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ベフォメット争乱編
第86話 エフィルンへの対策案
しおりを挟む俺達は必死に恐ろしい大樹からヘリで逃げた。
あの大樹はやばかった。仮にも大樹を操るエフィルンはベフォメットの魔法使い。
ベフォメットに被害は出せないだろうと、大樹の侵攻を妨げるために牧場の上を通った。
だが大樹は特に気にすることなく、牛や建物を根っこで飲み込んで追いかけてきた。
ならばと街の上を通ったら、流石に大樹は街を踏み越えることなく止まった。
……一瞬、街を踏み潰して追いかけようとした素振りを見せたが。
こうして何とか大樹から逃げ切って、俺達はバフォール領の領主屋敷の前にヘリを着陸させた。
「あ、危うくヘリが鉄の棺桶になるところだった……魔法が使えなくなるとは」
エフィルンの攻撃回避のため、すごい速度でかつ急旋回など繰り返した結果。
もはやまともに口を開くことができず、カーマもラークも魔法が使えなかった。
ラークにいたっては舌を噛んで結構痛がっていた。
「この空飛ぶゴーレム、エフィルンさん相手ならもう乗らないほうがよさそう……」
「むしろ危ない」
カーマとラークは扉を開けてヘリから逃げるように飛び出した。
俺もそう思う。やはり人間は大地に立ってなんぼ。空なんぞバカみたいに鳥に飛ばさせておけばいいのだ。
運転席から脱出し、【異世界ショップ】に甚大な被害で凹んだりしているヘリを売り飛ばす。
ヘリは悲惨なダメージを受けた。様々なところが凹んだり、ガラスがヒビ入っているがまだ飛べるので幾らかには……。
『もうこれスクラップ同然だから引き取り代もらうねー』
……売ったのになんで金とられるのか。泣きっ面にハチである。
俺は悶々としながら屋敷の執務室へと戻った。カーマたちもアイスとケーキをダシについてこさせる。
一息つくために椅子に深々と座りこんで、今後のことを考える。
切り替えよう。これは決して無駄な被害ではない。
「さてと……多少の失敗はあったが王都への殴り込みは成功した」
「成功……?」
「成功だ! だってクズ王子の顔見れたし! エフィルンの力が化け物だってわかったし!」
カーマの言葉をぶった切る。王都まで攻め込めたのは事実だし!
少しばかり不利だったから戦略的撤退しただけだし!
「成果としてはエフィルンにマシュマロを利用した作戦は無駄なこと。エフィルンを無視してクズ王子を誘拐は無理だということが判明した」
「つまりあなたが立てた作戦全部駄目だってことだね」
「事実陳列罪やめて」
俺の作戦が裏目に出てしまったのは事実だが!
エフィルンが想像以上に化け物だったのが悪い。まさか地面から木を生やして、上空のヘリを攻撃するとは思わなかった。
もし普通に魔法で攻撃してくるなら、カーマやラークが迎撃してくれるはずだった。
だがヘリの真下狙いの攻撃を防ぐのは難しい。
俺はカップアイスとパンケーキを【異世界ショップ】で購入しカーマとラークに手渡す。
「ラークとカーマの二人がかりならエフィルンに勝てるか?」
「……わからない。エフィルンさん、また魔力が上がってる」
「勝率五割くらい」
カーマとラークは少しうつむきながら呟く。
二人揃えても五割で負けるのか……これは下手に戦わないほうがよさそうだ。
てかまた魔力上がってるってなんだよ。また太った? みたいなノリで増えるのやめろ。
「ラーク、セサル変人を連れて来てくれ」
俺の言葉にラークは軽く頷いた。
こうなれば困った時のセサル変人だ。奴はエフィルンの洗脳を解く方法を探っているし、何とかしてくれるはずだ。
そうしてラークが帰ってくるまでに、俺達はエフィルンの対策を考えることにした。
「マシュマロケーキだ! これなら大きいから簡単には風に吹き飛ばされない!」
「マシュマロアイスのほうがいいよ! 食べたい!」
結局マシュマロ談義が続くのであった。
これは仕方がない、エフィルンの弱点はマシュマロ以外知らないのだから。
ーーーーー
