120 / 220
ライダン領との争い
第116話 追い込み猟?
しおりを挟む朝の食事を食堂でとっていると、セバスチャンが書類を持って報告をしてきた。
……最近は朝食時に特に重要な書類や話をされることが多い。俺が唯一真面目に仕事しているのがこことバレているのか。
「アトラス様! ライダン領がうちに脅しをかけてきました! 我らが民衆が飢えているのは、全てうちのせいとか!」
「……デジャブ感あるな。それで脅しって何をしてきたんだ?」
「栄光あるライダン領を苦しめるとは! と王に直訴しているそうです。それとライダン領を不当に苦しめる者には、呪いが降り注ぐであろうとか」
「そんなことで呪いが降り注ぐとは光栄だ、と返してやれ」
自分たちから交易を断っておいて、困ったら王に泣きつくとは……。
奴らが意味不明なこけおどしを言ってるのは理由がある。俺達に対して脅せるカードが何もないのである。
武力は俺とカーマとラークとエフィルンだけでも、ライダン領総戦力の十倍以上。
政治力でも今のフォルン領はかなり強い。黄金の道の利益を得ようと、様々な貴族や大商人が俺達にすり寄ってくる状況だ。
香辛料やドラゴンの素材なども含めて、フォルン領は国内でも有数の金持ちである。
農作物関係も芋や地球の肥料、そしてエフィルンの植物魔法で大豊作。
宝石くらいしか能のないライダン領なぞ何も怖くないのだ。
衣食住足りて礼節事足りる。宝石なんぞ衣食住不足していればただの綺麗な石ころである。
「ライダン領はかなり焦っているようですな。民が飢え始めた上に、奴らの間者も大量にうちに裏切りましたからな」
「奴らからしたら踏んだり蹴ったりだな」
「もっと踏み潰してやりましょうぞ」
セバスチャンの報告に思わずうなずいてしまう。
ライダン領の暗部の大半はフォルン領に寝返って、今はうちの暗部として活動している。
元ライダン領幹部のメルの説得……というよりも自慢で、ほぼ全員が勝手に裏切ってしまったのだ。
月給が農民以下という劣悪なブラック環境から、給与だけは大判振る舞いのブラック環境へとやって来たわけだ。
暗部という時点でブラックなのは不可避だから仕方ない。
「暗部からライダン領の違法行為など大量に報告されております。まるで恨みを晴らさんがごとく、彼らも目が血走っておりました。合言葉は『ライダン領主殺す』、だそうです」
「……どれだけ鬱憤溜まってたんだ」
「なかなか見込みのある者たちですぞ」
満足げに呟くセバスチャン。こいつは手加減という言葉が嫌いだ。
全力を持って全てを、持てる全ての力でぶちのめすがモットーだ。暗部たちのライダン領を根こそぎ殺しつくす動きは好きなんだろ。
……まったくもって恨みの力は恐ろしい。
俺も暗部に裏切られないように、ちゃんと給与とか与えないとな……。
「アトラス様、ライダン領はもはや虫の息。ここでプチっと潰してしまいましょうぞ」
「虫じゃあるまいし……潰れたら難民とかどうするつもりだ」
「それは醜き豚をブクブク太らせた周囲の領地の責任ですぞ。あの領地を放置しておいたら、また面倒なことをやってきますぞ!」
勢いよく叫んでくるセバスチャン。確かに言うことは間違ってはいない。
追い詰められた奴は何をするかわからん。気が狂って俺達を道連れに……など考えられたら厄介の極みである。
今までも理不尽に嫌がらせをしてきた連中だからな……。
うちの領地の村とか占領されて、皆殺しとかされた後では遅いのだ。
「ボクもライダン領主は引きずりおろしたほうがいいと思う」
「同じく」
朝食を食べながら話を聞いていたカーマとラークも口を挟んでくる。
「ライダン領を潰せば、もはやこのレスタンブルクでフォルン領に逆らえるものはおりませぬ! アトラス様の天下、独裁政権でございます!」
「待って!? 父様がいるからね!?」
「王家」
「セバスチャンちょっと黙れ」
危険思想を垂れ流すセバスチャンを注意しつつ、今後の展開を考える。
……この国はかなり腐っている。ここで俺が最大の権力を得て国に大ナタを振るう……考えただけで面倒だ、却下。
だが腐り切った貴族どもにグダグダ言われたくないので、最大権力になること自体はアリだ。
というよりも最大権力にならないとひたすら面倒だし。
「王に手紙を出す。ライダン領との交易を再開してもよい。ただし条件は現ライダン領主を引退させ、他の貴族に領地を継がせることだ」
「そんな条件、ライダン領主がのむとは思わないけど……」
カーマの言葉に俺はうなずく。
当然だ。ドロドロに腐り切った醜悪な醜き貴族の権化が、こんな提案を飲むわけがない。
「これでライダン領が暴走でもすれば、俺達が正しいという大義名分が生まれるからな。そうすれば王家の御旗の元にぶっ潰せるし」
「……王家のことを身分証明書発行係みたいに思ってない?」
「えっ? 違うの?」
「違うよ!? 本当に身分証明書みたいに思ってるの!?」
王家って身分証明書発行機関だろ。今までで役に立ったのそこだけだぞ。
大学の卒業証書とか発行してくれる場所と変わらんのでは……?
「違うからね!? 本当に違うからね!?」
俺の言葉にカーマは必死に首を横に振っている。かわいい。
「アトラス様。ライダン領へも手紙を出します。内容ですがこんな感じでいかがでしょうか? 我らに土下座して靴を舐めて己が状況を弁えれば、交易再開を考慮してやらんこともない」
「いいんじゃないか。最後まで読まれずに手紙破かれ不可避なあたりが」
ライダン領主が顔面を真っ赤にして、手紙を引きちぎる様子が目に浮かぶようだ。
セバスチャンは俺の言葉に満足したのか笑顔を浮かべると。
「では手紙の最後に小さく重要事項を記載しておきますぞ。交易再開の場合、これまでの二倍の値で売りますと」
「いいぞもっとやれ」
「せ、せこい……」
俺達が和気あいあいと悪略を練るのを見て、カーマが顔を引きつらせている。
いいんだよ。どうせライダン領がこの提案を受け入れるわけないんだから。
万が一受け入れたらそれはそれでいいが……受け入れられるならこんな状況になってない。
「そもそもライダン領は俺の暗殺を実行してきたんだぞ? たぶん?」
「なんで疑問形なの……」
「実行犯のメルが何もせずに帰ったから……」
まあ重要なのは暗殺しようとしたこと。どんなにみじめで大失敗していても、暗殺を仕向けたという事実が大事である。
例え実行犯に言われるまで、暗殺されかけたとすら思えなくても。何なら今も本当に暗殺しようとしたのか疑問でも。
いかんな話がそれた。俺は咳払いをして話を切ると。
「そういうわけで、ライダン領がこの提案を拒否したら戦争だな。まあ一方的な蹂躙になるのだろうが」
「戦争嫌いなんじゃないの?」
「戦争は嫌いだ。だが……蹂躙するのは楽しい! 負けの可能性を考える必要なく、一方的に無双できるからな!」
「ええ……」
「それに圧倒的な戦力差なら手加減して、敵兵を殺さないことも可能だろうしな」
この戦、はっきり言ってあまりよろしくはないのだ。
同じ国の貴族同士の戦いである以上、どちらが勝っても国力は低下する。
王家からすれば絶対避けて欲しいと思う。だがこちらも我慢の限界である。
というか、暗殺まで仕向けられて許せるほど俺は人間できてない。いやあれを暗殺にカウントしていいかは微妙だけど……。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる