78 / 220
ベフォメット争乱編
第74話 どちらが強い?②
しおりを挟むフォルン領の街から少し離れた荒れ地。
かつてジャイランドを討伐した伝説として語り継いで欲しい地。
その伝説の候補地は大勢の人でごった返していた。人々は巨大な円を作って中央で向かい合った二人の少女を見ている。
簡潔に言うとカーマとラークの決闘がこの地で行われることになり、フォルン領の民衆が観戦しに詰めかけてきたのだ。
かなりの人数の民衆が集まってきている。この領地は暇人が多すぎる。
警備兵としてフォルン領の兵士たちも連れてきている。ここまで人が集まると何かトラブルが起きそうだからだ。
そして俺は何故か実況担当の役割を振られて、簡易テントに作った放送席でセンダイと一緒に座っている。
マイクや質の悪いスピーカーも用意させられるし、中央に円が作られてるしで運動会である。
実況担当の役割を振られた理由は俺が魔法使いと思われているから。だが残念ながら魔法使い詐欺である。
解説できるのはラークに凍らされた時の体験談くらいではなかろうか。
骨の髄まで凍り付いた時の感想とかなら話せる……悲しいことに。
だが実況役になってしまった以上はやるしかない。俺の話術で何としてもごまかしてやる!
何を話す!? カーマとラークのバストサイズか!? 話してどうする!?
「…………センダイ、この勝負どう見る?」
……すでに話すことが思いつかないので、さっそく相方に話を振ることにした。
「そうでござるなぁ。拙者としては互角……いや少しラーク殿有利に見える」
もちろんセンダイはすでに出来上がっている。酒瓶両手にマイクだけ机に置いて話しているのだ。
机の下には大量の缶や酒瓶に酒のつまみ。完全に居酒屋中継である。
しかしラークが有利と見ているのか。フォルン領民たちの間ではカーマが優勢だった。
「ラークのほうが有利な理由は? 俺としてはカーマのほうが相性で有利と考えているが。炎なら氷を溶かせるし」
「確かに相性はカーマ殿が有利。だが誤差の範囲と考える。一騎うちとなれば魔法の使い方や戦術も勝敗に大きく影響を及ぼすが、その点はラーク殿が優れていると思うでござる」
センダイの言うことはもっともだ。1ターンごとに殴り合うRPGではないのだから、使える魔法の質が同じなら戦い方次第で大きな差がつく。
だがラークのほうが戦闘センスが上な理由はよくわからん。
俺が首をかしげているとセンダイは酒瓶を口につけて。
「ラーク殿は経験を積んでいるでござる。毎朝毎朝、変な動きでかく乱してくる変な敵との経験を」
「誰が変な敵だ!」
毎朝あの惰眠姫を起こすための俺の決死の戦いを馬鹿にするんじゃない!
ラークの魔法攻撃のパターンを探して頑張ってるんだぞ! 最近は日ごとにパターン変えてくるんだぞ!
「アトラス殿は他人の弱みに付け込むのに天性の才を感じるでござる。弱みをついてくる相手との戦闘経験の多さは強みになる」
「俺を間接的にけなすのやめろ」
そんなくだらない小話をしていると、向かい合っていたラークとカーマに動きが見える。
「姉さま、ボクが勝つからね!」
「負けない」
二人も臨戦態勢に入ったようで周囲に火柱が噴き出たり、地面が凍ったりと大災害をもたらしている。
そろそろ試合開始をアナウンスしないと暴発しかねんな。
「よし! 戦闘開始!」
俺の叫びと同時に周囲に凄まじい煙が巻き起こり、何も見えなくなってしまう。
これはあれか。炎が氷を溶かして水蒸気になったのか。
先ほどから水が蒸発するような音が周囲に響いているが、白い煙がぜんぜん消えない。
このままでは現在音声のみで実況しております、状態になってしまう。
そんなことを考えていると突風が発生して周囲の煙が晴れていく。
「ミーの身体は常に世界に丸見えさっ!」
セサル変人が謎ポーズをとっていた。奴が風を魔法で起こしたらしいが目に毒なので、カーマたちのほうに視線を向けると。
「流石姉さま! でもこれはどう! 焔の園、開かれし焼却の摂理!」
カーマが呪文を唱えると、炎がラークの周囲に出現して輪のように囲む。
「絶氷の霧鏡」
ラークの紡いだ言葉と共に周囲の炎が凍り付いた。炎って凍るのか!?
更に氷と炎の応酬が繰り広げられる。巨大な炎を撃ちだせば氷の壁がそれを防ぐ。
氷の礫が発射されればそれを飲み込むように炎の柱が出現する。
俺は二人の一挙一動に目が離せないでいた。彼女らの魔法の威力は凄まじくまるで天変地異のごとくである。
自然の前では人など一般人など塵芥がごとくだろう。
……つまりどちらかが少しクソエイムすると、周囲の民衆に当たって大惨事になる!
思ったよりヤバイぞこれ!? 誰だよこんな安全性皆無の試合許可したやつ!?
「センダイ。この試合、中止にしないと周囲の安全やばくない?」
「はっはっは。今更言ったら余計にパニックでござるよ。まあまずは酒を一杯」
「飲んで現実逃避しろと!?」
しまった! ファンタジー作品とかでよく魔法使いの大会とかあるから大丈夫だろと、そんな感じのノリで考えていた!?
あの民衆たちも命がけで見ていたのか! バカだろ!?
