺意に気づいたのか、しばらく口をパクパクさせた後。

 顔に恐怖の色を出して悲鳴をあげた。

「ちょっ、許して!? 許してくださいぃぃぃ! 何でも話しますからぁ!?」
「セバスチャン! ステイ! ステイ!」

 必死に懇願するアデルを後目に土をかけ続けるセバスチャン。

 あまりにかわいそうなので止めたところ。アデルは信じられないほど従順になって、全てを話してくれた。

「いやぁ……セバスチャンの脅しはすごいなぁ」
「あれは間違いなく脅しではなかったでござろう」
「……だよな」
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