122 / 220
ライダン領との争い
第118話 奸計?
しおりを挟む王都で戦争の許可をもらってから一週間後。
ライダン領を攻撃するために、フォルン領は進軍を開始した。
道中で通り抜ける領地の主に香辛料を振りまきながら、無事にライダン領の境までやってきた。
そこで簡易の陣を築いてライダン領の動きを見ている。
「ライダン領は徹底的に防戦の構えか。まあそりゃそうだ」
「今も王都に訴えているようですぞ。これは不当な戦であると」
「もうここまで来たらムダだとわからないもんかね」
ライダン領の地図を机に広げながら、敵軍の展開状況を確認していく。
本来なら防戦は城とか砦で行うイメージが強いが、敵は平野で俺達に対して陣取っている。
この理由は容易に想像がつく。ライダン領からすれば自領地を占領された時点で嫌なのだ。
それに街に籠城という戦術は使えない。王から領民に危害を加えることは禁じられているからだ。
もし街で籠城されたらどう攻めても領民に被害が出る。俺たちもゲリラ兵を警戒しないわけにはいかないから、領民に対して危害を加えてしまう。
それはライダン領が卑劣な作戦を取ったとして、王の命に背くことになるからだ。
……正直そこまでの理由じゃなくて、「我が領地を一歩たりとも踏み入れさせるな!」ってライダン領主が癇癪起こしてる可能性が高いけど。
「アトラス様。暗部から敵軍の編成や弱点が子細に報告されております。各隊長の戦略傾向から性癖、好きな食べ物、好みの女性、ほくろの数まで」
「そ、そこまで細かいのはいらん……」
セバスチャンが山のような書類を、机の上に叩きつけるように置いた。
暗部からすれば手に入れた情報を全て報告するのが仕事だ。だが量が多すぎて見る気がしない……。
よし、他の誰かに押し付けよう。
「センダイ、戦いになれば戦略を決めるのはお前だ。この書類を確認しておくように」
「はっはっは。拙者、細かい字を見ようとすると目がかすんで無理でござる!」
「いばって言うな! それ酒が原因だろ!」
センダイは俺の問いには答えず、酒瓶を口につける。
心なしか普段よりも酒の量が多い。たぶん今回は楽勝だと見込んでいるのだろう。
ライダン領と俺達の戦力差、まともに計算したら十倍以上勝ってるからな。下手したら百倍とかなるかもしれん。
ここまで差がついているのは、カーマとラークとエフィルンの力が大きすぎる。
はっきり言って彼女らを止める手段が、ライダン領にはなさそうなのである。
ミジンコが百匹集まっても人間には勝てるべくもない。
「敵軍は意気消沈! なんなら泣き出しそうな兵もいるそうですぞ!」
「なんともまあ……」
セバスチャンの報告を聞いて、思わず敵の兵士に同情してしまう。
彼らからすれば素手で怪獣と戦ってね、と言われているようなものだ。
しかも怪獣は敵視点では4体いる、実際には俺を除いて3体だが。唯一の救いは合体したりはしないから安心して欲しい。
そんなことを考えているとカーマが俺の服のすそをつまんできた。
「ボクは怪獣じゃないよ」
「謙遜するな。三人の中では一番怪獣らしいぞ。なんせ火を噴けるからな。カマドラゴンみたいな」
「じゃああなたに火を噴こうか?」
「すみませんしたっ! どうか掲げた火をお鎮めください!」
心をいつも読むのやめない!? 肖像権ならぬ心象権の侵害だと思う!
俺は今回は正しいことを言ってるはずだ! プライバシーの権利を守れ!
