【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

文字の大きさ
77 / 220
ベフォメット争乱編

第73話 どちらが強い?①

しおりを挟む

 ベフォメット王城の個室。王子が優雅に紅茶を飲んでいた。

 そしてその隣には皿に山のように積まれたマシュマロを食べているエフィルン。

 王子はそんな彼女を見て少し辟易したような顔を浮かべる。

「……それ飽きないかい? 確かに美味しいが甘すぎて」

 エフィルンは首を横に振ると黙々とマシュマロを食べ続ける。

 ため息をつく王子。そんな彼らの話に割って入るように、個室に兵士が入ってくる。

「報告します。フォルン領のテンサイ強奪は失敗に終わりました」
「そうか。では失敗した関係者を追放してフォルン領に送ってくれたまえ」
「はっ! わかり…………はっ? え、えのあの何故フォルン領に……?」

 兵士は王子の言葉に条件反射で返事したが、内容が理解できずに困惑する。

 それを見た王子は微笑を浮かべると。

「そのほうが面白いだろ?」
「は、はぁ……ですが実行犯は全員捕まりましたので……すでにフォルン領にいますが」
「ならその家族でいいよ。お前たちのせいで罪なき者が家も職も失ったと手紙を添えてね」
「…………しかしその者達が受け入れてもらえるとは思えませんが」
「そうだろうね。フォルン領は受け入れないだろうから、他の場所に逃げる前に処分しておいて」

 王子はケラケラと楽しそうに笑う。その様子に兵士は恐怖を覚えたようで。

「はっ! すぐに行います!」

 兵士はそう言い残すと逃げるように部屋を出ていった。

「今回は防がれたようだけどまだいくつか仕掛けはある。あの男は果たして無事に切り抜けられるかな?」

 王子は愉快そうに笑みを浮かべた後。

「エフィルンを追い返すのにこんな高価な菓子を大量に渡したんだ。結構なダメージになってるだろう。次はもっと直接的に被害を出す策だし、戦う前にフォルン領が滅んでしまうかもね」