「安心するでござる。何かの時のために暴発の魔法使いを呼んでいるでござる」
「誰か知らん上に安心できる要素がない!?」
「あ、違った。防壁の魔法使いでござる」
「……あいつ、あの二人の攻撃防げんの?」
俺の言葉にセンダイは何も答えずに酒を飲み続ける。ダメそう。
そんな俺の焦りを気にせず、カーマたちは大魔法バトルを繰り広げている。
「はあ……はあ……流石姉さま。でもこれは防げる!? ボクのとっておきだよ!」
「切り札を使う」
どうやら互いに手はほぼ出し尽くしたようで。全力全壊の魔法を撃ちあうっぽい。
…………さて酒でも飲むか。
「燃やせ、燃やせ。灰塵と化せ。我が焔、現世で燃えざる物はなし」
カーマが左手を空に掲げると上空に巨大な炎の槍が形作られていく。
「凍てつき、溶けず、永劫凍土。我が手にあるは絶対零度」
ラークの目の前の地面から巨大な氷の弓が生えあがる。
互いにジャイランド相手に繰り出した必殺魔法を撃つようだ。
そんな本気出さなくてもいいと思うんだ……もう勝敗じゃんけんで決めてもいいと思うんだ。
俺は諦めながら酒瓶片手に見物していた。後は野となれ山となれ塵となれだ。
いざとなったら俺の切り札で止めてやる……止められるかなぁ。
「煌王灼槍!」
「零王氷塊」
叫びと巨大な炎槍と氷矢が発射されて衝突する。互いに食い合うようにその姿が消えていき、大量の水蒸気と共に完全に消滅した。
「ミーのうんたらかんたら」という言葉と共に水蒸気が晴れると、カーマとラークは互いに地面にペタンと座り込んでいる。
魔力を出し尽くしたようで動けなくなったか。
「もう魔力尽きちゃった……流石姉さま」
「……カーマも」
どうやら彼女らの実力は完全に互角のようだ。
まあ何はともあれよかった……周囲に被害がなく無事に終わって……。
「アトラス様! 大変でございます! 盗賊の集団が!」
「え?」
セバスチャンの報告で周囲を見回すと、北のほうに薄汚れた服を来て武装した集団がいる。
確かにあれは盗賊にしか見えない。百人ほどいるがカーマやラークがいれば瞬殺……しまった! 今はラークとカーマが魔法使えないのか!
よりによってこんな時に……いやこれは明らかに狙われたか。
こんな荒れ地に大勢の盗賊が自然発生するわけがない。
カーマたちには頼れない。こんなこともあろうかと呼んでおいた兵士たちの出番だ!
「ちっ! フォルン領の兵士諸君、盗賊を迎撃……」
フォルン領兵士詰め所に視線を向けると全員が宴会を行っていた。完全に酒が入ってやがる……。
俺はマイク片手に兵士たちに向けて叫ぶ。
「何で警備中に酒を飲んでいる!?」
「えぇ!? アトラス様が酒を用意してくれたんでねぇべか!?」
俺の言葉に兵士のひとりが返事を叫んでくる。
何で俺が酒を用意するはずがあるんだ!
「何を言っている!?」
「だって大量の酒が詰め所の前に置いてあったべ!?」
「ほうほう。これはおそらくあの盗賊が酒を仕込んだのでござろう」
……フォルン領の弱点が完全に突かれまくってる! 戦力の大半がカーマとラークなことと、フォルン領兵士が酒に弱い!
完全に俺達に対するメタ戦法だ。
「はっはー! こりゃ聞いた通りだ! 奴ら酔っぱらってまともに戦えねぇ!」
「野郎ども! 略奪だ! 特にあの双子姫は逃すな! 捕らえりゃ褒美は望みのままって言われてんだ!」
盗賊たちは下卑た笑みを浮かべながら、こちらに向けて襲うように走ってくる。
軽装なためかなり機敏な動きだ。こちらの酔いがさめる前にカタをつける気か!
「ひっく……まあグダグダ言っても仕方なし。兵士諸君! 拙者に続け! 盗賊を討伐するでござる! 今こそ訓練の成果を見せる時!」
センダイの号令と共に酔っ払いどもが、槍を手に取り盗賊たちを迎撃しようとする。
だが明らかにフラフラしているし、今にも吐きそうな顔の奴もいる始末だ。
「死ねよ酔っ払い!」
盗賊の男はそんなフォルン領兵士に剣を振り下ろす。その剣は兵士の器用な槍捌きであっさりと防がれ、男の手からはじき落とされた。
盗賊は地に転がった剣を唖然と見ている。
「……へ? なんぐわばらぁ!?」
盗賊の呆けた顔に槍の穂部分の腹での打撃が直撃。哀れ盗賊は気絶して地面に倒れた。
周囲の様子を確認するが。
「な、なんでこいつら酔ってるのにまともに動けやがるっ!?」
「ひ、ひいっ!? こいつら吐きながら攻撃してきやがる!?」
「やめろ来るなっ! 汚い! 来るなぁぁぁぁぁぁ!」
盗賊たちの阿鼻叫喚の悲鳴と、フォルン領兵士が盗賊を蹂躙する様子が見える。
奴らの装備は大したことがなく、完全にこちらが酔っていて戦えないことを前提として襲ってきていた。
その目論見が崩れ盗賊たちは総崩れになっていて、何故か理解したくもないが打ち勝っている。
「アトラス殿。これが訓練の成果でござる! 酒を普段から呑んでいるのは! これを予測していたのでござる! 酔ったまま戦える訓練で、酒は防衛費でござる!」
「絶対に嘘でござろう!?」
フォルン領兵士は特殊《バカ》な訓練を積んでいた。
盗賊の悲鳴をBGMにその成果が実ったと言わんばかりに、センダイはすごくよい笑みを浮かべていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる