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ライダン領との争い
第97話 人は物ではない
しおりを挟む落髪のナイニールさんと話し終えた後、俺達は王の元へと案内された。
玉座の間にて王との謁見が始まった。周囲にはいつものように偉そうな貴族が大勢いる。
……彼らは暇人なのだろうか? 映画のエキストラみたいにいつも集まっているが。
俺は王の前にひざまずく。カーマとラークは俺の横で黙って立っている。
「よくぞ参った。アトラス・フォルン・ハウルク子爵よ。ベフォメットとの戦いにおける活躍、見事であった」
「はっ!」
王からお褒めの言葉を受ける。
だがそれだけではないだろう。今回の俺はまさに獅子奮迅の活躍の英雄だ。
報酬も望みのままであるはず。
「その働きに対して褒美を与えねばならぬ。そなたに伯爵の位を与えることにする」
おっ。なんか爵位が上がった。
子爵って弱そうな響きだったから結構嬉しい。
王からの直々の言葉は終わったようで、横に控えていたワーカー農官侯が書物を読み上げ始める。
「アトラス・フォルン・ハウルク伯爵には、ベフォメットからの賠償金の半分を与えることとする」
ほほう。今回の報酬はあまりケチらないようだ。
現ナマがもらえるというのはかなり助かる。【異世界ショップ】の力を使うのに必要なので、金はいくらあっても困らない。
国家からの賠償金ともなればかなりの大金になるだろうし。
「またベフォメットから得た戦利品に関しても半分のものを与える」
ワーカー農官侯は引き続き俺への報酬を読み上げていく。
ベフォメットから得た戦利品ってなんだろうか? あの国、あまりよいイメージないし大したものではないのでは……。
「お待ちください! それは納得できません!」
俺に対する褒美の発表を邪魔するように、野太い声が玉座の間に響いた。
声の発生源を確認すると、頭を油で固めたガタイのよい青年が顔を赤くしていた。
「ベフォメットの戦利品を半分ということは、捕虜にした魔法使いを褒美にするということ! そんなことは認められませぬ! そもそも報酬も与えすぎです!」
青年は必死に叫んでいる。
あの顔には見覚えがあるな。レスタンブルクの南西に位置するライダンの領主だ。
そのうち奴の懐にムカデの玩具を入れる予定だったから覚えていた。
しかしライダン領主は何を言っているのだろうか。捕虜にした魔法使いとはエフィルンのことだろうが、彼女はフォルン領のものに決まっている。
だって俺が捕らえたんだから生殺与奪は俺のものだろう。
「何を言っているのですかな、ライダン領主。捕虜にした魔法使い……エフィルンはフォルン領で預かるに決まっているではないか」
「ふざけるな! すでにフォルン領の戦力は過剰! この上で強力な魔法使いが増えるなど冗談でも笑えぬ!」
冗談じゃないんだが? このいちゃもん野郎、言語能力に重大な欠陥持ってるだろ。
そもそもデジャブを感じる。以前の元バフォール領主、現バイコクドンがカーマたちを狙ったのと同じだ。
芸がないというかなんというか……まあ強力な魔法使いはこの世界では核ミサイルみたいなものだ。
持ってるか持ってないかで武力だけでなく、政治力にも大きな影響を与える。
どんな手段でもいいから欲しがる気持ちはわかるが。
なんか腹立つので少し煽り風に返事してやろう。血管ぶちぎれるがよい。
「まあエフィルンは貴方が何を言おうがうちのものなので。彼女は俺に忠義を尽くすと言ってますし、彼女の兄もうちの配下。彼女を欲しがるなら、それくらいは知っておくべきですねぇ」
実際は知られてたら本来ダメなのだが!
フォルン領はスパイ天国の領地になっているため、諜報できてないのは無能という自爆煽りだ。
ベフォメットとの戦いも落ち着いたし、さっさとスパイ対策しないとな……。
ライダン領主は俺の言葉に対して鼻息を荒くすると。
「くだらん。本人の感情などどうでもよい! 洗脳薬を飲ませればよいのだから!」
…………今、なんて言った? この野郎、洗脳薬を飲ますとか言ったな?
せっかく洗脳から解放できて、兄妹たぶん仲良くできているのに洗脳?