 そう言いながらマシュマロの山からひとつ摘んで口に入れた。

 実際は超お徳用業務マシュマロパックで購入し、総額金貨一枚であることを知る由もない。

 更にアトラスのせこい抵抗によって、全て同じ味のマシュマロにされている嫌がらせも知る由もない。




~~~~~~





 テンサイ盗難事件の翌日。

 俺がフォルン領の防衛のため要所に対して――テンサイ畑やコショウ畑や屋敷の風呂などに、バッテリーつきの監視カメラを設置していると面白い噂話が聞こえてきた。

 魔法使いの双子姫であるカーマとラーク。元最強とうたわれた少女たちだが……どちらが強いのかと。

 確かに気になるところではある。娯楽の少ないフォルン領では、ゴシップ話として申し分ない。

 最近のトレンドのようでいたるところでこの噂話が聞こえてくる。

「強いのはカーマ様じゃね。以前にドラゴン焼いてるの見たけど、あんな大きな炎出すのやばすぎだよ」
「ラーク様もかなりヤバイぞ。以前に山のように積んだ肉を全て氷漬けにしてたの見たぞ」
「氷は炎に弱い。これ魔法の常識ですよ……こんなことも分からず噂するとは。相性を考えればカーマ様一択」

 周囲の評価を聞く限りではカーマが少し優勢な雰囲気だ。

 だがラークの氷は生半可な炎では溶けない。それは俺が身をもって、本当に身をもって知っている。

 氷漬けにされるとなかなか溶けないんだよアレ……。以前に首から下を氷漬けにされた時は、【異世界ショップ】に転移してミーレに火炎放射器で頑張って溶かしてもらった。

 そんなことを考えながらも漫画の続きを読みに屋敷の執務室へ戻ると、セバスチャンが待ち構えていた。

 ……隠していた漫画がバレた!? いや違うな、それならセバスチャンは悪鬼羅刹と化して右手に斧を持っているはずだ。

 俺は極力平常心で執務室の自分の席につくと。

「ど、どうしたセバスチャン? 俺は決してサボってなどなく真面目に働いてるぞ」
「ええはい。実は我が孫のことなのですが……」

 セバスチャンの孫。先日のテンサイ盗難事件でついでに誘拐された可哀そうな少女だ。

 まだ会ったことはないが、すでに俺の面接に合格済でフォルン領で働くことが内定されている。

 つまりは完全なる汚職コネ採用である。生涯をフォルン領のためドブに捨てたセバスチャンの願いだ……せめてこれくらいはしてやらないと俺が辛い。

「申し訳ありません。先日の誘拐のショックでまだ寝込んでおりまして……!」

 セバスチャンが頭を下げてくる。……本当に誘拐のショックなのだろうか。

 もっと他のことな気がするなぁ……。

「ゆっくり身体を休めるように伝えてくれ。無理して働く必要はないから」
「ははっ! ありがとうございます! 明日には地を引きずってでも連れてきてご挨拶させますゆえ!」
「ゆっくり休ませろと言ったところだが!?」

 セバスチャンは嵐のように執務室から去っていった。

 …………セバスチャンの孫だから鉄人だと思っていたが、実は身体が弱いのだろうか。

「……無理やり連れてこられる前に、お見舞いに行くのもありかもな」
「ボクもそう思う」

 …………いきなり足もとから声が聞こえてくる。

 机の下を覗くとカーマとラークが猫みたいに隠れていた。

 かわいい……じゃなくて何やってるんだ。

「……いやあの、セバスチャンさんが急に部屋に入って来たからつい」
「緊急避難」
「セバスチャンは鬼か何か?」
「あはは……ちょっとこないだのセバスチャンさん怖かったから」

 カーマが遠い目をしている。

 先日の殺戮者セバスチャンは、カーマとラークに恐怖心を植え付けていたようだ。

 正直あれは俺も怖かった。ハリウッドの特殊メイクの化け物よりも迫力が……特に生々しさがやばかった。

 生々しいというか完全自然素材の血による、紛れもない本物なのだが。

「セバスチャンさんのお孫さんが寝込んでるのって、誘拐が原因じゃなくてセバスチャンさんが怖かったからじゃ……」
「それ以上いけない」

 俺は慌ててカーマの言葉を遮る。

 その線が極めて濃厚だがタブーだ。セバスチャンは必死に、それはもう相手を必ず死に追いやるように頑張ったのだ。

 領民たちから死に物狂いで情報を集め、恐ろしい脚力で馬車に追い付き、盗賊を悪鬼羅刹もかくやとぶっ潰した。

 その必死の救出劇の結果が孫に怖がられるなど涙を禁じ得ない。
 
「いいか。セバスチャンに真実を伝えるのは禁止だ。孫は盗賊に捕らえられた恐怖で体調を崩した、いいな?」

 カーマとラークが俺の言葉にコクコクとうなずいた。
 
 これでセバスチャンの中では、自分は孫のヒーローのままだろう。

 実際は化け物、何なら最凶の悪役に見られていてもおかしくないが知らぬが仏だ。

 しかしこの話題はあまりよくないな。話の流れを変えるか……しかし何の話を……。

「あー……そうだ。今の領内でお前たちのどちらが強いかが噂になってるんだが」
「「えっ?」」

 カーマとラークは互いに顔を見合わせた後。

「ボク(私)」

 二人は同時に口を開く。互いに「えっ」と声を漏らして少し驚いた顔をした後。

「姉さまは確かに強いけど、ボクは炎の魔法使い。氷は溶かせるからボクが勝つよ」
「氷の魔法は炎も凍てつかせる。私が勝つ」

 再び同じタイミングで合わせ鏡のように言葉を告げてくる。

 見ていて微笑ましいが……いつまで机の下にいるつもりだろうか。

「ねえあなた、ボクが勝つと思うよね?」
「アトラス、私が勝つ」

 ……絶妙に返答に困るやつ来たなこれ。正直に答えてもよいが……ここはお茶を濁そう。

「どっちもか……」
「「誤魔化したら怒る」」

 濁せなかった。濁ったお茶で誤魔化すのではなく、清い透き通った水を出せとお達しされてしまった。
 
 まだ魔法の優劣でよかったかもしれない。これでどちらのほうが可愛いとか言われたら、怒られるところだった。

「…………魔法の実力は極めて拮抗していて、優劣も甲乙もつけがたい。だがその上であえて豆から油を搾るかのように無理やり」
「「結論を言って」」
「…………ラークかな」

 俺の言葉にラークが少しだけ自慢げな表情を浮かべる。対してカーマは不満そうにしかめ面だ。

「何で姉さまなの! 何で判断したの!」

 カーマが机の下から乗り出して、俺の服を引っ張ってくる。

「……被キル数」

 判断基準はそれだけである。ラークには毎朝起こすたびに氷の魔法を食らい、何度も凍り付けにされてきた。

 その恐ろしさは骨の髄まで染みついている。思い出したら寒さで身の毛がよだつ。

 カーマはその言葉に首をかしげた後、ポンと手をついて。

「じゃあボクもあなたを火で炙ればいいんだね」
「笑いながら処刑を宣告するのやめてくんない!?」
「冗談だよ。でもこれで優劣つけられるのは納得いかないよ! ボクのほうが強い!」
「私」

 ラークも机からはい出てくるが、互いに強さを譲る気はないようだ。

 こうなるとだいたいのオチも見えるから困る。いくら言い争おうが解決などするわけがないなら、行うことはひとつしかない。

「姉さま、決闘だよ! ボクが勝つから!」
「受けて立つ」

 …………こうなるよなぁ。正直この二人の決闘を見届けるとなると命がいくらあっても足りない。

 たぶん互いに最強魔法を撃ちあったら、その余波で俺は人知れず死んでいる。

 …………巻き込まれる前に逃げるか! 俺は二人に背を向けて即座に走り出そうとしたが……。

「どこ行くの?」
「見届け人がいないと決闘できないじゃない」

 俺の足はすでに床と一緒に氷漬けにされていて、更に進行方向には火の壁が展開されている。

 ここまで連携取れて仲もいいのに、何でどちらが強いかをはっきりさせたがるんだ!

 互角でいいじゃん! 最強の二人でいいじゃん! 

 もう逃げるのは無理だ。ならばせめて…………俺が得する方向にもっていこう。

「わかった! だがこれでは面白くない! 負けたほうは罰ゲームだ! 負けたほうはしばらく屋敷の食事を作ること!」

 いつも俺が用意して味気ないし、一度くらい妻の手料理を味わってみたかった。

 そんな軽い気持ちで言った、すごく軽度な罰ゲームのはずなのだが……。

「うう……絶対負けられない。負けたら……」
「必勝」

 先ほどよりも遥かにすごい気合で、カーマとラークは互いににらみ合っていた。

 周囲に吹雪が吹き荒れて火花が飛び散る。明らかに感情の高ぶりによる魔法の漏れで、すごい必死さを感じてしまう。

 …………もしかして二人とも料理作れないのだろうか。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...