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ライダン領との争い
第114話 ドラゴン養殖③
しおりを挟む俺はカーマを通訳として、ドラゴンたちと交渉を続けていた。
ちなみにドラゴンたちは人間の言葉がわかる。なのでカーマの通訳は基本的にドラゴン側の言語を訳すだけである。
こいつら結構知能高いよな。ドラゴン語と人間語の二か国語……二種族語を分かるようだし。
「我らの食料を安定供給する術はあるのか? ないならば我らも安心して飼われることができない。人間も食料が問題で、我らを飼うことをハナから諦めてるだろう?」
カーマがなるべくドラゴンの口調を再現しながら通訳している。
たまに「がおー」などと表現を加えていて、少し物珍しくてなんか可愛い。
食料問題はやはりドラゴンも気になるところだろう。
彼らからすれば俺達が餌を用意できなくなれば、よし殺そうとなるのだから。
俺はセバスチャンに合図して、芋やトウモロコシがたっぷり入ったタンカーを運ばせる。
「これはフォルン領で育てている作物だ。お前たちならば食えるはずだ、仮に無理でも根性見せて食え」
芋やモロコシはフォルン領で大量生産が可能だ。これらの作物が食えるならばドラゴンを飼うのが現実的な話になる。
逆にこれが食えなかったら、ドラゴンたちが食われる可能性が高くなる。まさに食うか食われるかだ。
「ドラドラ。ドラドラゴ」
「我らは食通だ。大量生産できる代わりに美味でない食べ物はごめん被る」
カーマの翻訳と共に、ドラゴンたちはタンカーに顔をツッコんで作物をムシャムシャと食べ始める。
どうだろうと思っていたが、ドラゴンたちはしばらく作物を食べ続けている。
これは間違いなく不味くはないな。まずかったらすでに食べるのやめてるし。
「ドラ」
「結構美味いな! どうやら人間にも我らを飼う資格があると見える。作物ならば安定供給も可能だし食料は問題ないとする」
「待て。今の一吠えにそこまで意味あんの!?」
「ドラゴンだから……」
ドラゴンの言葉やべぇ……。下手したら人間よりも優れた言語持ってるのでは?
しかし生の芋やモロコシでも満足するんだな。ちょっと面白そうだから料理させてみるか。
「ドラゴンたち。その作物を軽く火であぶったら更に美味くなるぞ」
俺の言葉にドラゴンたちは軽く炎を吹いて、芋たちを器用に炙っていく。
俺は【異世界ショップ】からお徳用塩1kg袋を購入し、砂を撒くようにタンカーに塩を振ってやる。
ドラゴンたちはしばらく炙った後に再度作物にかぶりつくと、空に向けて咆哮した。
「ドラアアアアアア!」
「うまいぞー! だって」
どうやらお気に召したようで、焼く前よりも勢いよく貪っている。
やはり塩は天下の調味料だな!
ところでちょっと気になったことがある。どうせ心を読まれるので口に出して言うが。
「ドラゴンたち、カーマよりも料理うまくあっちぃ!?」
「……言わないでよ。ボクも気づいて少しショック受けてるんだから……」
どうやら図星だったようだ。これから料理時に火力が必要な時は、カーマよりもドラゴンに頼む選択肢が生まれてしまった。悲しいね。
「ぼ、ボクは魔法の火力が高すぎるから! 手加減するのが難しいから料理苦手なの!」
「じゃあ火を使わない料理ならできるんだな!」
「……魔法使いが料理できなくてもいいと思うんだ」
カーマが俺から視線を逸らしてくる。
魔法の練習もいいけど料理の練習もしてくれないかな。せめて贅沢言わないからせめて爆発起こさない程度になって欲しい。
「ドラァァァァァァ!」
「いいぞ人間! こんな美味い物を食べたのは初めてだ! レード山林地帯では、そこらの虫など食うしかなかったからな!」
「お前らも苦労したんだな……」
そうしてドラゴンたちとの飼育契約の交渉が続行された。
「ドラドラ」
「我らも金欲しい。子供を養う必要もある」
「そういやドラゴンって宝貯めるよな。老後のための子づくり資金だったのか、そんなわけあるか!」
かなり長い時間、うだうだと話しまくった結果。
「ほら契約書だ……もうこれでいいだろ……」
俺は心身ともに疲れながら、契約書をかき上げるとドラゴンに見せる。
何故か死ぬほど契約にうるさいドラゴンのせいですごく疲れた……。
この書き方は複数のとらえ方がある。この文章の表現はあいまいだ。
やれ給料が少ない。食事は調理して出せとかものすごくうるさいのだ。
一番性質悪いのは、奴らが自分の鱗などの価値を理解していることだ。
「我らが飼われていること自体が、フォルン領の話題性が上がり価値がある。それを契約の給与に盛り込め」
「くそぉ! 何で無駄に人間社会のこと熟知してんだよ!」
「鱗はひとつにつき銀貨1枚。尻尾は1本につき金貨2枚以上。重さによって金額は上がる。牙の生え変わりは無料でやる」
なんと自分の身体ひとつひとつに金銭をつけて、売りつける契約にしてくるのだ。
まるで金がないから自分の臓器を売る人間のようだ!
もはや家畜を飼っているとはとうてい思えない!
結局無事に契約書が完成したのが今ようやくというところだ。
ちなみにドラゴンは一匹除いて全てメスらしい。なので今後増やすことが可能だ。
ドラゴンたちも子供を作るので、その子供も殺さずに必ず飼うようにと契約を結ばされた。
本当にこいつらヤバイ。そこらの赤子を捨てるクズ人間に、爪の垢を煎じて飲ませたい。
「じゃあこれでいいだろ……」
「ドラドラァ」
「待て。最後に特に重要な事項がある」
「まだあんの!? もういいだろ!?」
これ以上何を求めるというのか! こちとら弁護士相手にしたかのように疲れ切ったぞ!?
ドラゴンたちが何やら叫び、カーマがそれを訳そうとして……顔が真っ赤になって黙り込んでしまった。
「どうした? さっさと言ってくれ……もう終わらせたい」
「…………」
カーマはしばらく黙り込んだ後、意を決するようにこちらを見ると」
「子供!」
「何? まだドラゴンの子供の条件あんの……? 専属ベビーシッターに、子供が生まれてから一年は護衛を強化。食事も栄養のあるものをと盛り込んだのに!?」
「違う! ボ、ボクと貴方の子供を作ってって! ボクが死んだら言葉を訳す人がいなくなるから! 継げる者を作れって!」
……ドラゴンに世継ぎを作れと言われるなど、世界広しと言えども俺くらいだと思う。
しかも通訳係が欲しいというだけの理由である。生まれてくる子供の仕事が、モンスターペアレント巨大トカゲの通訳係確定ってあまりに可哀そうすぎるだろう。
「ドララァ」
「……何ならこの場で作れ。そのほうが我らも安心できる」
カーマの顔がもはや沸騰したゆでだこのように真っ赤。そして目は座っていた。
「アトラス様! 流石にこの場所ではまずいでございます! テントをご用意いたしますのでお待ちを!」
「誰がやるか! とりあえずこのドラゴンに! 人間の常識を毎日叩き込め!」
結局ドラ公たちとの交渉は完了したので、契約条項のひとつであるドラゴン小屋を作ることにする。
セサルに頼んで無駄に巨大な建物を作らせることになる。
……こっそりと壁に竜殺しの属性を混ぜるように言い含めておこう。ここまでさせておいて脱走など絶対許さんぞ!
そんなことを考えているとセバスチャンが手をポンと叩く。
「あ、アトラス様。実はライダン領が、フォルン領に対して今後は物を売らないと」
すごくどうでもいい情報だった。セバスチャンもその認識のようで、思い出したから伝えておこう程度の口調だ。
「そうなのか。そもそもライダン領との交易って何をしてるんだ?」
「買ってるのは宝石でございます。貴族へのわい……贈呈用で購入しております。売ってるのは芋などの食料関係を、王のお願いで仕方なく」
貴族への贈呈用で宝石買ってるのかー。金を直接渡すのは嫌がられるからな。
この宝石はあくまでプレゼントとして送るからである。金を送ったら賄賂だ。
宝石でも賄賂だろうがというツッコミは正しい。何というかこの国の貴族は本当に考えがセコイ……。
贈呈品は別に宝石である必要はなく、消耗品ではない貴重品なら喜ばれるはずだ。手頃なのが宝石というだけで。
「じゃあドラゴンの鱗を加工して贈呈品にするか。それでライダン領に芋などは売らなくていいだろ。あっちがもう交易拒否ったんだから」
「ははっ!」
ライダン領の考えは何となくわかる。この国は腐った貴族で動いている。
その貴族たちに賄賂が送れなければ、彼らが物を購入しなくなり商売で行き詰っていく。
これから一気に人口増加計画を打ち出しているフォルン領には大打撃。
フォルン領は四面楚歌になって困ると思っているのだろう。
いざとなれば【異世界ショップ】で宝石買えるし、別にライダン領いらないんだけどな。
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