100 / 220
ライダン領との争い
第96話 戦力過剰
しおりを挟むレスタンブルクの大領地ライダン。
その領主屋敷の私室でライダン領主は忌々し気に机を叩いていた。
「ふざけるな! フォルン領が更に強力な魔法使いを得ただと!?」
「ベフォメット最強の魔法使いを捕らえました。戦利品として手元に置いておくつもりでしょう。すでに洗脳薬を飲ませたようで、彼女を奴隷のように意のままに扱っています」
ガタイのよいライダン領主にもひるまずに、黒装束の者は淡々と報告を続ける。
それを聞いて更に鼻息を荒くするライダン領主。
顔を真っ赤に紅潮させて、今にも椅子から立ち上がらんとする勢いである。
「これ以上にフォルン領が戦力を得るなど冗談ではない! そんなことになればこのライダンが更に低く見られるではないか!」
「でしょうね。もはやフォルン領はレスタンブルク国が相手でも戦えるでしょうから」
「その魔法使いは最悪でも王家直属、あわよくば我らの領地に献上させるように王に直訴せねば! あんな田舎のポット出領地が力を得るなど危険すぎる!」
顔を真っ赤にして激怒したライダン領主。
己の権力が脅かされることへの怒りの炎を燃やしている。
「大した苦労もしていない若造が力を得るなど! 力には責任が伴うのだ! そもそも姫君たちが渡されたのもおかしいのだ! お前も裏工作としてフォルン領の脅しになる材料を集めろ!」
「それは構いませんが……いっそベフォメットの魔法使いは暗殺してしまうのも手では?」
「ダメだ。姫君とあのフォルン領バカ領主への対抗として、その魔法使いは残す必要がある!」
ライダン領主は勢いよく立ちあがると、怒りに身を任せて机を手で叩きつける。
「よいな! フォルン領を何としても弱体化させろ! 手段は問わぬ!」
「なら……領主の暗殺も?」
「問わぬ!」
「そうですか」
黒装束の者は愉快そうな声を出した。
ライダン領主は落ち着いて椅子に深く腰掛ける。
怒りを全て発散したのか、その表情には落ち着きと思慮深さが感じられる。
「ただの魔法に任せたバカ領主ならば、いくらでも潰す手段はある」
「私は貴方の激怒後の落ち着きも魔法みたいですがね」
「性分だ。だがこのおかげで今まで生き残って来た」
ーーーーーー
「父様から手紙」
屋敷の執務室で漫画を読んでいると、ラークが手紙を渡してきた。
いつもの王家からのホットラインである。封を破いて手紙を開いて内容を見る。
「ふむふむ。ベフォメットとの講和を結ぶことに成功したのか。まあそりゃそうだろうな」
ベフォメットはもはや勝ち目のない戦いだからな。
彼らの最大戦力であった魔法使いのエフィルンは、俺の背中に抱き着いている。
今のベフォメットの最大戦力は、カーマに軽くあしらわれる程度の力なので雑魚である。
つまりベフォメットはこちらのカーマ、ラーク、エフィルンを抑える手段がない。
ミサイル持ってる相手に剣で挑むようなものだ。まず勝ち目はない。
「それで俺にも報酬を渡すから城に出てこいか」
つまり王都に凱旋しろということだろう。
今回の俺は完全にレスタンブルクを勝利に導いた英雄だ。
前のジャイランドはマッチポンプ感があったが、今回は後ろめたいことはまったくない。
手紙にも俺が望むなら凱旋パレードをしてもよいと記載されている。
「ふっふっふ。とうとう俺の時代が来たな……ベフォメットとの戦いも語り継がれるはずだ」
「主様がベフォメットに仕掛けた策や、私との戦いが語られますね」
エフィルンの言葉にうなずきかける。いや待て……。
俺がベフォメットに仕掛けた策か……ベフォメット軍に対して牛ふんを投下したり、エフィルンの胸を揉んだりが語り継がれたら困るなぁ……。
よく考えたら俺の戦い方、基本的に格好悪いな……。
「凱旋はやめておこう……今回もコッソリ行くぞ」
「凱旋しないの?」
「最悪、末代までの恥を作ることになりかねないから……」
ラークに王への伝言を頼んで、後日こっそり王都に向かうことになった。
そして三日後、俺はとカーマとラークは王城へとやって来た。
さっそく王と報酬の話をすると思っていたのだが……何故かいつもの待合室ではなく貴賓室に案内された。
貴賓室って国の賓客を遇するための部屋であって、身内用ではないイメージなのだが。
せっかくだし備え付けの菓子でもないだろうか。こんな高級な部屋だしさぞかし豪華だろう。
お土産に持って帰りたいなどと考えていると。
「父様があなたにベフォメット使者の魔法使いと話して欲しいって」
カーマがそんなことを言ってくる。
ベフォメット使者の魔法使い? 何でそんなのと俺が話す必要があるのだろうか。
魔法談義でもしろというのだろうか。俺は魔法使えないので必死に誤魔化すしかないではないか!