「聞くんだけど。お風呂覗くのはプライバシー以下の問題だと思うなぁ」
「まじすみませんでした。こちら高級バニラアイスになります」
即座に【異世界ショップ】からお高いバニラアイスカップを購入。カーマに手渡すと何とか許してもらえた。
危ない危ない、これで何とか助かった……。
「ケーキ」
「……こちら高級ケーキになります」
ラークに便乗されてケーキを求められて仕方なく献上した。
おかしい。戦う前から謎の出費が増えていく……これ戦費として落とせないかなぁ。
「ひっく、アトラス殿。そろそろ作戦を開始するがよろしいでござるか? というか開始しないとアトラス殿の身の安全が保障できぬ」
俺が来月の小遣いに危機感を抱いていると、センダイが俺に進言してくる。
センダイの言うことは正しい。今から行う作戦名は宴会作戦。
ようは飢えているライダン領軍の前でたらふく食って飲んで、敵の飢餓感を煽ろうという作戦だ。
つまりフォルン領の兵士たちは、今か今かと酒を待ちわびている。
酒に命をかけた彼らのことだから、俺に対する視線が殺意に変わるのも時間の問題だ。
というかすでに背後からすでに殺意が生まれ始めている。
「いいぞ! すぐ始めろ! ラーク、エフィルン! 敵が攻めてこないように例のもの!」
俺とラークとエフィルンが、敵陣と自陣の中央に歩いて移動。
敵軍はこちらを警戒してか何もしてこない。それを確認して彼女らは魔法の詠唱を開始する。
その支援をするべく、俺は【異世界ショップ】から肥料を購入して急いで土に撒き始める。
「生命の芽吹き、その希望に祝福を。我が望むは世界を担う大樹。そして守護の樹となりて、蛮勇全て葬らん」
エフィルンの詠唱に呼応するように、俺が肥料を撒いたところから木が生えてくる。
それはどんどん成長していき、あっという間に齢千年を超える大樹へと進化。
さらにその大樹が変形していき、木の巨人へと変貌する。
「砕けぬ氷よ。守護の鎧となりて」
ラークの魔法によって、木の巨人を守る氷の鎧や剣が出現した。
「――――!」
声にならぬ叫びをあげて咆哮する木の巨人。
更に威圧感のある独特のポーズ――歌舞伎の見栄が切られた。
これは俺がエフィルンに指示しておいた。なるべく敵兵を怖がらせておくことで、この後の作戦をやりやすくするためだ。
「ひ、ひいっ!? あんなのに勝てるわけが……!」
「魔法使い部隊! 構えろ! あの巨人を倒せ!」
「む、無理です!? あんなの我々に勝てる相手ではっ!?」
敵軍から動揺の声が聞こえてくるのも当然である。
十メートルを超える木の巨人相手に、剣や弓で戦えなんて俺ならすぐに逃げる。脱兎のごとく逃げる。
むしろ即座に逃走しないだけ訓練されていると言えるだろう。
「ボクの出番……」
役目のないカーマが少し悲しそうだが仕方がない。
手加減した戦闘だと火は使えないから……敵をせん滅するなら有用なんだけどな。
これで敵軍はもう動けないだろう。下手に攻撃しようものなら、木の巨人が襲い掛かってくるのだから。
「根性見せろっ! 相手も同じ魔法使いだろうがっ! ここで倒さねば全員踏み潰されるのだぞっ!?」
「魔法使いでも格が違いすぎます! あれは化け物です!」
更に敵軍から悲鳴が聞こえてくる。
……実はあの木の巨人、あの場から動けないんだけどな。地面に根を張ってるから。
かつてエフィルンは大樹を移動できるようにしていたが、あれはドーピングしてたからできたらしい。
まあ元から大樹が根っこで地面を這うのは気持ち悪……いや色々おかしかったからな。お薬の力ってすごい……。
そしてフォルン領の陣から歓声があがる。
木の巨人を見物しながら酒盛りが開始されたのだ。気分はねぶた祭である。
飲めや歌えのドンチャン騒ぎ。食事も用意されていてカレーのよい匂いが周囲に広がっていく。
他にも試しに作らせたラーメンなどの匂いも混ざっている。
俺は【異世界ショップ】から毎度おなじみ拡声器を購入すると。
「ライダン領軍の諸君! 我々フォルン領は争いを好まない! 降伏すれば同じ国民として丁重に扱うぞ! 酒も飯も食べ放題だ! また個人単位での降伏も許可する! 上司の言葉など無視していいぞ!」
ライダン領の陣に向けて降伏勧告を叫ぶ。
俺の勧告に敵兵士たちが動揺しているのがここからでもわかる。
彼らからすれば巨人に踏み潰されると思ってたところに、助かった上に美味な物を食える未来が突如生えてきたのだ。
さあ俺の餌にさっさと飛びついてこい。
「お、おい。どうせ勝ち目がないし裏切った方が……」
「そうだよな。同じ国の領地だしそんなにひどい目には……」
「それにアトラス伯爵と言えば名君と聞くぞ! 王都でも民衆に高級料理を振る舞ったと!」
やはり敵軍の一般兵は大きく揺らいでいる。
だが隊長クラスは心が揺らいでいる兵を止めようとしている。
俺はそんな彼らの妨害をすべく、拡声器の音量を最大にすると。
「ま、待て! そんなもの嘘に決まって」
「諸君! ライダン領の隊長は君たちを止めるだろう! だがそれは、彼らが! 彼らだけが美味しい思いをしているからであるっ! 一般兵の給与をネコババし、私腹を肥やせる地位を捨てたくないのだっ!」
最大音量の拡声器によって音割れした声が響き渡る。
敵兵の中には耳を塞いでいる者もいる始末だ。だがこれで敵の隊長の声など聞こえはしないだろう。
ちなみに私腹を肥やしているのはマジだ。ライダン領主は地位が高い人間に対しては、ものすごく厚遇して裏切らないようにしている。
その代わりに役職のない者は、扱いがかなり悪くなっている。
なんとも胸糞悪い話だが、この場合は利用させてもらうとしよう。
「……俺は裏切るぞっ!」
「俺もだ! 踏み潰されるくらいならっ!」
「くたばれ隊長!」
「ごはっ!?」
敵軍の一人が裏切りこちらに駆け込んでくる。
それが引き金となって敵兵がどんどんこちらに流れ込んできた。ついでに敵の隊長と思しき人間が、なんか吹っ飛ばされている。
たぶん日頃の恨みが爆発したんだろう、きっとそうだ。
ふっふっふ。これで戦わずして敵を無力化できたな。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる