【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ベフォメット争乱編

第74話 どちらが強い?②

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 フォルン領の街から少し離れた荒れ地。

 かつてジャイランドを討伐した伝説として語り継いで欲しい地。

 その伝説の候補地は大勢の人でごった返していた。人々は巨大な円を作って中央で向かい合った二人の少女を見ている。

 簡潔に言うとカーマとラークの決闘がこの地で行われることになり、フォルン領の民衆が観戦しに詰めかけてきたのだ。

 かなりの人数の民衆が集まってきている。この領地は暇人が多すぎる。

 警備兵としてフォルン領の兵士たちも連れてきている。ここまで人が集まると何かトラブルが起きそうだからだ。

 そして俺は何故か実況担当の役割を振られて、簡易テントに作った放送席でセンダイと一緒に座っている。

 マイクや質の悪いスピーカーも用意させられるし、中央に円が作られてるしで運動会である。

 実況担当の役割を振られた理由は俺が魔法使いと思われているから。だが残念ながら魔法使い詐欺である。

 解説できるのはラークに凍らされた時の体験談くらいではなかろうか。

 骨の髄まで凍り付いた時の感想とかなら話せる……悲しいことに。

 だが実況役になってしまった以上はやるしかない。俺の話術で何としてもごまかしてやる!

 何を話す!? カーマとラークのバストサイズか!? 話してどうする!?

「…………センダイ、この勝負どう見る?」

 ……すでに話すことが思いつかないので、さっそく相方に話を振ることにした。

「そうでござるなぁ。拙者としては互角……いや少しラーク殿有利に見える」

 もちろんセンダイはすでに出来上がっている。酒瓶両手にマイクだけ机に置いて話しているのだ。

 机の下には大量の缶や酒瓶に酒のつまみ。完全に居酒屋中継である。

 しかしラークが有利と見ているのか。フォルン領民たちの間ではカーマが優勢だった。

「ラークのほうが有利な理由は? 俺としてはカーマのほうが相性で有利と考えているが。炎なら氷を溶かせるし」
「確かに相性はカーマ殿が有利。だが誤差の範囲と考える。一騎うちとなれば魔法の使い方や戦術も勝敗に大きく影響を及ぼすが、その点はラーク殿が優れていると思うでござる」

 センダイの言うことはもっともだ。1ターンごとに殴り合うRPGではないのだから、使える魔法の質が同じなら戦い方次第で大きな差がつく。

 だがラークのほうが戦闘センスが上な理由はよくわからん。

 俺が首をかしげているとセンダイは酒瓶を口につけて。

「ラーク殿は経験を積んでいるでござる。毎朝毎朝、変な動きでかく乱してくる変な敵との経験を」
「誰が変な敵だ!」

 毎朝あの惰眠姫を起こすための俺の決死の戦いを馬鹿にするんじゃない!

 ラークの魔法攻撃のパターンを探して頑張ってるんだぞ! 最近は日ごとにパターン変えてくるんだぞ!

「アトラス殿は他人の弱みに付け込むのに天性の才を感じるでござる。弱みをついてくる相手との戦闘経験の多さは強みになる」
「俺を間接的にけなすのやめろ」

 そんなくだらない小話をしていると、向かい合っていたラークとカーマに動きが見える。

「姉さま、ボクが勝つからね!」
「負けない」

 二人も臨戦態勢に入ったようで周囲に火柱が噴き出たり、地面が凍ったりと大災害をもたらしている。

 そろそろ試合開始をアナウンスしないと暴発しかねんな。

「よし! 戦闘開始!」

 俺の叫びと同時に周囲に凄まじい煙が巻き起こり、何も見えなくなってしまう。

 これはあれか。炎が氷を溶かして水蒸気になったのか。

 先ほどから水が蒸発するような音が周囲に響いているが、白い煙がぜんぜん消えない。

 このままでは現在音声のみで実況しております、状態になってしまう。

 そんなことを考えていると突風が発生して周囲の煙が晴れていく。

「ミーの身体は常に世界に丸見えさっ!」

 セサル変人が謎ポーズをとっていた。奴が風を魔法で起こしたらしいが目に毒なので、カーマたちのほうに視線を向けると。

「流石姉さま! でもこれはどう! 焔の園、開かれし焼却の摂理!」

 カーマが呪文を唱えると、炎がラークの周囲に出現して輪のように囲む。

「絶氷の霧鏡」

 ラークの紡いだ言葉と共に周囲の炎が凍り付いた。炎って凍るのか!?

 更に氷と炎の応酬が繰り広げられる。巨大な炎を撃ちだせば氷の壁がそれを防ぐ。

 氷の礫が発射されればそれを飲み込むように炎の柱が出現する。

 俺は二人の一挙一動に目が離せないでいた。彼女らの魔法の威力は凄まじくまるで天変地異のごとくである。

 自然の前では人など一般人など塵芥がごとくだろう。

 ……つまりどちらかが少しクソエイムすると、周囲の民衆に当たって大惨事になる!

 思ったよりヤバイぞこれ!? 誰だよこんな安全性皆無の試合許可したやつ!?

「センダイ。この試合、中止にしないと周囲の安全やばくない?」
「はっはっは。今更言ったら余計にパニックでござるよ。まあまずは酒を一杯」
「飲んで現実逃避しろと!?」

 しまった! ファンタジー作品とかでよく魔法使いの大会とかあるから大丈夫だろと、そんな感じのノリで考えていた!?

 あの民衆たちも命がけで見ていたのか! バカだろ!?