こいつの一言は俺達が必死にやったことを馬鹿にした。
「いやぁ、素晴らしい考えですねぇ。エフィルンの洗脳をようやく解いたのですが、また洗脳ですかぁ! その常人では考えもせぬ発想力、とても見習えない」
「ちょ、ちょっとあなた……」
カーマが俺の腕を取って注意してくるが知らん。
俺にも言われて我慢できないことはある。こちとら命をかけてエフィルンの洗脳を解いたのだ。
それをもういちど洗脳しますね、とか舐め腐っているのかと。
「当たり前だ! 制御できない強力な魔法使いなぞ危険極まる! フォルン領自体もそうだ! 武力一辺倒で文化も教養もない! 力を得た変人の集まる危険な領地だ!」
「今の言葉は取り消して頂こう。フォルン領は安全な領地だ」
俺はライダン領主の言葉に反論する…………変人が集まってるのは否定できん。
でもうちは危険な領地ではない。それだけは断言できる。文化や教養は知らん。
「王よ! フォルン領の戦力は過剰です! ここで手を打たねば取り返しのつかないことに!」
「何ともくだらぬ言いがかりだ! そもこの話の持って行き方は、以前の売国奴に似ているが?」
俺とライダン領主は目で火花を散らす。
そんな俺達を見て、王は以前と同じように俺の味方をしてくれるに違いない。
「……ライデン領主の言葉にも理はある。確かにフォルン領は短い期間で膨れ過ぎた。同じ国の領地として、不安に思うのはわかる」
王は絞り出すように声を出した。なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。
「信用できぬ強大な力は危険です。我々はフォルン領をとても信用できない!」
ライデン領主は我が意を得たりと叫ぶ。
これは面倒な……ようは若輩者が力を得るのが気に入らないということだろうが。
だが奴に味方する貴族は多そうだ。フォルン領が急激に力をつけるのを、よく思わない奴は絶対に多い。
ぽっと出が急に偉くなれば絶対に悪く思われるのは避けられない。
ここで俺の邪魔をしつつ、あわよくば自分が恩恵を受けようという腐り切った魂胆が見える見える。
ここで黙っていても好転しないので少し口撃してみるか。
俺はライダン領主をにらみつけると。
「ならば逆に、どういった者ならば信用できるのですかな?」
「無論! 私のように由緒正しい家柄のものである!」
「ほう。家柄さえよければ、本人が極めて無能でもよいとは! それに家柄を盲目的に信じた結果が以前の元バフォール領主の裏切りでは?」
煽りがかなり効いたようで、ライダン領主はすごい形相になっている。
家柄をくだらんとまでは言わないが、結局その本人次第だろうが。
本人の努力で何ともならない部分で責めてくるの、本当にせこいし不愉快だ。
「王よ! 例の魔法使いは最低でもフォルン領から遠ざけるべきです! 兄がいるなどと言うならば、その兄も一緒に連れて行かせればよいのです!」
ふざけるな。フォルン領の技術全部持ってるセサルまで盗ろうってか。
もう完全に敵だろこいつ。
「確かに其方の言うこともわかる。だがアトラス伯爵からすれば、理不尽極まりないのもまた事実。ここはフォルン領の文化や教養、技術を見せてもらおう」
俺は王の言葉に絶句する。文化や教養? 何それ美味しいの?
うちの領地はのん兵衛文化だが。
「ははは! それはよい案ですな! フォルン領にもし文化や教養があるなら、蛮族でないというならば我らも認めざるを得ません」
ライダン領主はバカにしたような笑い声をあげる。
いや待て、俺達の領地には技術はあるぞ。具体的には芋と砂糖と香辛料!
「ははは。我々の領地は農作物には自信がありますが?」
「作物を作るだけなら誰でも出来るだろうが。田舎領地の仕事だ」
この俗物、全国の農家に焼き土下座させてやろうか。
誰でも出来るなら品種改良とか誰も苦労してないだろうが!
「いやはや。国の食料は作物なしでは成り立たないというのに」
王の隣にいるワーカー農官侯が笑みを浮かべている。その顔から迫力を感じる。
そりゃ農官侯からすれば仕事完全否定みたいなものだからな、怒るに決まっている。
微笑の死神の呪いがライダン領主に襲い掛かるはずだ、ざまあみろ。
結局うやむやになりつつ、王の間での集会? は終了。
文化や教養、技術を示すという面倒なお題を渡されてしまった。
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