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ベフォメット争乱編
第95話 帰還
しおりを挟むバフォール領で戦勝祭を行った三日後。
レスタンブルクから領主の引継ぎらしき貴族が来たので、押し付けて俺達はフォルン領へ戻った。
実際は引き継ぎでない可能性もあったが、確認してないので俺は引継ぎだと思う。
食料などの物資も運んできていたので、バフォール領民も飢え死にすることはないだろう。
ラークの魔法でフォルン領の我が屋敷の前に転移する。そこではセバスチャンが俺達を待っていた。
「アトラス様! お帰りなさいませ! このセバスチャン、アンパンを待ち望んでおりましたぞ!」
「俺を待ってたんじゃないのかよ!? てか自分で買えるだろ!?」
セバスチャンは【異世界ショップ】に自力で入店できる。
アンパンくらい買えばいいのに……。
「ところで……そこのお嬢様はどなたですかな?」
セバスチャンはエフィルンに視線を向けている。
そういえば初対面か。エフィルンはフォルン領に来たこともあったが、その時はセバスチャンと顔合わせしていない。
下手に会わせると何か怖かったから、意図的に会わせなかったのだが。
「話には聞いてるだろ、エフィルンだ」
俺の紹介に合わせるようにエフィルンは礼をすると。
「はじめまして。主様の性奴隷です」
「なるほど。私は執事のセバスチャンでございます。お見知りおきを」
「何がなるほどなのか教えてくれ。そして肉奴隷よりも表現が直接的になったな!?」
少し時間が経てば洗脳の影響が消えて、肉奴隷などとたわごとも言わなくなると考えていた。
実際は言葉の表現が直接的になっただけではないか!?
そしてその言葉を受けても微動だにしないセバスチャンが怖い。
「セバスチャン、わかっているとは思うが……」
「はい、もちろんでございます。全てわかっております」
セバスチャンは笑みを浮かべている。流石は年の功、小娘の冗談は簡単に見抜けるか。
「では……結婚式はいつ行えばよいですか?」
「なにひとつとしてわかってねぇ!?」
前言撤回。無駄に生きただけの老人だ。
「結婚いいサッ! 早くするといいサッ!」
そしてシスコンのセサルが何故かハイテンションで勧めてくる。
おかしい、普通は妹は俺の嫁に! みたいな流れではないだろうか。
「普通の人は妹を嫁になんてしないと思う……」
カーマが俺の思考を読んで突っ込んでくる。いや、これは変人の普通というか。
俺が困惑しているとセサルは急に真面目な顔になる。
「兄としてエフィルンには幸せになってもらいたいんだ」
「じゃあまずはエフィルンの目を覚まさせた方がいいんじゃないか……」
そのエフィルンは俺に抱き着いている。ものすごくグイグイ来るなぁ……。
「ちょっ!? あなた何してるの!?」
カーマがこちらを見て叫んでいるが俺は何もしていないぞ!
なんかいつの間にか抱き着かれて胸を押し付けられてるだけだぞ。
だがこのままだと身動きが取れなくて困るな。
「エフィルン、少し離れてくれ。動けない」
「承知しました、主様」
エフィルンは俺のお願いに従って少し距離を取ってくれた。
さてと久々に屋敷に戻って秘蔵の酒でも飲むか。
ーーーー
「ね、姉さま。どうしよう……アトラスを盗られちゃう」
「……由々しき事態」
ボクと姉さまは屋敷の庭で作戦会議をしていた。
話題はもちろんエフィルンさんのこと。あの人がものすごく積極的にアトラスを誘惑している。
妻としては止めたいけどそれができる雰囲気ではない。
「ぼ、ボクたちも抱き着いてみる……?」
「……戦闘力が違いすぎる」
姉さまが自分の胸をペタンと触りながら告げてくる。
……エフィルンさんの戦闘力が高すぎる。あんな大きな胸見たことない。
あんなの反則だ。魔法使いに挑む一般兵の気持ちがわかってしまった、わかりたくなかった。
「ど、どうやったら勝てるかな……」
「……脱ぐ」
「え、ええっ!? そ、それはちょっと……」
思わず顔が熱くなる。少し魔法が暴発してしまったようで、パチパチと火の音が背後から聞こえる。
姉さまもほんのりと顔が赤くなっているので恥ずかしいのだろう。
でもエフィルンさんに対抗するには、それくらいしないとダメ……。
「はっはっは。若いというのはよいでござるなぁ」
「「!?」」
声のした方に顔を向けると酒瓶を口につけたセンダイさん。
い、いつの間に……目立たないようにこっそり隠れて話してたのに。
「せ、センダイさん……!? どこから聞いて……」
「はっはっは。それよりもまず、背後の火を消すべきでは?」
センダイさんが指をさした先に視線を移すと……木が炎上していた。
……ボクがさっきで暴発した魔法で燃えちゃってる!?
