【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

文字の大きさ
79 / 220
ベフォメット争乱編

第75話 エフィルン再来①

しおりを挟む

 ラークとカーマの決闘の翌日。俺は屋敷の執務室で報告書を確認していた。

 盗賊の襲撃被害はフォルン領へべれけ防衛隊の活躍によってゼロだった。

 捕縛した盗賊たちは無駄飯喰らわせたくないからさっさと王都に連行した。

 ちなみにフォルン領とは別の領を根城にしていた盗賊団で、何者かの依頼で俺達を襲撃したらしい。

 何者かは盗賊団の口からは聞けなかったが、十中八九ベフォメットだからこれでひとまずこの件は解決だ。

 だが……以前の主要メンバーが不在時のテンサイ盗難事件。今回のカーマとラークの魔力切れをつく襲撃。

 俺達の領内の動きに対してクリティカルな攻撃が繰り返されている。

 間違いなくやっているのはベフォメットだが、かなり厄介というかここまで弱みをつけこまれると気持ち悪い。

 領内に内通者がいるのはわかっている。フォルン領は急激に人口を増やしたのだから、紛れ込んでいないわけがない。

 だがそれは領民の中にという前提だ。ここまでクリティカルな攻撃を領民に紛れ込ませた内通者程度の情報で行えるか? 

「……主要メンバーの中に内通者がいるのだろうか。いやないな」

 仮に誰か裏切っていたらテンサイが強奪されているか、盗賊襲撃で被害が出ていただろう。

 主要メンバーの誰かが裏切って足を引っ張ったら、その時点で目に見える形で明らかになるはずだ。

 主要メンバーは全員が高い能力を持っているだけに、裏切られればかなりの被害が出てしまう。

 そうなると純粋にこちらの行動に合わせて超迅速に最適な攻撃を仕掛けてきている。もしくは……俺達がベフォメットに都合よく動かされているかだ。

 今まで行われなかった剣術大会。急に生えてきたラークとカーマのどちらが強いかの噂。

 どちらもある程度は意図的に起こせる話だ。剣術大会はレスタンブルク国の他貴族に働きかければ開催できそう。

 ラークとカーマの噂はもっと簡単だ。紛れ込ませた領民に噂させるだけでよい。

「……たかが一領地相手に国がここまでするなよ」
「ベフォメットからしたらここが最も警戒すべき場所だからね。ボクに姉さまにあなた、戦争時に大局を動かせる者が三人いるんだから」

 カーマが椅子に座って機嫌よくカップアイスを食べている。

 彼女にとってこの執務室は休憩所でありアイス補給所である。ここはサボり部屋じゃないぞ!

「あなたも絵本読んでるじゃない」
「あれはサボりじゃないから。イマジネーションを拡大して、知見を広げるために重要な業務であって……」

 ごまかそうとするがカーマがジト目で見てくる。難しそうな言葉を羅列しても無理だった。

 ちなみに決闘で負けたほうが手料理を作る約束だが、引き分けだったのでカーマとラークで一緒に料理を作ってもらった。

 結論から言うと調理室が爆発した。君ら混ぜたらダメなんだね、酸素と水素化合させたら爆発するみたいなアレなんだね。

 あの時のカーマが漏らした「お肉焼くより人を焼く方が簡単……」という言葉は今なお忘れられない。

 一人ずつ料理させたらかろうじて爆発は起きなかった。

 ボヤ騒ぎや屋敷の床凍結注意報は出てしまった上に、作られた料理はカーマは炭、ラークはアイスと言い張った冷凍肉だったが。

 とりあえず二人に調理室立ち入り禁止令を出しておいた。下手に料理の練習されると死人が出かねん。

「やれやれ……何で一領地が他国と戦わねばならんのだ。もっと元バフォール領に頑張ってもらって、ベフォメットの侵攻を防いでもらわなければ……」

 俺が報告書を見ながら愚痴をもらしたが特に返事がない。

 少し寂しかったのでカーマたちの様子を見ると、二人とも真剣な表情で執務室の東の壁を見ていた。

 西の壁だと聖書《エロ本》部屋の隠し扉があったが北に心当たりはない。

「どうした? そっちの壁には何もないはずだが……」
「……姉さま、あの魔力って」
「……エフィルン」

 二人は顔を見合わせて頷くと俺に視線を向けてきた。

「エフィルンがフォルン領北に現れたよ。どうする?」
「…………なんで?」

 本当に何でエフィルンがやって来ているのか。彼女は単騎でベフォメット全軍に匹敵するとかいう化け物。

 ラークとカーマの二人がかりでも勝てるか微妙と聞いている。そんなのがどうしてやって来るんだよ! 来るなよ!

