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ライダン領との争い
第117話 話し合い
しおりを挟む俺達は玉座の間へとやってきていた。
理由は簡単。ライダン領と共に王から呼び出しを受けたからである。
いつものエキストラの貴族たちが見守る中、王が俺たちに宣告してくるのだろう。
俺は王の前に跪いている。そしてその隣には同じく跪いたライダン領主がいて、俺のことをすごい形相で睨みつけてくる。
「……お主ら、少し落ち着くのだ。同じ国の大貴族が争うのは……」
「我々は戦いを望んでいません! 全てはフォルン領の悪辣な手でございます!」
ライダン領主はふざけたことを王に言い出す。
確かに奴は戦いを望んでいない。だがそれは一方的に蹂躙されるからである。
俺達に散々嫌がらせや暗殺まで仕掛けてきているのに、反撃するなと言っているのだ。
「ふざけるな! 人を暗殺しようとまでしてきておいて!」
「暗殺など知らぬ! 意味不明なことを言うのはやめてもらおう!」
「ライダン領の暗部が裏切って、俺達の元についているんだぞ! それでもまだ言うか!」
「それこそ貴様の虚偽に決まっているだろう!」
ライダン領主は知らぬ存ぜぬで貫き通すつもりのようだ。
実際のところ、ライダン領の暗部がほぼ全員フォルン領に寝返りました、なんて嘘くさいのが厄介である。
嘘偽りのない真実なのに……何ならライダン領の機密情報をここで漏らしてやろうか。
俺は暗部から知りたくもないお前の性癖とか報告受けてるんだぞ!
知ってるんだぞ! 貴様が魚の目ロリコンだってことを! 知りたくなかった!
「王よ! フォルン領は武力頼みの野蛮な危険領地です! すぐに戦力を解体すべきです!」
「それはこちらのセリフだ! 王よ、ライダン領は暗殺を仕向けてくる領地です!」
「静まれ! これでは堂々巡りだ!」
王の叫びにしぶしぶ黙る俺とライダン領主。
だがここで引くことはありえない。もはや文化を示せとか、交易で競えとかもなしだ。
ここまでされて笑って許す選択肢はない。ライダン領を滅ぼすか滅ぼすかだ。
戦力に差がありすぎるので滅ぼされることはない!
「……アトラス伯爵、もはや和解の道はないのか?」
「ライダン領主が土下座して、一族全員が領主の座から降りれば考えましょう」
「ふざけるな!」
俺はわざとオーバーに肩をすくめるポーズをする。
俺の最大限の譲歩もライダン領主は拒否して来るのだ。まじですごく譲歩しているんだぞ。
命まで狙われたのに領主の座から降りれば許してやるってのに。
もはや交渉になどなるはずもない。なら戦うしか道はない。
王は俺とライダン領主を交互に見た後、大きくため息をつくと。
「……ここまでこじれてはどうにもならん。戦争は許可する、だが互いに民衆に危害を加えることは禁じる! また極力血が流れぬようにせよ! 破れば国賊になると知れ!」
「ははっ!」
よし! 俺はガッツポーズしそうになるのを何とかこらえる。
これで合法的にライダン領を蹂躙できる! これでもまだ戦争ダメとか言われたら、流石に我慢の限界だった。
「王!? お待ちください! 同じ国の貴族が武力で争うなど! ここは貴族として領地で最大の宝石の品評にて勝負を!」
「互いの宝石で殴り合うんだな!」
「そんなわけあるか!」
いかん。あまりにふざけた言葉だったので、思わずバカな返しをしてしまった。
そもそもフォルン領から宝石とれないから勝負にならん。
「王よ! お考え直しを! 戦いなど野蛮人の行うことです! フォルン領と我らライダン領ではそれこそ不平等が! 戦うしか能のない野蛮な領地と、我ら知的なライダン領では不公平です!」
なおもライダン領主は王に食い下がっていく。
もう無理に決まってるだろ。棚からぼたもち……違う、身から出た錆だ。
顔が真っ青になっていくライダン領主。ここで俺もこれまでのお返しをしてやろう。
「すごいなあ。ライダン領主は敵が攻めて来ても、その知的とやらで言い含めるおつもりで? おっと失礼、言い含められておりませんな」
「き、貴様っ……!」
真っ青から真っ赤に変色していくライダン領主。まるでトマトが熟れていくようだ。
後は腐らせて潰すだけ……いやとっくに腐ったトマトか。
「また他の貴族は参加することを禁ずる! これはフォルン領とライダン領のみの争いである!」
「ははっ!」
「王よ、お待ちください! 王よ! 王よ! 王よ!」
ライダン領主がなおもしつこく食い下がるが、王はそれを完全に無視。
それと「王よ」が「およよ」に聞こえてきた。これからライダン領主のことを、およよ君とでも呼ぶか?