「ちょっと待ってね!? すぐ完全に燃やし尽くすから!?」
「斬新な消火法でござるなぁ」
急いで木を火柱で包んで跡形もなく燃やし尽くす。
これで燃えひろがることはないはず……危なかった。
センダイさんはボクの様子を見て笑いながら。
「はっはっは。では酒の肴……もとい話の続きをどうぞでござる」
「酒の肴って言ったよね!?」
「若者の青春は聞いていて酔うでござるからなぁ」
これでも真剣に悩んでるのに、酒の肴にするのは酷いと思う。
少し不満げな顔をしていると、姉さまがセンダイさんに近づいていく。
「あなたはどうすればよいと思う?」
「ふむ……」
姉さまが酔っ払いに相談を始めてしまった。とうとう手段を選ばないことにしたらしい。
酔っ払いおじさんに意見を聞いても役に立つとは思えないんだけど……。
センダイさんは酒瓶をぐいっと飲み干すと。
「ひっく、特に何もする必要はないでござるよ。エフィルン殿がアトラス殿を盗るのは難しいでござる」
センダイさんは顔を真っ赤にして笑い飛ばす。そうだったらよいけど……アトラスはエッチな人だ。
エフィルンさんに誘惑されたらすぐに落とされてしまいそうで……。
「アトラス殿、わりと面倒な性格をしている御仁でござるからな。それに心配なら本人に直接聞けばいいでござる。エフィルン殿は好みかと」
「好みに決まってるじゃない……」
そんな答えのわかってることを聞く意味ないと思う。
アトラスはエフィルンさんの胸を揉んだり、着替えを覗いたりしている。
どう考えても好みで間違いない。
「はっはっは。男には好みと言っても色々あるのでござるよ」
「色々?」
「うむ。例えばそうさな……身体だけは好みとか」
「最低だと思う」
中身も見ようよ!?
いやエフィルンさんの場合、洗脳されてたから中身なかったかもしれないけど……。
「カーマ殿とて心当たりはあるでござろう。オークなど見てくれは醜いがモツはうまい」
「それ中身の意味違うよね!?」
センダイさんは笑いながら更に酒を飲み続ける。
この人、完全にボクをもてあそんでるよね!?
「まあ聞いてみたらよいでござるよ。何、拙者を信じるでござる。これでも数多の恋愛悩みを酒のつまみにしてきたでござる」
「信じられる要素がない……」
センダイさんは言いたいことだけ言って去っていった。
ボクと姉さまは顔を見合わせた後。
「どうしよう、聞いてみる?」
「うん」
結局直接聞いてみることにした。
他に特に思いつかなかった自分の発想力が恨めしい。
それで屋敷の執務室に向かうと、いつも通りアトラスは絵本を読んでいた。
「ね、ねえ。エフィルンさんってどう思う? やっぱり好き? あんなふうに言い寄られたら嬉しい?」
「エフィルン好き?」
ボクの言葉にアトラスは少し困った顔で悩んだ後。
「うーむ……なんかこうあれだ。積極的過ぎるんだよな」
積極的の何が悪いのだろうか。
この人自身がいつもボクたちのお風呂を覗こうとしたり超積極的だし。
アトラスは「どういえば伝わるか……」と呟いて、少し考え込んだ後に。
「スカートめくりは恥ずかしがられるからこそ素晴らしいんだ。思いっきり機嫌よく見せつけられると魅力が……わかる?」
「「わかるのはあなたが面倒な人なことだけ」」
アトラスは「わかってくれないのか……」と肩を落としている。
……なんだろう。すごく悩んでいたのが馬鹿らしくなった。
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