【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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バフォール領との争い

第55話 今後の対策

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「これよりバフォール領対策会議を始める」

 フォルン領主要メンバーが執務室に集まり、会議を行うことになった。

 議題はもちろんバフォール領のことだ。あそこの領地を野放しにするわけにはいかない。

「ことはもはや領主同士の争いに非ず。ここは国に任せたいところでござるがなぁ」

 センダイが酒を飲みながら愚痴る。気持ちはわかるが今回は国に動かれても困るのだ。

 もしレスタンブルク国の軍がバフォール領を攻めれば、ベフォメット国が自分たちに対する侵略行為だと抗議してくる。

 そうなれば大義名分を得たと嬉々として参戦するのは間違いない。

 もう全面戦争確定だ。俺がエフィルンとかいうヤバイ魔法使いと戦わされてしまう。

 実際のところ、ヤバイのかは不明だが……冷静に考えるとあのイカれた王子が嘘つくとも思えないんだよな。

 最悪を想定して動いた方がよいだろう。

「今のフォルン領の兵士は約千人……戦力的にはバフォールに劣るか」
「案ずるなでござる。フォルン領の兵士は千騎当千の猛者でござる」
「それただの一般兵じゃん」

 元々領民の軍かつレード山林が開拓されてから急募して増やした軍だ。それを考えれば、一般兵の標準でもマシなほうか。

「唯一の欠点は酒豪が足りないことでござる。これでは隊として纏まりがなく」
「酔っ払いが纏まっても酒盛りしか始まらんだろうが!」
「否! 宴会も行うでござる!」
「なお悪い!」

 センダイと口論をしていると、セバスチャンが咳払いをしてきた。

 こんなくだらない話をするなということだろう。

「アトラス様……このセバスチャン、うれしゅうございます!」
「なんで!?」
「兵士が酒盛りなど……まるでムダ飯くらいの兵ではありませぬか! こんな兵がフォルン領に存在して生きていけるなど!」

 どうやら変なスイッチが入ってしまったようだ。しばらく放置しておこう。

「それでな。ちょっと考えたんだが、バフォールに潜入して内情を探ろうと思う」

 泣きわめくセバスチャンを放置し、他の面子に視線を向ける。

 現状はバフォール領の情報は手に入れる手段がないのだ。

 レスタンブルクを裏切ることを領民が知ってるかも分からない。おそらくあの腐れ領主が情報統制をして知られてないだろうが、勘のいい領民なら何か感づいてるかもしれない。

 あわよくばバフォール領で内乱を起こすのも選択肢だ。

 皆も同意見のようでうなずいている。

「そういうわけで密偵を出してくれ。それなりに腕が立って、庶民に紛れ込めるタイプの目立たない奴がいい。誰か心当たりは?」

 俺の言葉に思い当たる節があるのか、皆がこちらを見てくる。

 フォルン領も大きくなって部下も増えたからな。皆、それぞれ推薦できる人材がいるようだ。

「センダイ、お前が最適な者を選べ。これは危険手当とバフォール領への路銀だ」
「承知」

 俺はセンダイに金貨が五十枚くらい入った袋を手渡す。

 バフォール領への潜入。危険な任務だからそれなりの報酬をやらねばならない。

 しかしフォルン領も本当に大きくなったものだ。密偵を任せられる人材ができた。

 そのうち暗部とか作りたいな、格好いいし。

 センダイは金貨の入った袋を受け取った後に、金貨を十枚ほど袋から取り出して懐にしまうと。

「ではアトラス殿、密偵の役目をよろしく頼むでござる」
「……は?」

 金貨袋を俺に返してきた。

「いやおかしいだろ!?」
「それなりに腕が立って、庶民に紛れ込めるタイプの目立たない者……アトラス様が最適でござる!」
「俺は貴族で領主だぞ!? どう考えても庶民に紛れ込んだらダメだろ!?」
「安心するでござる。服さえ合わせればとても貴族に見えぬゆえ」

 センダイの言葉に他の皆も一斉に頷いた。いやそれはあんまりじゃないかな君たち!?

「いやいやいや!? この貴族の高貴さあふれる俺がそれは無理が!」
「大丈夫だよ。ボク、お兄さんに初めて会った時も貧乏商人だと思ったし」
「せめて貧乏は外して!? 商人だけにして!?」

 バカな……詐欺なのは魔法使いだけなのに……貴族は本物なのに。

 思わず崩れ落ちそうになるが何とか踏みとどまる。まだだ! 俺は貴族だ!

「しかしアトラス殿は少し無個性すぎて怪しいでござるな。個性なさ過ぎて逆に密偵と怪しまれかねないでござる」
「「「確かに」」」
「俺泣いていい?」

 俺は床の絨毯に崩れ落ちた。違うだろ、俺が無個性なんじゃない!

 お前らが個性強すぎるんだよ! 

 変人たちは俺を除け者にして、わいわいと潜入方法を相談し始めた。

「ボクと姉さまも行ったほうがいいよね? 心を読めるボクと、いざとなったら逃げれる姉さま」
「能力的にはそうでござるが……お二人の高貴さは少々目立ちますなぁ。庶民の服でも貴族と気取られかねぬ」
「俺は? 俺も庶民の服でも貴族にバレるよ? 赤子の時から貴族として生きてきたから、そういった匂い的な何かが染みついてるはず!」
「そんなものは微塵も感じないサッ!」

 俺の人生が全否定されてしまった。

「ふむ……ではお二人は娼婦として、腐れ外道奴隷商人のアトラス様に買われた哀れな少女で行くでござる。娼婦が姫などとは流石に思うまい」
「俺が腐れ外道奴隷商人なことに無理があると思うぞ!」

 これ以上変な設定を植え付けられる前に、センダイたちを止めようとする。

 すると誰かが俺の肩を叩いてきた。見るとセバスチャンが穏やかな笑みを浮かべている。

 やはり最後に信じられるのは昔からの忠臣だ。他の奴らはまだフォルン領に仕えて日が浅いから、俺の魅力に気づいていないのだ。

「ご安心を、アトラス様」
「セバスチャン……やはりお前だけは忠臣だ。俺をずっと見てきたからこそ、無理があるとわかってくれ」
「アトラス様ならばやれます」

 もうやめてっ! 俺の人生を虚無にしないで!?

 ショックに打ちひしがれている間に、なんか色々と決まったらしい。

 俺は品のない上等な服を着せられ、鞭を装備させられたあげく。

「もっと腰をいれて叩くでござる!」
「何で鞭の練習なんぞ……!?」
「奴隷商人と言えば鞭でござろう!」
「てかお前、さっき金貨チョロまかしただろ!」
「手数料でござる!」
「詐欺会社もびっくりの中抜きやめろっ!」

 屋敷の庭で鞭で地面を叩く練習をさせられていた。

 ……未だかつて、これほどムダと思った練習はないぞ……っ!

「音だけムダに高貴でござる! もっと下品な音を!」
「どんな音だよ!?」

 何故かセンダイに鞭の指南を受け続けさせられていると、屋敷からカーマとラークが出てきた。

 二人とも汚れた薄い布一枚の服を着ていてなんというかエロい。

「うぅ……これ恥ずかしいよ……もう少し布地増やしても……」

 カーマが恥ずかしそうに自分の身体を見ている。実際、ちょっと頑張ったら胸の小さな谷間が見えそう……!

「いやいや! やっぱり奴隷と言えばこの服だろ! 下手に誤魔化すとバレる!」

 俺は必死になって二人の衣装変更を阻止することにした。

「いやでも……あなた、ボクたちのこんな姿を他の人に見せたいの?」 
「安心しろ。俺以外でカーマたちをエロい目で見たやつは、その目に鞭る」

 俺は鞭で地面を叩いて下品な音を鳴らした。

 何事も練習してみるものだ、思わぬ形で役に立つ。
 
「それでござる! その音こそが下品な性根を表す、クズ奴隷商人の音そのもの! もはや教えることはないでござる!」

 どうやらクズ奴隷商人の心意気もついでに会得したようだ。

「「…………」」

 カーマとラークに白い目で見られているが、俺の心は晴れやかだった。
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