「これにて謁見を終了する!」
王の宣告によって謁見は終了。ライダン領主がこちらをにらみつけてきたが無視。
速やかに玉座の間から抜け出して待合室へと走った。
「あ、お帰りなさい……どうだった?」
「戦争?」
待合室に入るとカーマとラークが心配そうに俺に駆け寄って来た。
そんな二人に対して俺は笑みを浮かべる。
「ライダン領との戦争が許可された。急いでフォルン領に戻って攻める準備をするぞ!」
「……やっぱり戦うんだね」
カーマが少し悲しそうな顔をしている。
彼女からすれば同じ国で戦って欲しくなかっただろうからな。
俺だってなるべく戦いたくはなかった。ライダン領主がもう少しマトモなら、交渉の余地もあったと思う。
だがあそこまで目の仇にされては、放置する選択肢は取れない。
それはカーマもラークもわかっている。だから戦争しないでとは言ってこなかった。
「まあ敵も同じ国の人間だ。極力殺さないで勝利を狙うさ」
「何か策があるの?」
「ああ。必殺寝返り大作戦を行う!」
「殺さないって言ったよね!? 必殺って何!?」
「ノリで言っただけだ」
詰め寄ってくるカーマを手で制する。必殺は格好良いからつけただけだよ。
作戦名的に予想できるだろうがようは敵兵を寝返らせるのだ。
ライダン領の暗部ですら簡単に寝返ったのだから、一般兵など簡単にできると踏んでいる。
問題は一般兵は大量にいることと、彼らを指揮する兵士長が厄介だ。
兵士長以上は流石に金とか多めにもらってるだろうから、そう簡単に裏切らせることは出来ないだろう。
暗部は隊長ですら酷い待遇だったから、誰も寝返るのを止める奴いなかった。
「でも寝返らせるなんてどうするの?」
「ヒント。ライダン領は食料不足」
「……何やるかわかったよ」
誰でも考えつく簡単な策である。食べ物で釣れば裏切るだろう。
無論、相手の補給を断ったりなどの工夫は行う予定だ。
「仮に寝返りがうまくいなかったら、次は兵糧攻めとか水攻めも考えている。ラークやエフィルンがいれば平地でも水攻め可能だろう」
「ボクは?」
「……お前の魔法だと相手の陣地が焦土と化すだろ」
俺の言葉に少し落ち込むカーマ。こればかりは適材適所だから仕方ない。
ラークの氷の壁やエフィルンの木の壁で敵陣を囲めば、そこに水を流し込んで水攻めの完成だ。
ちなみにエフィルンとカーマを組まして、大火事を起こすコンボも考えている。
エフィルンが大樹を出してカーマの炎で燃やし、更に風魔法で火を強める。
そして最後に燃えた大樹が敵陣に倒れこむという、想像するだけで恐ろしい作戦である。
「そういうわけでフォルン領に戻って準備をするぞ。ライダン領主を捕らえれば勝ちなんだから」
「そうだね。一日でも早く終わらせないと」
「……なら王城にいる間にライダン領主捕らえれば」
「それだ!」
「いや流石にダメだと思う……」
どうせ俺達が勝つんだから、過程を吹っ飛ばすだけなんだけどなぁ。
流石に戦力比十倍以上では負けようもないし。
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