【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ライダン領との争い

第119話 甘くはない

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 ライダン領の軍は、俺達の炊き出し作戦の前に総崩れとなった。

 彼らの食料が不足して腹が減っていたところに、こちらの魔法で木の巨人を出現して脅す。

 そして寝返ってもお咎めなしでカレーの匂いを漂わせればコロリと落ちた。フォルン領が同じ国の領地と言うのも大きい。

 仮に敵国の領地ならここまで信用はされなかった。

 無論敵軍全てが一発で寝返ったわけではない。最初にカレーを出した時点では敵軍の一割程度だ。

 その後に膠着状態になってから敵の物資を燃やし、救援物資を奪ったりした。

 トドメにラークに頼んで敵陣に吹雪を吹かせて極寒の寒さにして、こちらはカレーや酒などで死ぬほどドンチャン騒ぎした結果。

 ライダン領の軍は見事に全員裏切ったのであった。

 そりゃ寒さと飢えで震えている時に、目の前で宴会なぞやられたら心折れる。

 そして今はライダン領軍の扱いについて、自陣で軍議を開いているところだ。

 ここからでもライダン領の兵士たちがカレーを食って泣いているのが見える。

 いたるところでカレーを食べて……あれ? 酒を飲んでる奴が誰も見当たらない。

 ……飲んでいるのはフォルン領の兵士だけである。

「……センダイ。ライダン領の兵士にカレーと酒を配ったんだよな?」
「然り。だがライダン領の兵士たちは酒を拒んだのでござる。これは我らの血、飲んでもよいが背後に気をつけろと言っただけなのに」
「いや絶対それが原因だろうがっ! 酒を拒んだんじゃなくて、強制的に断らせただけだろうが!」
「しかしアトラス殿。うちの兵士たちなら酒の恨みでやりかねないでござるよ?」
「…………ごもっともで」

 センダイの言っていることは正しい。何故ならば……うちの兵士たちなら本当にやりかねない。

 …………これは俺の失策か。酒を配るなんて言わなくてよかった。

 犬は目の前の餌を我慢できない。猫は猫じゃらしに飛びつく。フォルン領の兵士は酒を目の前に正気を失くす。全て自明の理だった。

「じゃあライダン領の兵士の扱いをどうするかだが」
「アトラス伯爵はここにいるか!」

 軍議を開こうとしたら誰かが遮って来た。声の方向に視線を向けると何名かの偉そうな奴らが、偉そうな態度で偉そうだ。

「我らはライダン領軍隊長! アトラス伯爵! 直訴しに来た、これはどういうことか!」
「何がだ?」
「言わないと分からないのか! 我ら隊長クラスと、一般兵の扱いが同じとはどういうことか! より厚遇すべきだろうが!」

 何のことかと思ったらなんだこいつら偉そうに。

 こいつらに価値なんてない。そもそも現在のポジションを惜しんで裏切るのが一番遅かった奴らである。

 本来なら一般兵よりも悪い扱いをすべきだが、振り分けるのも面倒なので避けていた。

 俺は引きつった笑みを浮かべながら。

「ああ、それはすまない。なら特別待遇にしてやろう」
「わかればいい。ああ、それともしライダン領が負けた場合は我らもフォルン領に雇われてやる」
「カーマ、ちょっとこいつら転移魔法で飛ばしてくれ」
「えっ? でもボクの転移魔法は……」

 俺はカーマに対して親指を立ててサムズアップをする。

 まあちょうどいいだろう。カーマは最近、魔法の練習を頑張っている。

 転移魔法も岩とかで練習しているのを知っている。基本的にいつも上半分のみしか転移できてないが、そろそろ有人実験すべきだ。

「お前たちには特別室に招待してやる。カーマの転移魔法で飛ばしてもらえ」
「いい心がけだ。ライダン領の隊長に相応しい扱い」
「ちなみに転移に失敗したら、上半身と下半身が分かれて死ぬ。もしくは転移先の壁と融合したりする。無事に転移される確率は……どれくらいだ、カーマ?」
「…………ぜ、ゼロパーセントくらい? 次こそ初成功するかもしれないけど……」

 カーマが誤魔化すように可愛く声を出した瞬間、ライダン領の隊長たちが即座に逃げ出した。

「わ、我らも一般兵に紛れて騒いでこよう!」
「隊長として一般兵が暴れないように抑えなければっ!」

 ……面倒ごとが去ったからよしとしよう。しかしカーマ、かなり練習してたのに未だに成功してないのか。

「……もう面倒だからライダン領の兵士たちは宴会させておけ。その間に進軍してライダン領主を捕らえて終わりだ」

 俺がそう告げると一応暗部の統領になっているメルが手をあげる。

「お待ちください! このメルにおまかせを! 今後のことを考えれば、ライダン領主を暗殺すべきです! 私がやります!」
「失敗して泣いて帰ってくるオチが見えるから却下。なんちゃって暗殺者は黙っていろ」
「酷い!? 私はこれでも何人も貴族を暗殺した熟練者ですよっ!?」

 メルが必死に叫んでいる。だが正直何人も殺してきたなど嘘くさい。

 フォルン領でのあの立ち回りでは猫すら殺せんぞ。

「お前が暗殺できるビジョンが一切見えない」
「そんな!?」
「それに暗殺しなくても普通に突入して確保すればいい」

 何なら暗殺しなくても堂々と処刑すら不可能ではない。しないけど。

 メルは俺の言葉に黙り込んでしばらく考えた後。

「暗殺の必要がないことはわかりました。でも私にも面子があります! なのでライダン領主を暗殺してきますっ!」
「メルの面子で暗殺されるライダン領主がふびんすぎる件について」
「あんな存在価値のない人間を、死ぬことで他の人の役に立たせるんですよ!?」

 仮にも元上司に酷い言いようである。いや確かに存在価値がないのは同意だが。

 そもそもメルは理解してないようだが、俺はメルに暗殺なんぞ求めてない。

「とにかく暗殺の必要はない。さっさとライダン領主を捕らえて……」

 俺がそう宣言しようとすると、兵士が息を切らせて走りこんできた。

「アトラス様! ライダン領主が供を引き連れてこちらに向かっております!」
「何? 敗北を受け入れて首を差し出してきた……なんて殊勝な奴ではないな」
「あの御仁ならば、全ての民を犠牲にしてでも自分が助かる道を選びましょう」

 セバスチャンの言葉にここにいる全員が頷いた。

 ライダン領主なら間違いなくそうするだろう。ならば何か狙いがあるはずだ。

 ここから一発逆転の手段があると言うのだろうか?

 俺は見通しのいい場所に移動して、双眼鏡を【異世界ショップ】から購入。

 双眼鏡で辺りを見回すとライダン領主がこちらに歩いてくるのが見えた。

 お供としてローブを着た老人を連れている。

「……メル。ローブを着た老人に心当たりは?」
「おそらく北の魔導帝国の魔法使いです。ライダン領主に近づいていました」
「うえぇ……また北の魔導帝国かよ……」

 俺は思わず嫌な顔をしてしまう。

 北の魔導帝国……いや悪の魔導結社がらみとなると面倒なことになるのだ。

 あいつらよく分からんが、基本的に俺に不利益しかもたらしてない。

 洗脳薬、巨人薬、魔剣とことあるごとに俺達の邪魔をしてくる。

 いや悪の魔導結社自体と対立してるわけではなく、奴らの商品がいつも邪魔になってるのだが。

「……いいだろう。悪の魔導結社とは一度話をしたいと思っていた」
「違うよ、北の魔導帝国だよ」
「俺の中では悪の魔導結社だから」
 
 どうせ今回もよい話ではない。

 何故ならばライダン領主と一緒にいるのだから……。
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