「やれやれ。驚くほど逃げ足が速いな、アトラス君は」
ベフォメットの王子は大樹の太い枝に寝転びながら呟いた。
横ではエフィルンがマシュマロをもきゅもきゅと口に含んでいる。
彼らが足場にしている大樹は大量の根を蠢かしながら、ゆっくりと前へ進んでいる。
王子はヘリコプターが飛び去って行った方向を見ると。
「さっき、街を踏み潰していれば追い付けたんじゃないか?」
「でもそれは……」
「命令だ。次は国民のことなど気にせずに追え。仮に何かあったら、全てアトラス君のせいにすればいい」
「はい」
エフィルンは光のない瞳でうなずき、それを見た王子は満足げにほほ笑んだ後。
「いいかい。双子の姫は五体満足で捕らえるんだ。アトラス君はそうだな、空高いところから落としてさしあげてくれ。高いところが好きそうだし」
「はい。双子の姫は捕らえて、アトラスからマシュマロを絞り出します」
「……なるほど。洗脳薬が足りないか」
王子は懐から小箱を取り出して、その中に入っている丸薬をエフィルンの口に運んだ。
彼女はそれを飲み込んでただ黙って王子を見つめている。
「私の命令を言いなさい」
「双子の姫を捕らえて、マシュラスを空からマシュマロにします」
「……洗脳が足りないのか? 強烈に固執することがあると洗脳が弱まるとは聞いていたが……だがあまり飲ませると廃人になるし……」
王子はブツブツと呟きながら、エフィルンの様子を確認した。
煽情的でかなり露出度の高い服を着ていて、街を歩けば男ならまず視線を移すだろう見た目。
どこかの貧乏領地の領主なら、間違いなくガン見する姿。それを見て王子はため息をついた。
「やはり洗脳では駄目だな。痛みや快楽で屈服させねばたぎらない。早く双子姫を捕らえて好き放題したいものだ……」
「マシュマロ……」
「……下手に洗脳が薄まっても面倒だ。まずはエセ巨人をぶつけてみるか」
ーーーーーー
バフォール領執務室。
ラークに連れてこられたセサルは、やりきったと言わんばかりの顔をしている。
「アトラス君! ミーはやり遂げたっ! 洗脳を解除する薬を作ったのサッ!」
セサルは真っ赤な錠剤を天に掲げるかように上にあげた。
マジで作ってしまったのかこの変人。洗脳をさらなる洗脳で上塗りし、お兄ちゃんと言わせる禁断の薬を。
「アトラス君! これを私の妹に飲ませてくれ! ただし条件がある。近くに植物が育つ環境がない場所でだ!」
「……ハードル高すぎないか?」
植物が育たない環境なんてそうはない。あいつら土さえあれば雑草のように生えてくるではないか。
いやそもそも雑草なんだが……つまり土がない場所で薬を飲ませろと?
そんな場所、この世界にそうはないぞ。
「そもそも何で植物が育たない場所で飲ませる必要があるんだよ」
「エフィルンの植物の力は、この洗脳解除薬を無効にする可能性がある」
セサルは大真面目な顔で言い放つ。
こいつ、普段は変人な分だけ真面目になるとシリアスになってしまう。
まるで不良がいいことしたら十倍よい奴に見えるかのようだ。
セサルは洗脳解除薬を握りしめると悲し気な顔をする。
「この薬を飲ませれば、彼女は身を引き裂かれて死んだほうがよいと思う目に合うだろう……」
「妹に合わせる目じゃないなそれ」
「だがこれに耐えれば! またエフィルンは私のことをお兄ちゃんと言えるはずだ!」
……地獄の苦しみを味あわされる上に、この変人をお兄ちゃんと呼ばされるのか。
いっそ楽に死なせた方が幸せなのではないだろうか?
「アトラス君! 頼んだ! エフィルンを何としても助けてくれ! 私の妹のためにも!」
「わかった!? わかったから血走った目をしながら俺の肩を持つな!」
本当にあのクズ王子とセサル変人シスコン、どちらのほうがエフィルンに幸せなんだろうか。
「我が妹よ! 必ず、必ず救い出して見せるぞ!」
「地獄から救い出して、さらなる地獄か……」
エフィルンに救いの手はあるのだろうか……かなり不憫に感じてしまうのだった。
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