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ベフォメット争乱編
第78話 偽造
しおりを挟む「超緊急会議を行う。議題は我が弟をどうやって滅するか、もしくは斬首するか処刑するかだ」
「全部同じじゃない……」
フォルン領主要メンバーを執務室に全員緊急招集して、我が弟への対策会議を敢行することにした。
セバスチャンは屋敷に来客が来たとのことで対応中でいない。
あの不倶戴天の敵を放置するとフォルン領は滅ぶ。いざとなればベフォメットの使者とか関係なく滅ぼすつもりだ。
そもそもレスタンブルクの人間が、ベフォメットの使者など本来あり得ない。
間違いなくベフォメットのクソ王子の策略だ。俺のアキレス腱を的確に突いてきやがった。
「ふーむ……確かにあの御仁。何やら妙な気を感じるでござる。面倒ごとを起こすやもしれぬ」
「ミーもさっ。あれは普通の人間ではないさっ」
センダイとセサルも俺の言葉にうなずいた。
セサル変人にすら普通の人間でないと言われているので、奴はそうとうアレなんだなやはり。
「あの人、言葉に少しだけ魔力を感じたよ。普通の人よりも相手の心に影響を与えやすいと思うけど元々そうなの?」
「……知らん。昔のフォルン領にそれが分かる魔法の素養がある人間がいるわけないだろ! 仮に生まれたらすぐ逃げ出すに決まってる!」
魔法が使える人間は貴重だ。昔のフォルン領なんて吹けば潰れる領地に残る意味がない。
なんかセンダイが俺に少し不思議そうな視線を向けてきたが無視。オッサンに見つめられてもうれしくない。
「ふむ。つまり奴は常に魔法を使っているわけだな! 魔法を使った正当な罪で処罰だ!」
「横暴だと思う……それにあの人、意図的に魔法使ってないよ。たぶん生まれつき声に魔力が帯びてる体質何だと思う」
「拡大解釈すれば生まれつき原罪を背負ってるということだな。処罰だ」
「その理屈だと魔法使い全員が罪になるんだけど……」
カーマのツッコミに対していい返答が思いつかない。
おのれ我が弟め。いくら何でも簡単に人を騙せておかしいと思っていたが、ムダな特殊能力持っていやがったか。
「みんなに警告だ。あの野郎を追い出すまでしばらく不測の事態が多発するから悪いが穴埋めを頼む」
「大げさだと思うけど……」
俺が皆に頭を下げたところ、カーマが困惑した表情を浮かべる。
いや決して大げさではない。しばらくフォルン領は炎上だと言おうとした瞬間。
「アトラス様! 弟君がフォルン領名義で金貨五百枚使っておりますぞ! 商人が徴収に来ました!」
セバスチャンが先ほどぶち破られた扉を、更に粉微塵にして執務室に駆け込んできた。
「ええい! 商人を追い返せ! そんな物は知らん!」
「無理でございます! ここで追い返せばフォルン領が借金を力づくでもみ消したとなります!」
くっ! やはり仕掛けてきたか! これはあいつの十八番『他人名義で金を勝手に借りる』!
これを昔から何度も行われてフォルン領の借金が増えた。その余波で俺の王都の小遣いがゼロにされたこともある。
「それに領内に怪しい黒づくめの集団が現れたと!」
「間違いなくあのクズの仲間だ! 即座に鎮圧……いや俺も行く! 下手に兵士を出すとミイラ取りがミイラにされかねん! 各自、また後で招集するからそれまで弟と会話するな!」
俺はセバスチャンと共に執務室を出ていく。
黒づくめの集団の近くにバズーカをぶっ放して散らせた後。
領内で白い粉を売ろうとした商人を捕縛し、非合法の目が潰れかねない酒なども押収した。
おのれ! 金貨五百枚を軍資金にしやがったな! いつもよりも動きが数倍早い!
結局屋敷に戻ったのは日が暮れたころ。そこから再び主要メンバーを執務室に集めたのだが……。
「大変だよ! コショウ畑に行ったら誰も働いてなくて! あのセンダイさんが酒瓶片手に農作業を! 似合わなさすぎるよ! 無理があるよ!」
「テンサイ畑も」
「兵士たちがみんな訓練をサボっていたでござる」
「ミーのところに領民が来て、ヤクを作って欲しいと言ってきたサッ」
全員から耳が痛い報告が飛んでくる。
これは全て我が弟のせいである。これが俺の恐れていたこと。
奴は口八丁だけで周囲の人間を腐らせて堕落させるのだ。
ちなみにセバスチャンは執務室にいない。俺の依頼で極秘任務を行っている。
「……落ち着け。これは予測の範囲だ。かつて同じようなことが起きたこともある……ここまで酷くはなかったが」
「同じことが起きたんだ……どうやって止めたの?」
カーマが呆れながら聞いてくる。
懐かしい。俺も以前はカーマみたいに大焦りしたものだ。
「以前に弟が問題を起こした時。俺はそれを止めるために様々な策を練り、陰謀を考えに考えた結果」
「結果?」
「殴った」
ペンは剣より強いが口は拳より弱い。
ようは喋らせない。有無を言わさずにぶちのめす。
「やつと語り合うなら拳しかない。一方的に殴り続けるしかないんだ」
「語り合ってないよねそれ」
詐欺師と同じ土俵に立ってはならない。奴の武器が口ならばこちらは手足だ。
互いに自信のある身体の一部で戦うのだから平等である。
「それに奴は口は達者だがそれ以外は弱い。昔の俺でも殴って勝てたんだし」
「「確かにそれは弱い」」
「……少しくらい否定してくれてもいいんだぞ」
カーマとラークの口を揃えた言葉に少しへこむ。
いや確かに俺は喧嘩弱いけども!
「でも今はベフォメットの保護を受けてるんだよね。殴れないよね?」
「大丈夫だ、すでに策は練った。明日には捕縛できるはずだ……ちなみにカーマとラークには先に謝っておく」
「「?」」
俺は仲良くよくわかってない顔をしている二人に謝っておく。
すでに奴を捕縛するためのブツは、【異世界ショップ】に来店してミーレに用意してもらった。
作らせる時にミーレがさんざん文句を言っていたが、何とか完成したのでこれで安泰だ。
現在の被害は金貨にして千五百枚くらいだが、ここで食い止められたのはでかい。
そうして会議は解散し翌日。俺はカーマとラークとセンダイを引き連れて、不倶戴天の敵の元へと向かった。
奴は領の街の広場でわが物顔で演説を行っていた。
「さあさあ! これは私からみんなへの贈り酒だ! 是非味わって欲しい! 私は兄と違ってケチではないんだ。皆にフォルン領の利益をもっと分配する」
「おお! こりゃいいや! アトラス様はフォルン領を建て直してくれたが、少しケチだからなー」
「これだけ儲けてるんだから、俺達ももっと恩恵受けたいもんな!」
我が弟は大量の酒を自分の手柄のように、民衆に完全無料で配っていた。
ふざけるな! そいつは自分の財布から何も出してないんだぞ!
後先考えずに物を配るだけなら誰でも出来るだろうが!
これも弟の戦術だ。他人の金で人望を集めるという卑怯な……!
俺は急いで拡声器を手元に出すと、周囲の民衆に聞こえるように。
「待て! その酒はその弟が盗んだもの! 勝手に飲むな! 口をつけるな! やめろ! 酒樽にそのまま口つけて飲むんじゃない! バカか!」
俺は酒がダメにされる前に民衆を制止する。
酒樽をそのまま口付けて飲もうとしたのは、センダイの部下たちで間違いない。
弟は俺を見つけると不気味な笑みを浮かべる。
「兄者、盗んだとは人聞きの悪い。これは私が商人から買い付けた物だ」
不倶戴天の敵はいけしゃあしゃあとほざいている。フォルン領のツケで買い付けたんだろうが!
俺は視線で焼き殺すくらいの気持ちで睨む。それを弟は軽くあざ笑うと。
「証拠もなしにそんなことを言うのは、流石の兄者も許されない。僕はベフォメットの使者にしてフォルン領の領主を継ぐ権利を持っている」
余裕しゃくしゃくと言った笑みを浮かべる弟。
その笑みを今からゆがめられると思うと少しだけ気が晴れる。
「証拠ならある! この男は俺の妻たちを襲って姦淫しようとしたのだ!」
「「「えっ」」」
我が弟とカーマとラークが同時に驚いた声をあげる。
困惑する当人たちを放置し、懐から数枚の写真を取り出して周囲に見せびらかす。
そこにはカーマの胸を揉もうとするクズな笑顔の弟や、ラークを抱きつこうとするゴミな笑顔の弟が写っていた。
「見ろ! これは皆も知っている通り、実際にあった光景を絵にする魔法だ!」
フォルン領民は俺が過去のことを映像にできることを知っている。テンサイやコショウの記録用カメラを領地に大量配置した時にも説明した。
その他にも領民への告知に写真を使う時もあったのだから。
「ひでぇ……領主の妻を手籠めにしようとするなんて」
「いくら気前がよくてもねぇ……」
民衆たちの弟への評価がどんどん落ちていく。やはり百聞は一見に如かず。
「カーマたちは何とかその場から逃げ出した! この絵こそが動かぬ証拠!」
なお実際は滅茶苦茶動く模様。この写真は合成写真である、ミーレ先生にお願いして作ってもらった。
芋の栽培記録などで国に写真のことは教えた。だが合成写真のことは意図的に黙っている。
彼らからすれば写真は真実を写し出す魔法なのだ。
まあ民衆には信じてもらえなくてもいい。今回重要なのは国に対して、弟を処罰する正当な証拠が出せる一点だ。
……この写真をミーレに作らせるのには苦労した。本人が滅茶苦茶嫌がったからだ。
俺だって嫌だよ。何ならこの写真すぐに破り捨てたいよ。
「そういうことでお前は処刑だ」
「ふざけ……ぐふっ」
弟が口を開く前に改造エアガンで全身を撃つ。気絶したようなので追い撃ち。
今日この瞬間だけはフォルン領は独裁政権領地である。
……禁断の策なので今後は絶対にしないが。
冷静に考えて証拠を作り出せるってヤバイよな。無実の人間をいくらでも冤罪に追い込める。
気絶した弟のそばに駆け寄って、猿轡をつけて口を封じて一息つく。
……本当に危なかった。今日止められなければ、被害が広がって手が付けられなくなるところだった。
本当にこいつは女王シロアリだ。放置すれば一瞬で兵隊アリを増やしてどうしようもなくなる。
これで脅威は去った。さて後は……。
「……ねえ。何でボクが胸を触られてかけてる絵があるの? しかも領民に見せるし」
「恥」
「やるならやれ! 俺に悔いはない!」
今回ばかりは禁忌の策を打った自覚はあるので、諦めて二人から天罰を受けることにした。
でもこれでも自重したんだ。元々は以前の露出高い奴隷服とかでコラ作る予定だったんだ。
流石に犯罪臭がやば過ぎたのと、ミーレが発狂しかけたのでやめただけで。
ちなみに実は酒を盗んだことに対する証拠は言ってないことは内緒だ。
更に言うならカーマとラーク相手に、弟風情が何かできるわけもないのも内緒だ。
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