「安心するでござる。何かの時のために暴発の魔法使いを呼んでいるでござる」
「誰か知らん上に安心できる要素がない!?」
「あ、違った。防壁の魔法使いでござる」
「……あいつ、あの二人の攻撃防げんの?」

 俺の言葉にセンダイは何も答えずに酒を飲み続ける。ダメそう。

 そんな俺の焦りを気にせず、カーマたちは大魔法バトルを繰り広げている。

「はあ……はあ……流石姉さま。でもこれは防げる!? ボクのとっておきだよ!」
「切り札を使う」

 どうやら互いに手はほぼ出し尽くしたようで。全力全壊の魔法を撃ちあうっぽい。

 …………さて酒でも飲むか。

「燃やせ、燃やせ。灰塵と化せ。我が焔、現世で燃えざる物はなし」

 カーマが左手を空に掲げると上空に巨大な炎の槍が形作られていく。

「凍てつき、溶けず、永劫凍土。我が手にあるは絶対零度」

 ラークの目の前の地面から巨大な氷の弓が生えあがる。

 互いにジャイランド相手に繰り出した必殺魔法を撃つようだ。

 そんな本気出さなくてもいいと思うんだ……もう勝敗じゃんけんで決めてもいいと思うんだ。

 俺は諦めながら酒瓶片手に見物していた。後は野となれ山となれ塵となれだ。

 いざとなったら俺の切り札で止めてやる……止められるかなぁ。

「煌王灼槍!」
「零王氷塊」

 叫びと巨大な炎槍と氷矢が発射されて衝突する。互いに食い合うようにその姿が消えていき、大量の水蒸気と共に完全に消滅した。

 「ミーのうんたらかんたら」という言葉と共に水蒸気が晴れると、カーマとラークは互いに地面にペタンと座り込んでいる。

 魔力を出し尽くしたようで動けなくなったか。

「もう魔力尽きちゃった……流石姉さま」
「……カーマも」

 どうやら彼女らの実力は完全に互角のようだ。

 まあ何はともあれよかった……周囲に被害がなく無事に終わって……。

「アトラス様! 大変でございます! 盗賊の集団が!」
「え?」

 セバスチャンの報告で周囲を見回すと、北のほうに薄汚れた服を来て武装した集団がいる。

 確かにあれは盗賊にしか見えない。百人ほどいるがカーマやラークがいれば瞬殺……しまった! 今はラークとカーマが魔法使えないのか!

 よりによってこんな時に……いやこれは明らかに狙われたか。

 こんな荒れ地に大勢の盗賊が自然発生するわけがない。

 カーマたちには頼れない。こんなこともあろうかと呼んでおいた兵士たちの出番だ!

「ちっ! フォルン領の兵士諸君、盗賊を迎撃……」

 フォルン領兵士詰め所に視線を向けると全員が宴会を行っていた。完全に酒が入ってやがる……。

 俺はマイク片手に兵士たちに向けて叫ぶ。

「何で警備中に酒を飲んでいる!?」
「えぇ!? アトラス様が酒を用意してくれたんでねぇべか!?」

 俺の言葉に兵士のひとりが返事を叫んでくる。

 何で俺が酒を用意するはずがあるんだ!

「何を言っている!?」
「だって大量の酒が詰め所の前に置いてあったべ!?」
「ほうほう。これはおそらくあの盗賊が酒を仕込んだのでござろう」

 ……フォルン領の弱点が完全に突かれまくってる! 戦力の大半がカーマとラークなことと、フォルン領兵士が酒に弱い!

 完全に俺達に対するメタ戦法だ。

「はっはー! こりゃ聞いた通りだ! 奴ら酔っぱらってまともに戦えねぇ!」
「野郎ども! 略奪だ! 特にあの双子姫は逃すな! 捕らえりゃ褒美は望みのままって言われてんだ!」

 盗賊たちは下卑た笑みを浮かべながら、こちらに向けて襲うように走ってくる。

 軽装なためかなり機敏な動きだ。こちらの酔いがさめる前にカタをつける気か!

「ひっく……まあグダグダ言っても仕方なし。兵士諸君! 拙者に続け! 盗賊を討伐するでござる! 今こそ訓練の成果を見せる時!」

 センダイの号令と共に酔っ払いどもが、槍を手に取り盗賊たちを迎撃しようとする。

 だが明らかにフラフラしているし、今にも吐きそうな顔の奴もいる始末だ。

「死ねよ酔っ払い!」

 盗賊の男はそんなフォルン領兵士に剣を振り下ろす。その剣は兵士の器用な槍捌きであっさりと防がれ、男の手からはじき落とされた。

 盗賊は地に転がった剣を唖然と見ている。

「……へ? なんぐわばらぁ!?」

 盗賊の呆けた顔に槍の穂部分の腹での打撃が直撃。哀れ盗賊は気絶して地面に倒れた。

 周囲の様子を確認するが。

「な、なんでこいつら酔ってるのにまともに動けやがるっ!?」
「ひ、ひいっ!? こいつら吐きながら攻撃してきやがる!?」
「やめろ来るなっ! 汚い! 来るなぁぁぁぁぁぁ!」

 盗賊たちの阿鼻叫喚の悲鳴と、フォルン領兵士が盗賊を蹂躙する様子が見える。

 奴らの装備は大したことがなく、完全にこちらが酔っていて戦えないことを前提として襲ってきていた。

 その目論見が崩れ盗賊たちは総崩れになっていて、何故か理解したくもないが打ち勝っている。

「アトラス殿。これが訓練の成果でござる! 酒を普段から呑んでいるのは! これを予測していたのでござる! 酔ったまま戦える訓練で、酒は防衛費でござる!」
「絶対に嘘でござろう!?」

 フォルン領兵士は特殊《バカ》な訓練を積んでいた。

 盗賊の悲鳴をBGMにその成果が実ったと言わんばかりに、センダイはすごくよい笑みを浮かべていた。
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