「……どうするも何も。行って話を聞いてみるしかないだろ」

 ここがバフォール領なら後は知らんと速攻逃げ出すところだが、フォルン領に現れたとなってはそうはいかない。

 被害が発生しないうちに何の用か話を聞いてみる必要がある。

 流石に攻めてきたということはないと思いたい。それなら軍隊引き連れての進軍だろうし。

 ラークの転移ですぐにエフィルンが出現したらしき場所に向かうと。

「マシュマロ欲しい」
「ま、マシュマロ……? なんだいそれは?」
「マシュマロ」

 街道を馬車で移動している行商人に、マシュマロを要求するエフィルンの姿があった。

 ……フォルン領ならマシュマロが買えると思ったのだろうか。

「エフィルン。マシュマロは売ってないぞ」
「あ、マシュマロの人」
「誰がマシュマロの人だ」

 エフィルンが俺達を見つけて駆け寄ってくる。……何となくだが以前よりも元気がよい気がする。

 以前は死んだ魚のような目だったが、今は死ぬ直前の魚の目をしている。

「今日は何の用だ」
「王子からの命令。遊んで来いって。それと以前のマシュマロを更に二倍もらってこいって」
「…………マシュマロを樽6つ分欲しいと?」

 エフィルンは首を縦に振った。

 ……マシュマロをそんなに大量に用意してどうするのだろう。まさか彼女がひとりで食べるわけでもあるまいし。

 ベフォメットの貴族内でマシュマロが流行ったのだろうか。

 貴族のパーティーで大量のマシュマロを食べ合う……女子会かな。

「まあいいけど。用事がそれだけなら……」
「今日は帰るなって言われてる」
「またか」

 またエフィルンを1泊させる必要があるらしい。

 フォルン領内に入れるのは危険な気もするが……意見を求めるつもりでカーマたちに視線を向けると。

「まだ目の付くところにいたほうがマシじゃない? このまま領内に滞在されるなら」
「同感」

 二人から反対意見もないので諦めて、俺の屋敷に案内することにした。

 ラークの魔力節約のためにヘリを購入して、エフィルンにも乗り込むように言うと。

「ゴーレム?」
「そうだ。俺特製の空飛ぶ鉄のゴーレムだ。早く乗ってくれ」

 俺が運転席から返事をして乗り込むのを促す。だがエフィルンはヘリのまじまじと観察して首をかしげる。

「……本当にゴーレム?」
「ゴーレムだ。これはゴーレムだ。どこがゴーレム以外に見える? 動く鉄の塊なんぞゴーレムだろう。ゴーレムだ」

 相変わらず勘のよい……ひたすらゴーレムと連呼してごまかしておいた。

 エフィルンもようやくヘリに乗ってくれたので、屋敷までゆっくりとフライトした。

 そして屋敷の目の前に着陸する。こないだのテンサイ盗難事件の時もだが、実は俺はヘリが着陸できるようになった。

 毎回スカイダイビングは危険極まりないので頑張って練習したのだ。

 そして屋敷の中に入って応接間にエフィルンを案内し、みんなを椅子に座らせる。さてここからどうするか。

 ……そういえばセサル変人がエフィルンに会いたいと言っていたが……果たして会わせてよいものか。

 でもあいつのお願いって初めて聞いたんだよな。いつも他人のお願いは聞くが自分は言わない奴だ。

「……仕方ない。ラーク、セサル変人を呼んできてくれ」

 ラークはうなずくと執務室から出て行った。あの変人を見せるのは少し怖くはあるが。

 いやよく考えたら事前に確認しておくべきだな。セサルの話す人物像とこのエフィルンは全く同じだ。

 ベフォメットの魔法使いで、髪の色も名前も同じだから確実にセサルの妹のはずだが万が一もある。

「セサルという者を知っているか?」
「知らない」

 エフィルンは無表情のままだ。

 万が一あったわ。やべぇ……すでにあの変人呼んでるんだけど。

 ……あの変人に妹呼ばわりされたらキレられてもおかしくない。変人妹誤解罪とかで。

 こんなところで暴れられたら大被害だぞ!? バカな、こんなことでフォルン領がピンチに!? 

「……ちょっと急用を思い出し」
「エフィルンがいると聞いて!」

 俺がセサルとエフィルンの邂逅を阻止するため動こうとすると、すでにセサルが応接間にたどり着いてしまった!

 セサルは必死に走って来たのか息も絶え絶えだが、エフィルンの姿を見て目を輝かせた。

 完全に奴はエフィルンのことを妹と勘違いしている。

 くっ! まだだ! 奴の口を塞げばっ! 

「エフィルン! かなり成長したね! あの時はぐれて以来、ずっと心配していたんだ!」

 俺はその口を止めるために麻酔銃を【異世界ショップ】から購入しようとするが。「対人用は購入したことがないから入店しないとダメ」とミーレの声が頭に響く。

 仕方がないので買ったことのある、対ゾウ用大口径麻酔銃を手元に出す。

 多少口径は大きいが威力は折り紙つきだ! これでセサルを眠らせれば……!

「……誰?」

 エフィルンはセサルに対して首をかしげた。

 やはり別人だったようだ。あるいはセサルの妄想上の妹だったようだ。

 もうこれ以上喋る必要はないぞセサル。今俺が眠らせてやるっ……この辛い現実からっ! 

「何を言うんだ! 私だ! 君の兄のセサルだっ!」

 痛々しい勘違い変人の悲痛な叫び。だがその言葉が放たれた瞬間、エフィルンの様子が狂った。

 彼女は両手で頭を抱えながら目を大きく見開く。瞳孔が完全に開いていた。

「あに……? なに……それ……しらな……セサル……誰、誰」

 今まで出したことのない声で何かを唱え始めるエフィルン。

 ……これはあれじゃな。魔法が暴走して屋敷が吹き飛ぶ奴じゃな!?

「させるかっ! これで眠れ!」

 そんなことをさせてなるものかと麻酔銃をエフィルンに打ち込む。

 見事に直撃して彼女は意識を失わなかった。

 むしろ正気? を取り戻したようで頭を手でおさえるのをやめると。

「貴方は誰?」
「ば、バカな……」

 セサルに無表情のまま質問を投げかけた。変人は床に崩れ落ちた。

 ……ドラゴンも昏倒させる麻酔銃なんだけど、何で普通に意識あるんですかね……?
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...