知ったかぶりと分かったフリして、したり顔で誤魔化す。そんな地獄みたいな時を過ごしたくはない!
とりあえず近くの椅子に座って、高級椅子の感触を楽しみながら。
「勘弁してくれ。俺は魔法使いじゃなくて、魔法使えないだぞ」
「ボクは知ってるけど……。父様としては最強の魔法使いとして、ベフォメットが二度と逆らう気が出ないくらい力を見せつけて欲しいってさ」
「口先だけでどうしろと……」
ただの会話でどうやって力を示せというのか。仮に魔法を使えたとしても無理だろ。
それは口先の魔術師、詐欺師の役目だと……いや俺も魔法使い詐欺だった!
ただ脅しなら詐欺師でも人選ミスだと思うぞ。それなら雷親父でも呼んできた方がよいだろ。
もしくは筋肉ムキムキの武闘派呼んで来い。筋肉は口より物申すぞ。
「大丈夫だと思うけどね。だってベフォメットの魔法使いの使者でしょ?」
「あの人しかいない」
カーマとラークは確信を持った表情をしている。
はて……そんな人いたっけ……ベフォメットの魔法使いってエフィルン以外モブでは?
そんなことを考えていると、部屋にひとりのローブ姿の男が入って来た。
顔に見覚えはない。だが頭のハゲには見覚えがある。
「あっ。落髪のナイニールさんか」
「落雷のライニールです! それに私はハゲておりません! 頭に産毛が!」
ライニールさんは頭の一部を指さしてきた。そんなハゲ散らかしたけど、掃除し忘れた箇所ありますみたいなこと言われても。
この人はエフィルンの台頭によって、ベフォメット魔法軍最高術者から叩き落とされた悲しい人だ。
だが使者としてやってきたなら、何か間違って復帰できたのだろうか。
「いやー、私としては是非レスタンブルク国とは仲良くしたいのです。これからも是非ご友誼を」
ライニールさんは俺に九十度で頭を下げてくる。すごく綺麗な頭の下げ方だ。
あれは間違いなく常日頃から下げ慣れている。短期間で身に着くものではない。
「こちらとしても戦いたくはないけど……国の代表がそんな平身低頭でいいんですか?」
国の代表が敵に対して下手に出る。それは理不尽な要求をされてもはねのけない意思表示にもなりかねない。
ある程度強気に出る必要があるのだ、それが虚勢だったとしても。
だがライニールさんは媚びるような笑みを浮かべると。
「仮にレスタンブルクと再度戦争になったら、私は魔法使い代表として皆様と戦わされてしまうので……負ける戦いはごめん被ります!」
その言葉には溢れんばかりの悲哀がこもっていた。
彼の言ってることはすごく同意する。カーマひとりに軽くあしらわれる人が、更にラークとエフィルンも相手にせねばならない。
明らかにオーバーキルである。もはやイジメの領域だ。
俺がこの人の立場だったとしても、絶対にイジメられないように動く。
「それに皆様には感謝しているのですよ。個人的にも戦いたくありません」
ライニールさんは揉み手をしながら口を開く。何か感謝されることしたっけ。
「アトラス様がエフィルンを誘拐してくれたおかげで、私は魔法軍最高術者に復帰できました!」
「……なるほど」
「今は奴隷として扱ってると聞きました! 是非これからも飼っていてください! 何としても解放せずにお願いします! これつまらないものですがっ!」
ライニールさんは菓子の包みを俺に渡してくる。
酷い、この人酷い。ハゲ散らかした窓際族に戻らされないために必死だなぁ……。
その後もしばらく話したが……わかったのはこの人が苦労人だということだ。
彼は断トツで強い魔法使いというわけではない。魔法軍最高術者の座を守り通すために努力はもちろんのこと。汚い裏工作や綺麗な表工作も必死に行ってきたと。
「特に弟子の育成にはものすごく力を注いでいます。彼らが力を得て偉くなるほど、相対的に私の権力が上がるのです」
凄まじく不純な弟子の取り方である。
でも絶対的な力には勝てなくて、とうとう蹴落とされてしまった。
それでも復帰できたのは俺のおかげだと感謝された。
魔法というより政治力で生き残って来た人のようだ。それはそれですごいと思う。
何だかんだでこの人、別に嫌いではない。洗脳薬についてもあまりよいとは思えないらしいし。
「洗脳薬なんて不要です! そんなもので他国の優秀な魔法使いを洗脳されたら、また私が最高術者から落とされるではないですか!」
思いっきり自己都合の理由だったが。
結局、今後もよろしくお願いしますとのことで話し合いは終わった。
これなら今後はベフォメットと戦うことはなさそうだ。
上層部が俺達に対して勝ち目がないと思っているならば、戦争を仕掛けてくることはないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる