59 / 220
バフォール領との争い
第55話 今後の対策
しおりを挟む「これよりバフォール領対策会議を始める」
フォルン領主要メンバーが執務室に集まり、会議を行うことになった。
議題はもちろんバフォール領のことだ。あそこの領地を野放しにするわけにはいかない。
「ことはもはや領主同士の争いに非ず。ここは国に任せたいところでござるがなぁ」
センダイが酒を飲みながら愚痴る。気持ちはわかるが今回は国に動かれても困るのだ。
もしレスタンブルク国の軍がバフォール領を攻めれば、ベフォメット国が自分たちに対する侵略行為だと抗議してくる。
そうなれば大義名分を得たと嬉々として参戦するのは間違いない。
もう全面戦争確定だ。俺がエフィルンとかいうヤバイ魔法使いと戦わされてしまう。
実際のところ、ヤバイのかは不明だが……冷静に考えるとあのイカれた王子が嘘つくとも思えないんだよな。
最悪を想定して動いた方がよいだろう。
「今のフォルン領の兵士は約千人……戦力的にはバフォールに劣るか」
「案ずるなでござる。フォルン領の兵士は千騎当千の猛者でござる」
「それただの一般兵じゃん」
元々領民の軍かつレード山林が開拓されてから急募して増やした軍だ。それを考えれば、一般兵の標準でもマシなほうか。
「唯一の欠点は酒豪が足りないことでござる。これでは隊として纏まりがなく」
「酔っ払いが纏まっても酒盛りしか始まらんだろうが!」
「否! 宴会も行うでござる!」
「なお悪い!」
センダイと口論をしていると、セバスチャンが咳払いをしてきた。
こんなくだらない話をするなということだろう。
「アトラス様……このセバスチャン、うれしゅうございます!」
「なんで!?」
「兵士が酒盛りなど……まるでムダ飯くらいの兵ではありませぬか! こんな兵がフォルン領に存在して生きていけるなど!」
どうやら変なスイッチが入ってしまったようだ。しばらく放置しておこう。
「それでな。ちょっと考えたんだが、バフォールに潜入して内情を探ろうと思う」
泣きわめくセバスチャンを放置し、他の面子に視線を向ける。
現状はバフォール領の情報は手に入れる手段がないのだ。
レスタンブルクを裏切ることを領民が知ってるかも分からない。おそらくあの腐れ領主が情報統制をして知られてないだろうが、勘のいい領民なら何か感づいてるかもしれない。
あわよくばバフォール領で内乱を起こすのも選択肢だ。
皆も同意見のようでうなずいている。
「そういうわけで密偵を出してくれ。それなりに腕が立って、庶民に紛れ込めるタイプの目立たない奴がいい。誰か心当たりは?」
俺の言葉に思い当たる節があるのか、皆がこちらを見てくる。
フォルン領も大きくなって部下も増えたからな。皆、それぞれ推薦できる人材がいるようだ。
「センダイ、お前が最適な者を選べ。これは危険手当とバフォール領への路銀だ」
「承知」
俺はセンダイに金貨が五十枚くらい入った袋を手渡す。
バフォール領への潜入。危険な任務だからそれなりの報酬をやらねばならない。
しかしフォルン領も本当に大きくなったものだ。密偵を任せられる人材ができた。
そのうち暗部とか作りたいな、格好いいし。
センダイは金貨の入った袋を受け取った後に、金貨を十枚ほど袋から取り出して懐にしまうと。
「ではアトラス殿、密偵の役目をよろしく頼むでござる」
「……は?」
金貨袋を俺に返してきた。
「いやおかしいだろ!?」
「それなりに腕が立って、庶民に紛れ込めるタイプの目立たない者……アトラス様が最適でござる!」
「俺は貴族で領主だぞ!? どう考えても庶民に紛れ込んだらダメだろ!?」
「安心するでござる。服さえ合わせればとても貴族に見えぬゆえ」
センダイの言葉に他の皆も一斉に頷いた。いやそれはあんまりじゃないかな君たち!?
「いやいやいや!? この貴族の高貴さあふれる俺がそれは無理が!」
「大丈夫だよ。ボク、お兄さんに初めて会った時も貧乏商人だと思ったし」
「せめて貧乏は外して!? 商人だけにして!?」
バカな……詐欺なのは魔法使いだけなのに……貴族は本物なのに。
思わず崩れ落ちそうになるが何とか踏みとどまる。まだだ! 俺は貴族だ!
「しかしアトラス殿は少し無個性すぎて怪しいでござるな。個性なさ過ぎて逆に密偵と怪しまれかねないでござる」
「「「確かに」」」
「俺泣いていい?」
俺は床の絨毯に崩れ落ちた。違うだろ、俺が無個性なんじゃない!
お前らが個性強すぎるんだよ!
変人たちは俺を除け者にして、わいわいと潜入方法を相談し始めた。
「ボクと姉さまも行ったほうがいいよね? 心を読めるボクと、いざとなったら逃げれる姉さま」
「能力的にはそうでござるが……お二人の高貴さは少々目立ちますなぁ。庶民の服でも貴族と気取られかねぬ」
「俺は? 俺も庶民の服でも貴族にバレるよ? 赤子の時から貴族として生きてきたから、そういった匂い的な何かが染みついてるはず!」
「そんなものは微塵も感じないサッ!」
俺の人生が全否定されてしまった。
「ふむ……ではお二人は娼婦として、腐れ外道奴隷商人のアトラス様に買われた哀れな少女で行くでござる。娼婦が姫などとは流石に思うまい」
「俺が腐れ外道奴隷商人なことに無理があると思うぞ!」
これ以上変な設定を植え付けられる前に、センダイたちを止めようとする。
すると誰かが俺の肩を叩いてきた。見るとセバスチャンが穏やかな笑みを浮かべている。
やはり最後に信じられるのは昔からの忠臣だ。他の奴らはまだフォルン領に仕えて日が浅いから、俺の魅力に気づいていないのだ。
「ご安心を、アトラス様」
「セバスチャン……やはりお前だけは忠臣だ。俺をずっと見てきたからこそ、無理があるとわかってくれ」
「アトラス様ならばやれます」
もうやめてっ! 俺の人生を虚無にしないで!?
ショックに打ちひしがれている間に、なんか色々と決まったらしい。
俺は品のない上等な服を着せられ、鞭を装備させられたあげく。
「もっと腰をいれて叩くでござる!」
「何で鞭の練習なんぞ……!?」
「奴隷商人と言えば鞭でござろう!」
「てかお前、さっき金貨チョロまかしただろ!」
「手数料でござる!」
「詐欺会社もびっくりの中抜きやめろっ!」
屋敷の庭で鞭で地面を叩く練習をさせられていた。
……未だかつて、これほどムダと思った練習はないぞ……っ!
「音だけムダに高貴でござる! もっと下品な音を!」
「どんな音だよ!?」
何故かセンダイに鞭の指南を受け続けさせられていると、屋敷からカーマとラークが出てきた。
二人とも汚れた薄い布一枚の服を着ていてなんというかエロい。
「うぅ……これ恥ずかしいよ……もう少し布地増やしても……」
カーマが恥ずかしそうに自分の身体を見ている。実際、ちょっと頑張ったら胸の小さな谷間が見えそう……!
「いやいや! やっぱり奴隷と言えばこの服だろ! 下手に誤魔化すとバレる!」
俺は必死になって二人の衣装変更を阻止することにした。
「いやでも……あなた、ボクたちのこんな姿を他の人に見せたいの?」
「安心しろ。俺以外でカーマたちをエロい目で見たやつは、その目に鞭る」
俺は鞭で地面を叩いて下品な音を鳴らした。
何事も練習してみるものだ、思わぬ形で役に立つ。
「それでござる! その音こそが下品な性根を表す、クズ奴隷商人の音そのもの! もはや教えることはないでござる!」
どうやらクズ奴隷商人の心意気もついでに会得したようだ。
「「…………」」
カーマとラークに白い目で見られているが、俺の心は晴れやかだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる