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ライダン領との争い
第113話 ドラゴン養殖②
しおりを挟む「ドラゴンを飼いたいんだ。そういうわけでトカゲの食べる物を教えてくれ」
「文脈が一切わからない!? どういうわけ!?」
俺は【異世界ショップ】に入店して、ミーレにトカゲの餌を聞いていた。
ドラゴンを飼うにあたって、やはり餌の問題を解決しておかねばならない。
そのためにトカゲの餌を聞いているのだ。
「トカゲもドラゴンも似たようなもんだろ」
「いくら何でも無理が過ぎない!?」
「大丈夫だ、猿も人も食べるもの似てるだろ。ならトカゲとドラゴンも似てるはずだ」
「いや違うでしょ!? 猿から進化したのが人だけどっ! トカゲは進化してもドラゴンにならないよっ!?」
ミーレが必死に何やら叫んでいる。
「本当にならないのだろうか。いやなるんじゃないのか? 突然変異で図体がでかいトカゲなら、もうドラゴンみたいなもんじゃね?」
「トカゲがいくら大きくなっても火を噴かないと思うけど!?」
「あー……確かに大きくなっても火は噴けないな」
ミーレは叫びすぎてきらせた息を落ち着かせて、こちらのほうを見ると。
「ドラゴンの餌なら肉をやればいいんじゃない? 牛とか食べるでしょ」
「飼うとなると毎日牛やるのはしんどい。なんか安上がりになる餌を探してるんだが、トカゲの食べる物ならドラゴンも食えるかなと」
「ドラゴンを飼うって発想にまず驚きなんだけど……この世界だと相当変に思われてるよ」
呆れた口調で呟くミーレ。
言うほど変かなぁ。地球じゃドラゴンを飼う創作物なんて腐るほどある。
……でもドラゴンの餌代とかあまり描写されんよなぁ。よいところだけ見せて、実は餌代で大赤字垂れ流してるのが多かったりして。
「ちなみにトカゲって種類によって餌も全然違うみたいだよ。肉しか食べないのもいれば、虫や作物を食べるのも」
「そうか。じゃあトカゲより優れたドラゴンなら全部食えるな」
「いやその理屈はおかしい」
「あ、それと犬語翻訳機くれ。ドラゴンの言葉の翻訳をダメ元で試してみる」
「む、無謀過ぎる……」
とりあえずトカゲの種類によって食う物は違う、と分かったので閉店することにした。
頑張って作物食わせられるか試してみるか。モロコシとか芋系食って欲しい。
そして凍り付いたドラゴンのいる牧場へと戻る。
ドラゴンを解凍するので護衛としてカーマやラーク、エフィルンにセンダイが待ち構えていた。
「ねえ? 何持ってるの?」
「犬語翻訳機だ。ドラゴンでも多少は使えないかなと持ってきた」
「無理なんじゃないかな……」
やってみなければわからん。実際役に立たない可能性が極めて高いが。
それと何故かここにいるセバスチャンが、俺の手を掴んできた。
「セバスチャン、お前は別にいなくてもいいんじゃないのか?」
「このセバスチャン! アトラス様のドラゴンを従える偉業の瞬間を目に焼き付けようと! 是非!」
「わかった! わかったから顔を近づけるな! 離れろっ!」
セバスチャンを引き剥がそうとするがビクともしない。
しばらくするとようやく離れてくれたので、カーマのほうに顔を向けると。
「カーマ、ドラゴンを解凍してくれ。ただ足だけ凍らせた状態で」
「……えーっと。上半身は半焼けくらいなら大丈夫?」
「……全部解凍していいから、氷だけ溶かしてやってくれ」
カーマは火加減が相変わらず得意でないなあ。誰がドラゴンクッキングしろと言った。
犬語翻訳機を構えると、カーマがドラゴンの氷を解凍した。
解放されたドラゴンたちは周囲を見回した後、カーマとラーク、エフィルンやセンダイを見てビクッと震えた。
彼女らに恐怖しているらしい。どうやらドラゴンにも強者の力がわかるようだ。
更にセバスチャンを見て同じくビクッと震えた。
非戦闘員にすらビビるとは、やはりこのドラゴンたちは大きなトカゲだな。
そして最後に俺に視線を移して同じように震え。
「「「ドラアァァァァァ!」」」
「おうてめぇら! 俺なら勝てるってか!? 表に出やがれ!」
俺にだけ完全に咆哮してきやがった! 俺になら勝てるってか! よい慧眼だな畜生め!
チラリと犬語翻訳機を見ると、『他の人外はともかく! この人間風情が!』なんて表示されている。
「どう? 翻訳機作動した?」
「……てんでダメだな! 意味不明な言葉の羅列だな!」
「そうなの? ちょっと見せてよ」
「あっ。手と足が滑った!」
俺は犬語翻訳機を地面に落として踏み潰す。よしこれで証拠は隠滅した!
やはり犬語翻訳機はドラゴン相手には役に立たないな!
仮に今のが本当だったらカーマたちにステーキにされるぞお前ら。
カーマは少し不満げな顔をした後、すぐに機嫌を戻して勝ち誇ったような笑みを浮かべると。
「……まあいいけどね。それとね、実はボクもドラゴンの心読めるよ!」
「…………そうか。それは悲しいな」
「なんで!?」
さてと。ドラゴンたちの墓を作る用意をせねば。
「いつのまに」
ラークも意外だったようで、少し驚きの声を出した。
確かにカーマの魔法が動物などに使えるとは聞いたことがなかった。
「ボクも頑張ったんだよ! ……姉さまの転移に比べて、ボクの心読魔法地味だし微妙だなって」
カーマの言葉が尻すぼみになっていく。割と気にしていたようだ。
確かにラークの転移のほうが使いどころは多い。それに読心魔法は相手が変人だったりすると通用しなかったりで制約もある。
実際、読心魔法言うほど頼りにならないな。犬語翻訳機に近い性能ではと思ってたのは内緒である。
「でもね! 動物の心も読めるし、思ってることを伝えられるようになったから! 動物なら心を読む対策なんてしてこない! これでボクも姉さまに劣ってない魔法使いだよ!」
なるほど。動物にも意思疎通ができるようになったと。
それは確かに便利な能力だ、能力ではあるのだが……。
「……魔法使いというよりペットショップの店員では?」
「………………」
いかん、カーマがいじけて土を触り始めた。
仕方がないので三色アイスを出して渡すと、少し機嫌を持ち直して食べ始めた。
「ま、まあドラゴン相手にはすごく優秀な能力だな! じゃあ通訳頼む。ドラゴンたちに俺達に飼われないかと交渉してくれ。ダメならステーキにしてやる」
「交渉じゃなくて脅しじゃないそれ……いいけどね。ドラゴンさん、ボクたちに飼われませんか?」
カーマがドラゴンに近づいて話し始めた。
ドラゴンも襲い掛からずに、首を横に振ったりうなずいたりで話が通じてそうだ。
しばらくするとカーマがこちらのほうを向いてきて。
「自分たちの条件を飲むならいいってさ。条件は三食昼寝付き、生存権の確保、給料支払い、人権……ドラゴン権を与えること。契約は紙に残して結ぶこと」
「ドラゴンが言ってるのかそれ!?」
まるで契約にうるさい法律家ではないか。
ドラァァァとか叫ぶドラ公から出る言葉とは到底思えないが……。
だがカーマは首を縦に振ってくる。
「ドラゴンさん、人間の生き方について調べたんだって。レード山林地帯が開拓されだした時に、人間の家畜になることも考えたって」
「ドラゴンの誇りはないのか」
「ドラァ、ドラドラ」
「そんな誇り、レード山林地帯では吹けば飛ぶレベル。最弱種族は理想では生きていけなかったって」
……どうやら魔境でヒエラルキーが最下層になると、ドラゴンでも恐ろしくマイナス思考になるようだ。
ドラゴンが最弱種族なの、本当にレード山林地帯は気がくるってたな。
そういうわけでドラゴンとの交渉が続行されるのだった。
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